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御簾の中の思惑など伝わらず、公明が吊られて、夜時間が来た。

狼達が、出て来る。

蒼が、明るい顔で言った。

「やりましたね!勝ちですよ、今夜襲撃が通らなかったとしても!誰を襲撃します?いっそ維心様に分かりやすいように、箔炎様を襲撃するのもありですけどね。もうどっちにしろ勝ちなので。」

志心が、フッと息を吐いた。

「そうか、勝ちか。良かった、そうだの、九人になるし、維心を併せてこちらは五人、票で負けることはないな。狩人は生き残っておらぬだろうの?箔炎を守っておったら面倒ではないのか。」

蒼は、首を振った。

「それでも10人ですから。五人五人で票がきっちり分かれて吊りナシになります。そうしたら、その夜また箔炎様を襲撃したら終わりです。同じ人は連続で守れないので。」

翠明が、息をついた。

「終わったか。狼を引いた時にはどうなることかと思うだが、案外楽に勝てたの。とはいえ、もう狼は懲り懲りよ。」

漸は、頷いて恒を見た。

「では、箔炎で。」

恒は、頷いた。

「はい。それではお戻りください。」

皆が、箱に向かう。

全員が、もう狼は嫌だと思っていたが、とりあえず勝てたので良かったと思っていたのだった。


次の日、箔炎が居なかった。

議論時間は6分だ。

それを見た樹伊が、もう諦めたように言った。

「…箔炎が襲撃されたから分かるだろう。公明は白。」

もう、同時に出そうという気力もないようだ。

維心が言った。

「公明は黒ぞ。我から見たら、箔炎は狂人だったということよな。つまり、必然的に翠明が真占い師で蒼、漸は白。」

翠明は、言った。

「志心もな。今回は志心が白よ。」

焔が言った。

「そんなはずはあるまい?!箔炎が襲撃されたのだから、あれが真占い師だったのだ!今残っておるのが蒼、漸、翠明、志心、渡、樹伊、維心、高彰、我の九人ぞ。となると…どうなるのだ?もしや…狼の数が多い…?」

志心が、言った。

「…その通りよ。焔、我らが狼ぞ。蒼、漸、翠明。そして、維心が狂人よ。主らに勝ち目はない。だからこそ、昨夜箔炎を襲撃した。維心がどちらについたら良いのか分かりやすいようにな。維心は己が狂人であるから、箔炎が狂人ではないのを知っておる。ゆえ、箔炎が襲撃されて我らが狼だとわかったのだ。」

焔が、愕然とする。

渡が、言った。

「…ならば数で負ける。今夜の投票、いくら我らが票を併せても狼陣営の数には勝てぬからの。終わりぞ。」

蒼が、頷いた。

「今夜の投票は、樹伊に集めてください。」蒼は、維心を見た。「どれぐらいから分かっておられましたか?」

維心は、苦笑した。

「初日にの。主がやたらと話すゆえ、疑われてはならぬと必死なのだなと蒼が狼なのではと思うた。そもそも主、あまり話す方ではないしな。そうなると、翠明が偽物であるから、それが疑う所は白だろうと思うた。二日目も、やたらとグレー吊りを押すので囲ったなと思うた。ゆえ、漸も狼だろうと考えた。志心のことはわからなんだ。だが、聡明な志心が昨日、霊媒吊りをおさなんだゆえ、これは志心もかとは思うたがの。なので箔炎を噛まずとも、我は公明は黒と言うつもりであった。当たっておって良かったわ。」

焔が、苦々しい顔をした。

「…やはり霊媒から吊るのが正着か。」

維心は、頷く。

「その通りぞ。まだ狼陣営が落ちておるのか分からぬのに、放置して良いはずはない。我なら初日から霊媒を吊り切り、その上で占い結果を出させて精査して行ったと思うぞ。そうでないと、縄が足りぬからな。昨日ああ言ったのは、万が一のことに備えて我と樹伊を吊らせている間に、狼に何とかさせようと思っておったのだ。恐らく囲われておるから、グレー吊りとか何とかで流して行けるのではと思うてな。」

