第65話 軟禁から監禁へ 2
リラがアリアの部屋に到着してからは散々だった。
夜中に呼びつけられたことに関してはまったく文句を言わないが、アリアがひとりで出歩いたことについての説教は強烈だった。
しかし、今の城内がどのような状態なのかについて、髪を乾かしながら少しだけ話してくれた。
「今からお話しする内容は、アリア様を不安にさせないようにと殿下から口止めされていたものです。しかし、私はアリア様付きの侍女。隠すことでかえって、アリア様が危険にさらされる可能性があると思いましたので、私の独断で少しだけ情報をお伝えいたします」
「私は聞きたいけど……。そんなことして、リラは大丈夫なの?」
「殿下には何か言われるでしょうが、口でなら私は負けませんよ? 隠すことで生じるリスク、そして、情報を共有することによって得られるメリットを並べて説き伏せます」
「さすが……」
「それでも、褒められた行為ではないのですけどね……」
「ごめんね、私が心配かけたから」
「もう、本当ですよ。殿下から聞いた時は、心臓が止まるかと思いました。…………危険なことも、叱られることも承知の上で向かおうとした先は魔導師の塔ですか?」
「気づいてたの?」
「図書室でのご様子と殿下に保護された位置から考えると、そこしかないかと」
「そっか」
「浴室でも伺いましたが、やはり理由を話してはくださらないのですか?」
浴室ではリラに何を尋ねられても、何とかはぐらかしていた。
しかし今、秘匿されていたことをアリアの安全のために明かそうとしてくれている。その気持ちには、できる限り応えたいと思った。
「うーん、そうだね。詳しい内容は話せないけど、メリッサ様との約束が魔導師の塔に関係してるの」
「そうだったのですね。………まさか、用があるのはあの変態ですか?」
「うん、マーリン様ね」
リラは本当に彼のことが嫌いなのだと再認識しながら、アリアは苦笑した。
「マーリン様に聞きたいことがあるの」
「メリッサ様の関連ということでしたら、私たちが干渉することは難しいですね。それでも、あまり無茶なことはなさらないでくださいね? 本当にドアの鍵を増やされてしまいますよ?」
「無茶なこと……」
『あまり、危ないことをしてはいけませんよ?』
リラの言葉と、メリッサの言葉が重なった。
(え、もしかして危ないことって今夜のこと!? でも、あの人に会って説明しないことには何も始まらないし……。まさか、ランプの魔神みたいに呼べば来るとか?)
マーリンならば、あり得ないことではないかもしれない。
しかし、そうなるとリラが部屋にいない夜に呼ぶしかないだろう。そもそも、本当に呼べば来るのかどうかも、試してみないことには分からない。
(あの人とこの部屋で二人きりは、ちょっと嫌なんだけどな……。そうだ、魔法といえば……)
「殿下がドアを指差して、『結界』って言ってたんだけど、リラも知ってた?」
アリアの髪をブラッシングするリラの手が止まり、小さな溜め息が聞こえた。
「存じておりますよ。主には、アリア様を侵入者から守るために張られたものです。今回は、アリア様がかかりましたけどね」
「すみません……」
「結界は二重になっていて、術者のひとりは殿下。そして、もうひとりは……、マーリン様です。つまり、殿下と同じく、マーリン様もアリア様が部屋を抜け出したことに気づいています。目的に気づいているかどうかまでは、分かりかねますが」
十中八九、マーリンはアリアの目的に気づいているだろう。
(あの、クソ魔導師! 絶対につかまえてやる。……もう、危ないことはしないように気をつけるけど。――――あ、そういえば)
「その結界って、いつから張られてたの? あの事件以降、夜はドアの前で近衛騎士が警護してくれていたけど、途中からいなくなったよね? それと関係ある?」
「……そうですね。その点についても、お話ししなければいけませんね」
あの夜以降、城内では凄惨な事件が続いていた。
アリアには聞かせたくない惨たらしい部分を省いて、どのように説明するべきかとリラは話の順序を必死に組み立てた。
お読みくださり、ありがとうございました。
アリアの味方は、基本的にみんな過保護です。
そのため、アリアは知らない部分が多い。
しかし、彼女は気になることがあると自分でつきとめようとするタイプなので、かえって危険なことに……。
話しておいたほうが安全なこと、聞かせたくないことを判断するリラの苦労は今後も続きます(~_~;)
次話もどうぞよろしくお願いいたします。




