寝起き
「昨日そんなことがあったなんて、でもグラディウス卿に目をつけられたのはお気の毒なの」
「卿はエルフ界でも厄介な方なのかい?」
「厄介というか、あの方は純血主義者でしかも優性思想だから私みたいなエルフを好まないの」
「じゃあアンリエッタみたいなハーフエルフもエルフの世界じゃ生きづらいの?」
「うーん、昔ほどじゃないらしいけど、やっぱり純血エルフからの視線は冷たいよ、私あんまり気にしてないけど」
一通り昨日の出来事を説明して、二人はスフレが寝ている部屋に向かっていた。
「それにしてもスフレってエルフっぽくない名前なの」
「仕方ないだろ、俺はエルフじゃないんだから」
「だとしてもスフレを美味しそうに食べてたからってスフレって……」
「うるさいなぁ、もういいだろ」
そんな会話を階段を登りながらしていた。しかしスフレが上り下りするにはちょっと急な階段にセトマルはリフォームを考えてみたが、そんなに余裕があるわけではないのでいったん忘れることにした。
「もう起きてるかも」
「あんだけうるさくしちゃったからね。しょうがないの」
「うるさくしたのはあなたですけどね」
「させたのはセトマルなの」
「はぁもういいや、とりあえずエルフのアンリエッタにしっかり見てもらいたい」
扉を開けると予想に反してスフレはまだ眠っていた。アンリエッタはスフレの寝顔を覗くと興味深そうにセトマルを見た。
「ダークエルフって初めてみたかも、でも禍々しいオーラは感じないの」
「そうなんだよ、もしかしたら昨日着せた呪着が関係あるかもな」
「この赤い修道服のこと?」
「そう、俺でも呪縛解除できなかった特別呪着なんだけど、この子と引き合わせてから怨念のような強い力を感じなくなったんだ」
「まさか、そんな不確かな憶測で装備させたの?」
「うん、直感だけど大丈夫なきがしたから」
「うわぁ……なの」
物理的に距離をとったアンリエッタは信じられないといった表情でセトマルを眺める。
「仕方ないだろ、ここにあるものでそれ以外着衣できなかったんだから」
「だとしてもそんなあぶない服を着せるなんてひどいの」
「……年端もいかない少女が裸でうろつくほうがひどいと思いますけど」
「……それもそうなの、あっ」
スフレの瞼が開く。どうやら耳元で騒いだせいで眠りからさめてしまったらしい。
「おはようスフレ」
「……はい、マスター」
目をこすりながら上半身を起こしたスフレはセトマルの顔を見ながら挨拶する。セトマルは呪い除けのグローブを装着してスフレの手を取ろうとしたが、
「か、可愛いぃぃぃ」
それより先にアンリエッタの手がスフレの頬を触っていた。
「おわっ」
昨日の出来事が過り咄嗟に飛び上がってしまったセトマルだったが、アンリエッタはスフレに触れてもなんともない。
不思議なことが起こったみたいな表情でこちらをぼぉっと眺める。
「呪いが呪いを喰いあってる」
スフレの背後に感じたのはとてつもない呪力と呪力のぶつかりあいだった。呪除師のセトマルですら呪除できなかった特別呪着と関わった多くの人間を殺してきたスフレの呪い。互いにかけられた呪力が発動すると共鳴してお互いの呪いの効果を打ち消し合っていた。
「すごいこれは大発見だ」
「マスターこの人は?」
「あぁ常連さんだよ、スフレと同じエルフだ」
「セトマルこの子すごく愛らしいの、ねぇ一日だけ貸してほしいの」
「ダメだ、まだどんな呪いがどのように発動するか分かってないのに勝手なことできるわけないだろ」
「でもでも~」
頬をすりすりさせながら興奮して足をばたつかせているアンリエッタにまだ寝ぼけているはずのスフレが笑った気がした。
「そうだスフレ、朝ご飯を食べたら教会に行こう、シスターならきみの呪いについて何か知ってるかも」
「それは良い考えなの、さっそくご馳走になるの」
「奢るなんて言ってないぞ」
「細かいことは気にしないの、さぁスフレちゃん行こ!」
セトマルはやれやれと両手をあげながら二人のあとに続いた。




