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トイワホー国における策略 1章

四字熟語には五風十雨という言葉がある。五風十雨とは5日に一度は風が吹いて10日に一度は雨が降ることから風雨がその時を得て農作業上に好都合で天下の太平なことを言うのである。

それは『愛の国』トイワホー国にとってはぴったりの言葉である。トイワホー国では犯罪発生率が世界最低を誇るのはもちろんのことだし、近年のそれぞれの県や州では殺人事件が年内に一度も起こらないというケースの方が圧倒的に多くてものすごく平和な国なのである。

トイワホー国では数少ない犯罪者の扱い方にも注意している点がある。罪人は一度でも犯罪者のレッテルを貼られてしまうと周囲から疎外されて信用を失って疑われるようになってしまうこともある。

犯罪者はそのような環境では自尊心を失って否定的な自我が形成されて再び犯罪を行ってしまう可能性がある。その負の連鎖はラベリング理論というものである。

しかし、それでは罪を償った意味はなくなってしまうことになる。そのため、トイワホー国は犯罪者をも決して見捨てずに棄民を作ってしまうようなことをしないのである。

つまり、トイワホー国の国民は犯罪者とて決して差別をしないという訳である。トイワホー国の国民の愛の力はそれくらいに強くて寛大な心を持ち合わせてもいるのである。

ことわざでは衣食が足りて礼節を知ると言うが、トイワホー国にはホーム・レスというものは存在していない。それから、トイワホー国には暴力団や暴走族といったものの存在も皆無である。そればかりか、トイワホー国ではテロや示威運動デモが起きたこともないのである。つまり、トイワホー国では要求やスローガンを大勢で一斉に唱えるというシュプレヒコールを聞くことはできないのである。

トイワホー国では一般企業においてストライキやサボタージュが行われたことは一度もない。なぜなら、もしも、労働者は労働条件の維持や向上を図りたいのであれば雇用者との話し合いによってあっさりと解決してしまうからである。ロック・アウトとは労働争議における資本家側の対抗手段として工場などを一時的に閉鎖して労働者の就業を拒否することをと言うが、トイワホー国では当然のことながらこの言葉も死語というよりも一度たりとも使われたことのない単語である。トイワホー国ではましてや学生運動のような実力闘争ゲバルトは以ての外である。ようはなにが言いたいのかというとありとあらゆる大々的な争い事はトイワホー国では絶無という訳である。例えば、トイワホー国ではある人が悪事を企んで自分が筆頭になって集団的な犯罪をやろうとしてもどうにもこうにも頭数が足りなくなってしまうという構造になっているのである。

トイワホー国は無差別の愛を広げるために国民からの事件性の低い相談を警察の代わりに受けつけたりその他にも心を砕いて真心から人生相談に乗ったりする『愛の伝道師』なるものを雇っている。トイワホー国では他にも『親切スタンプ』や『幸せギフト』といったような独自の政策も行っているが、トイワホー国の財政状態はどうなのかと気になるかもしれない。しかし、これについては放漫な財政状態なので、トイワホー国ではなんら問題はないのである。これこそはトイワホー国が『愛の国』と呼ばれる第一の由縁なのだが、トイワホー国の国民は皆が寛仁大度なので、他国からの旅行者は彼等と接するだけでやさしく明るい気持ちになれるのである。もしも、傍には悩み事があって苦しんでいる人がいるのなら、国民はその人を決して放っておかずに人と人の繋がりをなによりも大切にする。これはそのトイワホー国における物語である。


季節は冬である。時は12月9日の夜である。ポンメルン県にはティラナ市という場所が存在する。『愛の伝道師』のヤツデはティラナ市のサラミス町というところに住んでいる。

今、外では小夜時雨が降っている。また、外はどこもかしこも静寂で満ちている。外ではそんな中で木枯しも吹きすさんでいる。温度はだいぶ日中よりも下がっていて厚着をしないとやや肌寒いくらいである。湿度は低くてこの時節にしてはかなり乾燥している。ヤツデはそんな季節があまり好きではない。しかし、それはヤツデが寒がりだからというのが理由ではなくて昔から冬になると二年に一度は風邪やインフルエンザを発病して苦しい思いをすることになるからである。ヤツデはようするにあまり体が丈夫ではないのである。

ただし、一応は言っておくと、ヤツデはかといっていつも病床に着いているという訳ではない。ヤツデはあくまでも冬に体を壊すことが多いというだけの話である。そのため、一応は付言しておくと、ヤツデは何度も風邪を引いたことはあるが、春と夏と秋には風邪を引いたことは一度もないのである。

ヤツデはともかく病に倒れた際には常々健康でいられることがどれだけ幸せなことなのかを身にしみて感じる。ヤツデは時として寝たきりの人の気持ちにまで感じ入ってしまうこともある。ヤツデはそれほどに多感なのである。それはそれとしてヤツデの嫌っているものはもう一つある。

話は一変するが、それは電話である。ヤツデはなぜ電話が嫌いなのかと言えば相手の表情が見えないと会っている時よりも情報が少ないので、電話は話をしていても相手が自分の話に飽きていたり嫌がっていたり、あるいは、怒りを覚えつつあったりしても気づくのが遅れてしまうような気がするからである。

ヤツデは簡単に言えばそれがちょっと怖いのである。今のところはヤツデに言わせれば慣れがやってくる気配はないのである。これは少し大袈裟に言えばお先真っ暗の状態なのである。

例えば、それはヤツデの気の使い過ぎだとか、もしくは小心者だと思ったとしても、ヤツデはやはり多感なのである。もっとも、トイワホー国にはそんな悪態をつく人はいない。

今のヤツデは一人暮らしだが、そんな訳なので、ヤツデは家に固定電話を持っていないし、もしも、固定電話はあったとしてもヤツデにとってみればどう考えても百害あって一利ない代物なのである。

もっとも、平素『来る者は拒まずに去る者は追わず』をモットーにしている隠れた厭人家であるヤツデに対して友人から電話がかかってくるなどということは皆無に近い。

しかし『皆無に近い』ということはようするに『少しはある』ということになるが、その例外の全てはビャクブという友人が占めている。ビャクブはヤツデと同い年の25歳である。

ヤツデとビャクブはなにぶん住んでいる県が違うということもあるので、ビャクブは必ずヤツデに対して定期的に電話をかけてくれる。ビャクブはヤツデの畏友なのである。ヤツデは畏友というからにはビャクブのどんなところを尊敬しているのかといった疑問が当然のことながら出てくる。そのため、ヤツデはビャクブのどんなところを尊敬しているのかと聞くと『ビャクブは人がどう思ってなにをしてもらえればうれしいかを考えて行動できるところだ』というような答えが返ってくることは間違いのない事実である。ビャクブはようするに自分の意志の下で特有のやさしさによってちゃんと気配りのできる男なのである。

スマホについては高校生の頃に父親に買ってもらったので、ヤツデは主として家族との連絡用に持っているし、家族と話すのなら、ヤツデの怖さは半減するのである。とはいっても、同機種の間ではフリー・メールのサービスを受けているにも関わらず、ヤツデはまどろっこしくてほとんど電子メールを使ったことがなくて宝の持ち腐れというやつである。これは蛇足を加えるようだが、スマホは多機能の携帯電話のことである。タブレットの方は通話もできるタッチ・パネルであってもあくまでもノート・パソコンなのである。

現在のヤツデはとにかく家の中で蛇蝎の如く嫌っているスマホを使って勇気を出してカラタチと通話をしている。カラタチとはヤツデとビャクブが一緒に旅行をしている時にポンメルン県のクリーブランド・ホテルで出会って友達になった男性のことである。また、カラタチはやさしそうな緑色の瞳と魁梧な容貌を持っていて実にユニークな人物である。それから、今のカラタチは27歳である。

つまり、カラタチはヤツデとビャクブよりも二つ年上なのである。カラタチはヤツデが電話をかけてくれたことを大いに喜んでくれた。カラタチは冬季の寒さも吹き飛ぶくらいに先程からうれしそうにしている。

そのため、ヤツデは闘魂を込めた甲斐があったなとほんの少しだけ安心をすることができた。もっとも、通話したくらいでは屠殺される訳でもあるまいし、ヤツデは少し力みすぎである。

「ぼくは実を言うと12月22日に『仲良しトラベル』でカラタチさんの住むペトロフスク県に行くことになったんです。ぼくの行くところはマクマード市というところなんですが、カラタチさんはペトロフスク県のなんという市にお住まいですか?」ヤツデは通話を始めて間もなく穏やかな声音で聞いた。

 『仲良しトラベル』とはトイワホー国の政策の一つであって見知らぬ人と一緒に旅をして親睦を深めようというものである。『仲良しトラベル』はそれによって他人の垣根を越えようという訳である。

「私の住んでいるところはビンタン市というところです。ヤツデくんの行くマクマード市とは隣り合っているので、場所は割と近いかもしれませんな。私の家からでは特にマクマード市へは車で30分くらいですな」カラタチは淀みなく答えた。カラタチは自家用車マイ・カーを持っているのである。

「そうでしたか。それではここからが今夜にお電話を差し上げた本題になるのですが、ぼくは『仲良しトラベル』が終わったあとにビャクブと一緒にカラタチさんの住む場所へ5日間ほど遊びに行ってもよろしいですか?このことはもうビャクブにも伝えてあります」ヤツデは順序よく説明をした。

「なんと」カラタチは元気100倍になった。「ヤツデくんとビャクブくんは私のところへ遊びに来て下さるのですか?それは大歓迎ですよ。しかし、私の住んでいるマンションの部屋は散らかっていますし、私達は三人で寝起きするのには些か部屋が狭すぎますな」カラタチは間延びした口調で心配をした。

カラタチはちなみに地方公務員をしている。そのカラタチはヤツデとビャクブの二人に合わせて有給休暇を使うことは可能なので、その点は問題がないのである。ヤツデはすぐに応じた。

「それではカラタチさんのお家の近くでどこかに宿泊施設はありますか?」ヤツデは聞いた。

「ええと」カラタチは考え考え言った。「ペトロフスク県はアクア県と近接しているので、シティー・ホテルはあるにはありますが、私の自宅からではあまりにも遠すぎますので、それよりはうんと近くにあるカプセル・ホテルが適切ですな」カラタチは結論を出した。アクア県とはトイワホー国の首都である。

「私は自宅にお泊めできないで恐縮ですが、ヤツデくんとビャクブくんはそこのカプセル・ホテルに滞在するということでどうですかな?もしも、嫌なら、ヤツデくんは遠慮なく言って下さって構いませんよ」カラタチは言った。カラタチはきちんと気配りのできるやさしい性格をしているのである。

「ぼくはホテルで構いません。おそらくはビャクブもそれで納得すると思います」ヤツデは言った。カラタチは『ありがとうございます』とお礼を言ったので、ヤツデは恐縮をしてしまった。

「いやー」カラタチは言った。「それにしても、うれしいですな。これこそはまさしく瓢箪から駒ですな。それでは集合場所はどちらにしましょうか?私はマクマード市までお迎えに参りましょうか?」

「いいえ。それは大変にうれしいのですが、そうすると、カラタチさんの負担は多くなってしまうので、ぼくとビャクブは直接にカラタチさんのお家の最寄り駅にお伺い致します。もしも、よろしければ、カラタチさんはそこまでぼくとビャクブのことを迎えにきては下さいませんか?」ヤツデは聞いた。

「わかりました。それではそうしましょう。私の家の最寄り駅は地下鉄の東フエゴ駅です」

「そのことはビャクブにもぼくから伝えておきます」ヤツデはそう言うとボール・ペンでメモをした。ヤツデは両利きだが、うまさはどちらの手を使っても同工異曲で童子みたいな字を書くのである。

「それでは時間についてですが『仲良しトラベル』は午後6時半に終了する予定ですので、ぼくは解散場所の駅から東フエゴ駅までの移動時間がわかったら、その時は追って連絡させて頂きます」ヤツデは言った。

「了解です。話は変わってしまいますが、今回の『仲良しトラベル』には『愛の伝道師』のヤツデくんが選ばれていますが、それは単なる偶然なのですかな?それとも『仲良しトラベル』はニュースではすでに開始をしていると聞きましたが、現在はまだ試験中の意味も含まれているのですかな?」カラタチは聞いた。

『仲良しトラベル』についてはテレビで取り上げられたりビラが配られたりしているのだが、カラタチはまだ詳細については知らないのである。しかし、それはカラタチが情報通ではないからではなくてたまたまそのニュースを目にする機会がなかっただけである。ヤツデはさらに解説を加えた。

「参加者はランダムに選ばれるので、今回のケースは単なる偶然です。ただし『愛の伝道師』は旅行会社の人間ではないので、不安な人は自分の他にも『愛の伝道師』を同行させてもらいたい旨を要請できるので、そういう意味ではひょっとしたら必然なのかもしれませんね」ヤツデは慎重に言った。

 つまりは『愛の伝道師』であるヤツデが入っている意味はモニタリングの役割を果たせるようにするからという可能性もあるのである。これは当然だが『仲良しトラベル』のメンバーに『選ばれました』という通知を受けても拒否することはできる。拒否はできるが、そうなると、本来は無料で旅行ができるし、参加者は裁判員裁判のようにして会社を休むこともできるので、拒否する人は中々少ないのである。

「そうですな。先導役の方はきっとヤツデくんがいてくれると安心できますからな。参加者は何人ほどなのですかな?」カラタチは聞いた。カラタチは手探り状態なのである。

「ぼくを入れて三人です。それから、一人の『愛の伝道師』は旅行の案内役としてついています。これは例え三人の内の二人の馬がよく合って一人が仲間外れにされるような事態になってしまった場合にも『愛の伝道師』がその一人と一緒にいられるようにするための配慮です。とはいっても、実際はそうならないように『愛の伝道師』がフォローすることにはなっていますけどね」ヤツデは童女のような純真無垢さで言った。

しかし、これはヤツデにとっては最も重要な問題である。なぜなら、ヤツデの性格はアウト・サイダーもいいところなので、ヤツデは団体行動をするとほぼ間違いなく他の皆からあぶれてしまうからである。

とはいっても、厭世家ではあるが、ヤツデは既成の社会体制や価値観を否定して自然への回帰を主張するヒッピーとは一線を画している。ヤツデは別に社会に対して否定的なイデオロギーを抱いている訳ではないのである。一応はヤツデも努力をしてはいるのだが、これは孤独な性格のヤツデにとっては中々改善できない主題サブジェクトなのである。ただし、ビャクブはヤツデのことを誰よりも気にかけてくれるので、ビャクブだけはヤツデが孤立したとしても一緒にいてくれる。そうはいっても、ここはやさしくしないと気のすまない国民のすむトイワホー国である。その国民としては誰かを村八分にしようとはさらさら思っていない。そのため、例えば、ヤツデは一人ぼっちだったら、カラタチはヤツデと一緒にいてくれることは必定なのである。

「そうでしたか。皆は仲良くしてこそ『仲良しトラベル』ですからな。それはとてもいいことですな。旅行にはどんなところへ行く予定なのですかな?」カラタチは再び聞いた。

「行き先は博物館の恐竜展です。博物館は久しぶりなので、ぼくは少し個人的に楽しみなんです。恐竜展というからにはもちろん展示されているものを見学したりもしますが、メインは謎解きなんです」

「ほほう。それは結構ですな。ヤツデくんはうれしいのなら、私は同じくうれしくなってきました。それはさておき謎解きをするのですか。それはミステリー・ツアーですな?」カラタチは感心して言った。

ミステリー・ツアーには大別をすると二つの種類がある。一つは旅行の目的地が出発まで明かされないという行き先不明のツアーである。もう一つはヤツデの参加するような謎解きをしながら旅行をするイベント型のツアーである。カラタチの場合はどちらも大歓迎である。カラタチは旅行好きなのである。

「旅行の最後には参加者のそれぞれのいいところを紙に書いて交換し合う訳ですから、他の人はどんな考え方をするのか、できるだけ、それを克明にするために謎解きが採用されたんです」ヤツデは言った。

「そうでしたか。それはよさそうですな。私はあまり謎解きをやったことがないのですが、まあ、おそらくは不得手でしょうな。ヤツデくんはどうですかな?」カラタチは興味本位で聞いた。

「ぼくもそれほどには自信はありません」ヤツデは謙虚に言った。もっとも、ヤツデは卑屈な人間なので、実はなに一つとして自信を持っていることなどないのである。カラタチはそれを受けて言った。

「おや。そうなのですか。ですが、ヤツデくんは一問でも多く謎が解けるようにがんばって下さい。私はヤツデくんを応援していますよ」カラタチは肉声ではなくともエールを送った。ヤツデはそれに応じた。

「ありがとうございます。ぼくはカラタチさんのおかげで勇気が出ました。それでは時間を指定するために近い内にもう一度だけお電話させてもらうことになりますが、今日はそろそろ失礼します」

「はい。私はまたお会いできる日を楽しみにしています。おやすみなさい」カラタチは言った。ヤツデはカラタチに対して『おやすみなさい』と就寝の挨拶を返した。ヤツデはこうしてカラタチとの通話を終えた。とりあえず、ヤツデは天下分け目の戦いを終えてほっとした。これではかなり大げさに聞こえるが、ヤツデの電話嫌いは尋常ではないので、さっきの表現はむしろぴったりなのである。しかし、闘病生活よりはましかとヤツデは一人でほくそ笑んだ。ヤツデは長期の闘病をしたことがあるからこその感慨である。

 その後のヤツデはコンビニで買ったおでんを食べた。ヤツデは久しぶりにおでんを食べたので、焼きちくわやダイコンはとてもおいしく感じた。ヤツデは食事をあっという間に終わらせた。

 ヤツデは食事を終わらせると早速にビャクブに対して電話をした。ビャクブとの通話はさすがのヤツデにとっても、少しはリラックスすることができた。ヤツデとビャクブはやはり気の置けない仲なのである。

ヤツデは今冬の旅行に関してプレゼンテーションをする必要はなかった。なぜなら、ヤツデは約一週間前にビャクブから電話がかかってきた時にビャクブとそのあらましを話し合っていたからである。ビャクブはやはりヤツデは無事かどうかをいつも心配してくれているのである。

ヤツデは旅行をする前にカラタチとの集合時間を決めなければならない旨を伝えると、ビャクブは親切にもスマホで必要な情報を調べてくれると言ってくれた。ヤツデはパソコンを持っていない上にスマホをインターネットに繋いでもいないのである。そのため、普段はなにかの調べ物をする必要がある時は図書館に行ってそこのパソコンを使わせてもらっている。実はヤツデにはけちん坊なところもあるということである。

