指南のために
維月達が散策から戻ると、王達は桜の下で楽しげに酒を酌み交わしながら、歓談していた。
妃達がそれぞれの王の所に戻ると、維心は言った。
「維月、楽しんだか?先ほど多香子がまた主に挨拶したいと言うてきておった。どうせならここへ呼んで皆に挨拶させるかと言うておったところだったのだ。」
維月は、え、と扇の上で目を上げた。
いくらなんでも、皆が勢揃いしている中に来させるなんて、ヤバくない?!
何しろ、そこからまだ宴が続くなら、同席していなくてはならないからだ。
なので、維月は答えた。
「何事も仰せの通りに。ですが、まだ我から学ぼうと思うておるのに、多香子殿にも大変にお気を遣われるのではないかと…案じられますわ。」
本来なら、とんでもないと維心に意見したところだ。
だが、妃として言えることは限られていた。
王達は軽く考えているのだろうが、あちらからしたら大変なことだ。
なので、なんとか気取って欲しいと、維月は維心に懇願するような視線を向けてそう言った。
維心は、伊達に長く添っているわけではないので、それで気付いたらしい。
なので、言った。
「確かに婚姻前に気負うのは、お互いにとり良いことではないやも知れぬの。ならば、皆への挨拶は正式に宮へ上がってからにしようぞ。」
維月は、ホッとして維心に感謝の視線を向けた。
「はい、王よ。」
良かった、維心様が察しの良いかたで。
焔が、言った。
「そうか、残念だの。どこまで出来るのか見たいとは思うたが、確かに恥をかかせることになってはな。」
そんな軽い興味でやめて欲しいのよ。
維月は、内心そう思っていた。
炎嘉が言った。
「主らは見ておるからそうだろうが、我らからしたら志心の妃なのだし、手遅れにならぬ間に見極めて、まずければ意見もしておこうと思うのよ。」
ギョッとして維月がそちらを見ると、志心が言った。
「何を案じるのだ。我が決めたことなのだから、信じぬか。問題ない、嫁いでから主らに挨拶させるわ。隠しておいたりせぬから、納得せぬか。」
炎嘉は、むっつりとした顔をしたが、そう言われてしまうと仕方なく頷く。
漸が、言った。
「まあ、我の母の妹なので、美しいし優秀ではあるぞ。気質が案じられるのだろうが、あれにしては懸命に励んでおるし、我とて意外だったほどよ。問題ないと思うぞ?後は嫁いでからであるからな。我とてそうだったが、共に居らねば分からぬこともあるものぞ。」
それには、翠明が口を挟んだ。
「それはそうよ。我とて前の綾があちこち面倒がられてとんでもない女だと思いながらも、哀れであるからと娶ったが、それは大した妃になった。王妃にまでしたしな。回りの評価など、あってないようなものぞ。」
確かにそうだった。
維月は思って聞いていた。
今の綾も、それを黙って聞いているが、思い出しているのだろう。
翠明は、あれだけ仕方なく娶ったのに、最後には綾が亡くなったことをそれは悲しんで、政務もままならなくなった。
そして、綾はあちらからそれを見て、翠明を案じて記憶を保つ術までかけさせて、転生して来たほどなのだ。
それを知るのは、王と妃の中では維月だけだった。




