第38話 送り狼からの忠告 1
なんとか更新できました!
アリアが必死に動悸を抑えていると、図書室のドアが強く叩かれ、スズの声がした。
「アリアちゃん! 大丈夫なの!? 殿下もそこにいるの!?」
(しまった……スズさんのこと忘れてた)
身を挺して守ったスズの存在を忘れさせるくらい、アーヴィンとのやり取りはアリアにとって色々な意味で衝撃的だった。
「スズさん、大丈夫です!」
アリアが声を上げると同時に、アーヴィンが扉を解錠する。
バンッと勢いよく扉を開けたスズは、まだ座ったままのアリアに抱きついた。
「アリアちゃん、大丈夫!? ごめんね、私が様子を見に行こうなんて言ったから……!」
その言葉を聞いたアーヴィンは、眉間に深い皺を寄せた。
「スズ殿、詳しく話してもらおうか――」
「ひっ……」
目の奥が笑っていない彼の美しすぎる笑顔を見たアリアとスズは、抱き合いながら身をすくめた。
そして、アーヴィンが図書室を出てから、アリアを助けるまでの経緯を説明することになった。
それこそ、鷹か何かの肉食動物に睨まれているような気分になりながら。
「アリアちゃんは悪くないよ! 私が見に行こうって言ったんだから。そのせいで、アリアちゃんが危険な目に……。迂闊だった。魔獣がいるようなところにも行くから、危険なものに対する認識が甘くなってた……。こんなの、言い訳にもならないけど」
「違います! スズさんだけが悪いわけではありません! 私も気になって、自分の意思であとを付いていったんですから」
「分かった。二人揃って迂闊な行動を取ったということだな?」
「……その通りです」
アリアとスズの神妙な声が重なった。
夜も更けたため詳細はまた後日に、ということになり、アーヴィンがアリアとスズを私室まで送る。
三人は広い廊下を無言で歩いた。――空気が重い。
「今日は疲れただろうから、ゆっくりと休んで」
「……ありがとうございます」
スズの部屋に到着すると、少なからず気落ちしている彼女にアーヴィンが労いの言葉をかけた。
「スズさん、また女子会しましょうね」
「うん。またね」
気にしないで、という言葉は今のスズには逆効果だと感じたアリアは、明るい約束を取り付けることにした。それに対して、くしゃっと笑ったスズは短い挨拶のあとに、静かに扉を閉めた。
次はアリアの部屋に向かうが、やはり空気が重い。
(新鮮な空気と何か話題が欲しい……)
そして、疑問に思っていたことをアリアは口に出した。
「あの……、さっきの『二人だけの秘密』っていうお話ですけど……。魔導師団長のマーリン様は、すでにお気づきなのではないですか?」
「あー……。あの人のことは、今は考えないでおこう。彼の能力は色々と規格外過ぎる」
思っていたよりも、普通の声音で言葉が返ってきた。それをきっかけに、アリアの緊張も少しだけ解ける。
「そういえば、この騒動のなか、マーリン様はどうなさっていたのですか?」
「知らなかったのか? 彼は今、魔獣討伐のために遠征中だ。スズ殿にも同行してもらう予定だったが……。私が怒らせてしまったからな」
「そうだったんですか……。タイミングが悪かったですね。マーリン様がいらっしゃれば、もう少し被害が少なかったかもしれ、な、い?」
そこまで言って、アーヴィンの顔をバッと見上げた。すると、アーヴィンはゆっくりと頷く。
「貴女もそう思うか?」
「はい。考え過ぎかもしれませんが……」
「いや、今回の件は綿密に仕組まれた犯行のように思う。隣国との境、王城から遠い辺境に急に濃い瘴気が溢れ、魔物が現れたと報告を受けている。そのような緊急の事態であれば、マーリン殿が向かう可能性が高い。この世界で、最強と謳われる魔導師の不在。そこを狙ったのだとしたら……」
思っていた以上に、きな臭い背景だ。今後、自分ができることは何だろうか、とアリアは黙って考える。
考え込んでいると、いつの間にかアリアの部屋の前に到着していた。扉の前でアリアは改めて頭を下げた。
「先ほどは危ないところを助けていただいて、ありがとうございました」
返事がないことを不思議に思い、顔を上げると、顎に手を添えたアーヴィンに見下されていた。
「あの、何か……?」
嫌な予感がする。
「貴女は、何か武術の心得が?」
「基本的な護身術は、一通り習っています」
(ギリギリまで忘れてたけど)
「へぇ……。では、少しお相手願おうかな」
「は? なに言っ……!」
目の前で意地の悪い笑みを浮かべたアーヴィンが、気づいた時にはアリアの背後に回り込んでいた。
お読みくださり、ありがとうございました。
「送り狼からの忠告」は一話分には長いので分けました。
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