ヤツデはとにかくビャクブのやさしさに感動をして重々しくお礼を言った。ヤツデは親友のビャクブにも礼儀を欠くことはないのである。これこそは親しき中にも礼儀ありというやつである。

 その後のビャクブはヤツデに対してバザーでブタの貯金箱とメロン・パンのストラップを買ったという世間話をした。ビャクブは掘り出し物だと言って喜んでいたので、ヤツデはビャクブと一緒に喜んだ。

 ここでは少し加味すると、フリマとバザーは異なるものである。フリー・マーケットは個人が店を出すものであり、利益は個人の収入となるが、主催者には参加費を払うシステムになっている。

 一方のバザーの方はというと保育所や幼稚園といった施設が保護者から不用品を寄贈してもらってそれを売り、その利益は施設の運営費に当てるというものである。

ヤツデはやがてビャクブに対して『おやすみ』を言うと通話を終えた。いつものとおり、ヤツデはこの日も読書をして眠りに就いた。ヤツデの部屋にはちなみにテレビはないのである。


 次の日(12月10日)である。ヤツデは仕事から帰ってくるとビャクブから電話をもらってヤツデの行くヘルシンキ駅はカラタチの住む家の最寄り駅である東フエゴ駅まで10分足らずで行けるということや乗り換えの必要がないことを教えてもらうことになった。なにしろ、ビャクブはスマホが好きなので、情報収集のことでは大いに頼りになるのである。ヤツデはそれとは反対にしてあまりスマホを使いこなせていない。この日はともかくフット・ボールのニュースについてビャクブから話を聞くと、ヤツデは通話を終えた。


 次の日(12月11日)である。今はウィーク・デーの真っ昼間にも関わらず、ヤツデのスマホにはカラタチからの着信があった。しかし、現在は仕事も昼休みだったので、ヤツデは社員食堂でイワシのかば焼き定食を完食するとカラタチに応答をした。いつものとおり、ヤツデは緊張をしている。

 カラタチは柄にもなくはしゃいでいた。察しのとおり、カラタチはヤツデとビャクブのことをとても気に入っているのである。そのため、カラタチはヤツデと話をすることが喜ばしいのである。

ヤツデにはさすがに負けるが、実はカラタチも友達は少ないので、カラタチにとってはヤツデとビャクブの二人が会いにきてくれるということは元気のための妙薬となっているのである。


 やがては集合時間を確認すると、ヤツデは通話を切った。ヤツデとカラタチの二人はあえて会った時のために世間話をしなかった。カラタチはもちろん忙しい時間帯に電話をしてしまったことを深く詫びた。

 しかしながら、ヤツデとしては電話をくれたこと自体がうれしかったので、ヤツデはむしろ喜んでいる。つまり、電話はあまり好きではないが、カラタチはヤツデから見て好きという意味である。

 ヤツデはなにはともあれこれによって登竜門をくぐり抜けたなと誇りに思った。表現は相も変わらずに大げさだが、小心者のヤツデにしてはよくやった方である。今日のヤツデはとにかく冬休みの期待でとても機嫌がいい。そのため、ヤツデは得意満面で仕事へと戻って行った。

ただし、まさか、ヤツデはスキップをするようなことはなかった。ヤツデはそういう柄ではないし、ヤツデの内面はどんなことがあってもクールなのである。今日は天気も晴朗である。


今日は12月22日である。ヤツデは電車に乗って『仲良しトラベル』の集合場所であるペトロフスク県のマクマード市にあるヘルシンキ駅にやって来た。ヘルシンキ駅はとても近代的で都会的で広々としている。また、このヘルシンキ駅にはデパートメント・ストアも付属をしている。

ヤツデは集合時間よりも12分ほど早くヘルシンキ駅に到着をした。日常生活では時間にはルーズではあっても、ヤツデは待ち合わせとなるととてもナーバスになってしまうのである。

ペトロフスク県は一昨年に万国博覧会が開かれた場所である。博覧会とは種々の産物を収集や展示して公衆の観覧や売買に供して産業や文化の振興を期するために開催する会のことである。

ヘルシンキ駅の北口はビルが立ち並んでいるので、コンクリート・ジャングルとは言えそうだが、トイワホー国ではもちろん生存競争は激しくもないし、この国は決して人間味に乏しいということもない。ただし、ここには人が多いことは事実なので、都塵という単語は当てはまるのかもしれない。

ヤツデは改札を出て南口まで向かった。そこには『仲良しトラベル』と書かれた旗を持った『愛の伝道師』と見受けられる女性がいた。すなわち、彼女は今回の旅でツアー・コンダクターを務める女性である。

彼女は名をアヤメと言って首にはマフラーをしている。服装はブレザー・ジャケットにタイト・スカートを身にまとっている。アヤメは抜け目のなさそうなきりりとした顔立ちをしている。

その傍にはすでにもう一人『仲良しトラベル』の参加者である女性が佇んでいる。サフィニアという名の彼女はアイ・ラインがばっちりで綺麗な青色の瞳をしている。サフィニアは上がブラウスにボレロである。下はギャザー・スカートを着こなしていて耳にはティア・ドロップのイヤリングをして頭にはベージュのニット帽を被っている。察しはなんとなくつくかもしれないが、サフィニアはおしゃれなファッションを好む女性なのである。サフィニアはちなみにここから車で一時間半のところに住んでいる。

という訳なので、サフィニアはここまで車でやって来たのである。もっとも、運転は他の人にしてもらったのである。なぜなら、サフィニアは車の免許を持っていないからである。なお、アヤメとサフィニアの描写はきちんとしたが、ヤツデはなにもじろじろとアヤメとサフィニアの二人の女性を観察していた訳ではない。アヤメとサフィニアはどちらもやさしそうな人だなとヤツデは思っただけである。

「すみません。こちらは『仲良しトラベル』の参加者の集合場所で間違いありませんか?」ヤツデは今日にお世話になる『愛の伝道師』で旅の同行者でもあるアヤメに対して話しかけた。

「はーい。おっしゃるとおりでーす。私はお名前を伺ってもよろしいですかー?」アヤメは元気よく活発に聞いた。アヤメは見た目のとおりにハキハキとしている。ヤツデは即座に応じた。

「ぼくはヤツデです。よろしくお願いします」ヤツデはそう言うとぺこりと頭を下げた。

「ヤツデさんはお越し頂きましてありがとうございまーす。ヤツデさんにはもう一人の方がいらっしゃるまで少々お待ち願いますねー」アヤメは溌剌としている。アヤメは仕事でなくてもそうなのである。

「はい。わかりました」ヤツデは返事をすると傍にいるもう一人の女性であるサフィニアにも会釈をした。サフィニアは会釈を返してくれた。そればかりか、サフィニアは声もかけてくれた。

「はじめまして」女性は言った。「私はサフィニアって言います。よろしくお願いします。ヤツデさんはどちらからいらっしているのですか?」サフィニアは世間話を持ちかけてきた。

「ぼくはポンメルン県からきました。電車では一時間くらいかかります」ヤツデは答えた。

「そうなんですか。それは大変でしたね。私はそれに比べると随分と楽だな」サフィニアはそう言うとここペトロフスク県が自分の出身地であることを明かした。ヤツデはそれを神妙にして聞いた。

 ヤツデはサフィニアに話しかけられて少し舞い上がった。ただし、それは別にサフィニアが若い女性だからではない。ヤツデはサフィニアみたいな女郎ではなくて男児だろうと老女だろうと知らない誰かに話しかけてもらえるとただそれだけで喜び勇んでしまうのである。ヤツデは基本的には社交的なのである。

その後はおよそ5分が経つと最後の参加者である男性がやって来た。彼の名はジェラシックである。ジェラシックはリュックを背負ってスマホやサイフの入った旅嚢を手にしている。

ここではもう一つ付け足しておくとすれば、ジェラシックは胸に使い捨てカイロをしている。そのため、この場では特別な防寒対策をしていない人物はヤツデだけである。

そのため、ジャンバーは着ているとはいえ、ヤツデはぶっちゃけると寒くてしょうがないのである。という訳なので、内心ではサフィニアの編み物の帽子を見ると自分もヘルメットでもいいから、本当はなにかしらの被るものが欲しいなとヤツデは思っている。ヤツデは暑がりで寒がりなのである。

やがては『愛の伝道師』のアヤメに対してジェラシックも話しかけて名前を聞かれたので、ジェラシックは受け答えをした。現在は集合時間の5分前だが、アヤメは全員が揃うとヤツデとサフィニアとジェラシックの三人に対して体を向けた。アヤメは早速に職務を全うすることにした。

「はーい。本日は『仲良しトラベル』にお越し頂きまして誠にありがとうございまーす。申し遅れました。私は今日の小旅行の添乗員を務めさせて頂きます。アヤメでーす。今はまだ慣れない仕事で手探りの状態ではありますが、私は皆さんが気分よく過ごせるよう精一杯にがんばりますので、今日一日はよろしくお願い致しまーす。それでは少しだけ自己紹介をさせてもらいまーす。まず、私はレグール国の生まれでーす」アヤメはアナウンサーのようにしてよくとおる澄んだ声で言った。ヤツデは少しばかり緊張をしている。

「そうなんですか?」ジェラシックは口を挟んだ。「それでは質問です。アヤメさんはどうしてトイワホー国で暮らそうと思ったのですか?」ジェラシックはちなみに茶色の瞳をしている。

今は短いセリフだったが、ジェラシックの口調は決して訥弁ではないし、ジェラシックは実際におしゃべりの上手な男である。また、ジェラシックはアヤメに負けないくらいに澄んだ声をしている。

そのため、サフィニアは男性にしては珍しいなと思った。ところが、ヤツデは鈍いところもあるので、そのことについてはまだ気がつかなかった。本来のヤツデは感受性が豊かなはずなのである。

「私はトイワホー国の出身の父とレグール国の出身の母を持つハーフなんでーす。ですから、生まれはレグール国でも、育ちはトイワホー国なんでーす」アヤメは純粋な口調で言った。

トイワホー国は地球を含む銀河系から遠く離れたもう一つの太陽系にある。トイワホー国はその中でも天地という名の惑星に存在する。今のところ、天地はちなみに地球の存在を知らない。

天地の人間の使用言語は世界共通なので、天地にはバベルの塔のような伝説は存在していない。一応は説明しておくと、バベルの塔とはノアの大洪水後に人々が築き始めた天に達するような高塔のことであり、神はそれに怒って人々の言葉を混乱させてその工事を中止させたのである。

閑話休題である。そういう訳なので、天地には通訳や翻訳家という職業は存在しないし、実はアヤメのしゃべり方が特徴的なの理由も別にハーフのせいではないのである。アヤメは話を続けた。

「年は三十路の一歩手前でーす。ですから、ジェラシックくんの言ってくれていたとおり、私はアヤメさんって呼んでくれるとうれしいでーす。趣味は旅行でーす。ですから、私は『仲良しトラベル』の担当になれてすっごくうれしく思っていまーす。私は鶏肉の照り焼きが好きな食べ物でーす。スリー・サイズはもちろん秘密でーす。男の子のお二人は期待しちゃいましたかー?」アヤメは悪戯っぽく微笑んだ。

「ぼくは期待しちゃいましたー」ジェラシックは笑みを浮かべながらアヤメのまねをした。ヤツデはようやく気づいたが、ジェラシックはよくとおるテノールの澄んだ声をしているのである。

「ヤツデくんはこういう冗談がお嫌いでしたかー?ごめんなさーい」アヤメはヤツデが無表情で話を聞いているのを見て言った。事実のところ、ヤツデは硬直をしている。

ヤツデは恐縮して『いいえ』と答えた。ヤツデはそう言いながらも目が泳いでいる。ヤツデの動揺は誰が見ても明らかなので、サフィニアはそれを見て思わず苦笑している。

「ヤツデさんとサフィニアさんの年齢は一緒でーす。ジェラシックくんはヤツデさんとサフィニアさんの一つ下でーす。ああ。すみませーん。私はプライベートなことを言っちゃいましたー。お許し下さーい。それでは年齢の他にもで簡単に自己紹介をお願いしまーす。自己紹介はどんなことでもいいですし、セリフは別に短くてもいいので、まずはヤツデさんからお願いしまーす」アヤメは水を向けた。このことに関してはあらかじめセリフを考えていたので、ヤツデは動じなかった。ヤツデは即座に応じた。

「はい。ぼくはヤツデです。ぼくはアヤメさんと同じで『愛の伝道師』です。ええと、それから、趣味は読書です。最近は火山の噴火についての本を読みました。ぼくはその本を読んで旅行中に噴火みたいな事故に巻き込まれることもあるから、普段の日常はできるだけ楽しく過ごす努力をしようと思いました。今日一日はよろしくお願いします」ヤツデはようやく言い終えた。ヤツデは分野を超えた様々な本を読むのである。

ヤツデは例えばシンナーやアドバルーンや魔道師といったようなテーマの本も読むので、読むものにはようするに全く脈絡はないのである。それよりも、ヤツデは言ってしまってから少ししゃべりすぎたかなと思ったが、それは徒労に終わった。トイワホー国の国民は例えとんちんかんなことを言ってしまっても受け入れてもらえるのである。実際のところ、アヤメとサフィニアとジェラシックの三人はヤツデの話の長さについては頓着をしなかった。しかしながら、ヤツデは他の三人の気持ちを気にかけている。

「ヤツデさんは心のある男性なんですねー」アヤメは言った。「次はジェラシックくんの自己紹介をお願いしまーす」今度のアヤメはジェラシックに対して話を振った。ジェラシックは堂々としていた。

「はじめまして」男性は言った。「ぼくはジェラシックです。趣味と特技はカラオケとダジャレです。ミラーなら、見らーれる。モーターは動かなくなってもーたー。ダイスは大好きです。ぼくの腕前はどうですか?まあ、ぼくとしては親父・ギャグというよりもダジャレと呼んでもらいたいんですけどね」ジェラシックはのほほんと言った。ジェラシックは大したものだとヤツデは感心をしたが、サフィニアは無関心である。

「ダジャレはとってもお上手ですねー。私としてはジェラシックくんの歌声も聴いてみたいですねー。それでは最後にサフィニアさんの自己紹介をお願いしまーす」アヤメは指名をした。

「はい。私はサフィニアです。趣味は料理です。得意料理は天津飯です。私は食べるのも好きなので、チャーハンやシューマイや冷やし中華はどれも大好きでーす」サフィニアはアヤメのまねをした。

サフィニアとジェラシックはアヤメのことをバカにしている訳ではないので、アヤメは上機嫌である。ヤツデはこの流れで行くとアヤメのまねをやらなければいけなそうである。

ところが、ヤツデの性格はそもそも偏屈だし、ヤツデはそんなキャラではないので、ヤツデにはアヤメのまねをする予定はない。それでも、ヤツデはその代わりとして話を合わせることにした。

「ぼくも天津飯は大好きです。それよりも、ジェラシックくんとサフィニアさんはすごくいい名前ですね。ぼくはなんとなく萎縮をしてしまいます」ヤツデは悲観的なセリフを口にした。

「そんなことはないよ。ヤツデくんの名前は十分に素敵な名前だよ。ああ、ヤツデくんは私と同い年みたいだから、私はため口でもいい?私にはもちろんヤツデくんもため口でいいよ。私のことは気軽にサフィニアって呼んでね」サフィニアにはやさしさもあってなおかつ率直な性格の持ち主でもあるのである。

「うん。わかった。ぼくらはその方が堅苦しくないものね」ヤツデは柔軟に対応をした。

「それにしても『仲良しトラベル』では同年代の人が集まるなんてことはよくあるんですね。『仲良しトラベル』はまだ始まったばかりですが、そういうことはけっこうあるのですか?」ジェラシックは疑問に思ったことを聞いた。ジェラシックには誰とでもすぐに仲良くなってしまうフレンドリーなところがあるのである。

「うーん。多少は珍しいケースですねー。まあ、ケースとしてはご年配の方々ばかりが集まることもありますから、組み合わせは色々ですねー。ですが、なによりも、大切なことは私も含めた4人が出会えたことはなにかの縁だということですねー。その縁は大切にしましょうねー。今日一日は仲良くしましょうねー。それでは出発をしまーす」アヤメはそう言うと歩き出した。ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はアヤメに連れられて駅から離れると摩天楼の立ち並ぶアスファルトの歩道を歩き出した。ヤツデは緊張と期待の二つを抱いている。ひょうきん者のジェラシックはやがてヤツデとサフィニアに対してすぐに自分にはため口で構わないと申し出た。ヤツデはそれに対して頷いておいた。サフィニアはヤツデと同じくジェラシックの名折れとならないようにもそれを了解した。ただし、現在は仕事中なので、アヤメだけは辞退をした。

 アヤメはそれが終ると手短に今日の旅のあらましをしゃべった。アヤメは歩きながらも恐竜館には歩いて向かってその途中で三つの謎に挑戦することや恐竜館を出たあとには二つの謎に挑戦して帰りはバスで集合した場所の近くに戻ってくるということを話したのである。

多少は緊張をしていたので、ヤツデはアヤメの話をなおざりにしてしまったが、それは田舎者のジェラシックも同じだった。ジェラシックの場合はトイワホー国の主要な都市にやって来て目を白黒させている。普段は大自然の中で暮らしているので、ジェラシックにとってはビルは珍しいのである。


友達の少なさは筋金入りだと自認をしている自分にとって『今回のツアーは少し緊張をするな』とヤツデは思っている。ヤツデは他人と区別する自分らしさという点ではクリアをしているが、一方ではそんな自分を肯定的に受け入れられないという点でアイデンティティは確立をできていないのである。

それでも、ヤツデは会ったばかりのアヤメとサフィニアとジェラシックの三人に対してすでに好印象を持っている。ジェラシックは愉快そうだし、ヤツデの目にはサフィニアも気さくなように映ったのである。

ヤツデはアヤメに対してなんとなくエレキ・ギターを弾いていてバンドを結成していそうだなというような感想を持ったが、実際にはそんなことはないというのが事実である。

「いやー」ジェラシックは言った。「それにしても、ヤツデさんはもしかして夜逃げがてらのご旅行なんですか?」ジェラシックはヤツデの荷物の多さをじろじろと見ながら少し遠慮気味にして軽口を叩いた。

 このペトロフスク県には滞在をする予定なので、ヤツデは左手にウェアや下着といった着替えの入ったボストン・バッグを持っているのである。町はちなみにカラタチによって案内をしてもらう予定なので、ガイド・ブックの類は持ってきていない。それについてはビャクブも同じである。

 また、ヤツデは背中にリュックサックを背負っているので、多少は『仲良しトラベル』にやってきたにしては物々しい格好をしているので、ジェラシックの冗談は意外と的を射ているのである。

