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チートで怠惰な聖女様のために、私は召喚されたそうです。〜テンプレ大好き女子が異世界転移した場合〜  作者: 櫻月そら
【第1章】異世界ものは大好きですが、フィクションで間に合ってます。
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第69話 ひとくち 1


 二十時を過ぎたが、まだアーヴィンはやって来ない。

 

 こんなに遅くなるとは思わなかったため、アリアは夕食を摂る時間を逃してしまった。

 空腹に耐えかねているわけでもないため、もう少し遅くても良いかと紅茶を口に含んだとき、メイドが厨房からの言伝(ことづて)を持ってきた。


 いつもであれば、どんなに遅くなっても夕食はいつ頃が良いかと厨房から尋ねられるが、今夜はすでに料理が出来上がっているらしい。


 せっかく作ってくれたものを無駄にするのは悪いから、とアリアがメイドに伝えると、すぐに料理を乗せたワゴンが運ばれてきた。

 

 皿は温かく、スープやメインの牛肉からも湯気と香りが立っている。


(うーん、この時間に牛肉はちょっと重いかも……。まぁ、でも今日くらいなら)


 この世界での毒見は、魔法で行われているらしい。

 ステータスを調べるような、いわゆる“鑑定”に近いスキルを持つ者が、目視や手をかざして毒味をするそうだ。

 そのため、温かい料理を食べられる。そして何よりも、人を傷つけない方法であることがアリアにとっては嬉しかった。


 アリアは湯気をじっと見ながら、リラに尋ねた。


「殿下は食事どうされるのかな?」


「こちらでお食事なさるという報告は受けていませんが、必要になりましたらご用意はできます。本日は頻繁に移動しているようで、どこにいらっしゃるのか今もまったく把握できず……。冷めないうちに、アリア様は召し上がってはいかがですか?」


「……そうだね」


 目の前にアーヴィンがいる時に、ひとりだけ食事をするのは気が引ける。それに、食べている姿をじっくりと見られたくはない。


(話に集中できるように、先に済ませておこうかな)


 食事を始めたアリアがスープ用のスプーンを口に付けた時、ドンドンッとドアを叩く大きな音が鳴り響いた。


 驚いたアリアとリラは顔を見合わせる。


「確認して参りますね」


 リラが足音を立てずドアに近づき、ドアスコープを覗くと、肩で息をしているアーヴィンの姿があった。


「どうなさったのですか?」


 急いでドアを開けたリラが尋ねたが、アーヴィンは答えず、アリアの向かいの席にドサッと座った。


 まだ息は荒く、胸が上下しているアーヴィンにアリアもリラと同じように尋ねる。


「どうされたんですか? そんなに慌てて……」


「いや…………」


 彼はテーブルを見つめたまま、アリアの質問にも明確な答えを返さない。


(仕方ない。少し待つか……)


 アリアが皿の中にスプーンを戻そうとすると、アーヴィンにいきなり手首を掴まれた。


「な!?」


「ひとくち欲しい」


「は?」


 想定外の言葉に、アリアはスプーンを持ったまま固まった。

 そして、なぜかリラも険しい表情に変わり、アーヴィンと同じようにスープを凝視している。


 アリアは、二人を交互に見てから口を開いた。

 

「…………召し上がりたいのなら、殿下のものもご用意できるそうですよ。リラ……」


「それが欲しい。すべての皿から、ひとくちずつ」


 アリアがリラに頼むよりも先に、スプーンを持っている手を引き寄せられる。


「ちょっ……! スープがこぼれますからっ!」


(この強制的な「あーん」みたいなのは何!?)


