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司祭

 大聖堂。朝と夕方に一般公開されているが、それ以外の時間は教会関係者しか入ることのできない神聖な場所だ。ステントグラスには聖母ソニアが描かれ、彼女を中心に七つの種族がこの地に永遠の平和を誓う有名な絵画だ。


「司祭様」


 マーシャルが声をかけると、大きな置物だと思っていた物体がもぞもぞと動き出す。アンリエッタは訝しみながら目を細め、その物体がなんなのか確認しようとしていた。縦に伸びる。驚いた、それは片膝をつき祈っていたのだ。立ち上がった姿はゆうに二メートルを超え、三メートルに届きそうなほど大きい。右手に持っているのは聖書? 小さすぎてメモ帳にしか見えない。頭の上にあるのは角? 太陽の日差しにさらされよく分からない。


「セトマルさん、珍しいですねあなたがお友達をつれてくるなんて」


 空気を震わすような低い静かな声と同時に湯気のような白い靄がたつ。


「セ、セトマル……」


 アンリエッタは震えていた。それはエルフという種族がなん万年も前から遺伝子に組み込まれてきた恐怖を刺激する。


「おや、エルフのお友達とは、なんと可愛らしい」


 振り返るとその物体の全貌が明らかになる。


「キャー! オーク!」


 特徴的なピンク色の肌と大きな牙。アンリエッタはセトマルの袖を掴みながら腰を抜かしてその場にしゃがみ込む。


「おい、アンリエッタ司祭様に失礼だぞ」


「なにが失礼なのセトマル! オーク、それもゴットオーク。殺される、今すぐここから逃げないと骨の髄まで食い尽くされちゃうの!」


 騒ぎわめくアンリエッタだが、その態度とは裏腹に身体が動いてない。


「あ、あのぉ」


「いやぁ!」


 白目を向いて床に倒れる。セトマルの呼びかけに反応を示さない。


「こりゃ完全に気絶したな、あの司祭様失礼を申し訳ありません」


 スフレを抱いたまま平謝りするセトマルを見て、司祭様はたいそう悲しそうに首を横に振り、


「いえ、セトマルさんもエルフの彼女も何も悪くありません。すべては私の顔が怖いからなんです。うぅぅぅう」


 目に涙を浮かべる司祭様の横でハンカチを差し出すマーシャルはそれでも朗らかな笑顔で、


「そんなあなたも素敵よマイダーリン」


 そう言って慰めていた。



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