表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートで怠惰な聖女様のために、私は召喚されたそうです。〜テンプレ大好き女子が異世界転移した場合〜  作者: 櫻月そら
【第1章】異世界ものは大好きですが、フィクションで間に合ってます。
6/114

第6話 バブル崩壊を経験した聖女様 


「スズ様の前にいらっしゃった聖女様は、チエ様というお名前で、当時はスズ様より少し年下くらいの女性でした」


(チエさん。失礼だけど、昭和生まれって感じのお名前だな)


「ずいぶんと過酷な状況の最中(さなか)に、こちらにいらっしゃいました。バブル崩壊後、チエ様がお勤めだった不動産会社が倒産。お父上が営んでいた会社も倒産し、お父上はそのまま行方知れずに。そして、しばらくしてから、お母上も過労とストレスから儚くなられて……。チエ様と交際していた男性も音信不通になってしまったのだそうです」


「え、それじゃあ、チエさんがこっちに来たきっかけって、まさか……」


 アリアの心拍数が急激に上がった。


「あぁ。いえ、自死ではございませんよ。『死にたい』と、自暴自棄にはなっておられましたが。そのため生活が疎かになり、冷蔵庫の中のミルクの消費期限を確認せずに口にし、食中毒で朦朧としながら、こちらにいらっしゃったようです。そして、城内で倒れているチエ様をリカードが発見し、宮廷医が急いで治療して一命を取り留めた、という経緯です」


(たしかに過酷な人生。でも、助かって良かった。消費期限切れの牛乳は怖いから……)


 チエが助かったと聞いて、アリアは詰めていた息を吐き出した。

 しかし、すぐに違和感が生じた。


(いや、チエさんのお母さんが過労とストレスで亡くなったって認識してるなら、それを聖女の立場にも置き換えられるでしょ……)


 今度は安堵ではなく、王家の思考はやはり残念だと、ため息が漏れた。

 しかし、アリアは頭を切り替えて質問を続ける。


「食中毒で危ない状態だったとしても、転移してきたなら聖女の素質があったということですよね?」


「はい。歴代の聖女様の中でも、とても強い力をお持ちでした。そして、これは私見なのですが……。異世界に転移される方は、元の世界で何かしらから逃げたい、捨て去りたいと思うことがあるように感じます。また、その内容が重いほど、比例するように聖なる力が強くなるのではないかと――」


「もし、その推測が当たってるなら、私の場合は両親との関係かな」


 黙って話を聞いていたスズが小さく呟いた。


 アリアとアルフォンスは、それに対して深くは追求せず「そうなんですね」と、ただ静かに頷いた。


 アリアにも心当たりはあるが、現実世界を捨てたいほどか、と問われたら答えはノーだ。

 そうだとすれば、アリアが召喚された理由がますますわからない。


(アルフォンス様の読みは、何となく当たってる気がする。スズさんと同じく、歴代の聖女がそうだったとしたら……。私は例外? 特殊なケース? それとも自分が気づいてないだけで、思ってるよりも闇が深いってこと? あぁ、でもスズさんは自然に転移したけど、私は召喚されたから、そもそものスタートが違うのか……)


 黙りこくったアリアを気遣うように、アルフォンスがパンッと軽く手を鳴らした。


「失礼いたしました。息子のリカードの話をしなければいけませんね」


 何から話せば良いか、とアルフォンスは宙を見上げる。


「あぁ、そうだ。チエ様が現在、ベーカリーの女将をなさっているのは、転移されてから数年後、まだ二十代の頃に今の店主と恋愛結婚をしたからです」

「それは何となく分かりました。ただ、聖女が一般家庭に嫁ぐことを許されたことについては、少し驚いてます」


 スズもその内容について、興味津々というように前のめりで頷いた。

 その様子にアルフォンスが苦笑する。


「実は、聖女様が恋をすると……。つまり、守りたいと思う特定の存在ができると聖女の力が消失する。もしくは微弱になるのです。ただし、王家の人間と婚姻を結ぶ場合は、力が衰えることはありません」


 さすがに、その仕組みにはアリアもスズも驚いた。

 そして、それならば、王家の人間と無理矢理に結婚させられた聖女もいるのでは? という考えが浮かんで背筋が寒くなった。


「それで? 力が消えた後はどうなるの?」


 スズは続きが聞きたくて、椅子から落ちそうなほど前のめりになっている。


「聖女の力が消失したのであれば、王宮に留めておくのは酷なことです。国にとっても聖女様にとっても利益になりません。そのため、聖女様がこの国で望む生活ができるように、全面的にお手伝いいたします」


(ふーん、人道的なところもあるのね)


「ただ、チエ様の場合は……。少し問題があったのです」


 語りにくそうにするアルフォンスを見ながら、アリアは眉根を寄せた。

お読みくださり、ありがとうございました。


ちなみに、作者も昭和生まれです。


「そこそこ良いかな?」と感じてくださった時には「いいね」をいただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 王族と無理やり結婚させられた可能性……怖いのぉ(;'∀')
[良い点] 中々聖女の力というのも諸刃の剣ですね。生活を保障されるのは一見良さそうに見えますが……。
[一言] はい!! 私もいまだ、慣れているのかいないのか(^^;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