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チートで怠惰な聖女様のために、私は召喚されたそうです。〜テンプレ大好き女子が異世界転移した場合〜  作者: 櫻月そら
【第1章】異世界ものは大好きですが、フィクションで間に合ってます。
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第70話 ひとくち 2


 脱力している場合ではないと、アリアは何とか声を出した。


「魔法での毒見が通用しなくなった、って具体的にはどういう状況なんですか?」


「まず、この城の中で、口に含まずに毒見をできる人間はほんの一握りなんだ。俺と宮廷医、あとは魔術師が数人」


「マーリン様は?」


「残念ながら、あの人は人物の“鑑定”はできるが、毒物は見分けられないそうだ。ただ、王族よりもはるかに毒物に耐性があるから、何でも口に入れてしまう」


「そんな、幼児じゃないんだから……」


 マーリンらしいと笑っていい場面なのか、反応に困る。


「被害の状況は?」


「今のところ、十人くらいだ。目視や手をかざして確かめて、問題ないと判断した物を食べてから、嘔吐や痙攣、昏睡、軽い症状なら頭痛やめまいを起こしてる。最後の被害者が食べ残した物を検分したが、やはり毒物は感じなかった。幸い、今のところ命を落とした者はいないが……」


「そう、ですか」


 死者が出ていないということにアリアはホッとしたが、根本的な問題が解決しない限りは安心できない。


(日本の警察ならすぐに分かるのに。そもそも、本当に毒なのかな? 毒として捉えられないけど、害のあるものとか? …………駄目だ、情報が足りない)


 アリアは、アーヴィンが持っている情報を少しでも多く引き出そうと決めた。


(殿下は聞かせたくないことを隠すから、どうにか上手く……)


「被害が出始めたのは、いつ頃からですか?」


「スズ殿の部屋で、異臭騒ぎがあった頃からだ。ただ、その時は空気中に毒物などは検出されなかった。おそらく、聖女の役目を放棄しているスズ殿に不満がある者による嫌がらせの可能性が濃厚だと判断された。しかし、今となっては、それも分からない。そして、その翌日に……、これから話すことはスズ殿には秘密にしてくれるか?」


(やっぱり隠した。だから、事態が悪化するんじゃない? でも、それはきっと相手を思ってのことだから……。今は仕方ないか)


「お約束します」


 アリアのはっきりとした返答を聞いて、アーヴィンが小さく頷く。


「異臭騒ぎの翌日、スズ殿の部屋に飾るための花を用意していた侍女の手がただれてしまったんだ。毒物に触れたことによる皮膚炎らしい。スズ殿には、花切ばさみや花のトゲでケガをしてしまったと報告している。前日の騒ぎだけでも、彼女は相当ショックを受けているようだったからな」


「それで、殿下が代わりの花を?」


「あぁ……。アリア殿に見られていたらしいな。リラとアレク、それからスズ殿からも先ほど聞いた」


「私が見ていたことの何が不都合なんですか? 本当は毒で手がただれた、ということを、スズさんには伏せるようにと言ってくだされば話しませんよ?」


 アリアに問いかけられ、アーヴィンは前髪を掻き上げながら顔を背けた。耳が少し赤くなっているようにも見える。


(何、その反応……)


「…………アリア殿の部屋の花は、誰が用意してるのか聞いてるか?」


「殿下が用意してくださっていると、リラから聞いています。……あぁ、そうだ。その、お礼も言いたかったんです。いつも、綺麗なお花をありがとうございます」


「いや、俺が好きでしてることだから……」


(殿下は花が好きなのかな? そういえば、桜とかについても詳しかったな)


「それで……、スズ殿の部屋の花を、誰が用意してるのかも聞いたか?」


「聞いてはいませんけど……。それも、殿下では? 殿下が庭園で選んだものを、スズさん付きの侍女さんに渡してるんじゃないですか? 私の部屋の花も、てっきりリラが選んでくれていると思っていましたから」


 アリアの答えを聞いたアーヴィンは、渋々といったように白状した。


「…………違う。スズ殿の花は、侍女が選んで活けている。アリア殿の花は……、俺が選んでリラに渡していた」


「……え?」


 そこで、『花束のことも、やっぱり殿下から聞くほうが良いと思う』と言ったスズの言葉を思い出した。


 勘違いしては駄目だと自分に言い聞かせながらも、アリアは顔が赤くなるのを止められない。


「そ、そうだったんですね。ありがとうございます」


「いや……」


「と、ところで体調はいかがですか? そろそろ二十分くらい経つと思うのですが」


「あぁ、今のところ問題ないな。舌のしびれや吐き気もない。毒に慣れているといっても、重症化しないだけで何かしらの反応はあるからな。だから、その料理は食べても大丈夫だ。今、温めなおす」


 アーヴィンが手をかざすと、オレンジ色と青色の光に料理が包まれる。すると、瞬く間に皿から湯気が立ち、デザートは冷たくなった。


(この王子、電子レンジと冷蔵庫機能付きか……)


「……ありがとうございます。殿下のお料理が届いてから、一緒にいただきます」


「そうか」


「リラの前でも、毒物の話をしても大丈夫ですか?」


「問題ないよ。リラとアレクとは情報を共有しているから」


「そうなんですね」


 毒物について、聞きたいことは山ほどある。しかし、先ほどのアーヴィンの言葉や表情が気になって、アリアは考えを上手くまとめられなくなった。

お読みくださり、ありがとうございました。


ちょこちょこと「好き」が洩れ出ている殿下。


もういっそのこと、ストレートに言ってしまえば良いのに! と思いますが、まだ十七歳の部分もあり、大目に見てやってください(^_^;)


「ひとくち 3」に続きます。

次話もどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] うぅむ、謎だらけな事件ですねぇ。 鑑識さんも何か隠してるから被害が広がったんじゃないかと思っちまいまさぁ。 そうじゃなかったらもう薬を逆にメチャクチャ混入されたかバイナリー毒しかあり得なく…
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