 制止するアリアの言葉には耳を貸さず、アーヴィンはテーブルから体を乗り出して、アリアの手ごとスープを口に運ぼうとした。


「わ、分かりましたからっ! せめてカトラリーを替えてくださいっ!」


 ほんのわずかだが、そのスプーンはアリアが口を付けたものだ。

 何を思ったのか、アリアの言葉にムッとしながらも、アーヴィンがリラに尋ねた。


「予備はあるか?」


「ございますよ」


 リラが手際よく、ナフキンにスプーン、ナイフとフォーク、そして小皿を並べる。

 そして、コース料理のような品も、机の上にすべて並べた。


 アーヴィンは、せっかく用意された小皿は使わず、スープに前菜、メインに白米、スイーツまで、本当にひとくちずつ手を付けた。


 今日はパンを白米に替えてもらっていた。

 アーヴィンが白米を口に入れる姿は、違和感があるような無いような不思議な気分になる。


(そういえば、メニューの変更は通ってるのに、食事の時間は聞かれなかったの……?)


 何かが引っかかるとアリアが考え込んでいると、飲みかけのティーカップにまでアーヴィンが手を伸ばしてきたため、それはなんとか死守した。


「お行儀が悪いですよ、殿下」


(リラ、もっと早く止めてっ!)


「……じゃあ、そのティーポットから俺のぶんも淹れて。それから、アリア殿のカップを陶器ではなく銀製のものに。これからは、アリア殿が口にするものはすべて銀製にするよう厨房にも伝えてくれ。もちろん、ティーポットも」


「かしこまりました。すぐに用意して参ります。殿下のカップも一緒に」


「あ、そうだ。俺も、もう少し食べたくなった」


 退室しようとしていたリラが、呆れた顔で振り向いた。


「……アリア様と同じものでよろしいですか?」


「いや、ベーコンと卵を乗せたパンケーキが食べたい」


「それ、半分は本気で食べたいやつでしょ……」


 リラがボソッと呟いた。


「何だ?」


「いいえ、何も。では、少々お待ちください」


 リラがとても侍女とは思えない表情で、ため息をつきながら礼を取りドアを閉めた。


 リラが退出したあと、アリアは自分の前に並べられた料理とティーポットに目を向けた。


「毒見……、ですか?」


「ばれたか」


「パンケーキを頼んだのは、即効性ではない毒の反応を見るための時間稼ぎですか? 殿下の前で、私がひとりで食事を続けることはない、と見越したうえで」


「そこまで読んだのか。さすがだな」


「食器類をすべて銀製に、なんて言われたらすぐに分かりますよ」


 毒……、ヒ素に反応すると銀は変色する。

 この王城のカトラリーはすべて銀製だが、ティーポットやカップなどはほとんど陶器製が使われている。

 それをアリアの分だけ、すべて銀製にと言われたら嫌でも気づく。


(裏でまた何かが? それなら、なおさら……)


「王太子自らが毒見するなんて、何考えてるんですか?」


「王族、特に王位継承権一位から三位くらいまでは毒に慣らされてる」


「それでも……! それに、ここでは魔法でって」


 アリアが思わず、テーブルに手を付いて立ち上がった。


「それが通用しなくなったんだよ。しかも、今夜は予定外の時間にアリア殿の食事が運ばれていた」


 アーヴィンは頬杖をつきながら、険しい顔で窓の外に目を向けた。


「それで、あんなに慌てて……」


 アリアは力が抜けたように、再び席に着いた。

お読みくださり、ありがとうございました。


アリアが本格的に狙われ、アーヴィンが忙しなく走り回っている内情が少しずつ表に出てきました。


「ひとくち 2」に続きます。

次話もどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 殿下~あ。 >スプーンを持っている手を引き寄せられる。 くー。いいシーンだわ。キュンするね♪ これはアレですかね、毒味にかこつけた間接キッス……。 いや、アレかな、「アリアのためなら…
[一言] もしここで殿下に何かあれば、第三者から見てアリアが殿下を毒殺しようとしたようにも見えるって殿下は気付いているかな???? 魔法が通用しない毒。 バイナリー毒素を応用した毒とかで毒判定受けな…
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