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舞台装置

大広間へと到着すると、蒼の話していた箱という意味が分かった。

そこには、真ん中に椅子が間隔を開けて半円を描いて置いてあり、その背後に、また半円を描いて畳1枚ほどの大きさの、箱が立ち並んでいたのだ。

全部で15あり、椅子も、その箱の戸も全てがこちらを向いていた。

「…なんだこれは?」焔が、さすがに驚いて言う。「この箱に入れとか言うまいの。」

蒼は、答えた。

「そのまさかだ。この箱には月の結界が一個一個施してあるので、中を見通すことはできない。中に居たら、外を見通すこともできない。つまり、外で何が起こっているのかわからない。狼とか、役職が行動する夜時間に、ここへ個別に入ってもらうんだ。ゲームマスターの恒が、一人一人役職の箱を回って話すよ。狼は、夜時間に外に出て話し合うことができる。」

炎嘉が、顔をしかめた。

「ここに籠められている夜に、狼に襲撃されたらどうなる?」

蒼は、答えた。

「追放されたり、襲撃されたらあちらの御簾の中に行って、見守って頂きます。その際、一切こちらの会話に入ることはできません。生き残っているもの達だけで話し合ってもらうことになります。」

そこへ、恒が御簾の向こうからやって来て、言った。

「ああ、皆様お揃いですか?どこでも良いですよ、番号がふってあるので、好きな番号の箱に入ってください。そこに、役職カードを既に置いてあるんで、始めましょうか。」

蒼は、恒を見た。

「え、もう置いてあるのか?」

恒は、頷いた。

「だって、誰が先に引くとかまた揉めるかなって。早い者勝ちだから、蒼もどこでも入ったら?」と、皆を見た。「蒼から説明聞いていますよね。箱に入ったら夜時間ですので、オレが良いと言うまで出てこないでください。役職のことは、これから夜時間の間に説明して回ります。」

