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チートで怠惰な聖女様のために、私は召喚されたそうです。〜テンプレ大好き女子が異世界転移した場合〜  作者: 櫻月そら
【第1章】異世界ものは大好きですが、フィクションで間に合ってます。
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第41話 二人きりの答え合わせ 2


 ベッドの反対側の壁には、小ぶりな正方形のの絵画が三枚、等間隔に並べて掛けられていた。

 

 油絵でも水彩画でもない、まるでカメラで撮影したような不思議な風景画が額に収められている。


(どこの風景を描いた作品なんだろ。たぶん、日本ではないよね……)


 そして、それは独り暮らしの女性が飾っていても違和感がないようなものだった。つまり、王城の装飾の中では少し浮いている。

 


 壁の中央に掛けられている絵を外したアーヴィンは、それを近くにあったチェストの上に置いた。

そのまま流れるような動作で右端の絵を外して、空いた中央に掛け直す。


 次に左側の絵を右端へ。そして最後に、チェストに置いた絵を左端に掛けた。


(なんか、こういう展開って……)


 ――ガコンッ!


 何かがはまったような音とともに、室内が大きく揺れ始める。おそらく、震度2くらいはある揺れ方だ。


「あー、久しぶりに使うから、結構揺れるな。――おっと」


 アリアは揺れに耐えられず何かに掴まろうとしたが、よろめいて辿り着いた先は、あろうことかアーヴィンの腕の中だった。


 動転したアリアは思わずアーヴィンの胸を押したが、そのまま抱きすくめられた。


「危ないから揺れがおさまるまでは、じっとしてろ」


 揺れに驚き、さらに抱きしめられたことに驚いたアリアは一言も声を出せなかった。

 先日、「ひとりで突っ走ろうとするな」と忠告された時も密着はしたが、なぜか今回はひどく動揺した。


 この前よりも、彼の体温や香りを近くで感じるからだろうか――。


 ようやく揺れがおさまり、アーヴィンの腕から解放される。


「悪いな。ここまで、揺れるとは思わなかった」


「いえ……。ありがとうございました」


 アリアは消えそうな声でお礼を伝えてから、ゆっくりと後退しつつ動悸を鎮める。

 

 そして、周囲を見渡すと、壁の左端にあった大きな柱が半分ほど浮き上がっていた。


(この城の耐震構造、大丈夫なの……?)


 あまりの光景に先ほどの動悸はおさまったが、また新たな驚きが生まれた。

 

 柱が無くなった空間には、高さ百センチくらいの小さな扉があった。

少し錆びた金色の丸いドアノブと鍵穴。赤みがかった木材は、桜の木のように時間が経つほど味が出てくるものだろうか。

 まるで、『不思議の国のアリス』の世界のようだ。


「その鍵穴に、図書室の鍵を挿し込んで」


「これを?」


 アリアは、首からペンダントのように下げていた鍵をアーヴィンに見せた。いつも身につけ、外からは見えないように服の中にしまっている。


「そう、それ」


(本当に……?)


 鍵の使いまわしはダメだろう、と思いつつも、それほど重要な鍵を託されていたのかと怖くもなった。


 しかし、腑に落ちた点もある。

なぜか、この鍵は肌身離さず持っていなければいけないような気がしていたからだ。


 アリアは幼少期から勘が良いほうだ。

失くしものを見つけることが得意で、抜けたところのある両親から感謝されることも多かった。


(まさか、お母さんたち自体が失くなるなんて、思いもしなかったけどね……)


 そんなことを考えながら、ゆっくりと鍵を挿し込んだ。


 しかし、鍵が回りにくい。苦労して何とか解錠はできたが、扉を押すとギギィッと気味の悪い音が鳴った。


「あとで、アレクにメンテナンスを頼むかな」


 そんなアーヴィンの独り言を聞きながら、アリアはトンネルをくぐるように中へと進んだ。


(やっぱり、隠し部屋か。……執務室?)


 執務机に本棚、五人は座れるであろう応接セット。それなりの調度品も揃えられている。廊下に面した壁に扉さえあれば、普通の執務室と変わりはない。

 

 そして、普通の執務室と変わらない点がもうひとつ。執務机の後ろには、開閉できる大きな窓がある。そのため、室内はとても明るいが、隠し部屋としては不自然だ。これでは、扉を隠している意味がない。


「ここは、私の第二執務室。主に機密事項が多い内容を扱うときに使用している。この部屋の存在を知っているのは王族の一部、私の側近やアレクとリラ……他にもいるが、ごく少数。この部屋については、スズ殿も知らない。だから、口外はしないでくれ」


「それは、もちろん。でも、なぜ私には見せたんですか? それに、その窓は……」


 このような場所に繋がる部屋を、私室として充てがわたことについても疑問に思ったが、それについては、なぜか今は聞かないほうが良いような気がした。


「少し込み入った話がしたいため、ここを選んだ。それから……、この窓のことなら心配しなくても大丈夫だ。特殊な魔法がかけられているから、外からは見えないし、音も聞こえない。少し空気がこもってるな。窓を開けようか――」


 そう言いながら、アーヴィンは両開きの窓を外側に向けて開いた。


 サアーッと爽やかな風が室内に入ってくる。


 それと同時に、深い甘さと柑橘系の爽やかさを重ねたような香りがアリアのもとに届いた。


 ベルガモットにジンジャー、サンダルウッド、ムスク……。


 先ほど、アーヴィンに抱き締められた時にも感じた香りだ。


(殿下のコロンなのかな……)


 アリアが好みの香りでもあり、本来ならばリラックスするはずなのに、どうも妙な動悸がして落ち着かなくなる。


(困ったな……。吊り橋効果って怖い。ちゃんと冷静にならないと――)

お読みくださり、ありがとうございました。


「二人きりの答え合わせ 3」に続きます。

次回もよろしくしくお願いいたします。


「そこそこ面白いかな?」と感じてくださった時は、「いいね」を押していただけると、とても励みになります(^_^)

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― 新着の感想 ―
[一言] >それに、その窓は…… 開かずの間的な怖い都市伝説でありますよねー(ォィ そしてそして、どうなっていくんでしょうなぁ(;'∀')
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