「それにしては荷物は少なすぎますよねー。そう言えば、荷物はコイン・ロッカーに預けなくてもいいんですかー?」アヤメは少しヤツデをフォローしつつも聞いた。アヤメは早速に気を遣ってくれた。

「そうですよ。ぼくはそれでも構いませんよ。ダジャレとしてはロッカーに戻ろっかーなんて傑作じゃないですか」ジェラシックはそう言うと自分のギャグで笑っている。笑う門には福きたるである。

「ジェラシックくんはおもしろいことを言うね。でも、大丈夫だよ。ぼくとしては荷物を手元に置いておかないと心細いからね。ぼくは夜逃げをした身だし」ヤツデはしれっと冗談を言って退けた。

「ヤツデさんもおもしろいことを言いますねー。ですが、ヤツデさんはギャンブラーだったとしても借金を踏み倒すような人だなんて私には信じられないなって思いますよー」アヤメは言った。

「それは確かにぼくも同意見です」ジェラシックはいくぶん重々しげにして言った。ヤツデはそれを受けると思わず感動をしてしまった。とはいっても、ヤツデという男はすぐに感動をするのである。

 ギャンブルに関してはトイワホー国にも公営の競馬や競輪はあるが、トイワホー国の競馬や競輪は会員制になっている。一定以上の賭け金と規定以上の参加はそれによって禁じられているのである。

「ぼくとはお会いしたばかりなのにも関わらず、アヤメさんは高評価をして頂いてありがとうございます。まあ、お察しのとおり、そんなことはないんですけどね」ヤツデはなんとなく申し訳なさそうにして言った。

ヤツデは皆が特異な人間に対して偏見を持たずに接することができるのかどうかを確かめてみたくてあえて冗談を言ったのである。ヤツデはユーモアというよりも小手調べをしたのである。

すると、さすがはやさしさでは群を抜いて有名なトイワホー国の国民だけあって差別をしない返答が返ってきたので、ヤツデは内心では少しうれしい気分になっている。

「もしも、ヤツデくんは失業者になっちゃっているのなら、私はちょっとした雑用係としてヤツデくんのことを雇ってあげようかなーなんて思ったりしたのよ。それで?ヤツデくんはどうしてそんなに重装備なの?ヤツデくんはこの地に骨を埋めるつもりなの?」サフィニアは中々おかしなことを言っている。

 ヤツデはやがて『仲良しトラベル』のついでに友人を訪れることになっているので、荷物は多いのであると簡単に説明をした。すると、この場は歩きながらもサフィニアの独壇場になった。アヤメの旅行は趣味と言っていたが、サフィニアは国内外を問わずの旅行の話をしたからである。サフィニアはヤツデの住むポンメルン県の鉄道博物館へ行ったことやアヤメの出生地であるレグール国の有名な美術館に行ったことを話した。サフィニアの話はとにかく彩り豊かだったので、ヤツデにとっては実に興味深い話だった。

「しかし、サフィニアさんは話を聞いている限りではお金持ちなんですね。サフィニアさんは大富豪のご令嬢かなにかですか?」ジェラシックは少し大げさなことを言っている。しかし、サフィニアは頷いた。

「ええ。そうよ。私の家はブルジョアなの。そう言えば、ジェラシックくんはどこに住んでいるの?」

 サフィニアは話を受け流したということは冗談で自分をお金持ちだと言ったのかなとヤツデは思った。しかし、その時にはすでに重ねてそのことを聞く機会は逸してしまったし、普段はヤツデもそこまで疑い深い人間ではないので、ヤツデはこの問題をこのままにしておくことにした。ついでに言うと、ジェラシックとアヤメも深く考えなかったのである。ただし、サフィニアは育ちがいいということは事実である。

「ぼくの出身地はノース大陸のパミール州です。サフィニアさんはご存知かもしれませんが、パミール州はモモやカキの栽培で有名です。パミール州はとてもいいところですよ。寒地ではカキが凍ってカッキーン!牧場ではウシがモモを見てモーモー!出身地については事実なのですが、ぼくは実を言うとこれが言いたかっただけなんですけどね」ジェラシックは少しだけ照れている。アヤメは口を挟んだ。

「ジェラシックくんは相も変わらずにお上手ですねー。パミール州は確かに自然の豊かなところですー。ですが、パミール州は交通という点では少し不便ではありませんかー?」アヤメは聞いた。

「まあ、移動手段は確かにトロッコですからね。まあ、それは冗談ですけどね。トロッコはあと6個だ。こんなダジャレはどうですか?」ジェラシックはひょうひょうとしている。ヤツデは感嘆の声を上げた。

「ジェラシックくんは本当にすごいね。おそらくはストックもあるんだろうけど、即興なら、ジェラシックくんは天才的だよ。ぼくも何度かはダジャレを言ったことはあるけど、ぼくにはジェラシックくんほどにおもしろいもダジャレはとてもじゃないけど言えないね。ジェラシックくんは頓知頓才の名人だね」ヤツデは大絶賛している。自分のことはやたらと低く見る傾向があるが、ヤツデは他人に対してはどんな人であっても高評価を与えることが癖になっているのである。ヤツデは他人を尊敬する気持が強いのである。

ジェラシックはそれを受けると気分がよくなってこれからもじゃんじゃんとダジャレを言おうと張り切った。男性の二人は仲良くしているので、アヤメは満足げである。しかしながら、ダジャレはどこがいいのかについて理解に苦しんでいるので、サフィニアは少しばかり冷めている。

 ヤツデとサフィニアとジェラシックアヤメの4人はやがて第一の関門の前にやって来た。場所はコンビニの前である。つまり、ここではコンビニに縁のある問題が出題されるということである。ジェラシックはとても張り切っている。一方の小心者のヤツデは珍しく緊張をしていない。なぜなら、問題は別に正解をしなくてもいいやとヤツデは思っているからである。とはいっても、ヤツデはもちろんミステリー・ツアーに無関心なのではなくていつものとおりどうせ自分には謎は解けないだろうと悲観をしてしまっているだけである。

「ヤツデくんは一緒にがんばろうね」サフィニアは声をかけた。そのため、ヤツデは心の中を読まれたかと思ったが、サフィニアは言うまでもなく深い意味があって言った訳ではないのである。

 アヤメはやがて持っていたアタッシュ・ケースから三部の書類を取り出してヤツデとサフィニアとジェラシックの三人に対して一部ずつを差し出した。その書類は10ページあって左端がカード・リングでまとまっている。字は横書きである。その内容はもちろんミステリー・ツアーの問題文である。

「はーい。それでは最初の問題に挑戦しましょうねー。ルールは簡単でーす。まずはお渡しした一ページ目にある問題文を読んで謎が解けたら、皆さんはお答え下さーい。ですが、答えは最初にわかった方もすぐにはお答えせずに他の方々が熟考できるまで待っていてあげて下さいねー。ただし、謎は全員の方が解いてしまったら、解答者は譲り合って下さいねー。その場合はさらに一人の方が答えるのではなくて答えとその理由を話す人を別々にしましょうねー。よろしいですかー?」アヤメは聞いた。

「はーい。わかりましたー」ジェラシックは相も変わらずにアヤメのまねをしている。

 ヤツデはなんとなくまだ五里霧中の状態だが、アヤメは詳しい手順については手とり足とりこれから親切に教えてくれることになるので、なんら、問題はないのである。

 上記のとおり、そこそこのやる気はあっても、ヤツデは悲観的だが、ジェラシックは誰よりもやる気が満々だし、自信はあまりないが、チャレンジャーとしての精神はサフィニアも旺盛である。

ようは皆がやってやろうという気持ちを持ち合わせている訳である。という訳なので、ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はアヤメに促されて問題文を読み始めた。以下はその内容である。


 エリカは泣きぼくろのある女流の演歌歌手である。エリカには少し粗忽なところがある。例えば、エリカはサイフを持たないで買い物に行ってしまったり靴下をちんばで履いてしまったり、あるいはパタロンの一つの穴に二つの足を入れてしまったりすることがしょちゅうあったりもするのである。

 普段の生活はそんな感じだから、エリカはテレビでも不間な発言をしてしまうことも度々ある。エリカはそれでも見栄を張らずに歌も実にこぶしの利いたすばらしいものなので、お茶の間での人気は高い方である。

 それはさておいてマネージャーとの打ち合わせを終えると、ある日のエリカは仕事の帰りにコンビニへと寄ることにした。一応は言っておくと、今日のエリカはちゃんとサイフを持って来ている。エリカはその上に買うものを書いたメモも持ってきているという用意周到さである。

エリカの持って来たメモには冷凍ピラフや食品包装用のラップやミネラル・ウォーターやクリップといったものが書き込まれている。ただし、買うものはそれ以外にもある。

 エリカは入店をすると早速にメモ書きを見てどんどんと買い物の籠に商品を入れて書架のコーナーでは一冊の雑誌を手に取って立ち読みをした。その後は明日の朝食としてあんパンを籠に入れて今日の夕食として幕の内弁当を籠に入れると、エリカは会計のためにレジスターへと足を運ぶことにした。エリカは独身の一人住まいだが、料理は不得意なのである。ただし、料理教室には行ったこともあるのだが、エリカは馴染むことができずに一週間でやめてしまったのである。エリカは軽佻浮薄な性格をしているのである。

 レジ係の女性はエリカが女流の演歌歌手であるということに気づいた。エリカは庶民的なので、基本的には変装はしないのである。しかし、女性の店員はエリカに対して話しかけてはこなかった。

 会計はやがて終わり、レジの料金の表示は2200パンダと表示された。そのため、エリカは3000パンダの紙幣を出した。奇妙な出来事はするとその直後に起きた。 本来なら、エリカのお釣りは800パンダのはずである。それなのにも関わらず、女性の店員の返してくれたお釣りは150パンダだったのである。

この話の主人公のエリカは当然のことながら不思議そうにした。それではどうして女性のコンビニ店員はお釣りを650パンダも少なく渡したのだろうか?なお、答えは女性の店員の計算違いでもなければ渡し間違いということではないので、あしからず、ご了承下さい。


 この問題のタイトルは『金銭の謎』である。これはちなみにフィクションであって実際の人物との関係は全くない。ただし、話はこれから先の問題もそうだが、舞台は全てトイワホー国である。

 アヤメは解答者の三人が問題文を読み終わるまで待っていた。ヤツデは最後まで文章を読んでいた。ヤツデは読書家のくせに速読が得意ではなくてなにをするのもスロー・モーなのである。

ヤツデは文面から顔を上げるとやはり自分が最後だったかと少し申し訳なく思った。とはいっても、他の三人はトイワホー国の国民なので、その程度のことは不愉快には思わないのである。

「はーい。それではシンキング・タイムは5分でーす。ですが、これはあくまでも目安なので、お時間はそれ以上に必要なら、その方は申し出て下さいねー。その時は柔軟に対応しますので、遠慮は無用でーす。質問のある方はいらっしゃいますかー?質問はもちろん問題の答えに関すること意外ですけどねー。それから、残念ながら、ヒントは出せないので、その点はご了承下さーい」アヤメは笑顔のまま長々と言った。

「はい」ジェラシックは挙手をした。「質問です。答えはちゃんと考えるので、ぼくはコンビニで買い物をしてもいいですか?ぼくは小腹が空いているものでしてね。実は朝が早かったから、今日は朝食を抜きにしていたんです」ジェラシックはいけしゃあしゃあと言って退けた。アヤメは寛容だった。

「はーい。それくらいはもちろんOKですよー」アヤメは了承をした。ジェラシックはお礼を言っていそいそとコンビニに入店をして行った。ヤツデはそんなジェラシックのマイ・ペースぶりに対して感心をした。

 ただし、サフィニアは特に感想を持たなかった。というより、現在のサフィニアは問題を解くことに必死なのである。やがてはヤツデも真剣に考えてみることにした。アヤメはここでも待つ人である。

 トイワホー国では異人や変人も歓迎をされる。つまり、トイワホー国の国民はとても心が広いので、トイワホー国では例えどんな特異な考えを持った人間であっても受け入れてもらえるのである。

 トイワホー国では自分の考えと相手の考えの二つが衝突することなどほとんどないのである。なぜなら、この国の国民は皆が譲り合いの精神を持っていてそれを大切にしているからである。

 トイワホー国ではどんな目立ちたがり屋でも他人の気持ちを第一に考えることができる。また、人は奇想天外な言動を見聞きした場合には受け入れることはベストだが、一方では受け流すこともベターである。

 ジェラシックは変人だとは言わないが、トイワホー国はそういう点では珍しい性格をしたヤツデにとっては住みいい国なのである。また、ヤツデは自身でもそれを幸福なことだと受け止めている。

 それはさておきヤツデは問題に取り組んでいる。実はヤツデには伝家の宝刀がある。その名は『白と黒の推理』と言うものである。『白と黒の推理』とは物事を表裏の両面から観察して真実を見抜くといったものである。現在のヤツデは『白と黒の推理』を使って試行錯誤をしている最中である。

 ヤツデの着眼点は二つある。一つはエリカが浮薄であるということである。もう一つは買い物のメモに書かれた内容についてである。ヤツデは前者に『白の推理』を使って後者には『黒の推理』を使った。

 やがてはタイム・アップになった。ジェラシックは買い物を終えて旅のうにサイフを仕舞いながら店から出てきた。なんだか、ジェラシックは満足そうである。という訳なので、アヤメはヤツデとサフィニアとジェラシックの三人に対して時間の延長の必要があるかどうかを聞いたが、その必要性は誰も示さなかった。

「はーい。それでは問題を解けたと思う方は何人ほどいらっしゃいますかー?」アヤメは聞いた。ヤツデとジェラシックの二人はすると挙手をした。つまり、サフィニアだけは解けなかったのである。

 アヤメはそれでもサフィニアに対してなにかしら考えついたことはあるかどうかを聞いた。すると、せっかくなので、自信はあまりなさそうだが、サフィニアはなにやら答え始めた。

「レジのモニターには金額が表示されていたんですよね?だとしたら、それは聞き間違いでもないし、あるいは言い間違いでもないから、私にはやっぱりわからないです」サフィニアは混沌としている。

 アヤメはやがて質問をした。それにより、ヤツデはアンサーを言うことになり、ジェラシックはその理由を答えることになった。ヤツデは楽な方を担当することになってラッキーに思っている。

「ぼくは簡単に答えを申し上げると、エリカさんは自分でも気づかない内にもう一つの商品を購入していたんです。違いますか?」ヤツデはアヤメに対して聞いた。ヤツデはわざとぼかして答えてジェラシックにも解説の余地を与えたのである。ヤツデは心持ちの大きい男なのである。もっとも、この場合は問題の答えを解けていたことが前提である。サフィニアは不思議そうにしている。アヤメは明るく首肯をした。

「違いはありませーん。ヤツデさんは正解ですよー。それではジェラシックくんは解説をお願いしまーす」

「ほい」ジェラシックは返事をした。「まず、エリカさんはなにかと失敗しがちな性格をしています。となると、エリカさんは今回もなにかしらのミスをしていると考えることが妥当です」ジェラシックは説明を開始した。サフィニアはまじめな顔をしてその話に耳を傾けている。ここまでのジェラシックの考えはヤツデと同じである。ヤツデの場合は『白の推理』によって『エリカは必ずミスをしている』と信じたのである。

「それではどんなミスをしたのか。レジではお釣りが少なかったということは店員のミスではなくてエリカさんのミスということになります。ここから考えられることはエリカさんが店員に全ての商品を渡していないという可能性です。それではなにを渡していないのか。ぼくはたぶん雑誌じゃないかと思います。エリカさんは書架に足を運んでいますし、仮に、雑誌なら、人は脇に挟むことができます。それではなぜ店員はそれを黙っていたのか。これは憶測なのですが、店員はエリカさんのことを知っていたので、エリカさんには親近感を覚えたのかもしれません。そのため、店員はエリカさんをおちょくってみたと考えることもできます。どうですか?」ジェラシックは自信が満々である。アヤメはそれに対して好意的に応じた。

「大正解でーす。ジェラシックくんはよくできましたー。私からは特に付け足すこともありませーん。それではどんなことでも結構ですが、ヤツデさんの方にはまだなにかおっしゃりたいことはありますかー?」

「いいえ。ありません」ヤツデは短く答えた。ただし、ヤツデの場合は細かいことを言えば『黒の推理』によって『エリカのメモ書きはこの話には関係がなくてフェイクではないか』と疑ってかかっていたのである。とはいっても、一度は『白の推理』によってヤツデもメモが関与している可能性を考えた。

それから、一応はこのことも付け足しておくとすれば、エリカのお釣りは650パンダも足りなかった理由はもちろんエリカの脇に挟んであった雑誌の値段が650パンダだったからである。

「すごい」サフィニアは感心をしている。「ヤツデくんとジェラシックくんはよくわかったね」

「ところで」サフィニアは言った。「ジェラシックくんはコンビニでなにを買ってきたの?」サフィニアは興味本位で聞いた。ジェラシックはサフィニアの問いに答えた。

「肉まんです。サフィニアさんはワッフルやサンドイッチでも買ったら、どうですか?」

「私にはあいにく立ち食いや歩き食いなんて芸当はできないもの。それに、私はダイエットをしている訳ではないけど、間食はしないようにしているの」サフィニアは肩をすくめた。

「そうでしたか。それは残念ですね。サフィニアさんはワッフルを買えば、ぼくは賞味期限を見て『わっ!古ーっ!』って言えたんですけどね」ジェラシックは言った。ヤツデはあまりにも下らなすぎて苦笑をした。

「ジェラシックくんはそれを言いたいがために私にワッフルを買わせようとしたのね。ジェラシックくんは横暴ね」サフィニアは吐息をついた。サフィニアはもちろん問題の答えがわからなかったから、すねているのではなくて大げさな冗談を言っているのである。そのため、サフィニアは内心ではヤツデとジェラシックに対して拍手喝采である。サフィニアはどんな人に対しても高評価を与えることができるのである。

「まあ、なんにしても、サフィニアさんは肉まんを憎まんで下さい」ジェラシックは言った。ヤツデはすると不覚にも笑ってしまった。ジェラシックはこれであんまんを買わなかった理由が判明した訳である。

ヤツデはアヤメに対してVサインを作ってピースをしているジェラシックを見ると『この男はただ者ではないな』と思った。ヤツデは他人を高評価し過ぎるところがあるのである。ヤツデとジェラシックの二人はなにはともあれ幸先のよいスタートを切ることに成功をした。

「次はきっとサフィニアさんも謎を解くことができるので、サフィニアさんはめげることなくがんばりましょうねー」アヤメは元気づけた。これは仕事ではなくてもアヤメが述べていたであろうセリフである。