手の平の上だった。

皆が項垂れていると、恒が言った。

「…投票時間です。どうぞ。」

渡が、手を振った。

「もう、樹伊で良いわ。どうせ勝てぬ。」

焔も、頷く。

「全員が樹伊に入れるのだろう?だったら、我も樹伊に入れる。もう負けなのだし、次ぞ次!」

樹伊が、顔をしかめた。

「我は翠明に。己に入れられぬからの。」

維心は、苦笑した。

「樹伊に。」

「樹伊。」

「我も樹伊。」

そうやって、全員が次々に迷うことなく投票して行って、終わったと思うと、恒が言った。

「では、樹伊様が追放となります。これにて、狼と村人の数が同数となりますので、狼陣営の勝利です。」

終わった。

皆が、ホッと肩の力を抜く。

すると、御簾がスルスルと上がって、そこから炎嘉が飛び出して来た。

「主らな!なぜに翠明を信じるのよ、箔炎の白先ばかりが襲撃されておるのに!翠明の白先は、全部狼であったのに!」

維心が、クックと笑って炎嘉を振り返った。

「主、狩人であったのではないのか?」

炎嘉は、え、と足を止めた。

全員が、炎嘉を見る。

「え、炎嘉、主あれだけ狩人は出ないのかと言うておいて、狩人であったのか?」

焔が言うと、炎嘉は、むっつりとした顔をすると、また足を進めた。

「…そうよ。ああいうたら我が狩人であるとは思うまい?我を怪しいと言うて吊り先にしようと襲撃されぬと思うて、わざとあんな風に振る舞ったのに、バレておったのか。」

維心は、答えた。

「誰も狩人の事など気にしておらぬのに、主が初日からやたらと狩人の事を口にするからぞ。どうあっても己がそうではないと印象付けたい、狩人ではないかと思うたわ。狩人を探すより、狼を探さねばのう。」

炎嘉は、どっかりと椅子に座る。

志心が、言った。

「主は初日にそう思うたのか。我らは、まんまと違うと思うておったのに。だが、二日目の朝に駿が襲撃されておるのを見た時に、炎嘉だけが悔し気な顔をしたように見えた。ゆえ、もしかして狩人かと。心の中の裏返しだろうと思うたのは、なので二日目で、だから襲撃したのよ。狂人とも話せたら、もっと早う処理できておったやもしれぬな。」

箔炎が、言った。

「もうならぬ。維心が居ったらこのゲームは成り立たぬ。こやつ、あれこれ頭が回り過ぎるのだ。初めてやったのだろう?それを、ようあれこれ相手を見て少ない情報の中で判断がつくの。感心するわ。」

確かに、維心の洞察力と判断力を持ってしたら、この初心者だらけの中ではまずいかもしれない。

今のゲームも、もし維心が村人陣営だったなら、初日からガンガン狼が吊られてしまって勝負にならなかったかもしれなかったのだ。

蒼は、息をついた。

「そうですねえ…。何回もやるのはちょっとと思われるなら、別のゲームでもしますか?簡単なやつがありますよ。維月が、人世からジェンガという木の板を積んだものを、倒さずに引き抜いて行くゲームを十六夜と一緒に入荷して来てくれて。シンプルですけど、面白いと思いますよ。」

炎嘉は、息をついた。

「本来ならどうしても維心を負かしてやりたい心地であるが、こうも徹底的に負けるとな。やる気の問題ぞ。悪くはないが、この遊びはまたの機会にするか。応接間へ戻って、そのジェンガとやらをしようぞ。どうか?」

それを聞いた維心が、炎嘉を見てクスリと笑った。

「…我に敵わぬと?主はそう思うのか。」

炎嘉は、ムッとした顔をした。

「何を?違う、この遊びは独りでやるものではないからぞ!主と一対一なら負ける気がせぬが、この遊びではそれができぬからという意味よ。勘違いするでないわ。」

維心は、笑って立ち上がった。

「分かった分かった。負けを認めとうないのだの。次の遊びで、勝てると良いな。」

炎嘉は、歯ぎしりした。

「維~心~!主はもう!」

蒼が、慌てて言った。

「あの、じゃあ場所を変えましょう!戻りますよ、酒もまだまだありますし、洋酒はまだ飲んでいないのがありますでしょう。」

焔も、急いで言った。

「そうよ!そら、なんか…ええっと、柑橘の汁で割ると旨いとか蒼が言うておったリキュールという酒とか。維月が好むとか言うておった。」

蒼は、焔に感謝して話を合わせる。

「そうなんだよ、甘い酒でね、カシスっていうんだけど。維月も呼ぶかな。」

維心が、さっさと歩きだす。

「ならば我もその酒を飲んでみたいもの。参ろう。」

全員が、それにつられて移動し始めた。

恒は、思ったより早く終わってラッキーだった、と、他の侍女や侍従達と、さっさと片付けを始めたのだった。

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