人狼
「この際だから、もう全部出たらどうか?」炎嘉が言う。「どうせなら狩人も出てしもうて白の奴を増やした方が良いだろう。」
すると、志心が言った。
「だが、そうなったら真っ先に狩人がやられて、襲撃し放題になるではないか。狩人は、生き残ってこそではないのか。」
炎嘉は、顔をしかめた。
「蒼が占い師で二人出たらとか言うておらなんだか。どっちが偽物なのか狼には分かっているのだろう?それがバレないために、襲撃できないはずぞ。こうなったら白の奴を増やす方が得策ぞ。出るべきだと思う。」
蒼が、慌てて言った。
「待ってください、もし偽物が狂人だったら、狼にはどちらが真占い師なのかわからないはずですよ。仮に白だと言った相手が、狼ではない限り。」
高彰が、言った。
「そうか、偽物の占い結果はあてにならぬのだな。では、駿と蒼はまだ、黒の可能性があるわけだ。」
蒼は、頷く。
「オレはオレが白だと知ってるが、他の方々にはわからないから。」
渡が、息をついた。
「…分からぬ。では、とにかく炎嘉が言うように、我も役職持ちは出ておくべきだと思う。本日誰かを追放せねばならぬのだろう?だったら、白の奴を増やしておかねば間違って追放してしもうたらまずい。」
すると、維心が、言った。
「我が霊媒師ぞ。」え、と皆が維心を見る。維心は続けた。「できたら狩人には我を守ってもらいたいものよ。明日の結果を皆に知らせたいからの。」
だが、それを聞いた樹伊が、顔色を変えた。
「え、我が霊媒師なのだが。我を守ってもらいたい。」
え、と皆が樹伊を見る。
霊媒師も二人。
維心は、言った。
「ほう。ということは、主らから見てどちらかが偽物。狼陣営は五人で、そのうちの二人が役職に出ておることになるの。何もない奴らの中には、三人残っておることになる。」
蒼が、言った。
「何もない、つまりは占い結果も出てない色がついてない方のことを、グレーといいます。グレーは広いですよね。役職に四人、占いの白結果二人で合計六人が何らかの色がついてることになるので、グレーは九人です。この中から三人となると、結構な確率で狼が追放できるんじゃないですか?」
炎嘉が、顔をしかめた。
「…駿と蒼が誠に白だったらだがの。」炎嘉は言う。「とはいえ、そこに囲われていたとしても九人の中に二人は居る。狩人は?出ないのか。」
皆が、顔を見合せる。
どうやら、狩人は出るつもりはないようだ。
炎嘉は、ため息をついた。
「ならば、追放されぬように踏ん張ることぞ。どうする?別に二分の一で狼陣営の奴を追放できるのだから、役職から追放しても良いが、間違ったらまずいよの。正確な結果もなく、結局運任せになるだろう。占い師だけは何としても最後まで残しておくよりなかろう。霊媒師は、最悪どうでも良いが。後出しだしな。」
蒼が言った。
「役職は、最悪確かに真を追放したらまずいので、初日はグレーからで良いんじゃないでしょうか。15人なので、7縄ありますし。」
焔が、顔をしかめた。
「縄?」
蒼が、あ、と言った。
「ああ、追放って吊り縄に掛けるって言うんだよ、このゲームでは。その縄数ってこと。この人数だと7縄で5人の狼陣営を吊るって感じで。2縄間違っても大丈夫で、それだけ余裕があるんだ。」
ふんふん、と皆が頷く。
渡が言った。
「吊り縄に掛けるとは穏やかではないの。吊られとうない心地にさせるわ。」
維心が、時計を見た。
「…後2分だぞ。」言われて、皆がハッと時計を見る。維心は続けた。「ならば、グレーから適当に投票するのだな?黙っておる奴、話さねばまずいぞ。どこか怪しいとか、占い師、霊媒師で怪しいのはどっちだとか、何でも良いから話さぬか。」
確かにまずい。
漸が、言った。