「はい。ありがとうございます」サフィニアは明るい性格のために全くめげることなくお礼を返した。ヤツデはそんなサフィニアの性格について密かに羨ましいなと思った。

 アヤメはやがてヤツデとサフィニアとジェラシックの三人から問題用紙を回収した。また、アヤメはヤツデとジェラシックにもエールを送った。ジェラシックの性格は単純なので、ジェラシックはより一層に張り切った。今回はヤツデも馬耳東風ではなくて素直にお礼を言った。アヤメとサフィニアとジェラシックの三人はとてもやさしそうなので、ヤツデはようやく少しだけこの場の雰囲気に慣れてきたのである。


 ヤツデたちの一行はなにはともあれこうして再び次のステージへと進んで行った。ジェラシックとサフィニアはその際には都会と田舎のどちらがいいかについて話をしていた。

 サフィニアはショッピング・プラザのない生活なんて考えられないと言ったが、ジェラシックはカンパニーの建物がひしめき合っているのも息がつまって考えものだと主張をした。

 自分はジェラシックに同意をしようとしたが、結局のところ、ヤツデはなんとなく尻込みしてしまってすごろくやスケート・ボードや着せ替え人形といったものが並んでいるおもちゃ屋のショー・ウィンドーを眺めているだけで特になにも言わなかった。しかし、アヤメはヤツデに対して好きな本や著者について聞いてくれたので、ヤツデは別におしゃべりな方ではないが、アヤメに対しては喜んで話をした。

「まあ、田舎には確かに昆虫がたくさんいますから、幼虫には要注意しないといけませんね」ジェラシックはダジャレを言っている。そのため、ヤツデはアヤメの話を聞きながらも再び感心をしてしまった。

 サフィニアは都会と田舎のどちらがいいかをヤツデにも質問しようとしたが、やがては次の問題の時間が来てしまったので、それは中断を余儀なくされた。サフィニアは少し残念そうである。

もしも、聞かれていれば、ヤツデの場合は田舎と答えたことは間違いない。ヤツデは平素から色んな人と仲良しになりたいと思っている。ところが、そのヤツデは同時に世捨て人のような考えも持っているので、どちらかと言えば、ヤツデにとっては雑踏よりも静かなところの方が落ち着くのである。

ここはショッピング・モールの前である。田舎者のジェラシックは相も変わらずに大きなショッピング・センターに目を見張っているが、今度は買い物をしたいと申し出る気は毛頭ない。わずか、数分では見切れないし、なによりも、ジェラシックは迷子になってしまいそうだからである。

「はーい。それでは早速に問題をお配りしますねー。手順は前回と同じなので、問題は用紙を受け取った方から読み始めてもらって結構ですよー」アヤメは明るい口調で説明をした。

という訳なので、アヤメは先程の書類の二ページ目を開けるとヤツデとサフィニアとジェラシックの三人に対して書類を渡して行った。サフィニアは最初に問題を受け取った。そのサフィニアはもう問題の文章を読み始めている。ヤツデは今も全く緊張をしていない。ヤツデはダメで元々という考えだからである。ただし、ジェラシックの方はヤツデとは違って程よい緊張感をもって問題に挑戦することにしている。

今回の問題のタイトルは『瞬間移動の謎』でショッピング・モールに関する問題である。難易度は先程よりも少し上がっている。以下はその『瞬間移動の謎』の全文である。


エミリは髪の毛を真ん中でわけた女子高生である。また、エミリは高校の二年生である。エミリの密かな自慢の一つは些か名の知れたフォト・グラファーの父を持つことである。

ただし、家事はちゃんとこなしているとはいっても、母はキッチン・ドリンカーであることに関しては少し玉に傷である。もっとも、エミリはあまりそのことを気にしてはいない。

エミリの趣味は映画観賞である。エミリは特にブルーレイではなくて映画館で映画を見ることが好きなのである。なぜなら、エミリにとっては大きなスクリーンと臨場感の溢れる音響を味わった方がエキサイトできるからである。という訳なので、エミリは今日もシアターで映画を見た。

エミリはその帰り道でこのショッピング・モールにやって来た。エミリの服装はセーラー服のままだが、一度は家に帰っているので、現在のエミリはトート・バックを持っている。

エミリはファンシー・ショップで手帳を購入すると次にショッピング・モールの書店にやって来た。時々は間違い探しをやるので、エミリは間違い探しのコーナーを見てみることにしたのである。

エミリはそのようにして買い物をしているとエミリのスマート・フォンには着信があった。エミリはスマホの画面を見るとかかってきたのはエミリの親友の自宅からであることがわかった。

ニフィという名のエミリの親友は香道の嗜みがあってワン・レングスでえくぼのかわいい女の子である。また、ニフィには4歳年下のアップル・パイが好きな妹がいてエミリも彼女には会ったことがある。エミリとニフィの好物はちなみにチョコレート・ムースで一致をしている。

エミリは電話に出るとやはりニフィが電話に出た。エミリは書肆を出ると最も近くにあったベンチに腰をかけて部活やテレビ番組のことやこれから行われる文化祭のことなんかについて20分ほどニフィと通話をした。ニフィはそうでもないが、エミリは割とおしゃべりなのである。

その際にはバック・ミュージックではないが、エミリの耳にはかすかにラジオの音楽が届いた。そのせいなのか、ニフィの声はよく聞こえないことがあり、エミリは何度か会話を聞き返すことがあった。

ニフィはやがて今のエミリがどこにいるのかと聞いて来た。ニフィはエミリが居場所を答えると今からそちらに行くと答えた。理由は文化祭に必要な道具を買い集めたり前々から約束していたお揃いの手袋を買ったりするためである。エミリはそれを了解して書店をニフィとの待ち合わせ場所にした。

エミリは通話を終えると先程にいた書店に戻って行った。このショッピング・モールまではニフィの家からだと電車に乗って早くとも40分以上はかかる。そのことは知っていたので、エミリはあまり自分が動かないですむだけではなくて雑誌などを立ち読みして時間をつぶすことができるためにここを待ち合わせ場所に選んだのである。しかし、エミリの予想は大きく外れることになった。

ニフィはなんと通話を終えてからわずか5分でエミリの元に到着をした。とはいっても、エミリは新たな交通網ができてニフィの家とこのショッピング・モールがより早く行き来できるようになったとか、あるいはニフィがこの近くに引っ越しをしたなどという話を聞いてはいない。 

そんな話は実際にも断じて存在しないし、エミリはさっき自分のスマホのディスプレーにニフィの家の電話番号が表示されたことを間違いなく確認した。されど、ニフィは自宅だと偽ってこの近くの家をエミリに登録させてそこから電話をしてきたという可能性はない。なぜなら、エミリは以前にニフィがスマホの電源を切っていた時にニフィの自宅にも電話してみたら、電話には聞き覚えのあるニフィの母親が出たからである。

エミリは間違いなくニフィと話をしていたのである。ニフィとニフィの妹は双子でもないし、声は似ていないので、エミリはそのような間違いを決してしてはいない。エミリとニフィはそもそも約20分も話していたので、ニフィの妹はエミリと話題を合わせることには少々の無理がある。

それではどのようにしてエミリの親友であるニフィは40分以上もかかる道程を5分に短縮してこのショッピング・モールまで現れることができたのだろうか。


 話にはまた雑誌が出てきたなとヤツデは思った。ヤツデはよく下らないことを考えるのである。とはいったものの、それはたぶん問題とはなんら関係はないだろうと確信をした。事実は明かしてしまえばそのとおりである。ヤツデは相も変わらずに最後に問題を読み終わった。

ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はアヤメに促されて問題に取り組むことになった。延長はできるが、考えるための所要時間は5分間である。その間はちなみに添乗員を兼任する『愛の伝道師』のアヤメはヤツデとサフィニアとジェラシックのスコアをつけている。

 サフィニアは真剣に取り組んでいるし、それはジェラシックも同じだが、ジェラシックの場合は雑音を完全にシャット・アウトしているから、ジェラシックはとても険しい顔をしている。

 ヤツデはそのことに気づいた。ヤツデは中々自分の世界に入り込めない注意力の散漫なのである。結局のところ、ヤツデはそのせいで迂闊にもタイム・アップになっても最後まで答えに辿り着けなかった。

そのため、ヤツデはアヤメに対して時間の延長を頼んで三分間のボーナス・タイムを頂戴することになってしまった。という訳なので、ジェラシックとサフィニアは待たされることになった。しかし、サフィニアとジェラシックの性格はやさしいので、サフィニアとジェラシックは不快感を抱くようなことはなかった。やがてはボーナス・タイムも終了した。今度はヤツデも納得の行くまで考えることができた。

「はーい。それでは問題を解けた方はいらっしゃいますかー?」アヤメは聞いた。ヤツデだけはすると挙手をした。これでは差し出がましいので、ヤツデは少し申し訳なく思った。

「はい」サフィニアは口を挟んだ。「これはたぶん間違っていると思うんですけど、私はさっきみたいにして発言をしてもいいですか?」サフィニアは聞いた。アヤメはもちろん了解をした。

「あの」サフィニアは改めて発言をした。「家の電話には親機と子機があるじゃないですか。例えば、ニフィちゃんはスマホが壊れているからとかの理由で子機を持って歩いていたっていうのはどうですか? あ、私はもしかして正解をしちゃいましたか?」サフィニアは悪びれている。だが、サフィニアは誇らしげである。

「すみませーん。残念ながら、不正解でーす。ニフィちゃんは40分以上もかかる道を5分できたということはようするに家から電車で35分以上かかるところにいたということですよねー。となると、親機の電波は子機に届かなくなってしまいますねー。ですが、サフィニアさんはどんどんとお考えを出して下さって構いませんよー。サフィニアさんにはまだなにかしらのお考えはありますかー?」アヤメは聞いた。

「はい。一応の考えはあります。ニフィちゃんはICレコーダーをセットしていたんです。いえ。私はやっぱりなんでもないです。エミリちゃんとニフィちゃんはだって20分も話をしていたんですものね。ニフィちゃんは20分もICレコーダーでエミリちゃんと会話をするなんてさすがに無理ですよね。忘れて下さい」サフィニアは途中で挫折をした。今回ばかりはサフィニアも赤面をしている。

「いや。ぼくの考えよりはましですよ。ぼくの考えた答えは『ニフィちゃんはテレポートしたんのではないだろうか』というものです。この答えはどうです?」ジェラシックはしたり顔である。

「それは現代ではなくてSFの世界での話なので、残念ながら、不正解でーす」アヤメは一笑に付した。ジェラシックはとにかくサフィニアのことをフォローしてあげたのである。無論と言うべきか、その後は『愛の伝道師』のヤツデもサフィニアを庇うことになる。実はまだサフィニアにはしゃべりたいことがあったが、それは無駄話になりそうなので、その話は止めておいた。一応は明かしておくと、例えば、ニフィは電話を受けてからすぐにショッピング・モールに向かっていたという可能性を考えたのである。

しかし、ニフィは家の電話を使っているのだから、そんなことは机上の空論である。よしんば、そうだったとしても、ニフィの家からは片道で40分もかかるのなら、エミリとニフィは電話をしていた20分を移動時間に含めたとしても15分の時間が足りなくなってしまうのである。

 それはさておきヤツデは一人で謎を解くことになった。ところが、ヤツデは人前で長々としゃべることには慣れていないので、いくらかはここでは奮発をしなければならない。

 今秋はコニャック村というところでもなんとヤツデを含めずに12人の前でトークをするという大立ち回りをしたのだが、ヤツデは実を言うとあの時も冷や汗を流していたのである。そのため、ヤツデはできるだけ今回も手短に話をすませることにしようと密かに決心をしている。

「それではヤツデさんは説明をお願いしまーす」アヤメは促した。ヤツデは話を切り出した。

「はい。わかりました。まず、ぼくは謎を解く際には『白と黒の推理』っていう自分で考えたやり方を使っているんです」ヤツデはそう言うと『白と黒の推理』の説明をさせてもらうことにした。

『白の推理』とは簡単に言うと物事を信じることである。一方の『黒の推理』とは簡単に言うと物事を疑うことである。『白と黒の推理』の味噌は一つの物事を二つのパターンにわけて考えるところである。

「へえ。それはすごいですね。『白と黒の推理』は確かに使いこなしさえすれば強力な武器になりそうですもんね。武器は不器用な人には使えませんが、まあ、それは置いておくとしてヤツデさんは今日のためにそれを生み出したのですか?」ジェラシックは説明を聞き終えると冗談交じりに質問をした。

「ううん。それは違うよ。ぼくは推理小説を読んでいて思いついただけだから『白と黒の推理』は元々考えていたものだよ。とはいっても『白と黒の推理』はまだ自家の薬籠中のものと言えるかどうかの自信はないんだけどね。ああ。すみません。ぼくは説明に入ります。ぼくはまず『黒の推理』を使いました。ぼくはどこを疑ったのかというと、エミリちゃんは電話をしていてニフィちゃんの声が聞き取りづらかったという点です。問題ではニフィちゃんが聞いているラジオの音楽のせいで聞こえづらかったのかもしれないと書いてありますが、これは多少ですが、普通は電話をしながらラジオを聴いているという事実は不自然です。まあ、ニフィちゃんにとっては大好きな音楽が流れていたのだとしたら、それは別に不自然でもなんでもありませんけれどもね。ですが、ぼくは『黒の推理』を使っています。ですから、ぼくはニフィちゃんの声がエミリちゃんに聞こえづらかったのにはなにかしらの理由があると考えました。ぼくはもう一つ『白の推理』も使いました。ニフィちゃんは超特急でショッピング・モールに来たのではなくて最初からショッピング・モールにいたか、あるいはその近くにいたと信じたんです。ですが、そうすると、ここでは矛盾が生じます。電話はニフィちゃんの家からかかってきているのにも関わらず、ニフィちゃんは実際には電車でも40分くらいかかるほどの遠くにいるからです。ただし、それはトリックを使えば簡単に解消できる矛盾です。まあ、これはトリックと言うほどに大げさなものではないかもしれませんが、ここでは通話中のニフィちゃんの声が聞こえづらかったことを思い出して下さい。声は聞こえづらくてなおかつ本人はその場にはいないのです。となると、ここでは考えられる可能性は一つです。妹は問題文にも登場していたので、仮に、ここでは妹を登場させますが、まず、ニフィちゃんの妹は家の電話の送話口を自分のスマホの受話口に当てました。家の電話はエミリちゃんに繋ぎました。妹のスマホはニフィちゃんのスマホに繋いでいたんです。つまり、ニフィちゃんは二台の電話を中継ぎにしてエミリちゃんと話をしていたことになります。だから、ニフィちゃんの声はエミリちゃんに聞こえづらかったという訳です。それから、もう一つはたぶんラジオを聴いていたのはニフィちゃんではなくてニフィちゃんの妹だったと考えるのが妥当ではないかと思います。まあ、このお話はフィクションですから、ぼくは深く考える必要はないのかもしれませんが、ニフィちゃんはエミリちゃんが問題のショッピング・モールにお出かけすることを知っていて悪戯を思いついたのかもしれませんね。ニフィちゃんはとにかく瞬間移動したのではなくてエミリちゃんのスマホとニフィちゃんのスマホとニフィちゃんの家電とニフィちゃんの妹のスマホと電話を計4台も使っていたんです。だから、ニフィちゃんは自宅の家の電話を使って別の場所から通話をすることができたんです。さっきのサフィニアはICレコーダーを使ったって言っていたけど、そのためには家にニフィちゃん以外の人間が必要になるよね。だから、サフィニアは実を言うとかなり鋭いところをついていたんだよ。サフィニアは決して恥じることはないよ。でも、ぼくは偉そうなことを言っちゃったけど、正解はしているのかな?どうですか?」ヤツデは聞いた。一旦は冷静になると、ヤツデは不安そうになった。

「はーい。大正解ですよー。これは私自身もちょっと難しい問題だなって思っていたんですが、ヤツデさんのひらめきには驚かされちゃいましたー。気は早いですが、ヤツデさんはこれからも全問正解を狙ってがんばって下さいねー」アヤメはエールを送った。ヤツデは一応の返事をした。

「はい。がんばります」ヤツデは言った。しかし、ヤツデは内心ではどうせ無理だろうなと思っている。とはいっても、アヤメはせっかく応援をしてくれたので、ヤツデはその思いを汲んであえて反論をしなかった。ジェラシックはそもそもそのことを羨ましそうにしていたから、ヤツデはなおさらである。

なお、考え始めは『瞬間移動の謎』を解くに当たってヤツデも実に荒唐無稽なものだった。ヤツデは最初に思ったことは電話とは不思議な機械だなというものである。ニフィは公衆電話から通話をしてきていたのではないだろうかとヤツデは考えていた。だが、それなら、ディスプレーには公衆電話と出るはずである。

ディスプレーにはまかり間違ってもニフィの自宅の番号が表示される訳はない。とはいっても、ヤツデは公衆電話から一度も連絡を受けたことがないので、しょせんはそんなことをぼんやりと考えてみたのである。

ヤツデにとってはそもそも公衆電話というものは電話の中でもかなり厳かな代物に分類されている。しかしながら、公衆電話はそんなヤツデでも使ったことがない訳ではない。

言い方はまどろっこしいが、使ったことはようするに一度だけある。それは小学生の時の出来事である。とはいっても、話は出来事というほどに大げさなものではない。

その時はキック・ボードで学区外に出てみたら、ヤツデは迷子になったので、当時は持たされていた窮余の一策とも言うべきテレフォン・カードで公衆電話を使って母に電話をしてみたのである。一度は話に出ているが、ヤツデは電話が嫌いなので、スマホは高校二年生になるまでは持っていなかったのである。

公衆電話はトイワホー国でも携帯電話の出現によって相当に減少はしたが、電話ボックスは完全に撲滅されてはいない。その理由はもちろんスマホを持っていない人もいるからである。しかし、ヤツデにとっては先程の一度の使用が生涯で公衆電話と接する空前絶後の出来事だろうと思っている。

 雑談はさておきヤツデに対してジェラシックとサフィニアは心からの賞辞の言葉を送った。トイワホー国の国民はやはりやさしいので、サフィニアとジェラシックは人の幸福を喜ぶことができるのである。

 褒め言葉はうれしかったが、実は人を褒めることには慣れているが、褒められることには慣れてはいないので、ヤツデは人と繋がっているということはいいことだなと思いながらも照れてしまった。ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はアヤメに連れられて次の難関に立ち向かうことになった。ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人は今では随分とリラックスしてきているので、アヤメは一安心できている。


