表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートで怠惰な聖女様のために、私は召喚されたそうです。〜テンプレ大好き女子が異世界転移した場合〜  作者: 櫻月そら
【第1章】異世界ものは大好きですが、フィクションで間に合ってます。
42/114

第42話 二人きりの答え合わせ 3


 アーヴィンの香りで胸が高鳴るのは脳の錯覚だと、アリアは自分に言い聞かせて、話を進めた。


「特殊な魔法って、窓の外のシャボン玉みたいな膜のことですか? 虹色の……」


「見えるのか!?」


(え、見えちゃマズイの?)


 カプセルトイの半分みたいなドーム型の膜が、はっきりと見えている。


「見えますけど……。殿下こそ、シャボン玉をご存知なんですか?」


「あぁ。石けん水を付けたストローを吹くと出てくる、宙に浮かぶ虹色の玉のことだろう? 城下の子どもたちも、それでよく遊んでいる」


 そう説明しながら、アーヴィンはアリアの手を取ってエスコートし、上座に座らせた。


 ありがとうございます、と軽く頭を下げると、ふわりと微笑み返された。


(う、心臓に悪い! それにしても、シャボン玉まであるのか……。ん? ストロー?)


「ちなみに……ストローもご存知なんですね?」


「あぁ、細い筒型のものだろう? 城下町のベーカリーで売っているミックスジュースに付いているから有名なんだ。なかなか美味(うま)いぞ。視察を兼ねて町に行く時は、私もよく購入する」


(おぉっと……チエさんとエンカウントしてるし! でも、殿下の様子を見る限りでは大丈夫かな? 背景が色々と複雑だからなぁ……。一応、アルフォンス様に報告しないと、かな)


 しかし、シャボン玉にストローまで。この世界には、何がないのか聞いたほうが早いような気さえしてきた。


 そういえば、シャボン玉も金平糖と同じく、ポルトガルから日本に伝来したはず。そして世間に広まったのも、やはり明治から大正の頃だ。


(やっぱり、その頃に誰か日本から……。いや、これ以上はキャパオーバーになる。今は目の前のことだけに集中しよう)


 アリアは頭を振って、止めどなく浮かび上がる疑問を脇に置いた。


「話を戻しますけど、防音や外から見えない効果というだけなら、他の部屋でも良かったんじゃないですか? こんな、関係者以外に知られると困るような部屋じゃなくても……」


「この室内でのやり取りは、各国の巫女や有能な魔導師でさえ透視できないようになっている。もちろん、過去視や未来予知でも知ることもできない。そもそも、部屋自体が存在しないことになっている。だから、部屋を開く時にどれだけ揺れようと誰も気づかない」


「へぇ……そこまで厳重なセキュリティーの部屋なんですか。もうひとつ気になったんですけど、各国に巫女がいらっしゃるんですか? メリッサ様やシェリル様のような?」


「そう。あの国の王家は不思議なくらいに女系だから。まれに男子が生まれても、十歳まで生存できた例はないらしい。だから、他国に嫁ぐ女性が通常よりも多い。王族の中でも、巫女の国に残らなければいけない立場であれば婿を迎える」


 日本でも大きな家だが跡取りに恵まれず、遠縁から養子をもらうケースをいくつか聞いたことがある。

 なぜか、男子だけが早逝(そうせい)するという歴史が記録された文献もあったはずだ――。


「反対に、こちらは男系であまり子に恵まれない。私も祖父も兄弟がいない。父には妹……、私から見れば叔母にあたる人がいる。これは、とても珍しいケースらしい」


「あ、アレクのお母様のことですか?」


「そうだが……。アレクと私が従兄弟だと知っていたのか?」


(しまった。これも、知ってるとマズイ話だった?)


