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殻の中で

十六夜は、維月が呼ぶ声が聴こえて、ガツンと殻を叩いた。

「維月!クソ!腹の立つ闇だな!」

すると、ぱっきりとその殻が割れた。

「え…意外と脆いぞ!」

というが早いか、十六夜がガンガンとそこを力を籠めて叩いたら、回りの殻がバラバラと音を立てて崩れて、かなりの範囲の霧となって消えて行った。

霧がなくなった後は、大きな空洞だった。

ルシウスが、回りの霧から人型になって目の前に浮いた。

「主の力を利用して我が一緒に破ったからぞ!」ルシウスが、急いで下へと飛ぶ。「あれが破られるのを気取って維月に憑きおった!」

「ええ?!」

十六夜は、仰天して急いでルシウスの背を追った。

深い穴の底へと一目散に降りて行くルシウスの視線の先には、維月が倒れて動かなくなっていた。

「維月!」

それが見えた十六夜が叫ぶと、ルシウスは先にたどり着いて維月を抱き起した。

「…良かった。維月は残っておる。」

十六夜が、降りて来て言った。

「残ってるって?どういうことでぇ。」

ルシウスは、脇に転がったデロイスとダヴィートの玉を手にして、それを懐へと入れた。

「…闇ぞ。この体の中には闇が入り、維月の心を直接食い破ろうとしたのだ。だが、維月は殻に籠った。この中で、闇がその玉を何とかできないか必死になっておる。だが、維月は主の力を咄嗟に呼び寄せたので、陽の月の力の殻に籠っておるから、触れることもできておらぬ。ついでに言うと、今我がこの体に膜を張ってここから出る事をさせぬように籠めておるので、闇は板挟みぞ。」と、空間を見上げた。「…ここの霧を、全部消せるか。」

十六夜は、頷いた。

「一瞬でな。だがお前もひとたまりもないぞ。それより、なんで維月の中に籠めたんだよ。」

ルシウスは、言った。

「これが、この闇の大部分だからぞ。ここに漂うのは、これの欠片。それらを殲滅してしもうてから、これをどこかへ隔離して消してしまえば、この闇は終わりぞ。維月は、幸い意識を失っても人型を取ってくれておる。籠めやすかった。」

十六夜は、頷いて手を上げた。

「お前は維月を抱いて、城へ帰れ。オレはここを掃除してからそっちへ行く。維月は問題ないな?」

ルシウスは、じっと目を閉じている、維月を見つめた。

「…大丈夫、だと思う。だが、咄嗟に籠っておるから、どこか持って行かれておる可能性はある。それは後で主が調べてくれぬか。」

どこかってどこだよ。

十六夜は思ったが、両手を上に上げた。

「とにかく早く行け!庇ってくれる維月が居ねぇのにお前ら一瞬で消えちまうぞ!」

ルシウスは、頷いてスッと消えて行った。

十六夜は、空に向かって自分の力を思い切り呼んだ。

「蒼!外は頼んだ!」

十六夜は叫んで、月から力が十六夜目掛けて一気に落ちるように降りて来た。

十六夜は、その力を元に一気に人型の体から光を放ち、真っ暗だった地の底は、真っ白い光に包まれてその場にあった霧は全て、消失して行ったのだった。


蒼は、地下はよく見えないので仕方なく外を申し訳程度にせっせと浄化しながら、動きを待った。

何やら、十六夜が維月維月と叫んでいるのが聴こえるが、そこから先が分からない。

と思っていたら、急になぜか静かになった。

《…?碧黎様?オレ、なんかします?》

蒼が言うと、碧黎が答えた。

《いや、良い。終わった、というか収まった。》

終わった?