「これまでに狼らしいことなど何もないではないか。とはいえ、炎嘉がやたらと狩人を出したがるのが気になるの。狩人は、己を守れぬのに真っ先に失うと後々困るのではないのか。狩人を何としても始末したい狼に見えぬでもない。」
それには、翠明も同意した。
「確かにの。我など占い師で狩人が居なくなったらいつ襲撃されるのかと思うのに。渡も出したいとか言うておったし気になるの。他は話しておらぬから分からぬ。」
蒼が、言った。
「…でも、話す方は後で色が分かりやすいので置いておいた方が良いと思うんですよね。初日は、間違っても何とかなるので全く話さなくて色が見えない所を吊って、霊媒師に色を見てもらうのが一番良いと思うんです。どうしても気になるなら、炎嘉様と渡は、占ってもらうのがいいかも知れませんよ。」
うーん、と皆がお互いの顔を見る。
維心が言った。
「…塔弥と仁弥。主らは?話さねばこういう時に遠慮していたらまずいぞ。」
塔矢が答えた。
「分かっておるのですが、何が何やら。情報が少なすぎて全く分かりませぬ。」
そこで、恒の声が言った。
「…昼時間終了です。」え、と、皆が時計を見ると、確かに0になっていた。恒は続けた。「では、投票です。決まった方から順に、理由を話しながら誰に入れると言ってください。」
もう時間か。
全員が、困った顔で椅子にそっくり返った。
誰に入れたら良いのかなど、もう分からなかった。
維心が、真っ先に言った。
「…考えても今の情報では狼の位置など分からぬ。ここは、グレーを減らすためだけに投票しよう。我は、仁弥に投票する。このまま残っても結局色がわかりづらいからぞ。」
維心は、飲み込みが早い。
蒼は思って、頷いた。
「そうですね。オレもその考えから、そうだな、じゃあ黙ってた公明に。」
公明は、驚いた顔をした。
「我は狼ではない。では、我は仁弥に。」
次々に投票していく。
炎嘉は、眉根を寄せていたが言った。
「…ならば、我は公明に。寡黙な奴の中で偏るとならぬしな。」
そうして、投票は進んで行き、気が付くと結局、その日は仁弥が追放されることになった。
「本日は、仁弥様が追放されます。何か言い残したいことがあったらどうぞ。」
仁弥は、息をついた。
「特にない。我は狼ではないぞ。それだけよ。とはいえ、何も分からぬからこれで良かったのやも知れぬ。」
恒は、頷いて仁弥に言った。
「では、こちらへ。御簾のお席にご案内致します。その他の皆様は、また箱にお戻りください。夜時間です。」
全員が、頷いて立ち上がる。
仁弥は、侍女に案内されて御簾の中へと移動して行った。
恒は、また一つ一つ箱を回ることになったのだった。
箱の中では、恒が来るのを待ちながら、炎嘉は考えていた。
…我が狩人だとは、誰も分かっていないはず。
炎嘉は、思った。
疑われながらもああして狩人を出そうと言ったのも、襲撃されるのを避けるためだ。
今のところ、誰がどうなのか全くわからない。
議論時間が思ったより少ないので、皆の話を聞くことはできなかった。
誰を襲撃するつもりぞ。
炎嘉は、眉を寄せて考えた。
占い師は、恐らく襲撃されない。
なぜなら、対抗に偽物が出ているからだ。
真占い師を襲撃したら、己が偽物だと言っているようなものだった。
…維心か。
炎嘉は、思った。
本物ならば、かなり脅威だと考えるので、維心が襲撃されるだろう。
だが、樹伊が偽物で出て来る根性があるだろうか。
悩んでいると、恒がやって来て、言った。
「では、炎嘉様、今夜は誰を守りますか?」
炎嘉は、苦渋の顔で言った。
「…樹伊。樹伊にする。15ぞ。」
恒は、頷いた。
「分かりました。では、またここでお待ちください。」
炎嘉は頷いたが、これが良かったのか悪かったのか、全く分からなかった。
箱の外の様子は、相変わらず全く分からなかった。




