初恋の味は…チリトマトヌードルですが何か?
初恋は甘酸っぱいって誰が決めたの?
彼は年下のクセに頭が良くて大人びていてドロドロ激しくて中学生の私はとまどいの連続で受け止められない!
この子ヤバいよ…逃げだしたい…はずだったのに…
11月の寒い日…高1の私はどうしようもなく彼に会いたくなり学校の帰り、小田急線に飛び乗り某駅で降りると神奈川の彼の家へとひたすら走った
私の通う学校は世田谷区にある私立の中高一貫高校でいわゆる女子高で家は最寄りの駅から5分くらいの徒歩通学
よって彼は湘南のK付属高校の生徒である
出会いは小5
当時私は父や母が買ってくれる華やかなワンピースを着て学校に通っていたが身体が弱く休みがちだったが成績はよかった
病弱な私をいつも心配してくれたA君はいろいろと優しく気遣ってくれたが…
ある日、クラスのグループのリーダー格の女子に呼び出され
「 A君が好きなの? C子ちゃんがA君のこと好きなの知ってるよね? 彼に近づくのやめなよ! 」
はあ? いきなり難癖をつけられ寝耳に水の私はしらけまくった
「くだらない…A君なんてなんとも思ってないよ そんなに好きなら本人に言えば? 」
ドスッ!!
いきなりお腹を蹴られ罵詈雑言を浴びせられた
「 こいつ…大人しそうな顔して生意気な女! 」
「身体が弱いかなんだか知らないけどいっつもヒラヒラした服着てきてばっかじゃない」
女の嫉妬は恐ろしい
それからというもの…毎日 休み時間になるとC子のお取り巻き達に囲まれ殴る蹴るのリンチがはじまった
捕まらないように6年生のトイレに隠れたり美術部だった私は美術室に避難して優しかった美術の先生に匿ってもらっていた
苛めにあっているのを親にも言いたくなくて毎日が憂鬱だった
その日、母親に嘘をついて学校に行くフリをした私は近くの公園で遊んで時間を潰していたがお昼過ぎになると一人遊びに飽きてきたので公園から出て歩きながら遊歩道の柵をピョンピョン飛んでいた
すると…いきなり靴が柵に引っかかってしまい思いきり派手に転んでしまった
痛い…
擦りむいた膝を見て突然 自分が惨めになり涙がポロポロと零れる
「あっははは…何、泣いてんだよ、変なやつ」
背後からの失礼な言動にムカっとした私は咄嗟に振り向くと同い年くらいの男の子が自転車にまたがり微笑んでいた
背の高い色白の美少年はサラサラの黒髪をなびかせ手を差し伸べてくる
「ほら、大丈夫か」
恐るおそるその手に触れると彼はギュッと力強く掴んでグイッと引っ張ると一気に私を立たせてくれた
「お前、学校行かないの?」
「つまんないから…嫌いだし…」
「ふぅん…ま、学校なんてくっだらねえよな」
「あなたは学校は?」
「ああ、俺、あいつらと気が合わねーし周りがガキで話が合わないんだ」
「そう…なんだ」
「ねえ、見た目、私と同い年くらいに見えるけどいくつ?」
「小4」
へ…?? 年…下…なの…こいつ…
「私は小5 なんだ年下なんだ」
正直…年下と思えないほど彼は大人びていたのでびっくりした
「なんだよ、1年しか違わないじゃん」
「それもそうだね」
お互い顔を見合わせ吹き出して笑っていた
その日を境にすっかり仲良くなった私達はしょっちゅう遊ぶようになったが私が中学に入学すると同時に互いに連絡を取らなくなり、会う機会もなくなり自然と疎遠になっていった
季節は巡り中2の夏…
クラスメートの友達に彼氏を紹介するから会ってほしいと頼まれ渋々その場に行くと…偶然、友達の彼氏の友人の中に彼がいたので驚いた
暫く会わないうちに背がスラリと伸びて声も低くなりシャツのボタンをはだけシルバーアクセをジャラジャラつけていた彼は茶髪のレイヤーが似合う危険な香りのする美少年に成長していた
当時、私もワルだったが学校では校則を守り成績優秀ないわゆる優等生で仲間と学校を出るとみつあみを解き彼の通うK付属高校の男子たちをボディガードに従えて毎日 歌舞伎町のゲーセンで遊んでいた
が昔でいうところの絵に描いたようなツッパリはバカみたいで嫌いだった
そんな私と再会して彼は
「綺麗になったね…彼氏、いるの?」
とストレートな質問をしてきたので正直に
「いないよ」
と答えたのが間違いだったのか…それからというもの彼は暴走し始めた
「きみが好きで好きでおかしくなる」
毎日のように学校の帰りを待ち伏せしては愛を囁き、情熱的にというよりストーカーのように他校の生徒でありながら大胆にも修学旅行先にまで追いかけてきたのにはびっくりした