炎嘉が、側の戸へと歩いた。

「…残り物で狼であったら目もあてられぬから、我は己で決めてこれにする!じゃあの、皆もさっさと決めて入れ。」

炎嘉は、バタン、と音を立てて箱の中に収まった。

慌てた焔が、側の戸を引いた。

「なら、我はこれ。ではの。」

さっさと入って行く。

志心が、気を遣って塔矢と仁弥を見て言った。

「主ら、好きな場所を選ぶが良い。」と、維心、漸、箔炎、渡、駿、高彰を見た。「主らは待て。これらが残り物になるではないか。それでは対等ではない。」

塔矢と仁弥は、良いのだろうか、と躊躇う顔をする。

翠明が、言った。

「このメンツで絶対に狼は引きたくない。ゆえ、我は遠慮せぬからの。」と、脇の戸を見た。「ここにする。」

さっさと入って行く。

塔矢が、言った。

「では、我はそちらの端へ。」と、仁弥を見た。「主は、どうするか?」

塔矢は、仁弥が年上なので気を遣っているらしい。

仁弥は、頷いた。

「ならば我は主の隣りに。」

二人は、頷きあって1と2に入って行った。

公明が、樹伊を見た。

「我はこちらにするが、主は?」

樹伊は、答えた。

「ならば我はその隣り。狼でないことを祈るわ。」

二人は、並んで14と15の箱に収まった。

維心が言う。

「我は最後で良い。高彰、駿、主らが先に選べ。」

駿は、決めてあったのか言った。

「ならば我はここへ。高彰は?」

高彰は、困ったようにあちこち残る箱を眺めたが、言った。

「ならば我はこれ。お先に失礼を。」

高彰は、駿と共にそれぞれ戸を開いて収まった。

箔炎が、言った。

「…どうする?」

漸が言う。

「別に。狼でも構わぬしなあ。どうせ我は犬だし。」

まあそうだろうが。

蒼が、言った。

「じゃあオレ、先に入るね。」と、漸の脇から戸を開いた。「じゃあ。」

バタンと、戸が閉まる。

残された箔炎は、慌てて言った。

「なんぞ、皆遠慮がないの。だったら我も。」

渡は、急いで側の戸を開いた。

「我はここにする!ではの!」

有無を言わさぬ様子で戸の中に飛び込んで行った。

箔炎も、急いで戸に手を掛けた。

「我はここ!ではの!」

シンとなって気が付くと残ったのは維心、志心、漸の三人だった。

志心が、ため息をついた。

「では、我はここに。」と、隣りを指した。「維心はそこ、漸は残ったそこで。まあ、遊びであるから。ものは試しよな。」

二人は、言われるままに戸に手を掛けた。

そして、箱の中に入って行ったのだった。


炎嘉は、箱の中で小さなテーブルと椅子があるのを見て、そこに座ってみた。

狭いが、何とか収まる感じだ。

テーブルの上にはカードが置いてあり、それをひっくり返してみると、そこには銃を背負った人のような絵が描かれてあって、その下に狩人、と文字があった。

…狩人か。

そう思っていると、入って来たのと反対側の戸が開いて、恒が入って来た。

「炎嘉様は、狩人です。」やはりそうか、と炎嘉は顔をしかめる。恒は続けた。「毎晩一人、自分以外の誰かを守ることができます。が、毎日同じ方を守ることはできません。例えば、今夜維心様を守ったのに明日も維心様は無理で、維心様を守りたければ一日別の方を守って、また次の日なら守ることができます。連続で同じ方を守ることはできないということですね。」

炎嘉は、頷いた。

「分かった。で、今から守るのか?」

恒は、首を振った。

「今は、役職確認だけです。明日の夜からになりますね。今夜は狼も襲撃できません。ちなみに守りたい番号をこの時間に回って来るオレに言って頂く形になりますから、番号を覚えておいてくださいね。何か質問はありますか?」

炎嘉は、言った。

「隣りは誰ぞ?」

恒は、苦笑した。

「明日になれば分かるんですけど、左隣りは漸様、右隣りは志心様です。」

炎嘉は、顔をしかめた。

「そちらにはもう説明に行ったのか?」

恒は、頷いた。

「はい、漸様には。順番に回ってますから。これから志心様の所へ行きます。」

…全く聴こえなかった。

炎嘉は、やはり月の結界はしっかりしているようだ、と息をついた。

音で何かを判断するのは無理そうだった。

「…なら、さっさと頼む。夜が明けたらどうなる?」

恒は、答えた。

「箱の中に夜が明けましたとオレの声が聴こえます。そうしたら出て来て、椅子に座ってください。昼議論が始まります。」と、戸を開いた。「では、また後で。」

炎嘉が頷くと、恒は出て行って戸を閉めた。

…こんな所に籠められて待つとはなあ。

炎嘉は、やったことのないことに、ため息をついたのだった。


《夜が明けました。出て来てください。》

恒の声がする。

炎嘉が戸を開いて外へと出ると、皆が同じように出て来て、椅子へと座った。

何が当たったのか、その表情からは全くわからない。

恒が、半円を描いている椅子の前で立って、四角い箱を目の前に置いた。

「これは、時計です。この時計が0になったら議論時間が終わりですので、怪しいと思われる所に一人一人投票してもらいます。得票数の多い方がその日追放になります。では」と、10:00と表示された時計を進めた。「昼時間をどうぞ。」

時計の数字が減って行く。

蒼が、言った。

「ええっと、皆様初めてですよね。占い師の方が、本日白結果、つまり、人狼ではない方を一名知らされているはずなんですよ。その結果を聞いて進めますか?」

箔炎が、言った。

「だが、それを知ったら狼に襲撃されるのだろう?」

蒼は、頷いた。

「でも、狩人が居ますからね。とはいえ、ルールでは毎日同じ方は守れないので、今夜襲撃されなくても、明日襲撃されるかもしれません。偽物が出て来たら、この限りではないんですけど、皆さん慣れていないしなあ。どうします?」

箔炎は、ため息をついた。

「まあ、良いわ。我が占い師ぞ。駿が白。」

すると、翠明が言った。

「待て。我が占い師ぞ。蒼が白。」

二人。

つまり、どちらかが偽物だ。

志心が、言った。

「…いきなり二人。ということは、どちらかが偽物ぞ。だが、どうやってそれを知るのだ?」

蒼が、ため息をついた。

「そんなの、これからの結果で知って行くしかありませんよ。初日ですしね。霊媒師が証明してくれるので、黒結果…狼結果とか出たら、その方を追放して、次の日霊媒師にどっちの色なのか教えてもらえば、偽物か本物か分かります。」

維心が、言った。

「だが、霊媒師にも偽物が出たら?分からぬのではないのか。」

蒼は、頷いた。

「はい。なので、どちらがより信じられるのか、毎日の議論と投票で推理していかねばなりません。ちなみに皆さん、忘れているかもですけど、占い師に今出ている偽物が、狼なのか狂人なのか、まだ分かりませんよ?狂人は、占いで白結果が出る狼の味方なんです。それも推測していかねばなりませんから。」

案外に、頭を使う。

皆は、お互いの顔を見つめて、考え込んだのだった。

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