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『キミガスキ』  作者:
2/7

「バイオリン・ソナタとキミ」

昼下がり。

音楽室。

バイオリンの奏でる音。


高校生活中、何よりも心地よい時間だった。






音楽室の隅に置かれた掲示用の衝立の裏。

昼休みはここが基樹の居場所だった。


それはなにも、不良のような見た目と言動でクラスから孤立しているせいではない。

確かにそれは事実なのだが、一匹狼が性に合っているし、基樹は全く気にしていなかった。


ーガラッ。


音楽室の扉が開き、誰かが入って来た。


確認しなくても、それが誰なのかを基樹は知っている。

それから何をするのかも。

きっといつも通り、楽譜や楽器をゆったり準備して、そしてー。


中村響はバイオリンを構えて鋭く息を吸うと、弓を動かした。


やっぱり、いつもの曲だ。

コンサートで演奏するとかで、最近はこの曲ばかり弾いている。


基樹は衝立に身を預けて演奏に聴き入った。


速いパッセージを丁寧に追いかける指。

伸びやかなバイオリンの音色。

情感豊かに音楽を紡いでいくその表現力。


クラシックどころか、音楽自体に素養がない基樹でも、響の演奏の凄さは分かる気がした。

響が奏でる音には、人を惹き付ける力がある。

基樹もいつの間にかそれに引き込まれていた。


ーこれ、何て曲なんだろ。


響が弾き込むこの曲の名を知りたい。

ぼんやりとそう思った時、


「あっ!」


「!!」


響が突然声をあげて楽器を下げた。


ーバ…バレたか?


その場合どうしようかと、基樹はバクバクと音をたてる心臓を押さえつけ、思考回路を必死に回転させた。


しかし響は基樹の方に目もくれず、首をひねって楽譜を見詰めるだけだった。

どうやら基樹に気がついたわけではなさそうだ。

基樹は胸を撫で下ろす。


しばらく楽譜を睨み付けていた響だったが、ふと不敵な笑みを浮かべた。


「やっぱりベートーベンのバイオリン・ソナタは一筋縄じゃいかないか…面白い」


そう言って響は、また続きを弾き始めた。


ーベートーベンのバイオリン・ソナタ…


基樹はそれを忘れないよう響の奏でる音と共に、心にしっかり刻みこんだ。

この空間、この時間を響と共有していたことを記憶してくれる、特別な曲だから。


ーこの曲を聞くたび、俺は“今”を思い出せる。

高校を卒業して、もう中村と会えなくなっても、大切な記憶はこうやって失われない。


そう自分に言い聞かせた。


叶わない恋に一抹の哀しみを感じながら、基樹は響のバイオリンに再び耳を傾けた。








聞き覚えのある曲がリビングから流れてくる。

懐かしさが込み上げてきて、基樹は思わず包丁を握ったまま台所を飛び出した。


基樹がリビングに入ると、響はソファにもたれて目を閉じていた。


「おい、響」


基樹の呼びかけに、響が薄目を開ける。


「…お前は僕を刺し殺しに来たのか?」


「そのつもりなら起こさねぇよ。ってそれよりこの曲!!」


基樹はびしっと包丁をCDコンポに向けた。


「ベートーベンのバイオリン・ソナタだよな。もしかして演奏会でやんの?」


響は一瞬目を丸くして、それから堰を切ったように笑いだした。


「は?なんで笑うんだよ」


身に覚えのないことで笑われ、ふてくされる基樹を見て、響は更に笑う。

いい加減、包丁で刺してやろうかなどと考えていると、漸く響の笑いがおさまった。


「はは…悪い悪い」


響は眼鏡を外し、笑い過ぎて零れた涙を拭う。


「あのさ、この曲、メンデルスゾーンのバイオリン・ソナタなんだけど?」


「は!?だってお前が言ってたんじゃねぇか!?」


不満顔で抗議した基樹を、響がにやにやと眺める。


「いつどこで?」


「高校ん時に音楽室で!…あ」


何かに気が付いて、基樹の顔がみるみる青ざめた。


「まさか、響、おまえ…わざと?」


「ご明察」


「…てことは…」


ーこいつ、俺に気付いてた…?


