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『キミガスキ』  作者:
5/7

「オマエの手で ①」

基樹、美容理容専門学校1年目

響、音大1年目の夏―


基樹の家にて―


何とはなしにベッドに寝転ぶ基樹の目に留まったのは、響のさらりとした髪の毛だった。ベッドに寄りかかって雑誌を読んでいるから、形の良い後頭部がこちらを向いている。


「なあ、中村」


「んー?」


基樹の手が、ぱらぱらと伸びた響の襟足を掠める。


「髪、伸びてる」


「ああ」


響は読んでいた雑誌から顔をあげて、前髪の端を摘まんだ。


「そう言えば、この前切ってから結構経ってるかも」


「じゃあ!…あのさ…」


基樹はベッドから跳ね起きてそう切り出した。

だが、なかなか言葉が続かない。

響は訝しげに基樹の方を向いた。


「言いかけてやめるなよ」


「だって…」


「さっさと言わないと帰るから」


響は意地悪く口の端を曲げた。

それでも基樹はしばらく躊躇って、響を僅かに苛つかせる。

顔に似合わず、基樹にはこういうところがあった。優柔不断というか女々しいというか…。


「中村の髪、俺に切らせてくれねぇか?」


「…」


まあ、こういう予想外の不意打ち発言で全て帳消しになるのだが。


しかし、ここで素直に喜ぶような心根を響は持ち合わせてはいなかった。

息を飲んで答えを待つ基樹を、響は呆れ顔で見返す。


「それは僕に練習台になれってことか?」


「なっ、ちがっ…」


「違うことあるか。専門学校に行ってると言っても、お前はまだまだ、研修生見習いだろうが」


「研修生以下かよ!ってそうじゃなくてっ!俺は…」


基樹が言葉を飲み込んで視線を下げた。

それから、ごにょごにょと消え入るような声で続ける。


「…他の奴に中村の髪、触られるのが許せねぇ」


「バカ」


響は刹那の速さでそう言って、基樹の顔を覗き込む。

そこには困ったような表情の、真っ赤な顔があった。

それを見た響の心中に、何かが込み上げてきた。


「やっぱり…嫌だよな」


そんな風に、あからさまに残念そうに言われて、どうして断れるだろう。


「…別にいいけど」


「え」


基樹の頭が上がる。

丸い目が、響を見つめた。


「いいって…」


「切って、いい。何度も言わせるな」


響はふいと基樹から顔を背けた。



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