表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/198

交流を

維月は、そんな様子を部屋で裁縫をしながら見ていた。

…維心様は、とても頭のよろしいかたなのだわ。

維月は、そんなところも慕わしい、と思った。

そんなにあれこれ、初めてで考えられる能力が凄いと思ったのだが、しかしそれを、もうとっくに知っていたような気もする。

不思議な心地だった。

聞いていると、ジェンガをしようということらしい。

それはそれで見てみたいとも思ったが、それでも昨日は、妃達の前で倒れてしまったのだ。

人狼ゲームの時には居なかった妃達も、応接間に移れば同席するだろう。

そうなると、やはりまた会話の中でいろいろ思い出して、また倒れてしまうかも知れない。

また、騒動を起こすのは、嫌だった。

そこへ、恒が入って来て、言った。

「あのね母さん、これからジェンガだって。母さんも来る?って蒼が聞いてるけど。」

維月は、フフと笑った。

「見てたから知ってるけど、また倒れたらダメだし止めておくわ。それより恒、あなたも立派にやってるのを見て、蒼の重臣なんだなあって思ったわ。昔から、五人の中で一番要領の良い子だったけど、あなたが居たら蒼も安心ね。ホッとしたわ。」

恒は、笑った。

「ええ?もう母さんは。オレもう、あの頃から何百年も生きてるんだよ?子供じゃないんだから、そんな心配要らないのに。それより、じゃあ断っておくね。そういえば、綾様が気にしてて、話がしたいって言ってたな。妃の方々は、応接間に残って話してられたんだけどね。侍女がさっき、オレにそれを機会があったら伝えて欲しいって言って来てた。」

綾様が…。

多分、気にしてくれているのだろう。

維月は、頷いた。

「もし、抜けて来られることができるのなら、こちらでお待ちしておりますとお伝えして。私も着替えておくわ。いつ来られても大丈夫なように。」

恒は、頷いた。

「わかった、じゃあね。」

恒は出て行く。

維月は、その後ろ姿を見送って、自分はいったいどこまで覚えているのだろう、と考えていた。


蒼達は、応接間に戻って前の畳の上に王達全員で移り、ジェンガに興じていた。

妃達は、こちら側の畳の上で相変わらず几帳の中に集まって座り、観覧しているだけだ。

それでも、あちらはあちらで話していて、楽しそうだった。

…前までなら、維月が茶会を開いたり妃達にも別の楽しみを用意していたのに。

蒼は思ったが、仕方がない。

恒に呼びに行かせたのだが、結局また倒れてはと案じて、維月はこちらへ来なかった。

綾が、それを聞いて翠明に言って場を外して戻ったので、恐らく控えの間に戻るとは言っていたが、維月に会いに行ったように思う。

それならそれでも良かったが、ジェンガに前向きだったように見えた維心は今、あまり気が乗らないようだった。

炎嘉が、言った。

「…維心。主の番ぞ。」

維心は、ハッとして頷いた。

「ああ。」

そして、一本木の板を引き出す。

焔が、それを見て言った。

「なんぞ、上の空だの。まあ、主はさっきから倒す様子もないようだし、退屈なのかもしれぬが。」

維心は、板を上に乗せてから、言った。

「…いや、少し疲れたなと。一度控えに戻ろうかと思うておる。」

漸が、言った。

「昼寝か?まあなあ、我も疲れたしちょっと寝ておきたい心地なのだ。頭を使ったしなあ。」

焔が、言った。

「はあ?主らは狼で我らほどわけが分からぬわけでもなかったであろうが。まあ良い、ならば一度戻るか。」

駿が言った。

「我は全く疲れてなどおらぬのに。初日に襲撃されたゆえ、御簾の中から見ておるだけであったし。」

蒼が割り込む。

「だったら、戻りたい方だけ戻って。他はここで楽か何かやっておきます?まだ昼過ぎたとこだし、夜まで長いですしね。」

炎嘉は、頷いた。

「ならばそうしよう。」と、駿を見た。「駿、あのゲームでどうやったら勝てるのか考えておかぬか。我ら一人も狼を追放できずでいたしの。その上で、またやろう。維心が戻るならちょうど良いわ、こやつには考える隙を与えぬ方が我らも同等になって戦えるようになろう。このままでは、また負ける。必勝法があるはずよ。」

