「告白」
ころりと消しゴムが机から転がり落ちる。
響は反射的にそれを拾った。
「あ…わりぃ。どーも」
基樹は受け取ろうと手を差し出す。
「どういたしまして」
そう言って、響は基樹の掌に消しゴムを置いた。
その時、微かに触れ合った肌に、基樹は言い様のない感情を覚えた。
それから二年後の春ー。校舎裏の桜の木の下に、基樹は響を呼び出した。
「俺、あんたのこと好きなんだけど」
基樹と響の間に、一陣の風がさっと通り過ぎる。
「………………………………………………………………僕は男ですので。じゃ」
「っ!!ちょっと待て!!」
去って行こうとする響の腕を、基樹が乱暴に掴んだ。
響は怪訝そうに縁のない眼鏡を押し上げる。
「まだ何か?」
「人の一世一代の告白に、なんつーリアクションだ!!!?」
「そう言われても…。あなたが勝手にしたことじゃないですか」
「そ…それは」
「それから、僕は男だから無理という反応、非常に理にかなってませんか?」
響の言葉に、基樹はぎっと唇を噛みしめた。
「…じゃあ、俺があんたのこと好きっていう感情は、理にかなってねぇってことかよ!?」
それまで無表情だった響の顔に、困惑の色が滲んだ。
「俺はずっとずっとあんたのことが好きだったんだ!ワリぃか!!」
感情が昂って、基樹の目頭があつくなる。
「誰も…悪い、とは言ってないんですが」
「うるせぇっ!!」
「まったく…」
目尻にたまった涙の粒を隠すために俯いていた基樹の顎に、ふと響の手が伸びる。
ぐいと顔を持ち上げられて、響の方を向かされた。
突然の事態に、基樹は赤らんだ目を丸くした。
そうしているうちに桜の木に体が押し付けられた。
いつの間にか、響の片手が腰に回されている。
「なッ…なんだよ!!」
声が上擦る。
響はくすと笑うと、基樹に口づけた。
基樹が目をむいて響の背中を叩いて抗議するが、聞き入れられない。そのうち、固く閉じた基樹のそれを響が啄むようにすると、徐々に体の力が抜けた。
気がつくと、基樹は夢中になって響の唇に応じていた。
響が唇を離す度、基樹の口から吐息が漏れる。
基樹の中に響の舌が入ってきて、甘く撫でるーと、基樹は膝から崩れ落ちた。
とっさに響の手が基樹の身体を抱きとめる。
「顔に似合わず随分純心で…正直驚きました」
響は苦笑して、基樹の耳元で囁いた。
基樹は赤くなる。
「うるせぇ…!中村、一体何のつもりだ!?意味分かんねぇ!!!!」
響は軽く蔑むように基樹を見やる。
「この状況で分からない?…じゃあ、鈍い頭でよーく考えることですね」
「おまっ…!」
「早くしないと帰りますよ」
そう言って基樹の身体から離れてしまおうとする。
基樹は慌てて響の背中に腕を回して、それを阻んだ。
「…つまり、こうしていいってことか?」
「さあ」
「~~~っ!ワケ分かんねぇ!!」
「あんまり大きい声出さないでくれますか?」
「あ、ワリ…って違うっ!!時間無駄にしたくなきゃ、話をそ…」
基樹の言葉を響のキスが塞いだ。
「じゃ、単刀直入に。僕もあなたが好きみたいです」
響のセリフに、基樹の頭は真っ白になる。
ただただ嬉しさが込み上げて、基樹は響の背中に回した腕に力を込めた。