第34話 王太子殿下の本性
2024年 1月17日(水)
第34話、改稿済みです。
どうぞよろしくお願いいたします。
魔法で光を集めた大きなカンテラが床に置かれていたため、その空間だけが明るかった。
そこで大量の書物を床に広げていたアーヴィン王太子が書物を読みながら、スズと問答を続けていた。
「だから、何度も伝えた通り、貴女は知らなくても良いことだ」
「そんなわけないでしょ! 私は当事者よ。ヒールを使えないことを知ってるくせに、アリアちゃんに嘘の情報を伝えた理由は何なの!?」
(やっぱり、その話……)
「殿下、私も知りたいです」
「アリア殿、あなたもか……。日没後は出歩かないように、と祖父から言われなかったか?」
「それは……」
「二人なんだから良いでしょ? 廊下には近衛騎士だっているし。それとも、この城の警備はそんなに穴だらけなのかしら?」
スズはアーヴィンの様子を窺いながら、挑発を続けていく。
「そもそも、聖女(仮)って何なのよ。アンタたち、ものすごく失礼なことしてるの自覚してる!? 仮にも、国の象徴になる立場でしょ!?」
「それは……。申し訳ないと思っている。ただ、悪いが、その理由も今は話せない」
アーヴィンの話し方や態度、声のトーンまでが、まるで別人だ。初対面の時のように世間知らずで、とぼけたような様子をまったく感じさせない。不遜な態度が、スズの怒りを買っているようではあるが。
(これが、この人の本性か。猫を被ってた、っていうよりも……。もしかして、不出来で頼りない王太子を演じてた?)
「スズさん、私のために怒ってくださってありがとうございます」
アリアがそっと肩に触れると、スズの表情が少し和らいだ。
「殿下、何か理由があるのですね? 私をカッコ仮と呼ぶことも、スズさんの力について偽りをおっしゃったことも」
「……あぁ」
アリアと会話をしながらも、アーヴィンは下を向いたまま、古い書物のページをめくっている。
「……メリッサ様から伺いました。アルフォンス様は意味のないことはしない、と。私への対応についても何か理由があるはずだから、少しの間だけ我慢してほしい、とも」
「母がそんなことを……」
メリッサの言葉を伝えると、アーヴィンは少し驚いたような声を出したが、やはり視線は合わない。
「私はメリッサ様のお言葉を信じます。しかし、あなたの言葉は信じられませんし、納得もできません。スズさんがおっしゃった通り、大変不快に感じています。今、現在のこの状況も」
アリアの言葉に、アーヴィンの手がピクッと止まった。
「何か理由があるのでしたら、話せる時が来るまでお待ちします。しかし、申し訳ないと思っていらっしゃるのでしたら、きちんと相手の目を見て、それなりの礼儀は払ってください」
アリアを見上げたアーヴィンは読んでいた本を脇に置き、スッと立ち上がった。今度はアリアが見下ろされる形になる。
「私共の失礼な言動で少なからず傷つけてしまったこと、本当に申し訳ない。しかし現状、話せないことが多い。今後も、不快な思いをさせてしまうかもしれないが、どうかご容赦いただきたい」
素直に謝罪の言葉を述べたアーヴィンは、四十五度ほど腰を折って頭を下げた。
それに対して、アリアも柔らかい声で応える。
「承知しました」
そして、謁見の間で見た彼の姿は演技だったのだと、アリアは確信した。
「今日のところは、それで許してあげる」
そう言ったスズは腕を組みながら胸を張って、大げさに威張る仕草をした。
「スズ殿はもう少し、王族を敬うとか……。私は構わないが、うるさい臣下はいるんだ」
「私を誰だと思ってるの?」
「……聖女様です」
「その聖女に何か文句が? それとも、臣下からの苦情さえ抑えられないのかしら? 王太子殿下?」
アーヴィンが溜め息を吐きながら、額を押さえた。
(聖女、強い……)
今日のスズは、とにかく煽らないと気が済まないようだ。日頃の鬱憤もあるのだろう。
二人のやり取りで、一年間どのように関係を築いてきたのかが、少しだけ見えた気がした。
お読みくださり、ありがとうございました。
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