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第58章:贖罪

助けてください...


「小僧、悪いが金がない、乗れない!」


助けてください...


「間違った地域だぞ 。消えろ、クズ!」


助けてください...


「町の西側はどっちだって?地図がないんだから、わかるわけないでしょ」!


助けて...誰か...お願い...


何時間もこの通りをさまよっている。とはいえ、数日前からだろう。数時間?数日?結局、気持ちは変わらない...


ここはいったいどこなのって?東北地方だろうか?はっきりしているのは...


「...お願い、助けて」


誰か。


誰か。


日が昇ってからずいぶん経つ。


道も見えないし、自分がどこに向かっているのかもわからない。


どうせ昼間は自分の居場所がよく分かっていたわけでもない。


暗い。


疲労している。


魂は傷ついている。


ただ横になって痛みを和らげたい。


しかし、ここで絶望的にさまよい、哀れにも助けを求めている。


誰が僕のような男を助けたいと思うだろう?


これは、犯した罪のために、世界が裁いているのだ。いや、女神の裁きと言った方が正しい。


キラとリカに下された正義だ。


これは偽善者にふさわしいものだ。


ジーン・ニアスという人間の形をした生き物に相応しいものだ。


もしかしたら二度と故郷に帰れないのかもしれない。


もしかしたら、永遠にさまよい続ける呪いをかけられているのかもしれない...?


ガネットの通りをあてもなく歩いていたジーンは、何人かの一般市民とすれ違うが、彼らはジーンと目が合った途端、哀れそうに顔をしかめる。


夜が更けるにつれて選択肢がなくなり、ジーンは近くの信号機に背中を預ける。視線を一定の距離に移すと、小さな女の子がいることに気づく。もちろん、その辺をうろつく少女には事欠かないが、とりわけこの少女は、体が半透明で明るい光の中に沈んでいるのが見ものだった。とりわけ夜間には、彼女の存在を無視するのは難しいようだが、他の誰もが、まるで空気であるかのように通り過ぎていく。


「?!」


まさか、そんなはずはない。ありえない!


その少女は、みんなを通り過ぎてジーンを直視し、遊び盛りの子供らしく両手を後ろに回して明るい笑顔を見せる。


「こんにちは、ジーンおじいちゃん!」


「 キラちゃん?!」


間違いない、その顔はよく覚えている。キラを忘れることはできない!


心臓が胸の中で熱くなるようだ、僕の身勝手で死んだ少女が目の前に立っている。


彼女の魂が悩ませているのだろうか?それとも悪魔を正すために遣わされた天使なのか?


ともかく、これはチャンスだ。贖罪のための唯一の希望だ!


「キラ、すまなかった!あなたの叔父にふさわしくなかった...僕よりもっといい人がいたはずなのに...あなたが死んでしまったから、僕に贖罪の価値がないのはわかっている。キラ、どうか許して欲しい!」


屈辱のかけらもないジーンは、公道の真ん中で少女に土下座して懇願する。その振る舞いは、どんな熱心な宗教狂信者でも恥ずかしくなるようなものだ。


「...」


少女は無邪気に首を傾げながらジーンを見ている。それはさておき、彼女は小さく笑うと、さらに通りを走り出した。


「待って、キラ!置いていかないで!」


まだだ。まだ行かせられない!


たまたま行く手を阻む他の人々に対する礼儀のかけらもなく、彼女の鬼ごっこに付き合うことにしたジーンは、キラを追いかけて通りを行く。焦点はただ一人の人間だけに向けられていた。誰も、そして何もかも、どうでもいいのだ。


胸が熱くなり、息が切れ、体がついていかない。でも、必要なら死ぬ寸前まで追い込む!


キラとの関係を正さなければならない!そうでなければ、決して平穏を得ることはできない!


スタート地点から遠く離れ、キラは薄暗いトンネルにたどり着いた。このような場所、特に夜であれば、普通ならどんな少女でも想像するだけで身震いしてしまいそうだ。しかし、入り口で立ち止まったキラは、疲れ果てたジーンを振り向いた。ジーンが近くにいるのを確認すると、彼女は地面から浮き上がり、正面をジーンに向けたままトンネルの中に入っていく。


なぜここまで走ってきたのかしら?これやっているゲームなのだろうか?


昔、一緒に遊んだゲーム...


「なるほど、これが失われた時間を取り戻す方法か。得るべきだったのに、 僕が拒否したんだ 。優しすぎる 、キラ...」


小首を傾げ、顎に指を当てるキラ。


「いつまでもここに留まることはないと、わかっているよ。だから最後にもう一度だけ、あなたを抱かせてください」。


「...」


二人の距離は徐々に縮まり、ジーンはキラに手を伸ばしている自分に気づく。しかし、この目に見える抱擁の欲求は一方的なもので、キラはジーンを真剣に見つめ、両手を後ろに回して待っている。


もう一度だけ触れて。


もう一度抱きしめる。


もう一度だけ...きっとキラの純粋な魂が、僕の汚れた魂を浄化してくれる。


ようやく距離が縮まり、キラの浮遊が止まると、ジーンは少女の体を両腕で包み込み、彼女から発せられる明るい光を消すように目を閉じた。


「キラちゃん、やっぱり本当に君なんだ。自分勝手な行動でそうでないことは分かっているが、本当に愛していたんだ!こんなこと、今となっては何の意味もないけど、埋め合わせのためなら何でもするよ。僕に取り憑いてくれてもいい。キラちゃんへの贖罪のためなら何でもする!」


「 えーっ、何をギャーギャー言ってるんだ、おまえ?キラって誰だ?」


「?!」


聞き慣れない声がジーンの耳に響く。滑らかで、まろやかで、女性的な声だった。目を開けると、キラだと思っていた少女はもはや目の前におらず、吸血コウモリの亜人だった。


「わからないわ、イリーナ。たぶん誰かと間違えているんだろうよ。」


「まぁ、間違いはないよな、キラン。この少年は間違いなく、私たちが迎えに来た少年だ!」


同じように、ジーンに抱かれている女性の背後から、もう二人の吸血コウモリ亜人の女性が現れた。彼女たちのスケスケの服は、夜の冷たい風に翼をさらしていた。鋭く尖った白い牙が、桜色の唇の端から垂れ下がっている。


な...何者なんだ?キラをどうしたんだ?


