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チートで怠惰な聖女様のために、私は召喚されたそうです。〜テンプレ大好き女子が異世界転移した場合〜  作者: 櫻月そら
【第1章】異世界ものは大好きですが、フィクションで間に合ってます。
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第62話 魔導師の塔を探しに 4


 筒型に巻かれた大きな図面を持った司書長が、汗をかきながら戻ってきた。


「すみません、お手数をおかけして……」


「いえいえ、これも私の仕事ですから」


 カウンターから出てきた司書長は、閲覧室の大きな机に見取り図を広げた。


 王城の建物部分の全体図を見ると、アルファベットのEようなシンメトリーに近い造りだった。


 Eの右側には開けた場所があり、そこがエントランスとなっている。


「現在地……、図書室はこちらです」


 クロウリーが指した場所は、Eの縦ラインの最上部。廊下が長いため見えないが、アリアの部屋の向かいに当たる場所だ。

 

 アリアの私室は、Eの最下ラインの左奥。

そこから、右に進んで行くとスズの私室やアーヴィンの執務室がある。そして、一番奥はアーヴィンの私室となっている。


 王族が使う隠し通路は見取り図に載っているが、アリアの私室の隠し部屋は記載されてない。


(本当に、限られた人しか知らないんだ)


 外部分を見ると、建物を囲うように庭園があり、Eの左側に進むとメリッサの温室やアーモンドの樹がある。そのさらに奥にはアルフォンス夫妻の離宮があり、小さな林のようになっている。

 小動物も生息しているかもしれない。まさに海外の古城やファンタジーの世界だ。


 メリッサの温室周辺の庭園は実際に見ているため、アリアでも分かる。

 問題は建物内の構造だ。大まかに見るとEの形だが、回り階段やスキップフロアのような階層もあり、とても複雑な造りとなっている。それに、地下通路まである。


 見取り図の写真を取れないかとスマートフォンを持ってきたが、司書長だけではなく、リラとアレクも離れてはくれなさそうだ。


 「少しの間だけ、ひとりにして欲しい」と言うと、余計に怪しまれるかもしれない。今後も、司書長から情報を得るためには警戒されないほうが良いだろう。


「この地下通路を使うと、屋外に出ずに魔導師の塔に行くことができます。もちろん、地上からの入口もありますが」


(うーん、やっぱり私には難しいかも。地下通路のほうが人目には付きにくいだろうけど、一本道ではないし……)


 アリアは、自他ともに認める極度の方向音痴だ。

 大学の構内図を見ていれば、「大丈夫ですか?」と必ず声をかけられる。

 待ち合わせをしている友人を探して、きょろきょろとしているだけでも「どこに行きたいんですか?」と尋ねられる。

 最近では、後輩にまで心配されるようになった。


(私のほうが、一年長く大学にいるのに……)


 複雑な城内を歩くよりも、一度庭園に出てから、魔導師の塔を見ながら目指すほうが確実かもしれない。

 北極星を頼りにするように。


(そうなると……、リラが下がった夜にしか動けないな)


 不穏な空気が漂っている城の敷地内を、夜中にひとりで歩くのはかなり危険な行為だということは、アリアも重々承知している。


 しかし、何かから背中を押されるように、動きたくてたまらなくなる。


(メリッサ様の言葉を聞いたから? 夏休みが明ける時期が迫ってるから? …………殿下とスズさんのことがあるから?)


 考えてはみるが、何がアリアを突き動かそうとしているのかは分からない。

 

 しかし――。


『心の声をたくさん聞くようにしてみてね』


 メリッサの言葉に従うならば、やはりマーリンに会うために一日でも早く塔に行くべきだ、という答えにたどり着く。


「アリア様、そろそろお時間です」


(そうだ、時間制限があったんだ。うぅ、写真を撮れなかったのは痛い……。仕方ないか、見れただけでも良しとしないと)


「クロウリー様、ありがとうございました」


「お力になれましたか?」


「はい、とても。また、こちらに伺うことがあるかと思います。その際はどうぞよろしくお願いいたします」


「いつでもお待ちしておりますよ」


 頭を下げてからドアを閉めると、ウィン、ガチャンっとオートロックがかかる音がした。


(このレトロな建物にオートロック。慣れないわー)


