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当日

当日の龍の宮は、早朝から多くの神でごった返していた。

その上、月の宮から王と王妃もその朝に戻って来ていたので、臣下達は大わらわだった。

元より、毎年のことなので、七夕祭りの準備はもう、出来ている。

会合の宮に皆を誘導すれば良いだけの話だし、後は、時間になったら維心と維月を、顔見世の場へと案内したら済むことだった。

今日は維心の機嫌が良いので、顔見世も長くなるかもしれない、と思いながら、鵬達はせっせと忙しく次々に到着する神達を案内して回っていた。

そんな最中、黒い洋風の輿が降りて来たかと思うと、そこからサイラスが降り立った。

鵬が、昼間の催しに珍しい、と思いながら迎えに進み出ると、サイラスの後ろから、着物に身を包んだ、ルシウスが降りて来た。

…え!

鵬は、仰天して慌てて頭を下げた。

ルシウスは、これまで一応、サイラスの城に一緒に招待状を出していたが、何を出してもなしのつぶてで、返事が返って来た事もないし、もちろん、出席したこともなかった。

それが、今回わざわざ出て来たのだ。

「サイラス様、ルシウス様。この度は、ようこそお越しくださいました。控えの間にご案内致します。どうぞ、こちらへ。」

サイラスが、言った。

「ああ、良い鵬よ。どうせ、大会合と同じ控えの間であろう?」

鵬は、顔を上げた。

「はあ、確かにその通りありますが。ルシウス様、サイラス様の左隣りのお部屋でございます。」

サイラスは、頷いた。

「だったら、勝手に行く。」と、ルシウスを見た。「参るぞ、ルシウス。」

ルシウスは頷いて、結局一言も発することなく、その場を後にした。

だが、サイラスの後ろについて歩く、ルシウスの姿は久しぶりに見たが、それは美しく凛々しい姿になっていた。

神と接して生きるようになって、あれこれ影響された結果、恐らくああなって行ったのだろうが、侍女や他の宮の皇女達が、それをボーっと見つめているのには、何か見覚えがあった。

そう、維月だ。

維月がここへ久しぶりに降り立ったのを見た皆が、同じように維月を見つめていたのだ。

…同じ属性の、男か。

鵬は、もしかしたら困った事になるかもしれない。

少し、警戒しておいた方が良いかもしれない、と思って、義心に相談しておこうと思ったのだった。


維心は、綺麗に着飾った維月を見て、大喜びで寄って来た。

「維月、なんと美しいことよ。このために織りの龍達に特別に織らせておいた布で仕立てさせたのだ。気に入ったか?」

維月は、苦笑して頷いた。

「はい、維心様。軽くしてくださったのですね。前より格段に楽になっておりますわ。」

維心は、何度も頷いた。

「そうなのだ。簪も、主の負担になってはならぬと、中を空洞にしたりと重量をとりあえず抑えるようにと、あれらに指示をしたので、少しは首も楽ではないか?」

維月は、頷いた。

「はい。誠にいろいろお気遣いくださって、嬉しいですわ。」

本当に、滅多にこちらへ来ないから、維心様はいろいろ私のためを想って作らせておいてくれたのだわ。

維月は、そこは素直に嬉しかった。

そこへ、公沙が来て、膝をついた。

「王。会場のご準備ができましてございます。」

維心は、公沙を見た。

「参る。」と、維月の手を取った。「大丈夫か?運んで参っても良いぞ。」

維月は、首を振った。

「いいえ、大丈夫ですの。」と、維月が言うと、スーッと足元に霧が寄って来た。「この子達に頼みますから。」

侍女達が、驚いて思わず下がる。

維月は、あら、と急いで霧達を隠すように着物の裾の中へと入れた。

「ごめんなさいね、驚かせたかしら。この子達は大丈夫よ、神に憑かぬように命じてありますから。」と、維心を見た。「霧達には、表に出ないように言い聞かせておきますわ。着物の中で使いますので、お許しくださいませ。」

維心は、霧を使うのか、と驚いていたが、表向きは平静を装って頷いた。

「では、参ろう。」

維月は頷いて、スッと浮くとスーッと維心の歩みに合わせて動き出す。

霧が、着物の中で維月を持ち上げて運んでいるらしかった。

維月は涼しい顔をして、そしてそのまま、会場までの長い道のりを進んで行ったのだった。


会場へとたどり着くと、維月が床へと足をつけて、途端に霧達は、どこかへスーッと消えて行った。

そして、維心と共に正面の扉を見ると、脇に立つ侍従が声を張った。

「龍王維心様、龍王妃維月様、お出ましでございます!」

ざわざわとしていた、会場がシンと静まり返った。

二人は、開いた扉を通ってその、広い檀上へと進んで歩いた。

…相変わらず、大層な神の多さだこと。

維月は、鈴なりになっている神々の姿にそう思った。

皆が皆、滅多に見られない龍王の姿を見るために、ここへ来るのだ。

だが、今日は何やら、自分にも視線を感じる気がする…?

