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オークとエルフ

「ほらアンリエッタ無礼を謝れ」


「嫌なの、私悪くないの」


 その後、アンリエッタはすぐに目を覚ましたが、司祭様を前に不貞腐れてそっぽを向いていた。


「お前なぁ、いい加減にしろよ。これ以上司祭様とマーシャルさんに迷惑をかけるな」


「もう、セトマルはどっちの味方なの!」


 怒り散らかすアンリエッタに優し気な笑みを向けるマーシャルは、どうしたものかと司祭様を眺めた。


「あ、あの」


「ひっ!」


「あ、すみません」


 何かしゃべろうとするたびに背中をびくつかせるアンリエッタの反応に今にも泣きだしそうなくらい凹みまくる司祭様があまりにも不憫に見えてきた。


「おい、まじでいい加減にしろよ、司祭様があまりにも可哀そうだろ」


「じゃあセトマル、ずっと私の手を握っててほしいの」


「なんで?」


「なんでって、少しは安心できるから」


 なんだそんなことかとセトマルは思ったが、早くしないと司祭様が本気で泣いてしまう。あと二人でわちゃわちゃしている時間が長くなればなるほど、マーシャルの周りの空気が冷たくなるのを感じていた。


「こほんっ、お二人ともよろしくて」


「は、はいすみません。マーシャルさん。司祭様お願いいたします」


「あぁはい、それでは。ごっほん。私はカイナ―・ファレファ。オーク族ですがこの教会の司祭を務めさせていただいております」


「……ん、ファレファ? どうしてマーシャルさんと同じ性なの?」


 アンリエッタが横やりを入れてきた。いや、そこ気になる? とセトマルは訂正しようと思ったが、マーシャルは待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、カイナ―司祭の隣に座るとその太い腕に自分の華奢な腕を絡みつかせて、


「私たちは夫婦なのです。彼は私のスイートダーリン」


 頬を赤らめてカイナ―司祭の腕に頬づりするマーシャルと堂々とした告白に天を仰いで鼻息を荒くするカイナ―司祭。セトマルはそんな二人のお惚けぶりを見るのが好きだった。


「えっ、純血エルフとオークが夫婦?」


 まるでゴーレムに睨まれたように身体を固くするアンリエッタ。ファレファ夫婦がそんなことお構いないしにいちゃつき始めた。


「アンリエッタさん、そんなに驚きますか? エルフとオークの夫婦が」


 マーシャルの問いかけにアンリエッタは苦笑交じりに頷いた。マーシャルは全てを悟ったように微笑む。


「あなたが言いたいことは分かります。遥か昔オークは我々エルフの村々を襲い、凌辱し、命を奪うよりも非道なエルフとして生きるその尊厳すら踏み躙りました。聖母ソニアが主導したとされる種族平等の誓い。我々エルフはオークがその誓いに賛同することを最後まで糾弾したと言われています。アンリエッタさんあなたはなぜそんな忌み嫌う相手と婚礼の契りを結んだのか、その事実に納得いっていないのですよね」


 セトマルがアンリエッタの身体をつつく。彼女ははっとしながら首を大きく縦にうなづいて、


「そのとおりなの、だってオークは私たちにひどいことをした。償っても償いきれないほどの虐殺と凌辱。マーシャルさんはそれを忘れたの?」


「忘れてなどいません」


「それじゃあ」


「ですが、オークが洗礼を受ける条件としてエルフへの被害を認め賠償を払い続ける。この条件をオーク側が承諾して、今でもその償いを受けています」


「で、でも」


「アンリエッタさん、あなたは知っておりますか? オークは洗礼を受けた後でも他の種族から差別を受け続けています。オークというだけで仕事につけず、いわれのない迫害を受け、どんなにひどい仕打ちを受けても彼らは誓いを守り他の種族への犯罪を起こしていません。それどころかエルフがオークを襲う事件は年々増えている。この事実に関してあなたはどう思われますか?」


「そ、それは……」


 明らかにアンリエッタの言葉がつまる。セトマルはグラディウス卿のような純血エルフが各地の権力者に取り入りオークに対して不公平な決まり事や何をしても良いといった空気を醸し出しているのだろうと察した。


「いや、アンリエッタさんの言う通りです。どんなに迫害や偏見を受けようと私たちオークはあなた方のご先祖様に対してひどいことをした事実は変わりない。因果応報。私はしかるべき神からの罰だと思っています。決して私は我々の種族がしてきたことが許されるものだとは思っておりません」


 カイナ―司祭は立ち上がりアンリエッタに対して深々と頭を下げた。


「こんな私の謝罪であなたの疑念が晴れるとは思っておりませんが、今の私にできることは過去を悔い改め、二度と同じような悲劇が起こらないよう祈り、そして伝えることだと思っております」


 その後でマーシャルも頭を下げた。教会の司祭様が頭を下げて謝罪すること事態異例なことだ。人族のセトマルはエルフとオークの歴史の因縁を深く知らない。だからこそ、アンリエッタの返答に意見することすら憚られた。


「二人とも顔を上げるの」


 アンリエッタは二人に歩み寄りカイナ―司祭の前に立つ。その体はまだ震えていた。


「私は小さいころからオークが私たちエルフにしてきたひどいことの数々を教わったの、だからオークは生理的に許せないし、一生許すことなんてできない。でもマーシャルさんとカイナー司祭は少しだけ信じてみようと思うの」


 彼女は右手を差し出す。カイナ―司祭は一度マーシャルに視線を移すと、マーシャルは頷いて同じく手を差し出すよう促した。


「ありがとうございます」


「……」


 アンリエッタは答えなかったが二人は握手を交わした。セトマルは決して教科書にはのることのない二つの種族の小さな和解を目撃して深い息を吐く。


「マスター」


「スフレ落ち着いたかい」


「うん、とっても暖かい」


「そうだね、スフレ今度はきみの番だ。一緒に呪いを解くぞ」


 セトマルはスフレを膝の上から椅子に座らせる。本来の目的を果たすため再びカイナ―司祭を見据えた。


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