第61話 魔導師の塔を探しに 3
「アリア様! 何かございましたか!?」
話し声が聞こえたのか、司書長のクロウリーが駆け寄ってきた。
「いいえ、特には。司法大臣のハーマン様とお会いして、少しご挨拶をしただけです」
「そうでしたか」
「どうかなさいましたか?」
「彼が……、何か失礼なことを申しませんでしたか?」
「(仮)と呼ばれたことくらいでしょうか。他は、特に何も」
「申し訳ございません!」
司書長クロウリーが、後頭部が見えるほどに頭を下げた。
「いえ、そんな。クロウリー様に謝っていただくようなことではありませんから。久しぶりに呼ばれたなぁ、と思ったくらいで。あのマーリン様ですら、『アリア様』と呼んでくださいますからねぇ」
アリアが『あの』と言ったことで、彼はさらに深く頭を下げた。腕を下ろせば、床に手のひらが付くかもしれない。
「あの、本当に謝っていただく必要はありませんから。どうか、頭を上げてください」
「マーリンがご迷惑をおかけしているのでは?」
(呼び捨て? そんなに親しい仲だったの?)
「迷惑をかけられていない、というと嘘になりますが……。だけど、何となくですが、この城の中でも彼は信用して良い方なのではないかと思っています」
「そう言っていただけると幸いです。実は……、マーリンは私の妻の弟、私にとっては義理の弟にあたります」
「え!?」
「彼がご迷惑をおかけしているのではないかと、もう気が気ではなくて。妻からも、アリア様にご迷惑をおかけしないよう、よく見張っておくようにと言われているのですが……」
(奥様、それは荷が重すぎます……)
アリアはクロウリーに同情した。
しかし、都合が良い。信頼できると感じていた司書長がマーリンの親族だったとは。
「あの、マーリン様は普段どちらに?」
「うーん、じっとしていない人ですからねぇ。あぁ、でも、魔導師の塔にいる時間が一番長いでしょうね」
(ビンゴ! 魔導師団があるんだから、専用の施設があると思ったんだよね)
「魔導師の塔、ですか?」
「はい。彼らは実践や戦闘だけではなく、魔法の研究も行っているので研究所や宿舎、食堂などが塔の中にあります。マーリンは団長なので、この城の中に私室も用意されていますが、塔で寝泊まりしていることが多いそうです。『休憩室の奥が団長の巣になっていて困っている』と、彼の部下から私に苦情が来るんですよ」
「そ、それは大変ですね」
「えぇ、本当に……」
司書長は、虚ろな目で窓の外を見つめた。
「あぁ、そういえば、魔導師の塔はここからでも見えますよ。あちらです」
司書長が手で示した先には、象牙色でかなり高層の塔が建っていた。
時折、窓から赤や緑の光や煙が見えるのは、何かの実験が行われているのだろうか。
「ずいぶんと立派な建物ですね……」
「はい。この図書室よりもハイクラスの環境ですよ。彼らは国にとって貴重な存在であり、王侯貴族の魔術の師匠となることも多いですから。そのため、私よりもずっと高給取りです」
司書長が、ははっと軽く笑った。
(ここは笑うところ……?)
アリアは窓に近づいて、塔の外観を目に焼き付けた。
「あの塔は私の部屋からは見えないので、そんな場所があるなんて初めて知りました。そうだ、今日はこのお城の図面を見せていただきたくて伺ったんです。あの塔や庭園を含めた見取り図はありますか?」
「あるにはあるのですが……。王族の方にしか、お見せできないものも多くて……」
(有事の際に使う、隠し通路とかも載ってるってことか)
「これでは、許可証になりませんか?」
アリアが鞄の中から、アルフォンスの懐中時計を取り出して見せた。
「それは……! なるほど、承知いたしました。すぐにお持ちしますので、少々お待ちくださいませ」
司書長は二、三回頷いたあと、急ぎ足で奥の部屋へと入っていった。
(殿下にアーモンドの花が国花だって聞いた時から、もしかしたら、って思ってたんだよね)
アルフォンスの懐中時計には、枝付きのアーモンドの花が彫られていた。
そして、手紙の封蝋の印璽も、アーモンドの花のデザインだった。
そこから、王家の紋章もアーモンドの花なのではないか、とアリアは推測していた。
(それにしても、本当に使えるなんて……。アルフォンス様は、私のことをどう思ってこれを譲ってくれたんだろ……)
アリアは回り続ける秒針を見ながら、アルフォンスの意図に思いを巡らせた。
お読みくださり、ありがとうございました。
ただいま、ヒロインのアリアが突っ走っていますが、ちゃんと恋愛もしますので(汗)
次話もどうぞよろしくお願いいたします。