雨に濡れながら私たちが泊っている旅館の前でずぶ濡れになって佇んでいる彼を見て放っておけず
私は先生に見つからないように彼を布団部屋に入れてタオルで髪を拭いてあげた
「こんな無茶なことして何考えてるの!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、だって逢いたくて…我慢出来なくて…お願いだから他の人と付き合わないで! 彼氏を作らないでよ」
ポロポロ泣いて謝る彼が可哀想になり…
わざわざ京都まで追っかけてきて…そんなに想ってくれるなら…
情にほだされた私は彼にすべてを許した
「嬉しい…ああ…嬉しいよ…」
泣きながら情熱的に囁いて口づけをしてくる彼に身体を預け…お互い初めてなのに不思議と痛みはなく熱い時間を過ごしたあとで…気だるい体を起こしながら制服を着ていると
「お願いだ! 他の男と絶対にしないで! 誰にも触れさせないでくれ」
いきなり真剣な顔で言われ「この子…ヤバい…ちょっとバカなことしちゃったかな…」
彼の真っ直ぐな情熱といきなりの独占欲が怖くなり私は少し後悔した
それから月日は流れ…
高1になり彼のしつこさにも慣れた私は当時、好きだったアーティストの写真集を本屋で見かけ彼に隠してもらいながらキャーキャー立ち読みして喜んでいると…
「勝手にしろよ!」
彼はキレてしまい私を書店に置いて猛スピードでスタスタ歩いていく
「待ってよ、ねえ…待ってってば…」
私の先を歩いてどんどん小さくなる彼を見て目眩がした
歩道橋を渡りながら突然、太陽が眩しくなり目が見えなくなって私は怖くてしゃがみこんだ
前を歩いていた彼は私が追いかけてこないのに気づくと慌てて駆け寄ってきて声をかける
「どうした? 具合悪いのか」
「こーちゃん、先にいっちゃうから…急に目が見えなくなって…」
彼の手が私の両目を優しく包んで
「平気だよ 一時的なものだからすぐに治る おんぶするから目、つぶってな」
背の高い彼は小柄な私を軽々とおぶって歩道橋を降りると近くの喫茶店に入り、私をそっと椅子に座らせた
「もう大丈夫だよ そっと目、開けてごらん」
こわごわ目を開けてみると心配そうな彼の顔が目の前にあり安心した私は泣き出してしまった
「お前が悪いんだぞ、他の男の半裸の写真集見てキャーキャー言うから…俺ムカついて…ごめんな」
「しゃがんで泣いていたお前を見て…反省したよ お前はなんて繊細で可愛い女なんだ!!」
「こーちゃん、ごめんね」
「愛してるよ…まき…」
彼への気持に気付いた私は彼の情熱を受け入れ毎朝4時起きしてはコソコソとキッチンでご飯を炊き部屋で特大のおにぎりを握って 早朝、駅のベンチで彼に食べさせた
食べて欲しかったというのが正しいかもしれない
早すぎて学校も開いていないので駅のベンチしかいられるところがなかったのだ
そして夕方、電話で話しながら些細な事で口喧嘩になり翌日、待ち合わせ場所に現れなかった彼が気になって私は学校が終わると同時に電車に乗り彼の自宅へと向かっていた
数時間後…少し驚いた彼は私を見て黙って中に入れてくれた
そのあと、彼の部屋で制服の上にコートを着たままキッチンに座り私たちは無言で何をするでもなくお互いの温もりを確かめ合うように ただ、ただ、ギユッと抱き合っていた
何時間そうしていただろう…
キュルルルル…
お腹を鳴らした私を見て彼は笑いながらカップヌードルのチリトマトにお湯を入れて持ってきてくれた
「1個しかないから…俺はいいから食べな」
その時の美味しさは一生忘れないだろう
生まれて初めて食べたチリトマトが物珍しかったこともあるけれど私はその日以来、カップヌードルはチリトマト一択だ
私にとって忘れられないちょっぴり辛くて酸っぱい初恋の味
時を重ねた今も変わらない
「まき~麺が伸びるぞ~」
昔に想いを馳せる私にだんな様のこーちゃんが熱々のチリトマトを運んでくれた
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最後まで読んで下さりありがとうございます
儚くなった妹の牧ちゃんと旦那様のおにいちゃんへの私の想いを込めたエピソードを小説にしたノンフィクションです
波乱万丈だった愛するふたりをずっと描きたかったので嬉しい私ですが妹は怒っているかも?