ルーティーン
アンリエッタの事がすむまでセトマルはバックヤードに籠って仕事をするのがルーティーンになっていた。
なかなか終わらないのを察するに、長い時間呪われた装備品を身に着けていたことだろう。
ボイラーの音が消えた。頭上のシャワー室で事が済んだらしい。
数秒の沈黙のち階段を下りる音が聞こえてきた。
「よっ」
用意した服に着替えたアンリエッタがセトマルを覗くように入り口の壁からひょっこり顔を出している。
「よっ、じゃないよ、まったくいつもいつも」
「まぁまぁ細かいことは気にしないの」
やることやってずいぶんさっぱりした顔のアンリエッタの手にはセトマルが呪縛解除したビキニアーマーが握られていた。
「鑑定よろしくなの」
「もうすんでるよ。25000ソニア」
セトマルは彼女からビキニアーマーを受け取ると5000ソニアを手渡す。
「呪縛解除代が20000ソニアだから差し引いて5000ソニア。一応ここに買い取り承諾のサインをちょうだい」
「はーい」
慣れた手つきサインをする彼女に悪びれた様子は微塵もなく、手に入れたお金をうちわがわりにあおいでいた。
「はぁ……最高なの」
「なにが?」
「だって毎回呪縛解除して気持ち良くなってしかもお金もらえるんだよ」
「たまたま買取価格が呪縛解除代よりも高値だったってだけだよ」
セトマルは呆れたように言ってアンリエッタに対面へ座るようジェスチャーする。冷蔵庫からもってきた水をコップについだ。ごくごくと飲み干すアンリエッタの満足そうな顔を見て微笑んだ。
「それにしてもどこでそんなアイテムを見つけてくるんだ?」
「そこら中に落ちているの、ダンジョンってけっこうな冒険者が死んでるから、彼らが残した遺品や遺物を拝借してる」
「まるで墓荒らしみたいだな」
「犯罪者みたいに言わないでほしいの、未知を探求する冒険者は使えるものは全部使うの。それ基本中の基本」
頬を膨らませたアンリエッタをなだめる。セトマルは何気なく言った一言を後悔しながら水を飲んだ。
「それよか、私の装備品っていつもどうしてるの?」
「どうしてるって、売りにだしているさ」
「……買う人なんているの?」
「いるよ、じゃなかったら呪縛解除してお金渡さないでしょ」
「怪しいの」
「なんでぇ」
「個人的になんか別のことに使ってない?」
「使うわけないだろ」
「でもセトマルなら使っても怒らないよ」
「使わないよ」
「いいの、いいのそういうのは、正直に言って私、セトマルの欲望のはけ口に使われていても軽蔑したりなんかしないの」
「だから使ってないって……」
「使えよ!」
「使わねぇよ!」
アンリエッタが机を叩いて立ち上がったので反射的に同じポーズをとった。
「この私が何日も装備していたアイテムを買い取ってそういうことしないなんてそれはそれで屈辱なの!」
「そんなことするかっ! 呪われてたってモノは誰かの役に立ちたいって思ってるんだぞ。そんな彼らの気持ちを踏みにじるようなことはしない」
「そうじゃないの」
「じゃあなんだよ」
「……いつも私だけそういう姿を知られるのが癪だから、セトマルの弱みを握りたいの!」
「なんだいその理屈は?」
先に腰を下ろしたのはセトマルだった。アンリエッタはぷんすかしながら弱みを見せろとわめいている。
「アンリエッタ、弱みを見せろ、はい見せますなんてやつがどこの世界にいると思うよ」
「でもセトマルは私の裸見たことあるの」
「それはきみが依頼したからだろ」
「……それもそうなの」
突然腑に落ちたのかアンリエッタは椅子に座り直す。半分ほどになったコップに水をついだ。
「話は変わるけど気になることがあるの」
「なに?」
「セトマルの部屋のベッドで寝てた子って誰なの?」
アンリエッタに言われて思い出す。そういえばそうだった。セトマルはスフレにベッドを譲って自分がソファーで寝落ちしたことをはっきりと思い出していた。