蒼は、地下だとほんとに何も見えないなと思いながら、顔をしかめていた。

かと思ったら、十六夜が急に大きな力を下へと引っ張り降ろし始めた。

《え?え?何する気?》

蒼が独り言のように言っていると、十六夜の声が言った。

《蒼!外は頼んだ!》

蒼は、え、と慌てて光を下ろした。

《外?もう結構消したけどやるんだな。》

蒼は言いながら、ガンガンと減って行く十六夜の力を見て、地下はどれほど霧だらけだったんだろうと思った。

蒼だったら、人型でそんなゴキブリだらけの場所に行くなんて考えられない事態だからだ。

ちなみに、蒼にとって霧は、ゴキブリのようにしか考えられなかった。

いつまで経っても慣れないのだ。

《この~この!この!この!》

蒼は、それこそ新聞を丸めてパンパン叩くように、地上の霧を光で攻撃し続けた。

蒼が闇雲に光を下ろしていると、十六夜が地中から出て来て、空を見上げて呆れた顔をした。

《…こら。適当にやんなよ、徹底的に潰せ。一気にやるんだっての、こうやってな。》

十六夜が、そう言ったかと思うと、月から太い柱のような光が、ズドンと十六夜目掛けて降りて行った。

すると、蒼が必死に叩いていたのが嘘ように、その辺りは一気に綺麗になった。

《わ!十六夜すごーい!》

十六夜は、こちらを見上げて呆れたように言った。

《ここはもう大丈夫だ。オレはルシウスを追ってあいつの城に行く。維月が憑かれてるんだ…あの中に籠められてる闇をこれから消して来る。》

蒼は、びっくりして言った。

《え、維月は大丈夫なのか?!取り込まれるんじゃ!》

十六夜は、首を振った。

《無理に取り込もうとしても無理だ。あいつはオレの力を使って体の中で籠ってる。あの闇は他の闇より馬鹿なんだよ。陰の月に媚びずに憑けると思ってるのが間違いだっての。とにかく、行って来る。》

十六夜は、その場から消えた。

蒼は、また大変なことになった、と、月で焦っていた。


地上では、そろそろ日が暮れて来るので、蒼は居ないが宮の中へと案内されていた。

いつも正月に集うあの、応接間に通されて、皆は庭を眺めながらもだんまりだ。

何しろ、月は今、宴どころではないことを知っているのだ。

そこへ、蒼の声が言った。

《皆様、すみませんお待たせして。とりあえず、闇は籠められてルシウスの城に移動しました。十六夜はそこに行ってます。》

炎嘉が、ホッとしたように空を見上げた。

「そうか、良かった。ならばもう消すのだの。」

蒼は、答えた。

《それが…維月に無理やり憑こうとしたみたいで、今闇は維月の体の中に封じられてる状態なんです。》

「ええ?!」

皆が、思わず叫ぶ。

志心が、言った。

「待て、ならば維月は取り込まれるのではないのか?!また月が居なくなるとかないだろうの!」

蒼は言った。

《それが、詳しいことはわからないんです。そんな暇はなくて、話してもらってないんで。》

すると、碧黎の声が割り込んだ。

《…どうせ知れるゆえ申すが、あの闇はルシウスと十六夜に追い詰められて、維月を無理やり取り込もうとしたが、維月はあいにく十六夜の力を使う事ができる。ゆえ、維月は咄嗟に十六夜の力を呼んで、それに己を囲ませて体の中で籠っておるのだ。十六夜の力には、闇には触れることもできぬ。ゆえ、大丈夫だろうが…咄嗟であったから、どこか持って行かれているかも知れぬとルシウスは言うておった。我もそのように。》

炎嘉は、思わず維心を見る。

だが、維心は黙ったままだった。

「…どこかとは?いったいどこぞ?」

碧黎は、答えた。

《分からぬ。目覚めてみぬことにはの。だが、今は分散しておった闇の欠片を全て十六夜が処理し、本体は維月の中のあの闇だけ。それがまた分散して欠片が残らぬように、ルシウスは外から出られぬように囲んで維月の中に籠めておるのだ。後は、十六夜がそれを消すだけ。十六夜なら、維月の中ならいくらでも侵入できるゆえ、あっさり消すだろうが、後の事であるな。どうなったのか、我にもまだ分からぬ。》

これが神なら、十六夜の力が身の内に入り込んで闇を攻撃する力に耐えられないので、出て来るのを待つしかないが、維月ならもともと身を持つわけでもないので簡単に入り込めるのだろう。

だが、維月の何を持っていかれたのか、そこがわからないのだ。

「…ならば、消してしもうてはまずいのではないのか。」維心が、口を開いた。「持って行かれた何かを取り返してからでないと、そのまま消したら取り返しのつかぬことになるのでは。」

碧黎は、ため息をついた。

「その通りぞ。だが、いくら維月でも長くは十六夜のガードの中で籠っていられぬ。何故なら、十六夜の力が外からは闇の力に触れて、内からは維月自身の力に触れて、劣化して来るからぞ。破れたらまずいことになる。維月そのものが食われたら、その力を取り込まれてまた、昔のようなことになる。ゆえ、何を持って行かれていたとしても、今すぐ消すしかないのだ。時がないのよ。」

いったい、維月は何を持っていかれたのだ。

皆は、また暗い雰囲気になったが、だからといってできることは、何もなかった。

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