 という訳なので、ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はアヤメに連れられてショッピング・モールを退散した。ジェラシックは歩きながら皆に対して披露するためのダジャレを考えている。

なにしろ、ジェラシック例え陛下にでも馴れ馴れしくしてしまうほどに人懐っこい人物なのである。そのジェラシックというフレンドリーな男は思ったことをすぐに口にすることができるのである。

 もっとも、ジェラシックよりはサフィニアの方が思ったことをズバズバと言う点では一枚上手である。ただし、今回はサフィニアも会ったばかりのヤツデやアヤメやジェラシックに対してちゃんと控えめな態度を取ってはいる。アヤメは明るい性格をしているので、この場では陰りのある人物はヤツデだけである。

「皆さんはちょっと聞いてくれますか?この『仲良しトラベル』は個人戦ではなくて団体戦と考えるのはどうですか?」ジェラシックはダジャレよりもいいことを思いついた。

「なるほど。私達は皆で10問の全問正解を狙うのね。ジェラシックくんはいいことを言うじゃない。それこそは真の『仲良しトラベル』よね。まあ、ヤツデくんは一人で全問に正解しちゃいそうだけど、私はだってまだ一問も謎を解いていないし」サフィニアはなにやらしんみりとしてしまった。

「あの」ヤツデは言った。「ごめんね。でも、ぼくはサフィニアの正解する時が楽しみだから、サフィニアは落ち込まないでね。そうだ。それじゃあ、チーム名は何にしようか?チーム名は『妖怪になにか用かい?』なんてどうかな?」ヤツデは聞いた。ヤツデはヤツデなりにサフィニアに対して気を遣ったのである。

「それはチーム名ですか?」ジェラシックは疑問を呈した。「でも、ヤツデさんはおもしろいことをおっしゃいますね。皆さんはとにかくぼくに感化されてダジャレを好きになるのなら、ぼくはとてもうれしいです」ジェラシックは明朗闊達である。しかし、ヤツデは少しブルーになっている。

ヤツデはやはり陰りのある性格をしているのである。サフィニアは自分ばっかりが正解したせいで気を悪くしたのではないかとヤツデは心配をしているのである。ヤツデは神経質すぎるのである。サフィニアはやがて『ヤツデはがっくりきている』ということにそれに気づくとご機嫌斜めな口調で言った。

「私はやっぱりヤツデくんとは頭の出来が違うのね。私はエリートみたいな人はあんまり好きじゃないんだけどな。あれ?ごめんね。今のセリフは冗談だから、ヤツデくんは泣かないでよ」サフィニアは心配をした。ヤツデは気が小さいので、現在はまるで1000件の資金カンパを募ったが、それは報われずに全てから拒絶されてしまったかのようなショックを受けてしまったのである。ヤツデはあまりにも大げさである。

「ヤツデさんは自分の思うままに行動してもいいんですよー。サフィニアさんはヤツデさんのことをからかっているだけですもんねー。ですから、本当は仲良しなんですよねー」アヤメは元気を出すようにと促した。サフィニアは軽い冗談を言っているだけだと思っていたが、ヤツデは俯いてしまったからである。

「そうよ。私は謙虚な人は好きだもの。ことわざでは実るほどに頭の下がる稲穂かなって言うものね。ヤツデくんは元気を出してよ」サフィニアは一転して励ました。今度のヤツデはすると強がって見せた。

「うん」ヤツデは言った。「ぼくは元気だよ。ぼくは落ち込んでないから、サフィニアはなんの心配もいらないよ。ジェラシックくんの提案は頓挫をしちゃっていたね。ぼくたちのチーム名は何にしようか?チーム名は例えば『ダジェレ・キングダム』なんていうのはどうかな?」ヤツデは思いつきを口にした。

「それはいいですね。ですが、それではリーダーはまるでぼくみたいですよ。リーダーはヤツデさんとサフィニアさんです。ぼくはリーダーの器ではありません。チーム名は『七日なのか?』なんてね。結局のところ、ぼくはダジャレを言いたいだけです。ははは」ジェラシックは一人で勝手に楽しそうである。

 ジェラシックはチーム名を決めるというジェラシックの提案が中途半端になってがっかりしているとヤツデは思っていたが、ところがどっこいである。ジェラシックはそんな陰気な性格ではないのである。

 サフィニアはともかくとしてもヤツデのことも一緒にジェラシックはリーダーに含めていたが、ヤツデは自分にリーダー・シップがあるなんて一度も思ったことはないのである。

 ジェラシックはやがて皆の頭文字を取って、『YSJ』というチーム名を提案し、ヤツデとサフィニアはそれに賛同をした。それにより、ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人の間にはより一層の一体感が生まれた。だから、これから先のヤツデはこの仲間意識に救われることになる。

 とはいっても、ヤツデとサフィニアとジェラシックはトイワホー国の国民なのだから、傾蓋は故の如し関係が元々気持ちの上では築かれていたのである。それはもちろんアヤメも含めての話である。これは予想していたこととはいっても、皆の雰囲気は改めて和やかなものになったので、アヤメは心がほっこりしてきた。

「ところで」ヤツデは言った。「ぼくは『愛の伝道師』をしているけど、サフィニアとジェラシックくんはどんなお仕事をしているの?」ヤツデは興味本位で聞いた。話はちょうど途切れていたからである。

「私は大学で服飾を学んだから、今はファッション・デザイナーをしているの。いつかは自分でもお店を開けたらいいなって思っているけど、今はアクセサリー・ショップで委託販売をさせてもらっているの」サフィニアは平素の口調で夢を語った。ヤツデはそれを受けて素直に感心をした。ファッション・デザイナーというのはファッション・ショーに出展するだけが仕事ではない。

サフィニアは企業専属のアパレル・デザイナーに対してインディーズのデザイナーである。また、サフィニアはデザイン画を描くが、自分ではあまり裁縫をしないのである。

「へえ」ジェラシックは相槌を打った。「お店には実際にサフィニアさんのデザインした服が並んでいるんですか。それは大したものですね。ぼくとはやはりスケールが違うみたいですね。スケールと言えば、芸は身を助けーるっていう感じですか。うん。うまい」ジェラシック言った。サフィニアはつっこみを入れた。

「って、ジェラシックくんはなんで自画自賛をしているのよ。でも、私はまだまだよ。これからはネット・ショップっていうインターネットを利用した販売もできたらいいなって思っているの。ジェラシックくんはなにをしているの?まさかとは思うけど、職は『ダジャレの研究家です」なんて言い出さないでよ」

「ぼくとしてはそんな職業があればいいですけど、ぼくの話はサフィニアさんの話を聞いたあとだと情けなく思えますよ。ぼくはいわゆるフリー・アルバイターというやつです」ジェラシックは言った。

「そうなんだ。それは気楽でいいね。ぼくは『愛の伝道師』になれなければフリーターになる予定だったんだよ。ぼくはジェラシックくんの同業者に慣れなくて少し残念だね」ヤツデはおちゃらけた。

 とはいっても、ヤツデはもちろんジェラシックをバカにしているのではないのである。ヤツデは自分もなる可能性があったのだから、バカにはできないが、フリーターはちゃんと仕事をしているのだから、そのことは他人からとやかく言われる筋合いはない。そのため、サフィニアとアヤメは当然の如くジェラシックに対して偏見を持つようなことはしなかった。これはトイワホー国の国民の共通項である。

「ジェラシックくんは具体的にどんなお仕事をされているのですかー?」アヤメは聞いた。

「ぼくはCDとBDのレンタル店の店員をしています。まあ、一応は好きなことをできているので、ぼくには特別な不満はないのですが、店長からはがんばれば正社員にしてもらえるかもしれないって発破をかけられているんです」ジェラシックは相も変わらずにご機嫌が麗しいままである。

 現在のトイワホー国ではDVDではなくてブルーレイ・ディスクが主流である。ここでは念のために付加しておくと、ブルーレイはDVDよりも画質や容量の点で優れているのである。

「ジェラシックくんは音楽を聴くのも大好きなんですねー。だから、ジェラシックくんは歌を歌うのも好きなんですよねー。ジェラシックくんはひょっとしてのど自慢大会になんかにも出場したりするんですかー?」アヤメは聞いた。ジェラシックはするととんでもないことを口にすることになった。

「はい。バレましたか。ぼくは実を言うと音楽大学に在校していた時に歌の全国大会でノース大陸の代表に選ばれたこともあるんです。そうだ。ここには新しいものがあったらしい。ぼくはこのダジャレを気に入っているんです。このダジャレは中々いいですよね?」ジェラシックは能天気なことを言っている。

「ちょっと待った」サフィニアは言った。「ジェラシックくんはダジャレよりもよっぽど重要なことを言っていたじゃない。ジェラシックくんはひょっとしてひょっとしなくても歌がうまいの?」サフィニアはズバリと聞いた。そのため、ジェラシックはもう少し詳しく話をした。実はジェラシックにはノース大陸の代表として歌を歌ってなんと全国大会で一位になったという経歴があったのである。

 トイワホー国はダイヤの形をした島国で罰点によって4つの大陸に分断されている。ノース大陸にはポートマスト州とジェラシックの住むパミール州の二つがある。

 サウス大陸にはビャクブの住むピッツバーグ県とコニャック村のあるプリマス県がある。イースト大陸にはヤツデが住んでいてクリーブランド・ホテルもあるポンメルン県がある。

 ウエスト大陸はプスタ県や現在のヤツデたちのいるペトロフスク県二つがある。ノース大陸では州が使われていてそれ以外の大陸では県が使われているのである。

 それはさておきジェラシックの話にはヤツデも驚かされた。しかし、ヤツデはこれを予想していなかった訳ではない。なぜなら、ジェラシックは自己紹介の時に『カラオケは趣味で特技でもある』と言っていたからである。ただし、ヤツデはそれを差し引いてもびっくりさせられてしまったのである。

 ヤツデはしかもすごい人を見ると『自分なんて』という風に落ち込んでしまうのである。そのため、ヤツデはプロ・ゴルファーや高学歴のインテリや演技のうまいアクターといった者たちがわんさかと出てくるテレビがあまり好きになれないのである。ヤツデはようするに偉人ならぬ異人なのである。という訳なので、ヤツデはジェラシックに対しても異常なほどに劣等感を抱いてしまっている。

「でも、ちょっと待ってよ」サフィニアは言った。「歌はそんなにうまいんだったら、ジェラシックくんは歌手を目指せばいいじゃない。オファーとかは来ていないの?」サフィニアは素朴な質問をした。

「オフォーは来ましたよ」ジェラシックは言った。「ですが、ぼくには深い訳があって歌手にはなれないんです」ジェラシックは切実そうにして言った。ヤツデはさすがにそこまでは推理できていない。

「そうなんですかー。まさかとは思いますが、ジェラシックくんは人前に出るとすごく緊張してしまうとかいう理由ですかー。ですが、見たところ、ジェラシックくんにはそんな悩みとは無縁そうですよねー?」アヤメは予想を交えて聞いた。それについてはヤツデも同意見である。

「アヤメさんからはお褒め頂き光栄です。ぼくには作詞と作曲の才能がないんです。それこそは歌手を目指さない唯一の理由です。ぼくはシンガー・ソング・ライターになりたいのにも関わらず、ぼくの頭には曲と詩が全く思い浮かばないんです。ようは深刻な申告です」ジェラシックは割と軽い調子で言った。

「はあ?それって深刻かしら?とりあえずは他の人に曲を作ってもらってその間に自分の才能を伸ばせばいいじゃないの?さっきのジェラシックくんはしかも私の仕事と比べるとスケールが小さいって言っていたけど、この話はそんな次元じゃないじゃない。ていうか、ヤツデくんは代わりに詩を作るから、ジェラシックくんはそれに曲を作ればいいじゃない。この提案はどう?」サフィニアは聞いた。

「なるほど」ジェラシックは頷いた。「まずは作詞と作曲のどちらかの一つだけでやって行く作戦ですか。悪くはないですね。ぼくはヤツデさんのことも気に入っているので、ヤツデさんはぜひともお願いします」ジェラシックは懇願をした。アヤメはヤツデの方を見て苦笑をしている。

「あの」ヤツデは言った。話はとんとん拍子でしかもぼくのいない水面下で進んでいるけど、ここには重大な問題が一つあるよ。ジェラシックくんはともかくぼくに作詞の才能があると思う?ぼくにはそんな才能は絶対にないよ。ぼくはだって前髪に白髪が混じっているもの。これは絶対にアウトだよ。これは野球だったら、ぼくは空振り三振でスリー・アウトでチェンジだよ」ヤツデは悪足掻きをした。

「ふふふ」サフィニアは笑んだ。「話はおもしろいけど、その理屈は意味わからないから、ヤツデくんはそれこそアウトでしょう。でも、それは染めたの?私はかわいいなとは思っていたけど」サフィニアはヤツデのチャーム・ポイントを褒めた。ヤツデはとてもうれしい気持ちになっている。

「ありがとう」ヤツデはお礼を言った。「これは地毛だよ。これは勝手に生えてきたんだよ。そう言えば」

「ヤツデさんはずるいですよ。ヤツデさんは何気なく話題を反らしていますけど、ぼくは一度でも決めたことを変更しない男です。ヤツデさんは詩を書いてくれるって言ったじゃないですか。それに、ぼくはヤツデさんを一目見た時から『この男はただ者じゃないな』って直感していたんです。ヤツデさんなら、ぼくは初めから作品の一端を任せられるって思っていたんです」ジェラシックはなぜなのか情熱を燃やしている。

「いやいや」ヤツデは反論をした。「ぼくは詩を書くなんて言ってないし、その直感は絶対にあとづけされたものだよ。それに、もしも、ぼくは詩を書いても大したものは出来上らないと思うよ。なにしろ、ぼくには詩の才能がないっていう自信があるからね」ヤツデの方はなぜなのか胸を張っている。

「そうですか。自信はなくてもとにかく書く気にはなってくれましたか」ジェラシックは切実な思いを込めて言った。そのため、ジェラシックはどれだけ前向きなんだとヤツデはつっこみを入れたくなったが、それはサフィニアによって遮られることになった。サフィニアは言った。

「これにはジェラシックくんの人生がかかっているんだから、ヤツデくんはファイトだよ。私はちゃんと応援をしているよ。もしも、ヤツデくんは詩を書いてくれなかったら、私はヤツデくんと絶交しちゃうかもしれないよ」サフィニアはヤツデを子供扱いしてもはやからかっている。

「えー」ヤツデは言った。「それは寂しいね。まあ、期限は決められていないから、いつかはその内に書くことにするよ。そしたら、ジェラシックくんは本当にそれを採用してくれるの?」ヤツデは聞いた。

「もちろんです」ジェラシックは本気である。ヤツデには許可をもらって少しくらいアレンジはするかもしれないが、ジェラシックは本当にヤツデの繊細さとやさしさに惚れ込んでいるのである。

 ただし、サフィニアは冗談半分で言っている。サフィニアは早くもヤツデをからかうとおもしろいということに気づいたからである。ただし、これはいじめではないので、そこは要注意である。

 当のヤツデは本当に気が向いたら、いつかは詩を作るつもりである。しかし、ヤツデは本当にジェラシックのデビュー曲を作ることになるとは思っていないし、本心はあくまでも戯れのつもりである。

「私とジェラシックくんは少し話をしたから、今度はヤツデくんのお仕事について教えてよ。最近のヤツデくんはどんなお仕事をしたの?ヤツデくんはアヤメさんみたいにして『仲良しトラベル』の添乗員もやったりするの?」サフィニアは問いかけた。それについてはジェラシックも興味津々である。

「添乗員はしないよ。ぼくにはだってリーダー・シップはないものね。最近は『お悩みアドバイス』できた相談の返答について考えたり単純な質問に答えたりしたよ。それから、ぼくは少し前には留守番を頼まれたこともあったよ。初めはただ家にいるだけでいいのなら、これは楽チンな仕事だと思っていたけど、ぼくはその内にクローゼットから知らないおじさんが飛び出してくるんじゃないかとか、あるいはガラス窓を破って知らない若者が襲撃してくるんじゃないかとかって色々なことを考えちゃってね。最後の方は慣れるどころか、ぼくは落ち着かなかったよ」ヤツデはいけしゃあしゃあと言った。ヤツデは尋常ではないほどに多感すぎるのである。アヤメは黙って歩を進めている。ジェラシックは即座に応じた。

「それはおもしろい」ジェラシックは微笑んだ。「ヤツデさんは疑心暗鬼もいいところですね。ヤツデさんはやはり感性が豊かだから、詩くらいは簡単に書けますよ。ぼくの目には狂いはなかったということですね。これはお世辞ではないので、あしからず、ご了承ください。アシカと言えば、あしからず」

「それにしても、ヤツデくんって想像力が豊かすぎじゃないかしら?普通はそんなことを考えていたら、ヤツデくんは不安で一杯になっちゃうじゃないの?ヤツデくんは意識をしなくても勝手に考えが思い浮かんじゃうのなら、ヤツデくんの前世は電卓か電子辞書だったのかもね」サフィニアは割といい加減なことを言っている。アヤメは相も変わらずに黙して語らずである。ヤツデは真剣に応じた。

「つまり、ぼくは考えすぎっていうことかな?ぼくは確かにいつも下らないことが頭をよぎってばかりいるから、反論はできないかもね」ヤツデは完全に途方に暮れてしまっている。

 察しはつくかもしれないが『愛の伝道師』はまるで『なんでも屋』のような仕事もこなすのである。ヤツデは留守番の他にも老人の話し相手や買い物の代行を経験したことがある。今の時期なら、『愛の伝道師』の仕事には除雪や雪下ろし作業も入っている。『愛の伝道師』はようするに困っている人を助けるのである。

そうすると、本物の『なんでも屋』の仕事はなくなってしまうが『愛の伝道師』は塗装工事やハチの駆除や障子やふすまの張り替えといったようにしていくつかの仕事は本物の便利屋に仕事を回すことになっているのである。しかし、トイワホー国には他国と比べて便利屋が少ないことは事実である。

ヤツデの言っていた『お悩みアドバイス』というのはトイワホー国の国民が年に一回だけ『愛の伝道師』に対してできる人生相談のことであってその他にも日々の生活でわからないことがあれば『愛の伝道師』がその疑問に答えてくれるものである。後者の制度はちなみに『不思議クエスチョン』と呼ばれていている。『不思議クエスチョン』の方には上限は定められていないので、トイワホー国の国民は何度でも質問をすることができる。ヤツデは先程も言っていたようにしてその両方の仕事を請け負っている。

