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チートで怠惰な聖女様のために、私は召喚されたそうです。〜テンプレ大好き女子が異世界転移した場合〜  作者: 櫻月そら
【第1章】異世界ものは大好きですが、フィクションで間に合ってます。
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第68話 スズとの再会。そして…… 2


 ティーカップを置いたアリアは、緊張で少し震えながら尋ねた。


「スズさんは殿下のこと、本当に何とも思ってないんですか?」


「ずいぶんと疑うね?」


「その……、弱ってる時に優しくされたら、好きになっちゃうことってあるらしいじゃないですか……。殿下が花束を持って、スズさんの部屋に入って行くのを見たこともありますし……」


「なんて間が悪い男なの……」


 スズは思わず額に手を当てて、天を仰いだ。


「それねぇ……。イレギュラーだったの」


「え?」


「いつもは侍女さんが花を持ってきて、その場で活けてくれるの。でも、あの日は…………。んー、この話ね、本当は殿下から口止めされてるんだけど、ここまできたら話すしかないよねぇ」


「聞きたいです」


「じゃあ、順を追って話すね。まず、アーモンドの樹の下にいた日は私の部屋で異臭騒ぎがあって、洗浄する間は外に避難してたの」


「だから、庭園に……」


「そう。あの時ね、私ちょっと動転しちゃってね。いい歳して恥ずかしいんだけど……」


 そんなことない、とアリアが首を振った。


「外に出てからも、魂が抜けたみたいになってた私を元気づけようとして、殿下が風魔法を見せてくれたの。それで、だんだん気持ちが落ち着いて、それどころか、花びらを見てたら、ついはしゃいじゃって……。アリアちゃんにも、かっこ悪いところ見られちゃった。ほんとにね、いい歳して恥ずかしいよね!! 思い出すたびに、いたたまれなくて(ころ)げ回りたくなるの!」


 花びらを掴もうと飛び跳ねていた姿を見られたことは、スズにとっては相当恥ずかしいことらしい。


 頭を抱えて悶えるスズの様子が、少し前の自分を見ているようだとアリアは思った。そして、つられるように、アリアも自身の行動を思いだして、いたたまれなくなる。


「ス、スズさん、落ち着いてください。大丈夫ですから。人間、そんな時もありますよ」


 アリア自身があの日以来、自分に何度も言い聞かせてきた言葉だ。


「アリアちゃんは、ほんとに優しいねぇ」


「そんなことないですよ。……謙遜とかでもなく、本当に。打算的なところもありますし」


「んー? それは大人というか、社会人にとって必要なことだと思うよ? むしろ、持っておくべきスキルのひとつだと思う。だから、そういう部分を持ってる自分を、恥ずかしいとか汚いとか思っちゃ駄目だよ」


 先程とは一転して、落ち着いた声で話すスズが急に大人の女性に見えた。


「スズさんは、営業のお仕事をされてたんですよね?」


「そうだよ。周りには、狸や狐がいーっぱいいるから、打算的な部分もないとすぐに()かされちゃうの。ライバル社と競ってる場合は、口八丁手八丁で契約を取ったほうが勝ち。メリットを誇張したり、嘘をつくのは駄目だけどね」


「大変な世界なんですね……」


「まぁねー。でも私、営業の仕事好きだったから。頭下げることも多いけど、相手に『うん』って頷かせる時の快感が何とも言えないんだよねぇ」


(あ、何か変化球の「好き」が来た……)


「でもね、契約取れたら終わり! じゃなくて、うちの会社と契約して良かった、って思ってもらえるように、そこからが本当の勝負なの。取引先のほうから『引き続き、お願いね』って契約更新できたところで、本当に成功したって実感する。その瞬間がすごく好き」


 きらきらとした顔で話すスズを見ながら、アリアは静かに頷いた。


(やっぱりスズさんは、かっこ良いな。私なんかじゃ、とても敵わない。きっと殿下の……、王太子の隣に立つ人はスズさんみたいな…………)


 アリアの表情を読んだスズは、チェシャ猫のように笑った。


「アリアちゃん、もうひとつ良いこと教えてあげる。私はね、会社そのものじゃなくて、『君となら契約したい』って言われることが一番嬉しいの」


「君となら……」


「そう。同じ商品でもね、他の営業マンのプレゼンでは取り付く島もなかった相手が、『君がそこまで言うなら、まずはお試しで』って、ほんの少しでも心を開いて受け入れてもらえる時があるの」


 その感情はすごく分かる、とアリアが相づちを打った。


「これは仕事に限ったことじゃなくて、恋愛とか友情とか、他にも色々当てはまると思う。私は『あなたのイラストのファンになりました!』って言ってもらえるのも、すっごく嬉しい。アリアちゃんもね、『君が良い。君じゃなきゃ駄目』って相手に言わせる力を十分持ってるよ」


「そう、でしょうか……」


「先輩の言うことは信じなさい!」


「は、はい!」


「よし! じゃあ、その意気で殿下と直接話してねー。花束のことも、やっぱり殿下から聞くほうが良いと思う。今夜、ここに来るはずだから」


「……え? え!?」


「私は引っ越しの準備がまだあるから、そろそろお暇するね。また今度、ゆっくりお茶しようねー」


 スズはバイバイと手を振ると、あっという間に部屋を出て行ってしまった。


 アーヴィンと対面するのは、ドアの鍵をどうするかで軽く言い合いをして以来だ。

 その時は、リラとアレクも立ち会っていた。


「どうしよう……。殿下が来る? まさか、二人きりじゃないよね? 花束のことも私から聞くの?」


 いきなりのことで、心の準備は何もできていない。

 

 アリアは思わず、今日だけは夜が来なければ良いのにと願ってしまった。

お読みくださり、ありがとうございました。


スズは転移前、営業部でトップの成績でした。

そして、良くも悪くもオンオフが非常に激しい……


次回は、アーヴィン登場です。

どんな会話になるやら……


殿下、色々な人に「間が悪い男」と言われています(笑)

彼が失敗する時は実力よりも、「運がない」「間が悪い」ことが多いのかもしれません。

今はまだ、「運も実力のうち」が足りない人。


次話も、どうぞよろしくお願いいたします。



追記 2023年 10月8日(日)


第68話 

説明不足や、文章の粗い部分が気になったため、500文字ほど加筆修正いたしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >あ、何か変化球の「好き」が来た あなたサドっけあるのね(;'∀') そしてついに殿下襲来!! 果たしてどうお話が転ぶのか!?
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