第39話 送り狼からの忠告 2
「送り狼からの忠告」後半です。
「なっ、いつの間に……! っていうか、まだ話の途中!」
卑怯だと抗議をするが、素早く手首を掴まれ、後ろにひねられる。
そして、アーヴィンはもう片方の腕をアリアの腰に回して固定した。
「そちらの世界の暴漢は、話が終わるまで待ってくれるのか?」
「そう、じゃないけどっ!」
絡みつく腕から、どうにかして逃げだそうと藻掻くが隙がどこにもない。アリアがどんなに暴れても、アーヴィンにダメージはないようだ。
それどころか、今まではほとんど力を入れていなかったとでも言うように、少しずつ掴まれた力が強くなっていく。
「ちょっと痛いっ! ふざけるのも、いい加減にして!」
「ふざけてるように見えるか?」
正直、どちらか分からない。
アリアが黙り込むと、さらに腰を持ち上げられて爪先が床から浮いた。
「なっ!?」
「これで、どこにでも連れ込めるな」
先ほどよりも強く足をバタつかせるが、やはりアーヴィンの腕から逃れることはできなかった。
「負けを認めるか?」
「負け……?」
「手合わせだと言っただろう。それとも、このまま私の寝所までお連れしようか?」
「この、クソガキっ!」
思わず、スズが口にしていた単語が出てしまった。不敬でしかない暴言に、アーヴィンはククッと楽しげに笑う。
「貴女から、スズ殿と同じ言葉が出るとは。よほど余裕が無くなってるな? 『女性経験のない子ども』を相手に、ずいぶんと焦っておられるようで」
(こいつ、根に持って……!)
片手で荷物のように抱えられているのに苦しさはない。内蔵を圧迫しない場所を選んでいるのだと気づき、その余裕がさらに腹立たしくなる。
「これに懲りたら、一人で突っ走ろうとするな」
アーヴィンの声が、急に真剣なものに変わった。
「……気をつけます」
アリアがそう答えると、ふわっと床に下ろされた。
「次は本当に連れて行くからな。……行き先は分かるよな?」
「分かってマス」
ふてぶてしく返事をするアリアを見て、アーヴィンはまた楽しげに笑う。そして、アリアの部屋の扉を開けて、早く中に入るようにと促した。
「あ、待って」
「なに?」
彼が廊下側から扉を閉めようとするのを、アリアが引き留めた。
「あの近衛騎士、見たことのない顔だったけど普段はどこを警備してたの?」
「あれは、この城の騎士じゃない。あとで詳しく取り調べを行うが……おそらく、この国の者でもないと思う。言葉に訛りがあった」
「訛り?」
「気づかなかったのか?」
アーヴィンが怪訝な顔でアリアをじっと見つめた。
「――私にはどの言語も、元の世界の言葉に変換されて聞こえるの。スズさんもそうだって。今も……この会話も、私は母国語で話してる。文字の読み書きも同じ仕組み」
「そう……なのか。それじゃ、気づくわけがないな。すまない、勉強不足だった」
「いや、別に謝ることでも……。あ、そうだ、もうひとつ。あの人、図書室の扉が閉まれば自動施錠される仕組みを知ってるみたいだった」
「え?」
「スズさんを図書室の中に押し込んで扉を閉めたら、スズさんのことは諦めたのよ。『まぁ、アンタだけでもいいか』って言われた。あっ、聖女(仮)のことも知ってたよ」
「……分かった。情報ありがとう。また、詳しく聞かせてもらうことになると思うが、今日はゆっくり休んでくれ。あ、扉の前に護衛騎士を二人配置するけど、絶対に外に出るなよ?」
叱るような心配するな声音――。
あんなことをしておきながら、彼はドアの境からは一歩も中に入ろうとはしない。かなり荒っぽい防犯訓練だ。
「もし、言いつけを破ったら――」
「分かってますっ」
アリアが食い気味に答えると、アーヴィンが小さく笑った。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ、なさい……」
ゆっくりと扉が閉まると同時に、アリアはへたり込む。
そして、熱い頬を両手で押さえながら叫んだ。
「その顔と声は反則なんですけどっ……!!」
お読みくださり、ありがとうございました。
少しは甘さが出始めたでしょうか?
下記は、第48話のあとがきに記載したものですが、
身体的な接触が増えてきたので、情報があるとイメージしていただきやすいかな、とこちらにも追記を。
◎ちょこっと登場人物プロフィール(身長)
アリア 165cm(ヒール低め、走れる靴が好み)
リラ 168cm(TPOに合わせて何でも履きこなす)
スズ 160cm(ヒール5cm以上の靴が好み。7cmピンヒールも余裕)
アーヴィン 189cm
アレク 189cm
先王アルフォンス 193cm
魔導師マーリン 180cm
現国王リカード 185cm