そのため、ヤツデには割と柔軟な発想を求められることもあるという訳である。とはいうものの『愛の伝道師』としてはまだ二年目なので、ヤツデは『お悩みアドバイス』にしろ『不思議クエスチョン』にしろ個人としては比較的に深刻ではない相談を任されている。しかし、ヤツデはだからといって手を抜くことをせずに相談者の身になって親身にその相談に答えるようにしている。ヤツデは何事にも真摯な気持ちで事に当たるのである。ここでは例として二つほど最近のヤツデが受けた『不思議クエスチョン』の質問を紹介してみることにする。一つ目は20代の女性からのものである。骨子はエアロビクスとはなにかという質問で自分もやってみたいのだが、自分はレオタードを着なければならないのかどうかという質問である。

 『愛の伝道師』は『これは下らないな』とか『これくらいは自分で調べればいいのに』というようなことを思ってしまってはいけないのである。なぜなら『愛の伝道師』の仕事は困っている人や当惑している人を助けることだからである。という訳なので、ヤツデはエアロビクスについて検証をしてみることにした。

エアロビクス(エアロビ)とは有酸素運動のことでジョギングやサイクリングやジャズ・ダンスなどといったものも種類として上げることができる。つまり、レオタードは必ずしも着用をしなければならない訳ではないのである。とはいっても、仮に、エアロビはスポーツ・センターでするのだとしても、トイワホー国の施設なら、インストラクターは皆の要望を聞き入れてくれることは間違いのない事実である。そのため、くだんの女性はエアロビに挑戦するとしても怖がる必要は全く以ってないのである。

 ヤツデはなにはともあれ概ね以上のような返答を女性に対して返した。ヤツデはもちろん『不思議クエスチョン』の制度を利用してくれたお礼とぜひ次回も利用してくれるようにと書き記すことも忘れなかった。

 次の相談は30代の男性からのものである。相談内容はマジック・ミラーとはどういう仕組みをしていて何に使うものなのかという実に素朴な質問である。そのため、ヤツデはまた調べ事をした。

 マジック・ミラーとはマジック・ガラスやハーフ・ミラーとも言って明るい側からは鏡に見えるが、マジック・ミラーは暗い側からでは向こうが見えるというものである。マジック・ミラーの仕組みは考える際には重要なことが一つある。それはマジック・ミラーが入射光の一部を反射して一部を透過させる性質を持つということである。自分の部屋の様子は明るい部屋から見ても暗い部屋から透過する弱い光に重なって明るい部屋から反射した強い光が目に届くために鏡のようにしか見えないのである。

 逆に、自分の部屋の様子は暗い部屋から見ると暗い部屋から反射する弱い光に重なって明るい部屋から透過してくる強い光が届くために結果的には明るい部屋の様子が見えるようになるという訳である。

 マジック・ミラーの使い道としては警察の取り調べ室や目を保護するためのサングラスや手品といったものがあげられる。マジック・ミラーはちなみに赤外線を遮断できて断熱性もあるために窓ガラスのシールとして使用されるケースもある。以上はヤツデの調査の結果である。

 ヤツデは『愛の伝道師』になりたいと思った理由は『愛の伝道師』が人にやさしくするために存在する職業だったからである。人付き合いは大してうまくないのにも関わらず、ヤツデはやたらと人に対してやさしくしてあげたいという気力だけは漲っているので『愛の伝道師』はヤツデにとっては天職なのである。


その後のヤツデたちの一行は図書館ライブラリーにやってきた。とはいっても、用事はその中にあるのではなくて恐竜展に入る前の最後の問題が出題されるので、アヤメとヤツデとサフィニアとジェラシックは立ち止ったのである。という訳なので、アヤメはいつものとおりに問題を配布した。ヤツデはこれもまたいつものとおりにオーディエンスのような心持ちである。やる気はあるが、ヤツデには自信はないのである。

「それじゃあ、ヤツデくんは今回も一緒にがんばろうね。」サフィニアはファイトを与えた。

そのため、ヤツデは再び心を読まれたのかと思ったが、それは違っている。ヤツデはまるで子供みたいな性格をしているので、サフィニアは本物の子供みたいにしてヤツデを認知しているのである。ある意味ではサフィニアの母性本能がそうさせている。サフィニアはとにかく母親のような視点でヤツデを応援しているのである。ヤツデはまだそれには気づいていない。一方のジェラシックはいつものとおりに問題を読むことになると顔つきが変わっている。ジェラシックはオンとオフの切り替えが人並み外れて上手なのである。

それはのちに確実に証明されることになる。やがては全員がアヤメから問題を手渡されると、ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人は各々に書類の三ページ目に目を通すことになった。今回は図書館に関する問題である。タイトルは『殴打の謎』である。以下はその文面である。


 私はこの図書館のレファレンスで『応急手当の本はありますか?』と聞いた。つい先日のことである。三歳の息子は転んでしまって足をすりむいてしまったという事件があった。

 しかし、私はその時に恥ずかしながら対処に困ってしまった。そのため、私は包帯やガーゼの正しい使い方が学べたらいいなと思ってこの図書館にやってきた次第である。

 ギンリュウという名の老人はすると図書館の方が答える前に助け舟を出してくれた。この男性は私と同じで単なる図書館の利用者である。もっとも、私は彼の名を知ったのはもう少しあとの話である。

 ギンリュウさんは応急手当の本のコーナーを知っていたようなので、彼は私をそこまで案内してくれた。私はその結果としてよさそうな本を見つけることができたので、ギンリュウさんには厚くお礼を言った。

 ギンリュウさんとの出会いはこれが初めてだが、まさか、ギンリュウさんとは再び出会うことになるとは思いもしていなかったし、この時の私は当然のことながら不可解な謎に直面することになるとも思ってはいなかった。私とギンリュウさんの二度目の再開はディスカウント・ストアだった。私は妻と息子と一緒に来ていたのだが、その妻子は100パンダ・ショップへと行っていた。私は靴を見たかったので、妻子とはたまたま別行動をしていた。ギンリュウさんはその靴屋にふらっと現れたのである。

 私とギンリュウさんは当然のことながらこの偶然にとても驚いた。ギンリュウさんは『かみさんのサンダルを買いに来た』と言ったが、実は私も妻にブーツを買ってプレゼントしようと思っていたので、私はその偶然に対しても驚いてしまった。ギンリュウさんはというとそのことを知ると驚いた様子だった。

 ギンリュウさんはトイワホー国の国民らしくとても友好的でここから少し離れたフィルム・ライブラリーによく行くことや最近は洗濯機の調子のよくないことを話してくれた。

 そのため、私はというと最近はよくテレビのクイズ番組を見ることが好きなのだということを話してみることにした。ギンリュウさんはすると目をギラリと光らせて『それでは自分の体験した不可解な問題について聞いてくれるか?』と聞いてきた。特には断る理由はないので、私はもちろんそれを了解した。

 だから、ギンリュウさんは私に対して謎めいたクイズを出題してくれた。私はそれを心して聞かせてもらうことにした。これはギンリュウさんが37歳だった時の話である。


 当時のギンリュウさんは肉体労働者ブルー・カラーをしていたという。ギンリュウさんはその日もキャット・ウォークで作事の仕事に従事し、現在は帰宅したところである。

ギンリュウさんは仕事から自宅のあるマンションに帰宅すると妻と一緒にテレビ・ドラマを見ながらしこたまお酒を飲んだ。ギンリュウさんは案外と上戸なのだそうである。

ところが、自分では確かにほろ酔い気分でいたはずなのにも関わらず、実際のギンリュウさんは千鳥足になってしまっていたので、とりあえずはベランダに出て少し酔いざましをすることにした。これは珍しいことみたいである。ギンリュウさんはベランダへと出ると真向かいにある三階の棟のベランダでも二人の女性が外に出ているところを発見した。その時の酔漢のギンリュウさんにはわからなかったが、その二人の女性とはあとになって嫁と姑であることがわかったそうである。ギンリュウさんはよく見てみると、声は聞こえないが、その二人の女性(嫁と姑)はなにやら口論をしているようである。

それでも、しばらくはギンリュウさんが高みの見物を決め込んでいると酔いが一気に冷めるような事態が起こった。ネグリジェ姿の女性(嫁の方)はなんと姑の頭を目がけて傍にあったレンガで強かに殴りつけたのである。あろうことか、嫁はしかも一切の手加減もなしで力一杯である。

姑の方はやがてくず折れてギンリュウさんの視界から消えた。ギンリュウさんは急いで部屋に転がり込むとショールをかけた妻に事情を話してすぐに電話に飛びついて警察と消防の番号をプッシュした。ギンリュウさんはもちろん気が動転しているとは言っても順番に警察と消防を呼んだのである。

という訳なので、パトカーと救急車はやがてサイレンを鳴らして到着をした。ギンリュウさんは自分もその現場に立ち会うことにした。ギンリュウさんには少々おせっかいなところもあるそうである。

しかし、ギンリュウさんは驚愕の事実を聞かされることになった。殴られたはずの姑はなんとたんこぶの一つもできていなかったのである。というか、姑はむしろぴんぴんしているというのである。

ただし、ギンリュウさんはいくら酔っていたからといってさっき見た光景は幻覚でもなければ妄想でもないことはたしかです。それではなぜ殴られた姑は無事だったのであろうか?あなたにはこの謎は解けますか?

この謎はちなみに私には解けませんでした。実はクイズ番組をよく見るといっても、私の正解率は散々なものだからです。しかし、私は弁解をするなら、この謎は私の妻にもわかりませんでした。

私はクイズが苦手という事情もあるので、皆さんには必要ないかもしれませんが、私からは一つ特別にヒントをお教えします。実は、あの嫁と姑は大の仲良しなのです。答えはこれでわかってしまいましたか?


 ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はやがて問題を読み終えると、アヤメは5分間のシンキング・タイムを宣告した。しかし、ジェラシックにはその必要はなかった。なぜなら、ジェラシックには文章を読んでいる途中ですでに答えはわかってしまっていたからである。ただし、ヤツデとサフィニアは熟考中である。

 ところが、サフィニアは手も足も出ない状態である。という訳なので、今回は解答がわかったのはヤツデとジェラシックだけだった。ヤツデはまた『白と黒の推理』を駆使したのである。

ヤツデはサフィニアからの恨めしげな視線に気づいたので、現在はアヤメによって聞かれて挙手をしていた手をそれとなく下ろそうとしたが、そんなことをすれば、サフィニアからはまた難癖をつけられそうだったので、それはさすがに自粛をしておいた。サフィニアはもちろんふざけているだけである。

「はーい。それではヤツデさんとジェラシックくんはどちらが答えを言いたいですかー?」アヤメは敏活な口調で聞いた。サフィニアはもちろん完全に成り行き任せである。

「この問題は答えを言ったら、解説はいらなくなるかもしれないけど、ぼくはどっちでもいいよ。いや。少しはうまい答え方を考えついたよ。ぼく」ヤツデは言った。ジェラシックはその言葉に従った。

「それではヤツデさんは答えをお願いします」ジェラシックは懇願をした。

「うん。つまり、ぼくは答えを言わせてもらうとギンリュウさんの見た光景は偽物だったんです」ヤツデはそう言うとマナー・モードにしている自分のスマホがバイブレーションして着信を伝えていることにふと気がついた。しかし、ヤツデは構わずにアヤメの判断を仰ぐことにした。サフィニアには意味がわかっていない。

「はーい。ヤツデさんは正解でーす。ヤツデさんは遠回しな言い方ですが、ヤツデさんの考えていらっしゃることはたぶん答えと一致していると思いますよー。それではジェラシックくんには解説をしてもらってもよろしいですかー?」アヤメは聞いた。ジェラシックは少し気取った感じで鷹揚に返事をした。

「へい」ジェラシックは返事をした。「ヤツデさんは先程に『ギンリュウさんの見た光景は偽物だ』とおっしゃっていましたが、正確には半分が偽物で半分は本物です。なぜなら、ギンリュウさんは酔っぱらっていたとはいっても本当に人が殴られるところを見ていたんですからね。この事実は揺るぎないと思います。それではレンガで殴られて無事である可能性はなにかあるでしょうか?可能性は一つだけあります。ここではヒントも役に立てるとすれば、嫁は姑を本気で殴らなかったということになります」ジェラシックは断定をした。

「はい」サフィニアは口を挟んだ。「質問です。それは変じゃないかしら?嫁はだって力一杯に殴っているのよ。姑は現に頽れているのよ。嫁は本気で殴っているじゃない」サフィニアはこの上なく最もな疑問を口にした。ヤツデとアヤメはジェラシックの次の出方を窺っている。ジェラシックは余裕である。

「それは確かにそうですね。ですから、話にはまだ続きがあります。嫁は殴ったけど、それは本気ではなかった。この言葉には力を入れなかったという意味の他にも受け取れることができます。つまり、レンガはレンガの形をした発泡スチロールだったんです。ここでのレンガとはもちろん嫁の凶器にしたレンガのことです。だから、ヤツデさんは『ギンリュウさんの見た光景は偽物だった』とおっしゃったんです。そういうことですよね?」ジェラシックはヤツデに対して確認をした。ジェラシックには一応の自信はある。

「うん。そうだよ。ぼくはもっと言うとヒントにもあるようにして嫁と姑は仲良しだから、姑は本当に殴られたかのように演技をして二人でじゃれあっていたと考えることが妥当だね。ああ。ぼくはジェラシックくんの代わりにしゃべっちゃったね。ごめんね」ヤツデはとても申し訳なさそうである。

「いや。それくらいはいいですよ。しかし、今回は中々に骨のある問題でしたね」ジェラシックは偉そうなことを言っている。ジェラシックは完全に一仕事を終えたあとの充実感に満ちている。ただし、今のジェラシックのセリフは完全なるインチキであるということはのちに判明することになる。

 サフィニアは念のためにアヤメに対してヤツデとジェラシックの答えは合っているかを聞いたが、答えはやはり合っていた。そのため、サフィニアは素直に喜んだ。自分たちは『YSJ』というチームだから、サフィニアは喜んだのである。しかし、サフィニアは願わくば自分も早く問題に正解したいなと思っている。

 その頃のヤツデはチームとして正解をしたら、自分たちはハイ・タッチでもするのではないかとびくびくとしていたが、そんなことはなかった。実は皆がワイワイやっていると静かにしていたいが、ヤツデは皆が静かにしていると無性にしゃべりたくなるというおかしな性質を持っているのである。ヤツデはようするにやはりとことんアウト・サイダーな人間だということである。

「はーい」アヤメは言った。「それでは早速に次の目的地に行きましょうねー。次はいよいよ恐竜展ですよー。皆さんは楽しみにしていて下さいねー」アヤメはそう言うとヤツデとサフィニアとジェラシックの三人を引き連れて歩き出した。その際には先程にスマホには着信があったので、ジャンバーのポケットのファスナーを開けてヤツデはスマホを取り出した。サフィニアとジェラシックはその間も話を交わしている。

サフィニアとジェラシックは結構なおしゃべりなのである。そのため、サフィニアとジェラシックはよく話題を見つけるなとヤツデは感心をしている。それはともかくとしてやがてヤツデが着信履歴を見ると電話をしてくれたのはビャクブであることが判明した。ヤツデはアヤメに対して話しかけた。

「すみません」ヤツデは言った。「ぼくは少しだけ電話をしてもよろしいですか?用件はたぶんすぐにすむと思います」ヤツデはまるで媚びるようにして恐縮をしながら低姿勢で聞いた。

「それくらいはもちろんいいですよー。恐竜展までは少し歩きますので、通話はごゆっくりどうぞー」アヤメは返事をした。アヤメはやはり寛容である。ヤツデはアヤメのやさしさに感銘を受けた。

「ありがとうございます」ヤツデはそう言うとアヤメとサフィニアとジェラシックの三人の最もうしろを歩いてビャクブに対して電話をかけた。ビャクブはすると呼出音の5回目で電話に出てた。

「もしもし」ビャクブは言った。ヤツデは忙しいのにも関わらず、おれは電話なんかしてごめん。今は話をしていてもいいのかい?」ビャクブは気遣いを見せた。とりあえず、ヤツデはビャクブを安心させた。

「うん。今はいいんだよ。ビャクブは電話をくれてありがとう。ビャクブはなにをしていたの?今のぼくは歩いて恐竜展に向かっているんだよ」ヤツデは近況報告をした。ビャクブは応じた。

「そうなのか。おれは家で旅行の荷物の最終確認をしていたよ。おれの方はもうすぐで出発をする予定だからな。おれは作業をしながら最近のトイワホー国ではタイム・レコーダーのない会社が増えているってテレビでやっているのを見ていたんだよ。それは会社が社員を信用しているからって、いや。今は無駄口を叩いている場合じゃないな。時に、ヤツデは皆と仲良くなれたのかい?」ビャクブは聞いた。

ビャクブの性格はやさしいので、ビャクブはヤツデのことを心配して電話をかけてくれていたのである。もしも、ヤツデは他の人たちとうまくいっていないのなら、ビャクブは自分も一緒になってヤツデの問題に立ち向かってくれようとしているのである。ビャクブとは阿吽の呼吸のヤツデはそれに気づいている。

「うん。ぼくの独りよがりでなければ、仲良くはなれたよ。まあ、でも、それについてはあとで話を聞いてくれる?」ヤツデは聞いた。ヤツデはビャクブに対して話をすることが大好きなのである。

「ああ。もちろんだよ。おれはヤツデの話を楽しみにしているよ。そうか。ヤツデはやっぱりうまく行っているのか。ヤツデは平気そうだから、おれは安心をしたよ。トイワホー国の国民はやさしいものな。それで?ミステリー・ツアーの問題の方はどうだい?ヤツデなら、全問正解は間違いないと思うけど」ビャクブは期待を込めて聞いた。ビャクブはヤツデの推理力の高さを知っている。ヤツデはそれに対して謙虚に応えた。

「ビャクブは嫌にぼくのことを過大評価しているね。ぼくは間抜けだから、いずれは必ずどこかでとちることにはなると思うよ。まあ、傍にはビャクブがいてくれたら、ぼくは限界まで潜在能力を引き出せるかもしれないけどね」ヤツデはビャクブに対して絶対的な信頼感を抱いているのである。

「おいおい」ビャクブは言った。「おれのことはヤツデだって過大評価をしているじゃないか。おれにはヤツデのポテンシャルなんて引き出せる自信はないよ。おれの引き出せるものはなけなしの貯金くらいだよ。今のギャグはおもしろくなかったな。それより、今のヤツデはどこかでとちるって言ったな、ということはここまでのヤツデは全問正解なんだな?ヤツデの推理力のすごさは知っているから、おれは驚かないけど、ヤツデはやっぱりさすがだな。おれは感心をするよ」今のビャクブはお世辞ではなくて心から敬服をしている。