 私室に帰ってからは、リラに怪しまれないように、できるだけ普段通りに過ごした。

 時折、リラの視線を感じるのはきっと気のせいだろう。


 夕食を済ませ、湯浴みをしてから寝間着に着替える。

 そして、ベッドサイドテーブルに水差しと呼び出し用のベルを置いてからリラは下がる。これが毎晩の流れだ。


「アリア様、おやすみなさいませ」


「おやすみ。今日もありがとう」


 完璧な淑女の礼を取るリラに、アリアは手を振った。


 ドアを閉めたリラの足音が遠ざかっていくのを、集中して聞き取る。そして、念のために約三十分間は窓辺の椅子に座って物音を立てないようにした。


 その間、この後の流れをシミュレーションする。


 今夜は月が大きくて外が明るい。そのぶん見つかってしまうリスクも上がるが、慣れない場所を歩くには明るいほうが良いだろう。


 この城の庭園は、魔法を使ったランプで夜間もライトアップされているため、普段から暗いとは感じないが……。


(電気もガスも要らないってエコだよねぇ)


 電力が不足し、電気料金が高騰している日本に導入できたら、どんなに良いだろう。災害時の不安要素も少しは緩和される。


「さて、そろそろ良いかな」


 クローゼットからワンピースを取り出してサッと着替え、外履きの靴に替える。

 ここまで動いても、誰かが近づいてくる気配はない。


 襲撃があった夜以降、夜間は二人組の近衛騎士がドアの前を警護するようになっていた。

 しかし、最近はその騎士たちがいない。あまりに気配を感じないため、何度かドアの外を確かめるようになってから、それに気づいた。

 たしか、警護が無くなったのは、城の中が騒々しくなってからだ。しかし、アーヴィンたちからは何も聞かされていない。


(普通、やめる時は私に伝えるよね……?)


 しっくりこないが、今は警護がないほうが都合が良い。そして、動くなら今夜しかないだろう。図書室に行ったことがアーヴィンに伝わっているかもしれない。

 メリッサとの約束だから殿下には知られたくない、とアリアは言ったが、それでもアレクは報告する可能性のほうが高い。

 

 それに、図書室ではアルフォンスの懐中時計まで使ってしまった。司書長のクロウリーから、アーヴィンもしくはアルフォンスに報告がいってもおかしくはない。


 そのうえ、アーヴィンから釘を刺されていたのに、司法大臣のハーマンにも姿を見られてしまった。


(あれ? 結構、条件悪い? まぁ、でも今日しかないよね)


 ドアの前の警護を増やされては、次はもう窓から出るしか道がなくなる。その気になればできないこともないが、さすがにそれは避けたい。


「じゃあ、行きますか!」


 軽くストレッチをしてから、少しだけドアを開けて外を確認する。


(よし、大丈夫。あとは、人に会わないようにダッシュで庭園に出て……)


 音を立てずにドアをそっと閉めると、アリアは勢いよく走り出した。


 メリッサの温室まで、何とか誰にも会わずに走り抜けることができた。

 息を切らしながら図書室のほうに視線を向けると、魔導師の塔が見える。


(あった! こんな所から見えたんだ……)


 温室からアリアの部屋へと続く道からでは、わずかに見えない角度だ。


 今のところ誰にも見られていない。周囲に人の気配もない。


(よし、もう少し頑張って……)



「綺麗な月夜だな。……こんな時間にひとりで散歩か?」


 アリアが走り出そうと一歩目を出した瞬間、どこからともなく、低く甘い声で話しかけられた。


(あー……、詰んだ)


 それはずっと聞きたくて、しかし、今は一番聞きたくない声だった。

お読みくださり、ありがとうございました。


アリア、お願いだから、もう少し大人しくしてください_| ̄|○


「魔導師の塔を探しに 5」へ続きます。


次話もどうぞよろしくお願いいたします。

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[一言] 台詞からして口説いているですー(;'∀') やばいですー(;'∀')
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