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儀式はシャワー室で

「それじゃ、すぐにシャワー室にいつものように冷水で体を清めて待ってて準備してくるから」


 ルーティーンのごとくアンリエッタをシャワー室に招き入れると、セトマルは一階のバックヤードに向かう。儀式に必要な聖書を脇に抱えて、調理室にある冷蔵庫から魔力の一時的な出力を上げるステロイドポーションを大サジ一杯口に含んだ。腹の底から熱を感じて、それが全身に広がるまで数秒とかからない。


「よしっ、やりますか!」


 気合を入れるために頬にビンタをかます。吸って吐いてを繰り返しながらアンリエッタがいるシャワー室のとびらを開けた。


「お待たせ」


「ぜんぜん待ってないの」


「そ、それじゃあやるよ」


「う、うん」


「背中向けて」


 右手に魔力を集中させてアンリエッタの身体に触れた。


「んっ」


 洞窟から漏れ出したような声がシャワーの音と紛れて消えた。セトマルは瞼を閉じながら左胸に抱えた聖書を強く握った。


「これより貴君にとりついた呪いに祓詞を捧げます」


 セトマルは腹に力を入れると右手から魔力をアンリエッタの身体に流し込んでいく。


「呪は罪ならず」


「んんっ、イ……♡」


「きみ万事をせめることなかれ」


「うんんっっク♡」


 清らかな魔力を流し込むたびにアンリエッタの身体は小刻みに震えから身体をよじるくらいの激しいものになっていく。しかしそれは苦しみや痛みからくるものでない。


「あふれんばかりの祝福を……」「おかしくなるのぉぉぉぉ」


「うるせい!」


 セトマルは儀式を途中で制止して、近くの壁に勢いよく頭をぶつけた。


「さっきからうるせいよ! 桃色の吐息を漏らしやがって少しは我慢してくれ、こっちまでおかしくなる!」


 へなへなと座り込んでしまったアンリエッタが振り返る。頬は崩れ、口は半開きで、目は、昇天の一歩手前まできていた。


「だってぇ~しょうがないの、き、気持ちよくてぇ」


 彼女が至ってしまうのも無理はない。本来ならば呪いからの解放はこの世界に生まれ落ちたことを後悔するほどの痛みを伴うが、幾万の呪いと相対してきた呪除師セトマルは、研究に研究を重ね緻密な魔力操作によって、苦痛と快楽を反転させることができた。それはこの世におけるどんな快感よりもエクスタシーを感じる行為であり、この感覚というのは当事者でなければ説明できないほど稀有な体験であるのだ。


「だとしても我慢してて! 神聖な呪除の儀式が、これじゃあまるで下世話な娯楽店じゃないか」


「で、でもセトマルのき、気持ちよくて……す、すごいテクだと思うの」


「やめろ、やめろ! 俺はいかがわしくない、いかがわしくない」


 再び壁に頭を打ち付けるセトマルを必死になだめること五分。おちついたセトマルは聖書をギュッと胸に抱えながらもう一度アンリエッタの身体に触れた。


「もう変な声をださない?」


「が、我慢するの」

「約束だよ、逝きそうになっても頑張ってね」

「うん」

「じゃあ行くよ……」


 大きく息を吸い込んで細く息を吐きだしてから右手に魔力をこめた。


「呪は罪ならず」


「っ――」

 背中越しではあるがアンリエッタは声を押し殺して必死に耐えているのが見て取れる。


「きみ万事をせめることなかれ」

「っっ――ぅ」

「あふれんばかりの祝福を糧に」

「はっあ、っん」

「頑張れアンリエッタ!」


 セトマルは声を荒げた。


「意識を保つんだ。頑張れ!」


「うん、大丈夫なの、だからセトマルの魔力()私の中に入れて」


 アンリエッタの感度が魔力の跳ね返りでセトマルにもリンクする。その度に精神がイカれそうになって左胸に抱えた聖書を強く抱き込んだ。


 ――平常を保て、俺が狂ったらアンリエッタの身が保証できないんだぞ。


 セトマルは心の平常を取り持って最後の言葉を言い放った。


「呪力よあるべきところへ帰せ」


 甲高い金属音がシャワー室に響く。ビキニアーマーがアンリエッタの身体から解除され床に落ちた音だ。


「はぁ、はぁ、除呪かん……」


 終了を知らせようとしたとき、アンリエッタは膝から崩れ落ちた。

「アンリエッタ!」


 セトマルはシャワーを止めて駆け寄ると彼女は自らの局部に手をあてがっていた。


「……す、すんだらでておいで、俺は部屋に……」「待ってセトマル」


 シャワー室から出ていこうとしたセトマルの腕をアンリエッタは掴んだ。


「お願い、手伝って」

「と、と、当店はそのようなサービスは行っておりません」


 悲しそうな瞳で彼を見つめても、セトマルはその手を薙ぎ払い彼女の顔を見ようとしなかった。


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