「ぼくはまだ三問しかやっていないよ。問題はこれからが大変なんだよ。だけど、ビャクブはカラタチさんみたいにしてぼくのことを応援してくれたら、ぼくはうれしいな」ヤツデは平素の口調で言った。

「ああ。おれはヤツデを応援するよ。もしも、これはクイズ・ダービーだったら、おれは間違いなくヤツデに賭けるよ。ヤツデはオッズが高そうだけどな。大丈夫だよ。いつものとおりにやれば、ヤツデは問題に答えられるよ」ビャクブはカラタチと同じようにしてやさしくエールを送った。

「おっと」ビャクブは言った。「おれはあんまりプレッシャーをかけるのはよくないな。ごめん。まあ、ヤツデは別に命を取られる訳じゃないから、問題は楽にやればいいよ。まあ、ヤツデなら、そんなことは言われなくてもわかっているかもしれないけど」ビャクブはヤツデのことを思いやった。

「ううん。ぼくはビャクブのおかげで気が楽になったよ。ありがとう。ビャクブはいつでもやさしいね。カラタチさんはもちろん然りだけど、今日のぼくはビャクブに会える時を楽しみしているよ」

「ああ。ありがとう。思ったよりは長電話になっちゃったな。ヤツデは添乗員さんに怒られちゃうかな?だとしたら、ごめん。ツアーでは困ったことがあったら、ヤツデはおれに電話をしてもいいからな」

「うん。わかったよ。ただ、添乗員さんや他の人たちはやさしいから、ぼくは怒られないと思うよ。それじゃあ、またね。バイバイ」ヤツデは無邪気にお別れの言葉を口にした。

「ああ。それじゃあな」ビャクブは最後にお別れのセリフを口にした。ヤツデはそれ聞くと通話を切ってすかさずにアヤメに対して詫びを入れた。アヤメの性格は寛容なので、アヤメはなんとも思ってはいなかった。

「電話はどちらからだったんですか?家族ですか?恋人ですか?宇宙人ですか?」ジェラシックはヤツデに対して聞いた。ジェラシックのユーモアはダジャレだけでは収まりきらないのである。

「ぼくにはなんだか最後の質問の主旨がよくわからないよ。最近のスマホは宇宙人とも交信できるようになっていたのかな?ぼくは知らなかったよ」ヤツデはそう言って冗談を冗談で返した。

 ジェラシックはすると満足そうにして笑みを浮かべた。ヤツデはアヤメとサフィニアとジェラシックの三人に対して『今の電話は相手とは今回の旅行を一緒にすることになっている友人だ』ということを話した。

「へえ。そうなんだ。あ、そんなことより、大変なのよ。ヤツデくんは監督不行き届きよ。実は不正が行われていたの」サフィニアはそう言うとジェラシックの不義について話し出した。

 ジェラシックは実を言うと先程の『殴打の謎』を自力で解いたのではなかったのである。とはいっても、ジェラシックはヤツデの解答をカンニングした訳ではない。それではどういうことかというと、最近のジェラシックはホーム・センターで発泡スチロールのブロックを見かけたばかりだったので『殴打の謎』はそれと問題を連結させて答えを導き出していたのである。サフィニアはこれを厳しく糾弾しているのである。

「そうかな?」ヤツデは疑問を呈した。「それは不正というほどでもないような気がするけど、ぼくはそれよりもぼくの監督不行き届きっていう部分の方がよくわからないね。どういうことなんだろう?」

「へえ。ヤツデくんはジェラシックくんの味方をするんだ。ヤツデくんって血液型は何型なの?」サフィニアは関連性のなさそうなことを聞いた。とりあえず、ヤツデは答えた。

「ぼくはAB型だよ。血液型はこの件と関係があるの?」ヤツデは不思議そうである。

「私は実を言うとAB型の人とは性格が合わないの。私は道理でヤツデくんのことがいけ好かない訳ね」サフィニアは手厳しい。ヤツデは絶句をしてしまった。しかし、サフィニアのもの言いは柔らかなので、サフィニアはもちろん今回も冗談を言っているのである。ジェラシックは無言で戦況を見つめている。

「私はAB型の人って好きですよー」アヤメは調停に入ってくれた。

「ありがとうございます。でも、アヤメさんの性格はやさしいから、アヤメさんはどんな人に対しても好意的なのかもしれませんね。ぼくはもちろんサフィニアがやさしくないって言っている訳ではないけどね。サフィニアの血液型は何型なのかな?」ヤツデは臆することなく質問をした。

「私はA型よ。ヤツデくんはなにを言い出すつもりなの?一体」サフィニアは少し不安そうである。

「そっか。ぼくはA型の人とはよく気が合うんだよ。だから、サフィニアは気が合わないと思っていても、本当はAB型のぼくとは気が合うんだよ」ヤツデはしれっとした顔で言った。ジェラシックは内心でやるなと唸った。ジェラシックはちなみにO型だが、アヤメはA型なので、ヤツデの先程のセリフは何気にもアヤメに対しても効力を発揮している。 嘘は嫌いなので、ヤツデは基本的には妄言は吐かない。

ヤツデはともかく少し傷ついたが、それはサフィニアのせいではなくてただ単にヤツデの気が小さすぎるだけなのである。そのため、ヤツデは強くやさしい男になりたいと常々思っている。

ヤツデの性格は割とやさしい方だが、ヤツデはやさしさについてこんな程度では甘いと思っている。それはビャクブも知らないヤツデの心の闇と取り返しのつかない体験に起因をしている。

「ワカメはどこにあるかはわかんめーや。ワインには弱いんだ。危なかった」ジェラシックは言った。

「ジェラシックは意味不明ね。ジェラシックくんはなにが危なかったっていうの?一体」サフィニアは問い質した。サフィニアは実を言うとヤツデのやさしさに溢れたセリフを受けて恥ずかしくなっていた。

「ぼくは10分に一回以上はダジャレを言わないと死んでしまう病気なんです。これはもはや不治の病なんです」ジェラシックは弱々しい口調で言った。アヤメはそれを楽しげにして聞いている。

「そうなんだ。それは大変ね。それなら、ダジャレは私が聞いてあげるから、ジェラシックくんはどんどんとダジャレを言いなさい。って、世の中にはそんな病気はあるか!ヤツデくんはジェラシックくんに猿轡をしてあげてよ。ジェラシックくんは本当に死ぬのかどうかを確かめてみましょう」サフィニアはサディストじみたことを言っている。ジェラシックはサフィニアの言葉によってびびっている。

「いや。ぼくはそういう実験は嫌いだな。それより、サフィニアは一人暮らしなの?それとも、サフィニアは両親と一緒なのかな?」ヤツデは聞いた。ヤツデは都合が悪くなったから、とりあえずは話題を変えたのである。これはある意味ではヤツデの一種の処世術なのかもしれない。

「って、ヤツデくんにはさらっと受け流された。ふーん。そうなんだ。ヤツデくんはやっぱりジェラシックくんの味方なのね。つまり、私のことは嫌いなんだね」サフィニアは哀愁を漂わせた。ジェラシックはあえて口には出さなかったが『その両極端の選択肢はなんなんだ!』と心の中でつっこみを入れた。

「ぼくはサフィニアのことが好きだよ。ぼくは特に自己主張のできるところが好きだよ」ヤツデはきっぱりと言った。サフィニアは思わず唖然とした。ヤツデのやさしさは計り知れないのである。というか、ヤツデはやさしさもさることながら子供みたいに純真なので、ヤツデの思考回路はとてもシンプルなのである。

「皆さんの性格は段々と読めてきましたねー。ヤツデさんは博愛主義者ですし、ジェラシックくんは道化師ですし、サフィニアさんはフレンドリーっていう感じですかねー。皆さんはお気に触りましたかー?皆さんはちなみに私のことをどう思われていますかー?」アヤメは軽い調子で聞いた。

「うーん。それは難しいですね。まあ、ここではあえてぼくに言わせてもらえるのなら、アヤメさんは超前向き思考っていう感じですかね」ジェラシックはいつもの如く深く考えもせずに思ったことを口にした。

「え?」アヤメは虚を突かれた。「そんなことはないですよー」アヤメは慌てて否定をした。しかし、ヤツデは念のためにこの時のアヤメの微かなうろたえぶりについて記憶に留めておくことにした。

 一旦はやがて話題が途切れたので、ヤツデはさっき言っていた戸籍について持ち出してみることにした。アヤメは独身で一人暮らしである、ジェラシックは妹と両親との4人暮らしである。

 注目すべきはサフィニアである。実は両親とだけではなくて祖父母や叔父や叔母といった人たちとも一緒に暮らしているので、サフィニアは文句なしの大家族なのである。

「私はお父さまもお母さまも叔父さまもおばあさまもみーんなのことが好きだから、私の家族は毎日がとっても賑やかでおもしろいのよ。例えば、お母さまは気がやさしいから、お父さまにはハゲてほしくないけど、そのことは面と向かって言えないの。だから、お母さまは密かに抜け毛を防止する育毛のシャンプーをお父さまに使わせているの。その甲斐あってか、お父さまの髪はふさふさしているんだけどね。それから、叔母さまはおじいさまが書いている日記を盗み見ている時があったのよ。私はそのシーンを見ちゃったんだ。叔母さまはきっと自分についてどんなことが書いてあるのかと気になっちゃったのね。かわいいでしょう?あとはそうだなあ。お父さまは書斎に口紅とファンデーションを置いているの。お父さまはようするに女装が趣味なの」サフィニアは長々と話をした。ヤツデはその話を興味深く聞いていた。

「そうなんだ。それは個性的なお父さんだね。ぼくも普通の人とはずれた考え方を持っているから、ぼくはサフィニアのお父さんには親近感が沸いたよ」ヤツデはジェントル・マンの対応をした。

「ヤツデくんって本当に単純なのね。最初の二つの話は本当だけど、最後の話は真っ赤な嘘よ」サフィニアにはあっけらかんとしている。そのため、ヤツデはとても驚いてしまった。ヤツデは謎を解く時はともかく疑う必要がなければなんでも鵜呑みにしてしまうという天性の信じやすさを持っているのである。

「えー」ジェラシックは言った。「そうなんですか?今のお話はヤツデさんだけではなくてぼくも信じちゃいましたよ。サフィニアさんの嘘は本当みたいですね。本当の本島だ。ダメだ。いいダジャレは思い浮かびませんでした。すみません」ジェラシックは謝った。ジェラシックはダジャレに魂を込めているのである。

「いや」サフィニアは突き放すようなことを言った。「私は別に期待をしていないから」

「ぼくは期待をしているよ。次はがんばってね。サフィニアは問題をがんばってね」ヤツデは励ました。

「はーい」サフィニアは気のない返事をした。サフィニアは今ではヤツデのことを幼稚園児みたいにしてすっかりとかわいく思っている。ヤツデはちなみにサフィニアからそういう扱いを受けても特になんとも思っていない。ヤツデの性格はやはり子供みたいなのである。先程は女装の話が出たが、ヤツデはもちろんのことジェラシックやアヤメもここにいる誰もが違和感を覚えるようなことはなかった。

トイワホー国では例え誰かしらが変わった趣味を持っていたとしても誰も嫌悪感を抱いたりはしないのである。なぜなら、トイワホー国の国民は誰がなにをしようと他人に迷惑をかけていなければその人の勝手であると考えるからである。それはやさしさがあるというよりも当たり前のことである。先刻はアヤメとサフィニアとジェラシックの三人の家族の話が出たので言っておくと、一緒には暮らしてはいないが、ヤツデには弟が一人いる。ヤツデの弟は未熟児だったために夏バテしやすいので、現在はノース大陸の涼しいところで一人暮らしをしているのである。それでも、ヤツデはよく自分の弟のことを気にかける。

 閑話休題である。ヤツデたちの一行はいよいよ恐竜展へと到着をした。この国立の博物館には常設展と特別展の二種類がある。前者は恐竜展であり、後者は科学博物館になっている。

 アヤメとヤツデとサフィニアとジェラシックの4人はゲートを潜って入場の手続きをした。もっとも、全員分のチケットは添乗員であるアヤメが持っていたので、手続きは全てアヤメがしてくれた。

アヤメは手続きを終えると館内に入る前にヤツデとサフィニアとジェラシックの三人に対して立ち止るようにと促した。そこは大きなトリケラトプスの銅像の前で写真撮影ができるようになっている場所である。

 トリケラトプスとは最大の角竜で筋肉の発達した体を持つ恐竜のことである。トリケラトプスにはちなみに襟がついているが、その襟の飾りの役目には諸説がある。

第一は体を大きく見せて脅すためである。第二はアフリカゾウの耳のようにして体の熱を逃がすためである。第三は硬い角質に包まれているので、襟は首や肩を守る盾にするためといった感じである。

 説明は少しばかり遅れてしまったが、天地と地球ではさして恐竜に関する諸事情は変わらない。つまり、どういうことなのかというと、天地では簡単に言うと恐竜が絶滅していることはもちろんのことだが、現時点では研究の具合も地球とは大差はないという訳である。アヤメは元気よく声をかけた。

「はーい」アヤメは呼びかけた。「それではいよいよ恐竜展なのですが、皆さんにはその前に問題がありまーす。次は第4問ですねー。楽しみはせっかく間近に迫ったのにも関わらず、どうもすみませーん。それでは問題をお配りしますねー」アヤメはそう言うといつものとおりの手順を踏んだ。ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人はやがて問題を読み始めることになった。サフィニアはリベンジの思いで問題に取り組むことにしている。ただし、ヤツデとジェラシックの二人はそれぞれマイ・ペースである。アヤメはヤツデとサフィニアとジェラシックのスコアを確認している。今回は添乗員としてヤツデとサフィニアとジェラシックの味方なので、アヤメはいつでも皆にがんばってほしいと思っている。ヤツデとサフィニアとジェラシックとは会ったばかりだが、アヤメはすでにヤツデとサフィニアとジェラシックに対して親近感を持っているのである。

今回の謎のタイトルは『分身の謎』である。いつものとおり、問題はその場所に関係したものが出題されるので、今回は写真撮影がテーマである。以下はその問題文である。


ある中学校のクラスには生徒がぴったりと40人いる。今回はこのクラスの生徒たちは修学旅行としてこの恐竜展にやって来た。欠席者はちにみにこの日には一人もいなかった。

その40人と二人の教師は恐竜展にやって来ると集合写真を撮ることになってトリケラトプスの銅像があるこの場所でカメラ・マンの手によって二枚の写真が撮影されることになった。

その後はいい思い出を作って学校でその写真がクラスの生徒の全員(40人)に配られることになった。多くのクラス・メートや担任の先生はすると度肝を抜かれてびっくり仰天をすることになった。

なぜなら、集合写真には写っている人数が43人もいたからである。なぜなのか、ようは一人だけ人数が多いのである。だが、生徒や先生の驚いた理由はこれだけではなかった。

集合写真にはなんとコーンという全く同じ顔の男子生徒が二人もいたのである。一人のコーンは学ランだったが、もう一人のコーンはチョッキの上にジャケットを羽織っていて前者よりも少し座高が高かった。

コーンとはちなみに幼稚園の園長先生を父に持つ悪戯が大好きな腕白の少年のことである。コーンはどんな悪戯をするかというと、例えば、彼は他人の給食を家から持って来た香辛料でスパイシーにしてみたり他人のジャージにガム・テープで縄をつけてしっぽだと言っておもしろがったりするのである。

コーンは普段からとてもしょうもない遊びばかりをしているのだが、時には常軌を逸した行動を取ることもある。コーンはようするに独自の世界観を持っているのである。

話は戻すことにする。もう一人のコーンはもちろんドッペルゲンガーという訳ではない。もう一人のコーンとはもちろん写真に写っていたコーンのことである。それから、これはまた重要なことだが、コーンという生徒は双子という訳でもない。それではなぜコーンという同じ生徒が二人も集合写真に写りこんでいたのだろうか?ここでは少しヒントを出すとこの真相を知っている生徒はコーンだけではない。


 文量は今までの三問と比べると少ないが、難易度はさして従来と変わりはない。ヤツデは最後に読み終えるという恒例の行事を終えると、ヤツデとサフィニアとジェラシックの三人は謎解きを開始した。

 しかし、サフィニアは棒立ちをしている。サフィニアはすでに手詰まりの状態なのである。ただし、やる気はあるので、サフィニアは何回も問題を読み返してがんばって吟味をしている。

 ところが、読書は百遍にして義は自ずから見るとは言うものの、こればっかりはどうしようもなさそうだなとサフィニアはまるで敗残兵のようにして肩を落としてしまっている。

 一方のジェラシックは今回のミステリー・ツアーにおいて竜頭蛇尾にならないようにするためにも真剣である。ジェラシックはしかも謎を解く時の集中力と顔の険しさは相変わらずである。

 やがてはタイム・アップになってアヤメに聞かれると、結局は答えがわかったのはヤツデだけだということが判明した。サフィニアはまたもやヤツデに対して恨みがましい目を向けたが、ふざけているということはわかったので、ヤツデはそれとなくサフィニアとは目を合わせないようにしておいた。

「それでは自信はなくてもいいので、ジェラシックくんとサフィニアさんはなにかしら考えついたりはしませんでしたかー?それは本当にどんなことでもいいですよー」アヤメは元気よく聞いた。

「はい」ジェラシックは挙手をした。「ぼくには発言をさせて下さい。ぼくはとんでもない考えを思いつきました。これは推理というよりも当てずっぽうですがね。コーンくんのそっくりさんとはズバリと申し上げると弟さんのことだったんです。コーンくんの弟さんはたまたまかどうかはともかく園長先生のお父さんに連れられてここに来ていたんです。だから、写真にはコーンくんと瓜二つの弟さんが写っていたのではありませんか?ぼくはもしかしたら正解を言っちゃったかもしれませんね」ジェラシックは申し訳なさが半分で誇らしさが半分の心境である。サフィニアはうさんくさそうな顔をしている。

「ごめんなさーい。それは不正解でーす。なぜなら、二人のコーンくんの顔は瓜二つではなくて全く同じだったからでーす。ですが、私はジェラシックくんの答えを聞けてとってもうれしかったですよー」アヤメの言い方はとてもソフトだった。そのため、ジェラシックはあまりショックを受けずにすんだ。

 というよりも、ジェラシックの肝っ玉はそもそも多少の恥をかいても平然としていられるくらいに座っている。それはヤツデには持っていないものである。そのことにはすでにヤツデも気づいている。それはさておいてアヤメに促されると、ヤツデは問題の解答を話すことになった。

