第79話 巫女の温室をレンタル 2
温室に着くと、メリッサがいつも使っているテーブルセットに案内された。
(改めて見たら、この温室かなり広いな……)
入口付近からは、最奥が見えない。
電気もガスも使わない国のため、植物の育成に最適な環境を魔法で維持しているのだろう。
そして、メリッサが療養のために過ごす場所でもあることから、人にとっても居心地が良い。
(薬草も育ててるらしいし、許可が出たら探索してみたいな)
「では、アリア様。ご朝食の準備をいたしますね」
どうやって魔導師の塔から運ぶのだろうか、と考えていると、ニーナがみぞおちのあたりで手を組み、吐息に近いような不思議な言葉を紡いだ。
すると、料理やティーセットを載せたワゴンと二十代くらいの可愛らしい男性が目の前に現れた。
「わっ!?」
「アリア様。驚かせてしまい、申し訳ございません。私は魔導師の塔の副管理長を努めているニールと申します。管理長のマーリンが不在の際は、私が代理で対応しておりますので、何かお困りの際はご遠慮なくお申し付けください」
「ありがとうございます。えっと……、お二人はもしかして、ご姉弟ですか?」
アリアが問いかけると、二人は顔を見合わせて頷いたあと、にこっと笑った。
「ニールは、私の双子の兄でございます」
「双子? お兄さん!?」
「あはは、やはり私のほうが年下に見えますか? この通り童顔なもので……。これでも、マーリン様より年上なんですよ。それにしても、初見で私達が血縁関係だと見抜かれたのは初めてです」
「容姿というよりも雰囲気が似ていらっしゃるので……。あ、どことなく、メリッサ様にも。もしてして、ニーナさんは巫女ですか? 先ほどの術も……」
「はい。王族ではありませんし、メリッサ様ほどの力はありませんが巫女の国の出身です。同じく巫女の国で育っていても、兄は魔導師ですが」
「え、巫女の国の出身で魔導師になれるんですか!?」
「魔力があり、この国の王立アカデミーを卒業して、適性があると認められた者は魔術師と名乗れます。魔導師になるためには、その後の功績や研究論文の提出などが必要ですが」
「そんな仕組みに……。きちんとした教育機関があるんですね」
「巫女の国にも、独自のアカデミーがございますよ。医学、薬草学、精霊や妖精との付き合い方などを学びます。王立アカデミーと共通している学科は倫理学ですね。魔法や巫女の力を悪用したり、人を傷つけることがないように。それから、他人の人生に干渉しすぎないように、と教えられます」
(大きな声では言えないけど、聖女召喚は他人の人生に思いっきり干渉してるよね……。ちょっとだけ、「それはそれ、これはこれ」って言われてる気分になるなぁ)
「兄の場合は両方のアカデミーを修めて、巫女の血を引いていますので男性の巫……、覡でもあります」
「まぁ、そうは申しましても、私には巫の力はほとんど無いのですが」
「そうなんですか? 魔導師としては、上位の役職に就いていらっしゃるのに……」
「巫女、聖女、魔術師は人智を超えた力を使いますが、それぞれ似て非なるものですから。時々、ハイブリッドの方もいらっしゃいますが、本当にごく稀です。……あ、少し失礼いたします」
ニールは、自らの左耳に手を当てた。
「申し訳ございません。部下から呼び出しがかかってしまいました。また、ご昼食の際にお伺いいたしますので」
「お忙しいのに申し訳ありません」
「いいえ、お気になさらないでください。アリア様のためでしたら、いくらでも。では……」
ニールは微笑みながら軽く頭を下げると、シュッと静かに姿を消した。
「ニーナさん、あれって転移魔法ですよね? 発動する時につむじ風のようなものが吹くのでは……?」
「あぁ……、マーリン様の転移魔法のことですね? あれは……、あの方のご趣味です。訓練すれば、風も音もほとんど出さずに移動できますよ。そうでないと、魔獣や敵に居場所を知らせるようなものですから。筆頭魔導師ともなれば、できないわけがないんですけどね……」
「ご趣味、ですか……」
温室の中が宇宙空間のように、しばし無音となった。
「アリア様! 冷めないうちに、お食事にいたしましょう!」
ニーナは空気を切り替えるように、笑顔で明るい声を出した。
お読みくださりありがとうございました(ꈍᴗꈍ)
あの迷惑な魔法は、あの方のご趣味ということが判明した回でした。
いえ、アカデミーのこととか他にも色々と書いたはずなんですけどね。作者の頭の中でも、最後にあの方に持っていかれました(汗)
※ニールが自己紹介する時だけ、マーリンへの敬称をあえて外しています。
次はサブタイトルが変わり、新キャラ(癒やし要素)が登場します。
次話も、どうぞよろしくお願いいたします。




