どうにかするから
「あの……怖くはないの?」
一方的に話し始めて十分ほどした時だった。スフレが自分から口を開き恐るおそる質問する。
「怖いって?」
「ボクのこと」
「怖くないとは言えないけど、でもスフレの方がもっと怖いでしょ」
「……」
「グラディウス卿から俺のことをなんて聞いてるの?」
「ボクにかけられた呪いを解いてくれる人だと、それ以上は聞いてない」
「そうか……]
「でも、あのエルフはあなたのことをすごい人だとも言っていた……あなたは何をしている人なの?」
たどたどしいがスフレは机に身を乗り出してセトマルに顔を近づけてきた。
「ただのしがない魔道具買取専門店の雇われ店長だよ。特技といえば呪われた魔道具とか装備品とかの除呪や装備したはいいものの自力で解除できなくなってしまった呪われ装備の呪縛解除。そのくらいさ、俺はきみたちエルフみたいに魔法も使えなければ戦士のような強さもない」
「でも……それはすごいことだと思う」
「ありがと」
とりあえず笑って見せる。こんな幼い子に気を使わせてしまうとは、と自分に呆れながらセトマルは少し慣れてきたスフレに踏み込んでみることにする。
「スフレは呪われた原因って思い出せる?」
「わかんない、この服を着るまでの記憶が曖昧で、思い出せない」
「それを着ていると精神が安定するとか?」
「うん、少しだけ不安じゃなくなる」
僅かに口角が上がった気がした。
――呪着とスフレの身体が良い感じに中和しているのか?
「まさかな」
セトマルは彼女の身体を触ろうとした右腕の動きを止めた。
「どうしたの?」
「いやなんでもないよ、でもその服も喜んでる。俺の力不足で除呪できなかったから、ずっとクローゼットの中だった」
「この服の気持ちがわかるの?」
「少しだけね」
指をスフレの前で動かして薄っすらドヤる。こんな男でも唯一無二のスキルはある。と心の中で言い放った後で世界を救うほどのことでもないけど。と付け加えた。
「まだ俺にはスフレの呪いをどうにかする力はないけど、どうにかするからさ」
「……でも嫌になったら捨ててもいいから」
「どうしてそんなこと言うんだ?」
「みんなそうしてきたから」
脳裏にあの時のトラウマが蘇った。うかつに素手で触れば今度こそ呪いに殺されかねない。しかしセトマルはスフレの呪いについて探求したい気持ちでいっぱいであった。
セトマルは呪い除けのグローブをはめてスフレの頭をなでた。
「きっと大丈夫だ」
「……」
「さぁ腹いっぱいになったらぐっすり寝よう。どんなに強い呪いだって健康な身体には弱いはずさ」
セトマルは空になった食器をそのままに彼女の手を引いて階段を登っていく。
「あの……みんなあなたのことをなんと呼んでいるの?」
「あぁ俺のこと?」
「うん」
ベッドにスフレが横になったとき不意に尋ねられたセトマルは一通り悩んだ後で、
「だいたいは店長かな」
彼女に呼ばれて誇らしい名称を答えていた。
「じゃあそう呼んでいい?」
「うん」
「マスター……」
小さな声でつぶやく。
「おやすみスフレ」
毛布をかけて明かりを消す。
――とりあえず、やるべきことをやろう。
心の中で頷きながら後片付けのため階段を下りて行った。