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チートで怠惰な聖女様のために、私は召喚されたそうです。〜テンプレ大好き女子が異世界転移した場合〜  作者: 櫻月そら
【第1章】異世界ものは大好きですが、フィクションで間に合ってます。
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第87話 ロードの食堂 1


 全員が脱力して苦笑いをするなか、最初に言葉を発したのはアリアだった。


「マーリン様に調べてもらっていたことって、この事ですか?」


「そうだ。あの二人はまだ子どもとはいえ、罪は犯したことに違いはないから。だから、誰に雇われたか白状させることで、少しでも減刑できるようにと交渉していたんだ。だいぶ渋っていたようだが、マーリン殿、スズ殿、司法大臣のハーマン殿の説得で、司法取引が成功したようだな」


「人質にされている家族のことを思うと、なかなか話せなかったんでしょうね……」


「王族や貴族――、特に王族を毛嫌いしてるようで、まったく信用されてなかったからな。だから、俺はなるべく姿を見せずに、マーリン殿たちに任せていたんだ。とりあえず、なんとか一歩前進だ。彼らの罪をゼロにはできないが、これである程度は相殺できるだろ」


 アリアが知らないところで、スズやハーマンも動いていたらしい。彼らの家族の救出も、すでに行われているのかもしれない。

 

 一時(ひととき)の静寂のなか、ロードがバサッと羽を震わせる音がした。


「ロード、どうしたの?」


 アリアが尋ねながら背を撫でると、彼は遠くを見つめながら呟いた。


「……トモダチガ、ナイテル。チョット、イッテクルネ」


「友だちって、サラマンダー!?」


「ソウ」


「待って、どこまで行くの?」


「スグカエルヨー」

 

 ロードは行き先を告げずに、大きな翼を広げて飛び立っていった。


「あぁ、もう……」


 (あるじ)に似たのか、いまいち掴めない鷹だ。


「サラマンダーと友だちって……、本当なのか?」


 (とう)の主であるアーヴィンも、さすがに驚きを隠せないようだ。


「そうらしいですよ。サラマンダーと何らかの勝負をして勝ったから、人を襲ったり森を焼いたり悪さをさせないように約束させたそうです」


「以前、よほどのことがないかぎり、サラマンダーについては心配しなくて良いとマーリン殿が言っていたが、そういうことだったのか――」


「おそらくは。ロードは、マーリン様とは話してたみたいですし。平和に魔獣と交渉して、国を守るお手伝いをしてくれてたんですから、あとで褒めてあげてくださいね」


「サラマンダーとの賭け事は……、平和か?」


「まぁ、そこは魔獣同士の付き合いもあるんでしょう。勝つ自信があったから賭けたんでしょうし」


「そうだな。……とりあえず、温室に移るか。ロードがいないと、魔術師や巫女から覗かれてしまう」


(そういえば、自分よりも魔力が強くないと覗けない、みたいなことをロードが言ってたっけ)


「温室は安全なんですか?」


(メリッサ様が、安全じゃない場所に私を滞在させることはあり得ないと思うけど……)


「この国の中で三番目に安全だ。二番目は魔導師の塔。一番は……、アリア殿なら分かるだろ?」


 隠し部屋の存在を思い浮かべたアリアは、こくりと頷いた。



 温室に到着し、ニールに瓶の中身を見せると、彼は吐息のような言葉を発した。


「これはまた……」


 一目見ただけで、ニールは何かを掴んだようだ。


「何か分かりますか?」


「申し訳ありません。今の段階では、軽率にお答えできかねます。とりあえず、お預かりして専門の者に調べさせます。……ニーナ、頼む」


「はい。では、御前失礼いたします」


 ニーナは薬瓶を包んだ袋を受け取るとアーヴィンたちに礼をとり、魔導師の塔に繋がる通路へと歩いていった。


(ニールが持っていくんじゃなくて、女性のニーナに運ばせるんだ)


「大丈夫ですよ、アリア様。ニーナは器用ですから、そうそうヘマはいたしません。それに、薬も毒も彼女の専門分野ですから」


 ニーナの背中を見つめるアリアの視線に気づいたニールがは、安心させるように説明した。


「あ、そうか。巫女の国のアカデミーでは薬草学を習うんでしたね」


「そうです。私も知識としてはありますが、現役の巫女には敵いません。あの海藻についても、私よりも深く知っているはずです。――――しかし、どうしましょうか。とりあえず、宮廷医が……ということは判明しましたが、尻尾を掴まれたことで、さらに危険な行動にでる可能性もありますね。かと言って、出仕している方々の食事を用意しないわけにもいかないし、魔導師の塔は安全ですが、不特定多数の出入りを許可することはできませんし……」


 ニールは顎に片手を添えて目を閉じ、考えを巡らせた。そこにアリアが小さく手を挙げる。


「あのー、その件なんですが、食事の毒見はロードが手伝ってくれるそうです。自然毒も合成された毒も、ロードは分かるらしくて。ただ、主に飛びながら判定するので、今の食堂よりも大きな場所が必要になります。……可能でしょうか?」


 アリアは答えを促すように、アーヴィンとニールの顔を交互に見た。


「……空間は確保できると思う。父も祖父も反対しないだろう。ただ、それほど大がかりな施工をどれくらいの期間で完成させられるか。当然、こちらの動きは相手にも悟られるから、あまり時間がかけられない」


「マーリン様の魔法であれば数時間、家具や調理器具の搬入を含めても半日ほどで完成させられる思います。スズ様のお力をお借りできたら、もっと早く済むかもしれません」


 アリアはスズと食事をした時の会話を思い出した。


「そういえば以前に、『この城全体が崩壊しても直せると思う』と、スズさんがおっしゃっていました」


「やっぱり、とんでもないな。あの人……」


 アーヴィンは恐ろしいものに遭遇したかのような表情になった。


(たしかにスズさんの力は桁違いだけど。好きな人に対して、その態度はないでしょうよ)


 アリアの胡乱(うろん)な視線を感じて、アーヴィンは咳払いをした。


「あと問題があるとすれば、身分の差で食事時間をどうずらすか、だな。使用人たちと食事を共にすることを了承しない貴族が少なからずいるだろうからな……」


 アーヴィンの言葉を受けて、ニールは腕を組んで苦笑した。


「そうですねぇ。お偉方の説得が一番の難題かもしれません。厨房やロードの負担、毒物を混入させる機会を減らすことを考えると、できるだけまとめたほうが良いのですけどね」


 眉間にしわを寄せる二人に向かって、アリアがひとつ提案した。


「スキップフロアの構造にしてはいかがですか? 視線が合いにくいので、少しはストレスが軽減されると思いますよ。お互いに」


 貴族と同じ時間、同じ空間で食事を摂ることは、おそらく使用人たちにもストレスがかかるだろう。せっかくの休憩時間なのに、気が休められないのは気の毒だ。


「スキップフロア? 初めて聞くな」


(へぇ……。スキップフロアは、この国にまだ無いんだ)


 日本のものが何でもありそうなこの国で、「知らない」「聞いたことがない」という反応は新鮮だと思いながら、アリアはスキップフロアについて説明を始めた。

お読みくださり、ありがとうございました。


毒物対策の食堂造りまで、たどり着きました。

と言いましても、すぐに出来上がって次のシーンに移ります。


次話もどうぞよろしくお願いいたします。

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[一言] いつ問題が解消されるのかやきもきしながら来年も待ちます(;'∀')
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