「ふふふ、どうやらイリーナに気があるようね!」


「黙れ、レイヴン!もう離れろ、この変態!」


三人組の中で一番背の高い彼女が、ジーンを突き飛ばし、望まぬ抱擁から解き放った。ジーンは少し後ろによろめき、バランスを保つのがやっとだった。


「あんたたち...誰ですか?」


「なんだって?なぜためらった?私たちが亜人だからって、低く見るわけ?!」


「落ち着け、イリーナ。たぶん、あの少年は亜人を見たことがないのでしょう。少なくとも私たちとは違う。この辺りでは、人間なんて滅多にお目にかかれないんだから」。


「あら、彼は私たちのことをもっと知りたがっているわ。教えてあげようじゃないか、お嬢ちゃんたち?」


レイヴンのリードに従い、3人の吸血コウモリ亜人の女性が三角形の陣形に並ぶ。声をそろえて深呼吸をする。


「我々はバット・シスターズである!」


「だけど、正確には血の繋がりはなく、ただ親しい友人で--」


「レイヴン、自己紹介ではその部分を省略することに同意したはずだが。情報が多すぎるわ!」


「おっと、悪かったね、イリーナ。その場の雰囲気にのまれちゃった。」


レイヴンは舌を出し、イリーナは顔を真っ赤にして首を振る。目の前で繰り広げられていることがよくわからないジーンは、呆然と彼女たちを見ている。


こいつらアホか?もう地獄にいるのか?!


「はぁ、ひどいわ。私たちをバカだと思ってる!みんな、ここからは私がリードしよう」。


キランはチームの前に出て、ジーンと直接対峙する。


「プロとしての自覚に欠けていたことを心からお詫びします。ジーンさんですね?」


「 いったい何の用ですか?道に迷って、家に帰ろうとしているだけなんです。何も奪うようなものは持っていない」。


「それは違いますね。実際、依頼人はあなたからそれを取り戻すために私たちを雇ったのです」。


「 どういうことですか?その依頼主とは...?」


シュー


ドスン


どこからともなく、小さな弾丸が首に突き刺さった。少なくとも、それしか説明がつかない。とにかく、何か小さな物体が私に命中し、神経がつねられたような感じがする...


....そして僕の...


体が...


ドスン


「よし、こいつを壁に固定しろ」


キランの命令に従い、レイヴンとイリーナは倒れている少年を抱き上げ、生気のない体を引きずるようにトンネルの壁まで運んだ。


「...」


体が...動かない。眠っているような、でも意識はある。


声も出ない。


完全にコウモリたちのなすがままなのだ。


「イリーナ、任務は何だったっけ?」


「確か、彼の血液を採取するように頼まれたんだったわね。」


「必要なことだけを。そこは忘れてはいけない!」


「フン、『必要』という言葉はかなり主観的なものではないか?彼にとっては、一滴の血も必要なことなのかもしれない。でも、私たち吸血コウモリにとっては、血は常に必要なものなのよ!」


やっぱり血を狙っている......待てよ、これは救いだ!


僕の呪いは血管に流れる血だけど、彼女たちにとっては命の源なんだ!


ついにこの血から解放される!この重荷を背負うことはもうない!


「???」


雰囲気の変化を感じ、3人の女性は談笑を一時中断する。軽い赤面と歯の浮くような笑いが、彼女たちを戸惑わせた。イリーナは胸を隠す。


「ねえ、どうしてあの少年が笑ってるの?チッ、やっぱり変態だわね!」


「理由はどうでもいい。もう終わりにしましょう。彼の首を取るわ」。


「ちょっと、首を噛んでみたかったの!」


「前回もチャンスはあった。イリーナと二人で、腕を一本ずつ取るんだ。わかったか?」


「もう近づきたくない...」


「わかったわ、キラン、あなたがボスね...」


女性たちはジーンに近づき、完全に取り囲む。慎重に身をかがめ、彼の高さまでしゃがむ。


ビリビリ!


一気にジーンのシャツを引き裂き、腕と首を露出させる。アプリコットの肌に狙いを定め、吸血コウモリたちはそれぞれの体勢に入り、獲物に食い込むために口を準備する。


「さあ、いただきます!」


まるで蜂の巣をつついたかのように、鋭い牙をむき出しにし、最初の見た目の2倍にまで伸ばして、ジー

ンの柔らかい手足に歯を食い込ませる。


ごくごく


ごくごく


ごくごく


ごくごく


新しい感覚の麻痺のおかげで、何も感じない。


自分の体からの痛みもない。


ヘリアの体からの痛みもない。


速く、深く飲み込む音だけが聞こえる。


ごくごく


ごくごく


ごくごく


ごくごく


これこそ、望んだ最高の結末だ。


約束するよ、キラ...


...リカ...


... 兄さん...


...ヘリア...


...そして他のみんな...


ごくごく


ごっくん


ごくり


...来世で名誉挽回だ。


「あー、なんておいしいんだ!」


ジーンの目から最後の生気が消える。目は完全に封印されている...しかし、それでも小さな笑みはそのまま残っている。

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