「その通り」


「心読むなっ!!」


「いや、口に出してたから。昔からだよな、そのクセ」


「え…。まさか、あん時も…?」


今度は青い顔に一気に血がのぼる。

そんな基樹の様子を見て、響は楽しそうに笑っている。

基樹は恥ずかしすぎて、穴があったら速攻で入りたい気分になった。


「で…気付いてたってことは…」


「基樹の好意は、告白される前から知ってたってことかな」


付き合って五年目にしての真実を、響はあっさり言ってのけた。

基樹の中で、片思い中の思い出が走馬灯のように駆け巡る。

音楽室の一件は二年生の時のことだから、ずっと響は…。

そこまで考えて、基樹は恥ずかしくて死にそうになった。


「だから告白の時…。いやあの時のことはもういい!てか、俺に気付いてたんなら何で無視してんだよ!?」


照れを隠したくて、わざと語気を荒げる。

それを見透かしたように響は口の端を曲げた。


「お前の性格上、話し掛けたら来なくなっただろ、絶対。たとえ基樹みたいな客でも、いるほうが演奏のチベーション上がるしな」


「基樹みたいなって何だよ!?」


「言葉の通りだけど」


「…前から薄々感じてたけど、おまえ、性格悪いよな…」


精一杯の皮肉をこめるが、


「今更?」


と軽くあしらわれるのはいつものことだ。


「…ったく可愛いげのない奴だな…本当に刺すぞ、コラ」


基樹は顔をひきつらせ、悪戯半分に包丁を響に向けた。


「わ〜こわ〜い」


響はわざとらしくそう言って、身を捩って怖がる振りをする。

その様があまりに面白くて、基樹は思わず破顔してしまった。

キツい顔立ちの基樹も、笑うと愛嬌のある柔和な印象になる。



それを見て、ふと響が真顔になる。


「基樹」


「ん?」


「包丁置いて」


「何で?」


響はそれに答えず、基樹の腕を引いてソファに押し倒した。


「てめっ、バカか!!危ねーだろうがっ!!!!」


響の手が喚く基樹から包丁を取り上げる。


「だから言っただろ?置けって」


「じゃあ置くまで待てよ!」


「待てなかった。笑顔、可愛いくて」


「ばっ…んっ」


何か言いかけた基樹の口を、響は素早く塞いだ。

そのまま深く唇を重ねる。

基樹も素直にそれに応じた。


メンデルスゾーンのバイオリン・ソナタが鳴り響く中で、息を継ぐ間もないほど、二人はお互いの唇を求め合った。


「んっ…は…、響」


響は基樹の上衣を脱がせて、首筋に口づけた。

鬱血するほど強く吸って、基樹の身体に痕を残す。

その度、基樹がびくびくと震えるのが可愛くて、響は執拗に首筋を攻めた。


その一方で、ぷつんと立つ粒を片手で弄ってやると、基樹は目を潤ませ、響の背にしがみついてきた。


「ここ、気持ちいいの?」


そう言って、粒を弾いてやる。


「あっ…」


「気持ちいいんだな?」


「う…」


響は恥ずかしげに目を背ける基樹の顔を両手で挟み、自分の顔と無理矢理合わせる。


「ちゃんと言えよ…イイの?」


「…ほんと、おまえ、性格悪い」


「それ、誉め言葉だよね」


「ちがっ…ぅあっ」


言葉の途中、突然粒を舐めあげられ、基樹が大きく喘いだ。

ピンク色のそれは、響の唾液でいやらしく光っていて、基樹は益々恥ずかしくなった。


響は容赦なく舌で、手で刺激を加えてきたので、どうしようもない快感がせり上がってくる。


「響…やばい…」


無言で、響の片手が基樹の粒を苛めるのを止めた。

それを下に伸ばして、響は基樹に触れる。

基樹のそれは、既にジーパンがきつくなるほど屹立していた。


「早いね」


「…うるせぇ」


そう言った基樹の言葉に力はない。

響はくすくすと笑いながら慣れた手つきで基樹の下衣を剥ぎ取ると、熱を持って立ち上がったそれに触れた。


「…っ、はっ…あぁっ…」


与えられる刺激に、基樹は息を乱して喘ぐことしか出来なかった。響の愛撫は、楽器を扱うように丁寧だ。

そして的確に基樹の感じる所を攻めた。

一段と芯を持った基樹のそれからは、透明の液体が溢れ出して、響の手を濡らす。

響はその滑りを使って、さらに愛撫を続けた。

神経が剥き出しの敏感な部分を擦られて、基樹の身体の中心がジンと疼く。


「ひ…響、もう…でる」


「いいよ、イって」


「ふっ…ぁっ…んぁっ」


快感にびくびくと震えながら、基樹は果てた。白濁の体液が基樹の腹部を、響の手を汚す。

響はそれをすくい、固く閉じた入口に塗った。


「基樹、もっと脚開いて」


「ん…」


基樹は素直に脚を開く。

自分からそうするのに羞恥心はあったが、響を欲する欲望が勝った。


「…いい子だな」


からかう響の言葉に抵抗する気もない。


「…響、早くしろ…」


「分かったよ」


その言葉とは裏腹に、響は焦らすようにそこを撫でる。

中途半端な快感に耐えられず、基樹は腰を浮かした。


「何?催促?」


「…ちがうっ…」


響が意地悪く笑う。

指は変わらず入口を擦るだけだ。

基樹自身は、また熱を持って液体を溢し始めていた。

熱に浮かされ頭がおかしくなりそうで、基樹は涙ぐんだ。


「響っ…挿れて…」


堪えきれず訴える。


響は基樹の目尻にたまった涙を拭って、軽く口づけた。


「よく言えました」


言い終えないうちに、基樹の内部に響の指が侵入してくる。

散々焦らされて敏感になった基樹の内壁を、お構いなしに掻き乱す。

基樹は押し寄せる快感の波に溺れた。


「基樹、挿れるけど」


「っ…はぁ…聞かなくていい…」


「一応。後から文句言われるのは嫌だから」


「っ、早く挿れろよっ!」


「…了解」


響の指が引き抜かれた。

両手でがっちりと腰を掴まえられる。


入口に、熱いものが触れたと感じた次の瞬間には、基樹の中を響の欲望が貫いていた。

その衝撃の強さに、基樹は思わず響の背中にしがみついた。


「あぁ、っあ、んっ、んっ」


何度も何度も穿たれて、快感に意識が遠退く。

響も目を細めて、微かに息を乱しながら基樹の中を犯した。


「基樹…」


響のものが引き抜かたかと思うと、ずんと最奥を突かれ、頭の中に閃光が走った。


「んぁ…」


腹の奥にじわりと温かいものが広がる。

響が果てたのに数拍遅れて、基樹のそれもはぜた。


バイオリン・ソナタも丁度終盤を迎えたところだった。


基樹は滲む意識の中でそれを聴いた。


今までは、あの音楽室の思い出を秘めた大切な、それでいて片思いの切なさを蘇らせる曲だった。


そして、今またこの幸せな時間が上書きされる。


基樹はそれがたまらなく嬉しかった。


「響…愛してる」


疲れはて、基樹の肩に凭れる響の頭を撫でつつ、そっと囁く。


響は無言で、基樹を強く抱きしめた。



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