維月がそんな視線を鬱陶しく思っていると、そこに祥加の声がした。

「東の大陸のユージーン様、西の大陸のディオン様、セレスティノ様、アンドレアス様、アロイシウス様、ファウスト様お越しでございます!」

西の皆様も来たのね。

維月が思って見ていると、六人がディオンを先頭に入って来た。

そして、皆が一様に驚いた顔をしたかと思うと、ディオンが言った。

「…維心殿。お久しぶりであるな。此度はご招待に感謝する。して、そちらが主の妃の陰の月か?」

維心は、誇らしげに頷いて、言った。

「そう。我の妃の維月ぞ。」と、維月を見た。「主は知っておるな。」

維月は、頷いて皆を見回した。

「はい。皆様、初めてお目に掛かりますわ。ですが、月からお話しておりますわね。」

アロイシウスが、脇から言った。

「その声ぞ!そうか、主はこんなに美しかったのだの。知らぬで毎回、無理ばかりを申してしもうて。」

維月は、フフと笑った。

「まあアロイシウス様、見た目などを重要視なさるのですか?」

維月がからかうように言うと、アロイシウスは途端に真っ赤な顔になった。

ファウストが、顔をしかめた。

「…何やらおかしな心地になる。なんと美しいのだ、陰の月と申すのは。」

だから、陰の月だからそう見えるだけだけどね。

維月は、心の中で思ったが、黙っていた。

すると、背後の扉がまた開いた。

「炎嘉様、志心様、焔様がお着きになられました。」

また来た。

維月が思ってそちらを見ると、そこへどやどやと三人が入って来た。

そして、ディオン達を見ると、言った。

「おお、主らも来ておったのか。」と、檀上を見た。「維心よ、本日は誠に多いぞ。まだ上に居る奴らも居ったわ。恐らく主の顔見世に間に合わぬな、あれらは。」

維心は、頷いた。

「そんなに長くはこちらに居らぬしな。」

炎嘉は、頷いて隣りの維月を見た。

そして、息を飲んだ。

「…なんだ、どうした維月よ。」と、ズンズンと前に出て来て、じっと傍で見た。「維月よの?どうなっておるのだ、主はこんなにこれ見よがしに色気のある様であったか。ちょっと見ぬ間に艶が出てしもうて。」

維月は、炎嘉は炎嘉だなと思いながら、フフと笑った。

「炎嘉様ったら。私は陰の月でありますから。ご存知でありますのに。」

その、含みのある言い方に、炎嘉はゾクッとするのを感じた。

維月は何もしていないのに、この腹の底から湧き上がって来るのような、衝動が起こるのは困ったものだ。

どうしようもなく、振るい付きたくなるような様なのだ。

すると、ユージーンが寄って来て、維月の手を取った。

「陰の月よ。常は我らの手助けをしてくれて感謝しておる。主に対面できるとは思うてもおらなんだ。何やら…我らは妻というものは持たぬで来たのに、それも良いのような心地にさせる。」

維月は、ユージーンを見て微笑んだ。

「まあユージーン様。それが我の仕事でございますので。欲を司り、皆が子を産み育てて学びを進めながら新たな学びを助けるために。世の繁栄を助けるのですわ。」

ユージーンは、微笑み返した。

「誠か。しかし主の献身は我には向かぬの。」

維月が、驚いた顔をする。

すると、維心が急いでユージーンの手から維月の手を引っ張って離した。

「維月は我の妃ぞ!目の前で言い寄るでないわ。」

ユージーンが驚いていると、炎嘉が慌てて割り込んだ。

「こら、維心。皆が見ておるではないか。落ち着け。」

維心は、炎嘉を睨んだ。

「これが落ち着いていられるか!」

志心が、落ち着いた声で割り込んだ。

「ならぬ。皆の前ぞ。」と、困惑している祥加を見た。「祥加、維心はもう下がるぞ。我らも行く。後は応接間にでも来させて挨拶させるが良い。分かったの。」

祥加は頷く。

炎嘉が、維心をせっついた。

「そら!皆の前で醜態を晒すでないわ。戻るぞ。」と、維月を見た。「主は大丈夫か。その着物で。」

維月は、頷いた。

「問題ありませぬ。」と、後ろを見ずに言った。「ルシウス。」

すると、いつの間にか来ていたルシウスが、サイラスから離れて寄って来た。

「御前に。」

「私を運んで。」

「御意。」

ルシウスが答えると、維心が慌てて言った。

「待て、運ぶなら我が運ぶ。」

だが、もう維月はその場にスッと浮いていた。

維月は、怪訝な顔をしながら、維心を見た。

「…霧がありますから。」

維月が言う。

維心が見ると、ルシウスは抱いて運ぶのではなく、自分の霧を使って維月を移動させようとしているらしい。

凄いのは、ルシウスの霧は、神に見えないように無色透明にできることだった。

だから、維月は大衆の面前なので、ルシウスにさせたのだと分かった。

そうしてそのまま、大層な面々は、奥の扉の方へと歩いて行き、その場から退出したのだった。

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