「まず、ぼくは『白の推理』によってコーンくんのお父さんが園長先生であることとコーンくんは悪戯が好きであることの二つをこの件に必ずや関係があると信じました。つまり、コーンくんはお父さんの影響で工作をしてなおかつ悪戯を思いついたのではないかと考えたのです。ですから」ヤツデは言いかけた。

「あー」サフィニアは言った。「私はわかったかもしれない。答えは私が言ってもいいですか?どうか、お願いします。アヤメさんは私にも花を持たせて下さい」サフィニアは必死になって訴えかけた。

「それはもちろんいいですよー。ヤツデさんはそれでもいいですかー?」アヤメは問いかけた。

「はい」ヤツデは頷いた。「ぼくは構いません」ヤツデは内心でほくそ笑んでいる。なぜなら、ヤツデはわざとそのようにして誘導したからである。ヤツデはヒントをちらつかせて段階を踏んで説明すれば、サフィニアはひょっとしたら真相に気づいて性格的に言っても自分が答えたいと言い出すのではないかと考えたのである。事際のところ、サフィニアは発狂こそ起こさないが、ヤツデとサフィニアとジェラシックは『YSJ』というチームだったとしても、根は負けず嫌いなので、ヤツデの誘導には思わず乗ってしまっている。サフィニアにはようするに多少の鬱憤が溜まっていたのである。ヤツデはそのことに気づいたので、先程はうまく行くようにと願いを込めてあのような説明の仕方をしていたのである。ただし、そうはいってみても、ジェラシックは未だにちんぷんかんぷんなので、サフィニアは大したものである。

「答えはコーンくんの顔のサイズのお面をつけている人がいたんです。そうですよね?」サフィニアは勢い込んで聞いた。ヤツデはサフィニアのことを見て自分の思惑がバレたら、これは大変だなと思った。

「はーい」アヤメは気軽に言った。「正解でーす。それではサフィニアさんはその続きも説明をできちゃいますかー?」アヤメは聞いた。ジェラシックはそれを受けると興味深く次の説明を待っている。

「え?続きってなんですか?それはヤツデくんにはわかるの?」サフィニアは匙を投げた。

「うん。これ以上はもう推理するほどのことじゃないけどね。まあ、ここではあえて『黒の推理』を使うのなら、二人のコーンくんの座高は違うなら、それは明らかな別人だということだよ。もっと言えば、二人のコーンくんは体格差が違うんだから、その二人は同級生ではない全くの赤の他人ではないかと疑うことはよういなことです。つまり、コーンくんはとおりすがりの観光客に声をかけてお面をつけてくれるようにとお願いをしたと考えることができます。その人は大人だったから、中学生のコーンくんとは座高が違ったんです。これはジェラシックくんの案を採用してもいいんだけどね。つまり、実はコーンくんのお父さんも恐竜展にきていたから、コーンくんは自分のお父さんにお面をつける役を頼んだと考えても別によさそうですけどね。そう考えれば、クラス・メートの人数は一人だけ増えていたことも含めて全ての辻褄は合うことになります。この事件の真相はコーンくんだけが知っているとヒントにはありました。その理由はもちろんコーンくんがお面をつけてくれるようにと他の人に頼んだ時に近くにいた生徒がそれを聞いていたと考えるのが無難だと思います。ぼくは少し格好をつけちゃいましたが、ぼくの答えは果たしてあっていましたか?」ヤツデは気取らない口調になった。ジェラシックは目から鱗が落ちる想いで話を聞いている。アヤメは応じた。

「はーい。ヤツデさんの解説はバッチリとあっていますよー。薄々は感づいていましたが、ヤツデさんは考え抜く能力に長けているんですねー。問題はあと6問ありますが、ヤツデさんには全問正解の期待はかかりますねー。私はヤツデさんを応援していますよー。初正解のサフィニアさんはおめでとうございまーす」

「ありがとうございます。でも、結局のところ、最後はヤツデくんに持って行かれちゃったから、私はあんまりおもしろくないです。今度はヤツデくんもわからない問題を解くから、ヤツデくんは覚悟をしていなさいよね」サフィニアは注意を促した。一問は正解をできたから、サフィニアは自信を持てるようになっている。

「うん。わかったよ」ヤツデは全く気負うことなく簡単に返事をした。

しかし、ヤツデはサフィニアでも解ける問題は正解をできてしまうのではないだろうかとジェラシックは思った。ただし、実際にはそんなことを言ったら、サフィニアは気を害してしまうので、ジェラシックはその想像を放棄しておくことにした。それこそはおしゃべりなジェラシックのちょっとした気遣いである。

アヤメはやがてヤツデとサフィニアとジェラシックの三人の問題を回収してスコアをつけた。ヤツデは4勝である。ジェラシックは二勝である。サフィニアは一勝という結果こそがミステリー・ツアーのこれまでの戦歴である。ヤツデは4戦で4勝である。ヤツデは並外れた推理力の持ち主なのである。

「はーい」アヤメは言った。「それでは早速に参りましょうねー。なお、皆さんは恐竜展の中でも問題を解くことにはなりますが、許可は貰っているとはいっても、解答の際には他のお客様のご迷惑にならないように声を落とすようにお願いしますねー」アヤメは『愛の伝道師』としての注意事項を述べた。

「はい。了解しました」ジェラシックは応えた。ヤツデとサフィニアは同意をした。という訳なので、ヤツデたちの一行はチケットを見せると館内に入ってエスカレーターで地下へと向かった。ということは当たり前のことだが、恐竜展は地下で開催されているという訳である。

「恐竜展にはイルカはいるか?恐竜はヘビーなヘビか?」ジェラシックはそう言うとヤツデの方をちらっと見て受けたかどうかの確認をしている。ところが、当のヤツデは真剣な顔をしている。

「ヘビの話はともかとしても、魚竜はイルカみたいなものもいるよね。まあ、魚竜と首長竜と翼竜は恐竜とはまた別物みたいだけどね」ヤツデはさらっと応えた。まさか、ジェラシックはそんな答えが返ってくるとは予想をしていなかったので、ダジャレのことはびっくりしてしまってどうでもよくなっている。

 ここでは少しヤツデのセリフを補っておくと、例えば、テムノドントサウルスという魚竜は肉食であり、体長は9メートルもあるが、多少はイルカやカジキと形が似ているのである。

 恐竜は骨盤の特徴によって竜盤目と鳥盤目という二つのグループにわかれる。まず、竜盤目とは恥骨がトカゲやワニのようにして前向きか、または下の方を向いたグループであって例を上げるとデイノニクスやカルノタウルスといった恐竜が該当をするのである。名前のとおり、一方の鳥盤目とは恥骨がトリのようにうしろ向きになったグループであって例を上げるとレソトサウルスやアンキロサウルスといった恐竜が該当をするのである。ただし、鳥盤目の骨盤はあくまでも鳥に似ているのは見かけだけのことである。そのため、実際の鳥はもう片方の竜盤目の中の獣脚類から進化したとされている。

「それにしても、ヤツデくんはよく知っているのね。ヤツデくんはもしかして恐竜関係について詳しいの?実はヤツデくんって恐竜マニアなの?」サフィニアは素朴な疑問を口にした。

「ううん。ぼくはマニアではないし、そんなには詳しくはないよ。ぼくは今日のために本を読んで予習してきただけだから、しょせんは付け焼刃だよ。だから、ぼくには恐竜のことを聞いても大して役には立たないと思うよ。恐竜展はとにかく楽しみだね」ヤツデは言った。ジェラシックとサフィニアはそれに同意をした。学校では強制的に勉強をさせられることをあまり好まないが、ヤツデは自分で選んだ勉強なら、そのことはとことんやることができるのである。そのため、ヤツデは一概に勉強が嫌いとは言えないのである。ここでは補注をしておくと、どちらかと言えば、本はジェラシックとサフィニアも好きな方である。もっとも、サフィニアとジェラシックはヤツデのようにして年がら年中に本を読みまくっているほどの読書家ではない。

 やがては恐竜展の入り口では恐竜に関する問題用紙を配っているスタッフの女性がいた。この恐竜展ではその問題について全問正解をすると最後に恐竜展から粗品が呈上されるのである。

ただし、ジェラシックとサフィニアの二人は謎解きに没頭したいからという理由で問題用紙を受け取らなかった。しかし、ヤツデはしっかりと問題用紙を受け取ることにした。ヤツデは勉強熱心なのである。

とはいっても、ヤツデの座右の銘はステップ・バイ・ステップなので、ヤツデは混乱をしないようにするために館内を歩くスピードは遅くなる可能性は大いにある。もしも、アヤメとサフィニアとジェラシック三人には迷惑になると判明をすれば、その時はヤツデも家に帰ってからじっくりと問題に取り組む予定である。

ヤツデは少しだけ恐竜の問題を見てみると次のようなものが掲載されていた。第6問は『ティラノサウルスと瓜二つの恐竜はなにか?』というものである。答えは先取りをするとタルボサウルスである。

ただし、似ているとはいっても、両者には当然のことながら違いはある。タルボサウルスの方はティラノサウルスと比べると前足が短くて頭骨の幅が狭いという違いがある。

第7問は『大きいものでは28メートルにも及んで背の高さは最大級で体重は恐竜の中で最も重い70トン以上もある草食の恐竜はなにか?』というものである。答えはこちらも同じようにして先取りをする。

答えはブラキオサウルスである。ブラキオサウルスにはいくつかの特徴がある。ブラキオサウルスの特徴は額に大きな鼻の穴がある頭やキリンのように長くて丈夫な首や後足よりもかなり長い前足や肩から腰に向かって坂になっている背中や短めの尾などである。この問題なら、ヤツデはすぐに答えがわかった。

とにもかくにも、ここでは恐竜展の順路を歩いていると簡単に解けるような問題が全10問も出題されているのである。ヤツデは楽しみが一つ増えてとてもうれしそうである。

 ヤツデはしかもさらにやる気を出している証拠を見せた。ヤツデはリュックのファスナーを開けて中から画板を出して自前のメモ用紙と恐竜展の問題用紙を乗っけたのである。

ヤツデは恐竜展で知ったことをメモしておこうと考えてちゃんとボール・ペンを用意してきたのである。ヤツデはしかも予備としてもう一本の予備のボール・ペンまでも用意をしている準備のよさである。ジェラシックとサフィニアはそのヤツデの作業を見守ってなんとなく感激をしている。

「ヤツデさんはとても向上心が高いんですねー。仕事で私もメモを取る時はありますが、私は普段からメモを取る心構えはとってもすばらしいことだと思いますよー」アヤメは明るくヤツデのことを褒めた。

「ぼくも同意見です。ぼくはメモがない目も当てられません。ぼくは意外とうまいことを言いますね。サフィニアさんはご褒美として500パンダを下さい」ジェラシックはなぜか無心をしている。

「ジェラシックくんはちょっと待っていてね。お金はすぐに出すからね。って、私はお金をあげる訳ないでしょう。ジェラシックくんは自画自賛をしていたけど、私としてはそうでもないし」サフィニアはあけすけにダメ出しをしている。サフィニアは素直なのである。ヤツデはジェラシックを気の毒に思っている。

「え?ダメでした?それじゃあ、さっきはパンダが出てきたから、パンダは太ってパンパンだ。パンダの好物はパンだ。いや。すみません。ぼくたちは先に進みましょうか」ジェラシックはそう言うと歩き出した。

 今までのヤツデとアヤメはジェラシックとサフィニアのやり取りを立ち止まって聞いてあげていたのである。ジェラシックは気恥ずかしさから先頭に立って顔を見られないようにしている。ヤツデたちの一行はなにはともあれこうして本格的に恐竜展の中へと足を踏み入れることになった。まず、最初のセクションは恐竜とはなにかというものである。地球や天地はそもそも魚類から両生類が進化して次に陸上に生活の場を広げた爬虫類が登場したのである。恐竜は爬虫類の中の槽歯類というグループから進化をしたのである。

 ラゴスクスの仲間はそんな中でも一番に恐竜の祖先に近いと言われている。ラゴスクスの仲間は小型で足の長い生き物である。初めはようするに恐竜も小型で目立たない動物だったのである。

しかし、恐竜はどんどんと体が大きくなって行くと、やがては種類も増えて現在の哺乳類のようにして栄えて行った。という訳なので、ヤツデはそういったいくつかの項目についてメモを取りながら歩いている。

「もしも、恐竜は現代にもいたら、どうですかね?恐竜はライオンやトラみたいにして檻に入れて飼えると思いますか?ぼくはちなみにプテラノドンを飼ってみたいですね。プテラノドンはなにしろぼくの一番に好きな恐竜だからです」ジェラシックは話題を持ち出した。ヤツデは熱心に展示物を眺めている。

「恐竜はそもそも飼えないでしょう。恐竜には人間なんて食べられちゃうんじゃないの?まあ、でも、人間は踏み潰されないようにと注意さえすれば、草食の恐竜くらいは飼えるかもね。それより、プテラノドンってなんなの?私は恐竜の知識なんてほぼ皆無なんだけど」サフィニアは胸の内を明かした。

「ここではきっとその内に説明は出てくると思いますが、プテラノドンはトリみたいにして飛べる翼竜のことです。それより、アヤメさんも恐竜は飼えないと思いますか?」ジェラシックは聞いた。プテラノドンには頭のうしろに大きな鶏冠の突起があったはずだと思ったが、ヤツデは口を出さないでおいた。

「サフィニアさんには悪いですが、私は飼えると思いますよー。恐竜はエサを上げていれば、人間には懐きそうな気がしますからねー。人は恐竜で乗馬みたいなこともできれば、それはとても夢がありますねー」アヤメは主張をした。ジェラシックはとてもうれしそうにした。サフィニアには我の強いところがあるが、夢のある話は好きなので、反論はしなかった。ヤツデはあえて最後まで口を挟まなかった。

 もしも、ヤツデは口を出すと空気が読めないと言われてしまうかもしれないからである。恐竜は飼えるとヤツデだって思いたいのだが、問題はヤツデの動物恐怖症にある。

 実は見ている分には問題はないのだが、ヤツデはウサギやハムスターといった小動物でさえも触るために勇気を振り絞らないといけないのである。ヤツデはようするに動物が怖いのである。

 そのため、ヤツデにとっては乗馬やウシの乳絞りもできないとなると恐竜を飼うなんて話はどだい無理なことなのである。そのため、ヤツデは黙々とメモを取りながら恐竜とも自分は仲良くなれないんだろうなと密かに悲観をしてしまっている。ヤツデは念のためにそのことを口に出さなかったのである。ヤツデたちの一行は続いて恐竜の成長と死というセクションにやって来た。まず、恐竜の年齢は骨の断面に年輪のような成長の線があるために推定できる場合がある。成長の仕方や速度はそれぞれの仲間によって形が違うようにして違うものの、恐竜は驚くべきことに一生に渡って成長し続けたのでないかと考えられている。

しかし、恐竜は寿命がくる前に病気になったり川に流されたり崖から落ちたり敵に襲われたりして死んでしまうのケースがほとんどだったのではないかとも考えられている。

ジェラシックは雑念を捨てて展示物を眺めている。やがてはどうでもいいと言うとそれまでのことだが、サフィニアはヤツデの行動のある法則性に気づいた。サフィニアはそのことを指摘した。

「ヤツデくんはやさしいね。人の多いところではちゃんと待って見ていて人が多くなってきたら、ヤツデくんはちゃんとその場をどいているものね。ヤツデくんって困っている人を放っておけないタイプでしょう?」サフィニアはぶっちゃけて聞いた。ヤツデはそれを受けるとやや違和感を覚えた。

「どうかな?」ヤツデは返事をしておいた。「もしかしたら、そうかもしれないね」

 しかし、ヤツデは違和感の意味に気づいた。サフィニアは会話の流れから考えて少し飛躍したことを聞いてきていたのである。とはいっても、それは特に聞き返すほどのことでもないので、ヤツデはそのことを頭の中にメモリーしておくだけで留めておいた。ただし、ヤツデは少しすっきりしなかった。

「それじゃあ、ヤツデさんはこのぼくのことも放っておきませんよね?ぼくは実を言うと今日のためにペンダントを買ってきたのにも関わらず、今日はそのペンダントを家に忘れてきちゃったんです。今日はせっかく都会にきたのにも関わらず、ぼくはオシャレができなくなってしまったんです。ヤツデさんは救いの手を差し伸べてくれますよね?」ジェラシックは聞いた。サフィニアはヤツデよりも先に口を挟んだ。

「それは無理でしょう。外面は抜け目なさそうだけど、ジェラシックくんって意外とまぬけなのね。とりあえず、ジェラックくんはペンダントの代わりとして指サックでもしておいたら、どうなの?」サフィニアは冗談を口にしている。ジェラシックはもちろんしゅんとなる玉ではない。それでも、ジェラシックはヤツデの方を見た。ジェラシックはヤツデから本当に救いの手を求めているのである。

「指サックはどこから出てきたのかは知らないけど、ジェラシックくんはそのままでも格好がいいとぼくは思うよ。ジェラシックくんは飾らないありのままの姿でも十分にやっていけるよ。ジェラシックくんにはもちろんペンダントがあれば、それは鬼に金棒だけどね」ヤツデは傷つけないようにしてとてもソフトに言った。

「ありがとうございます。ヤツデさんのやさしさは天下一品ですね。ぼくもヤツデさんくらいにやさしい男になりたいです」ジェラシックはキラキラした瞳で心から言った。ジェラシックはもうすでに自分を超えているよと言いたかったが、なんだか、それはわざとらしいかなと思ったので、ヤツデは言わないでおいた。先程のセリフはジェラシックもそのことを謙遜として捉えてしまうからである。

サフィニアはちなみにヤツデの行動を褒めていたが、あれはお門違いである。なぜなら、ヤツデは単に人混みが嫌いなだけだからである。ヤツデはそのことを口にするチャンスを逸してしまったのである。

 ヤツデたちの一行は続いて恐竜の食生活についてのセクションにやって来た。恐竜はなにを食べていたのかはもちろん確かなことは言えないが、肉食と草食かは歯の形を見ると判別ができる。中には歯が退化をしていて嘴になった恐竜もいるが、それらの多くは雑食だったと考えられている。

それから、中には魚を食べていたと考えられている恐竜もいる。竜盤目の恐竜は肉食のものも草食のものも食べるものを丸呑みして消化を助けるために飲み込んだ胃石という石によって胃の中で擦り潰して食べ物を消化していたのである。一方の鳥盤目の恐竜は全て草食だった。その多くは哺乳類のようにして食べるものを噛み砕いて食べて胃石の助けも借りて消化をしていたと考えられている。

 という訳なので、ヤツデたちの一行はやがて第5問の問題が出題される場所にやって来た。ここにはイスがあってその近くには恐竜展のパンフレットが誰でも自由に取れるようになっている。

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