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流れた月日

維心は、神世の会合を鳥の宮で行なっているのに、出席していた。

明日には、また月の宮に維月に会いに行こうと思っている。

この二十年近く、維心はずっとこうして維月のもとに通い続けていた。

そうしていると、側に居て笑い合い、話しているだけで良いと思う。

だが、それでも維月を慕わしく想う気持ちがどんどんとつのって来るにつれて、やはり肉欲というものが沸き上がって来る。

体を持たない月の眷属とは、そこが違った。

蒼が言うには、維月は陰の月なので、他の眷属とは違い、どうしてもその力が最高潮になる新月の夜には、身をもて余すのだという。

だが、側に十六夜が居るので、あちこちフラフラすることもなく、十六夜が相手をしてしのげているのだそうだ。

ちなみに同じ力を持つルシウスはというと、まだ誰ともそういう関係になったことがないので、別に身をもて余すとか、ないのだと聞いた。

つまりは、一度でも維月とそんな関係になっていたら、毎月新月にはあの二人は会わずにいられなくなるところだった。

維月はそこのところを弁えているので、ない、とのことだった。

今は、十六夜と維月がそんな関係だとか、そんなことを聞いても特に心は騒がない。

恐らくルシウスとそうなっていると聞いても、共に暮らして心まで通わせていないのなら、問題なかった。

心があれば良いという考えが定着してきたのは間違いない。

だが、それでも維心は身を持つ命なのだ。

維月を前にして、抑えきれないことがあってはならないと、維月の信頼を失わないように、維心はわざわざ気取られないための術を編み出してそれを己に掛け、維月に会いに行くのだ。

どうやら十六夜は気取っているようだったが、何も言わずにいてくれた。

十六夜からしたら、別にどっちでも良いのだろうし、維心に対してだからどう思うとか、ないのだろうと思った。

維心がため息をつくと、会合がいつの間にか終わっていて、炎嘉が資料をトントンとテーブルの上で整えているところだった。

「…終わったか。」

炎嘉は、むっつりと言った。

「終わった。」と、維心を見た。「主な、いつにも増して心ここにあらずで。どうしたのよ、我が話を振ったら返事ぐらいせぬか。」

維心は、息をついた。

「すまぬ。考え事をしておった。」

炎嘉が立ち上がり、他の王達も立ち上がって、皆の間を歩いて回廊へと出る。

維心も自動的に歩いていたが、やはり何かを考えているようだった。

志心が、言った。

「…何か気になるか?というて闇も落ち着いておるし、未だかつてないほど地上は平穏ぞ。新たな闇ができる様子もない。ルシウスが、霧が意思を持った時点で気取って解体してしまうゆえな。こんなに懸念のない時も、歴史上で稀なほどよ。何を悩んでおるのよ。」

炎嘉が、小声で言った。

「…また維月と諍いでも?この二十年別居だが定期的に月の宮に通っておるし、公式の場にはきちんと龍王妃として出て来るし、主らの仲を疑う奴はもう居らぬ。闇が戻ったせいだと皆、思っておるから。維月も外の男とどうのないと聞いておるし。」

維心は、首を振った。

「何も。あれとはいつでも穏やかに話しておるし、庭を共に歩いたり諍いなど起こる要素もない。明日、ここから月の宮に参ろうかと思うておるから…その後、数日後に七夕なので共に戻るつもりなのだが、その事を考えておっただけよ。」

焔が、呆れたように言った。

「なんだ、妃に会いに行くから浮き足立っておるのか?全く、だったら無理にでも同居できぬか聞いてみたら良いのに。常側に居たら、会うのに気もそぞろなど無かろうが。」

維心は、頷く。

だが、どうも同意している感じでもなかった。

「…何か、懸念でもあるのか?」志心が言う。「深刻そうではないが、何やら困ったような気を感じるがの。」

漸が、脇から言った。

「もしや、他の女が気になっておって通うのも億劫になっておるのではないのか?」え、と皆が驚いた顔をすると、漸は続けた。「違うのか?主らが月の宮との繋がり云々言うて、維心がそれを言い出せぬのではないかと思うただけぞ。」

言われてみたらそうだ。

二十年も別居を続けていて、もしかしたら他に女とは言わぬでも、面倒になって来ている可能性もあった。

炎嘉が、もしかしてと維心を見た。

「主、まさか?」

維心は、慌てて首を振った。

「違う!他の女など、あったらとっくに迎えておるわ!維月は離れておるしそこは縛る事はないと明言しておるし、我とて気に入ったのなら我慢などせぬ!ではなくて…維月とは、上手く行っておるが、我はまた、もっと側近くに過ごしたいと思うておるだけぞ。」

なんだそうか。

皆が、ホッとしたような顔をする。

そこで大広間に到着して、皆で檀上の席へとそれぞれに座った。

炎嘉が、座ってから言った。

「まあ、だったら一度聞いてみたらどうか?今はルシウスも落ち着いて霧を何とかしてくれておるし、闇の種も十六夜が気付く間もなく消してしまうそうな。同じ性質の闇がそうやって機能しておるのだし、そろそろ維月も少し、楽をさせてもらえるのではないのか。」