 アリアの動揺が伝わったのか、アーヴィンは目を閉じて小さく笑った。


「まぁ、貴女になら知られても良いか。おそらく、アレクもそう判断したんだろう」


 アリアは、ホッと安堵の息を吐いた。別に悪いことはしていないのだが、少しばかり焦った。


「叔母様……えーと、王女様? が、お生まれになった理由は何かあるんですか?」


「いや、今のところは分かっていない。まぁ、子は授かりもの……とも言うしな。そのあたりは、他の家庭と変わらないんじゃないかとも思う。ただ、統計学から見れば、どちらの王家も異常ではあるな。貴族も平民も、王家以外の家庭では男女の出生率のバランスは取れているから」


「……なるほど。で、王女様は公爵家に嫁がれたんですね? しかも、リラのお姉さんが公爵家に嫁いだから、今は殿下もアレクもリラもご親戚……で合ってます?」


「――合ってる。……そんなことまで知ってるのか」


「いや、世間話程度ですよ。……たぶん」


 何気ない会話の中で、国にとって重大なことを知ってしまっていたらどうしようかと、少し不安になった。


「じゃあ……、これも知ってるか? 父についての話だ」


(これは、たぶんマズイ話だよね)


「……国王陛下のどのようなお話ですか?」


「父の聖女に関する記憶の話だ」


 心臓だけではなく、耳の奥でもドクドクと脈打つ音を感じる。しかし、何が何でも平静を装わなければいけない。メリッサのためにも――。


「ご不自由なさっている、というお話は少しだけ。確か……ご病気でしたか?」


(表向きは『病気』っていうことになってるから、これはセーフなはず……!)


「そうか、それも知ってるのか」


(よし! セーフ!)


 あからさまに力を抜いたアリアを見ながら、アーヴィンは顎に指を添えた。


「他にも何か知ってるな?」

「いいえ? 何も?」


 食い気味に答えるのは怪しすぎるだろう! と、アリアは自身にツッコミを入れたくなった。


「本当に?」

「本当に!」


「まぁ、今はそれで良いか……」


 どうやら一難は去ったようだが、完全に逃げ切れてはいない。


(アルフォンス様ー! お孫さん、何か勘付いてますよー!)


 大人は分からないだろうと思い込んでいるが、実は子どもはよく見て、聞いている。どうやら育児は、どの世界でも共通のようだ。


「さて、そろそろ本題に入ろうか。先日の騒動について、もう一度詳しく聞きたい」


 アーヴィンに真剣な目で見つめられ、アリアも居住まいを正した。

お読みくださり、ありがとうございました。


「二人きりの答え合わせ 4」に続きます。


「二人きりの答え合わせ」はしばらく続き、

二人の距離が変化し始め、国の問題も進んでいく予定です。


2022年 12月27日 追記。


諸事情により、今年度中(2023年3月末まで)に完結させることを目標に変更しました。

完結予定の時期がころころと変わり、申し訳ありません。


お読みくださっていた方々に、「読んで損をした」と思われてしまわないよう、丁寧に進めて完結させたいと思います。


どうぞよろしくお願いいたします。



2023年 3月31日 追記。


この回までお読みくださった皆様に、深くお礼を申し上げます。


不調が続いておりまして、3月末の完結は叶いませんでした。申し訳ございません。


最終話、後日譚は書き上げているため、エタることはありませんが、今回は期日を設けず、マイペースで進めることにいたしました。


最終話まで破綻せず、満足のいく文章になりましたら、少しずつでも更新していきたいと思います。


50人近くの方がブクマを外さずにいてくださること、とても支えになっています。

ありがとうございます。


のろのろとしたペースになりますが、完結までお付き合いいただけましたら幸いです。


どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 設定と描写がすごく丁寧で、世界観に違和感がないです。 アーヴィンとのドキドキするやり取り、その時間がいよいよ本題へと! それにしてもアーヴィンがかっこいい。 登場時の見た目だけハリボテ王…
[一言] >あぁ、細い筒型のものだろう? 藁の英語だって事は伝わって、いない……? そしてドッキドキの尋問いよいよ開始……!( ´∀` )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