焔が、言った。

「ならば我も!残って共に考える。戻りたい奴だけ戻ったら良いではないか。皆でその必勝法とやらを考えよう!」

維心は、苦笑しながら立ち上がる。

「数の多いゲームでは、誰が頭が切れるというて、勝てるわけでもないのだぞ。我が思うに、説得するだけの技術よ。炎嘉は一番強いはずなのだ。後は、考え方ではないか?」

言われてみたらそうか。

維心に教えられるのは面白くないが、それでもその通りな気がする。

炎嘉は、頷いた。

「そうだの。そこのところを考えておくわ。主は戻れ。次は負けぬからの。」

維心は、歩いて畳から降りながら言った。

「また敵だとは限らぬのに。まあ良い、ではの。」

維心は、応接間を出て行った。

結局、妃達は戻って行ったが王達は維心以外は残って、そうして人狼ゲームでの勝ちを目指して意見を出し合うことになったのだった。


維月は、部屋に綾を迎えていた。

綾は、心配そうに入って来たが、維月が元気そうなのでホッと肩の力を抜いて、頭を下げた。

維月は、微笑んだ。

「綾様。嬉しいわ、訪ねてくださって。どうぞお座りになって。」

綾は、顔を上げて言った。

「案じておりましたわ、維月様。一度に我らがお目通りしたばかりにと、皆案じて…ですが、もうお元気そうですわね。」

維月は、頷いた。

「もう大丈夫ですの。皆様にはせっかくのお正月であるのに、あのような場で倒れてしもうて水を差すことになってしまい、申し訳ない心地でありましたの。本当に…記憶が落ち着くまでは、まだまだ掛かりそうですわ。」

綾は、椅子に座りながら言った。

「お顔を拝見できて、皆とても喜んでおりましたのよ。そのようにおっしゃらないで。それより、香は大変に良いと皆が申しておりましたわ。梅は正解でありましたわね。」

維月は、フフフと笑った。

「はい、誠に。我も綾様の香を試してみたかったですわ。」

綾は、言った。

「まあ。我のもので良ければ後で届けさせますわ。王はようできたと褒めてくださるのですけど、あの方は何でも褒めてくださるので分かりませんの。率直な感想が聞きたいのですわ。」

維月は、また笑った。

「あら。翠明様には綾様にご執心であられるから…何をしても良いと感じられるのですね。羨ましいこと。」

十六夜なんて、とりあえず褒めるけどよくわからんけど、と付け足すので台無しなのだ。

綾は、答えた。

「まあ。でも維月様とて…」と言い掛けて、はたと止まった。「…いえ、またご記憶が混乱なさるし。思い出してからに致しましょう。」

維月は、そういえば綾は親友だったのだから、いろいろ知っているはずだった、と身を乗り出した。

「綾様、我はもしや龍王様と深く交流しておったのでは。」え、と綾が驚いた顔をする。維月は続けた。「少しは思い出しましたの。でも、十六夜も自分で思い出して決めたら良いからとか言うて詳しくは話してはくれなくて。実は晦日大晦日と維心様から文が来て、返してと、やり取りを繰り返しておって。昨日、お庭を共に歩いておりましたの。そうしたら、確かに我は…何度も維心様とそのように過ごしておったと分かって。それでも詳しいことは何も教えてくださらないので、わからないのですわ。」

維月の真剣な顔に、綾は困った。

とっくに、それこそ綾と翠明よりも先に婚姻して子もそれは多く成されているのだと、ここで言ってしまっても良いのだろうか。

だが、十六夜も維心もハッキリ言わないものを、ここで言ってしまったらまた倒れてしまうかもしれないのだ。

綾は、息をついた。

「…申し訳ありませぬわ。存じておりますが、十六夜様や龍王様がそのように申されるのに、我から申し上げることなどできぬのです。とはいえ、龍王様には大変に素晴らしいお方。維月様がよろしいのなら、ご交流なさって良いのではないでしょうか。」

綾は知っているのだ。

それでも、言えないのだろう。

維月は、ため息をついた。

「はい。誠に…早う思い出したい心地ですわ。何故に何も覚えておらぬことか。」

本当に。

綾はそう思いながら、維月を見つめた。

龍王妃を降りてから、維月とは滅多に会うことも話すこともできずにいた。

陰の月として、あらゆることに対応して世を守っていたためだ。

綾は、またこうして穏やかに話せる時が続くのなら良いのにと、維月の記憶が戻って欲しいような、欲しくないような複雑な心地でいたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