維心は、ため息をついた。

「それはそうかもしれぬが…我らは、まだ夫婦に戻ると約したわけでもないし…。」

焔が、脇から言った。

「何を言うておるのよ。定期的に通って共に過ごしておるのだから、夫婦以外の何だと申す。いくら婚姻という制度がない種族でも、それを飲んだからこそ龍王妃なのではないのか。そういう仲であったら妃なのだ。常識ぞ。」

箔炎も、頷く。

「そうよの。あれから何もないとかならそう思うのも仕方がないが、あの直後から主は月に何度も月の宮へ通っておるではないか。だから皆、闇の共存のせいかと言うて納得しておるのに。」

維心は、黙っている。

志心が、声を落として言った。

「…まさか、何も無いとは言うまいの。もう二十年も通っておって、共に過ごしておるよな。」

「待て。」炎嘉が言って、立ち上がった。「皆、今月もご苦労であった。好きなだけ飲むが良い。始めよ。」

いつの間にか、皆が広間に揃っていたのだ。

炎嘉がそう言うことで、皆が歓談を始めて、炎嘉はまたストンと座った。

「して?どうよ。まさか、二十年無しではないだろうの。」

維心は、長いため息をついて、言った。

「…我は、此度こそ月の眷族のように、心を重要視する関係を築こうと思うたのだ。維月にもそう言うた。あれが、長い年月己を抑えて王妃として励んでくれたのだから、今度は我の番だと。なので、我らはあれから、交流はしておるが、主らが思うような、体の関係はない。」

皆が、仰天した顔をした。

「え…二十年か?!」

思わず、箔炎が言う。

志心が、箔炎を睨んだ。

「こら、己に妃が居るからと。ここの独身の男は皆、二十年ぐらい軽くそんな関係はないわ。ま、遊ぶことはあるがな。」

炎嘉は、言った。

「我はそれもない。面倒で。」と、維心を見た。「ならば主、誠にそういう境地に達したのか?何をせぬでも大丈夫に?」

維心は、首を振った。

「それなら良かったが…最初は良かったのだ。別に、そこまでお互いに執心なわけでもなかったし、お互いに楽しく話して機嫌良く別れて、毎日それで満足しておった。それが…最近は、どうしても夜、抑えきれぬ心地になる。あれが、昔よりずっと陰の月のような様だが、それでもあれをやはり、側にと思うておるのが分かるのだ。新たにまた、想いがつのって来たのだろうの。」

皆が、顔を見合わせる。

志心が、言った。

「…困ったの。我ら、独身の男は皆、別に想う相手も居らぬし、時に遊んでそれで満足しておるが、主は想う相手が居るわけだし。それは我慢もできぬわ。」

炎嘉も、頷く。

「だの。我も二十年前に維月が説得にやって来た時が最後であったが、あれを思い出すとのう。他をなど、自然つまらなく感じて遊ぶ気にもならぬ。まして維心は長年愛して側に置いて来たわけだし。他で茶を濁すということも難しいわな。」

渡が、言った。

「我は知らぬがそんなに良いのか?他など面倒になるくらい?」

志心が、咎めるように渡を見た。

「こら。そんなことを聞くでないわ。陰の月なのだから、分かろうが。」

漸が言う。

「分からぬわ。経験しておらぬからの。だからあの時、こちらにも来てくれたら良かったのに。」

炎嘉が、言った。

「もう良い、維月とて自暴自棄にならぬ限りはそんなにあちこち参らぬわ。一応、長年龍王妃をやっておったのだからの。我はいろいろあったし別なのよ。」と、維心を見る。「それで、ならばどうするのだ。一度話してみたらどうか?維月とて、主と戻りたいと思うておるやも知れぬのに。女から申し出るのも、嗜みがないゆえ言えぬだけでは。」

「維月なのに?」志心が言う。「陰の月が出ておるのなら、遠慮ないのではないのか。」

焔が、言う。

「どうかのう…我も時々月の宮には燐が居るから参るのだが、月とは会うことがないのだ。何しろ、地上より月に居ることが多いからの。たまに宮の中に気配を感じる時もあるが…確かに、常より強い月の気は感じた。十六夜と二人分な。維月はあそこまで月の気が強くはなかったのに。」

維心は、頷く。

「それも我がつらい要因ぞ。つくづく維月は、常己を抑えて生きていたのだなと思い知らされる。あれは、もう遠慮などしておらぬので、月の宮で我に会う時も気を抑えたりせぬ。最初はそれでも平気だった。だが…今はつらい。」

龍王妃としてたまに維心の隣りに座っている、公式の場の維月はこれまで皆が見ていた通りの気だ。

だが、あれは抑えた姿だったということなのだろう。

「…話し合いぞ。」焔が言う。「もう、ここは話すよりない。我らが何とか言うて何とかなることではないわ。なんなら、先に十六夜に相談してみるとか。そういえば、ルシウスは?あれとは維月はそんな仲になっておるとかないだろうの。これまでは主が通っておるから問題ないと思うておったが、まさかあちらとそんな仲に。」

《…ない。》いきなり、小さめの声が割り込んだ。《我らは弁えておるゆえ。》

ルシウスの声だった。

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