黒髪のハーフエルフ
部屋の中に差し込む日差しの強さでセトマルは目を覚ました。
自宅を兼ねた商店の前はイベントのために建てられた簡易商店に囲まれているため、日光が差し込む時間がいつもとずれる。
――9時すぎくらいか。寝すぎたな
ぼんやり考えて目をこするセトマルは、そこに覆いかぶさるように何者かが自分の顔を覗きこんでいることに気が付いた。
「セトマルぅ~起きるの~」
「うわあっ!……ってアンリエッタか」
「正解、今日はずいぶんのんびりなの!」
いたずらな笑みを引っ提げて不意に現れたのはセトマルの馴染み客であるエルフのアンリエッタだった。
「あれ? 今日ってお店休みだっけ? でもソファーでなると身体に悪いの」
「休みにしたの、こんだけフリーマーケットが盛り上がってるのに店開けても意味ないから、というか玄関戸締りしたのにどうやって入ってきたんだ?」
「そこの窓から」
「窓ってここ二階ですけど」
「だから登ってきたの! いくら暑いからって半開きはあぶないよ」
「いやいや、普通に不法侵入……」
「細かいことは気にしない気にしない」
彼女は明快に笑ってあきれ果てたセトマルの肩を叩く。彼女はエルフには珍しい黒髪であるが、それは人とエルフの間に生まれたハーフエルフであることを示していた。同族同士の純潔を重んじるエルフ族にとって異端のアンリエッタであるがセトマルを訪れるときは決まって肌の露出が多い装備服を纏っている。旋回はバニーガールのような服装で、前々回は体のラインや凹凸がはっきりわかるほどぴっちりした全身タイツ、そして今回は、
「ビキニアーマーですか……はぁそんな際どい装備を着て冒険に出るなんて」
目の付け所に困る。最低限の局部しか防げる面積がないのに申し訳程度に羽織っているマントが余計にため息を増加させていた。
「しょうがないじゃん、これつけると防御のステータスもスピードも上昇してすっごく強くなるんだからぁ!」
「そんなどや顔で言われても……で、強くなったアンリエッタさん今日はなんの御用で?」
開き直って尋ねるとアンリエッタは見る見るうちに青ざめてセトマルの両手を握る。
「このアーマー呪われてたの! でも便利だからって装備を続けてたら解除できなくなっちゃって」
上目遣いで涙目になりながら握った両手を揺らす。
「お願いセトマル、また呪縛解除して、そうじゃないと私一生この姿のままなのぉ」
――またか。
がっくしとなる。セトマルはこれからしないといけない儀式のことを考えると頭が重くなった。落とした視線の先にアンリエッタの豊満な胸の谷間を拝むことができたが、ちっとも幸運ではなかった。