第33話 夜の図書室
2024年 1月17日(水)
第33話、改稿済みです。
どうぞよろしくお願いいたします。
話が弾んだため、夕食もサロンに運んでもらい、リラたちには先に休んでもらうことにした。
リラは渋ったが、リラやメアリにも休息は必要だと、スズが押しきった。
そして再び、聖女関連の書物の話になり、見る者によって書かれている内容が変わる『THE 聖女』について説明をした。
「何それ、めっちゃ気になる」
「読んでいただけますか?」
「もちろん! あ、今から行こうか。アリアちゃんは鍵持ってるよね?」
「持ってはいますが……」
窓の外を見ると、とっくに日は沈んでいる。
時刻は十九時半過ぎ。日本であれば、さほど気にすることなく外出できる時間ではあるが……。
「あぁ、日没後はひとりで出歩いちゃダメってやつ? 大丈夫でしょ、二人で行動するから。そのあたりに近衛騎士もいるだろうし」
たしかに、私室から出るといつも視線を感じる。最初のように、べったりと護衛されているわけではないが、少し離れたところから見守ってくれているのだろう。おそらく、アレクも。
「じゃあ、少しだけ……」
図書室に着くと、アリアはそっと扉を開いた。どうやら、この時間帯は司書長たちも退勤しているようだ。
最低限の明かりは灯っているが、昼間に比べると少し気味が悪い。
さっそく聖女関連の書物が並ぶ棚にスズを案内し、『THE 聖女』を取り出して手渡した。
「じゃあ、開けてみるね……」
「はい……」
アリアもスズも息を飲んだ。
えいっ、と『THE 聖女』を開いたスズは不満げな声を出した。
「……本にケンカ売られてるんだけど」
「え!? ケンカ? ど、どんなふうに……?」
「ごめん。プライベートな部分が多いから、何が書いてるのか詳しくは話せないけど。とりあえず、聖女関連の内容ではないみたい」
「そう、ですか……。でも、どうして、『THE 聖女』にスズさんのプライベートなことが……」
「んー。あくまで憶測だけどね? この本、予言の書というか、その人の本質とか未来、隠された願望とかが文字になるんじゃないかな」
「でも、アレクが読んだものは……」
「ガッツリ聖女についての内容だったんだよね? それね、アリアちゃんがアレクに『読める?』って聞いたことが、『読んで』って聖女がお願いしたように変換されたんじゃないかな……。なんて、思ったり」
あくまで直感だが、スズが立てた説は大きく外れてはいないような気がする。
アレクが口にした文章は、アリアにはインクで塗りつぶしたように見えて、読めない箇所のものだった。
(でも、同じように聞いたけど、リラはまったく読めないって言ってたな)
リラとアレクに何か違いがあるのだろうか。もしくは、アリアとアレクに何かしらの共通点が……。何か掴めそうで、掴めない感覚が歯痒い。
「ごめんね。あんまり役に立てなかったかも」
「いえ! そんなことありません。大きなヒントのひとつです」
考え込む表情が不機嫌に見えたのかもしれない、とアリアは慌てて否定した。
「そう? それなら良かった。アリアちゃん、もう少し調べ物するよね? 私もちょっと探索してくる。ここに入るの初めてなんだよねー。面白い恋愛小説とかないかなー。できれば、18禁のやつで。お、あっちは何か明るい。ちょっと行ってくるね」
「はーい」
アリアは書物から視線を外さず、声だけで明るく返事をした。
しばらく聖女関連の書物を読んでから魔法、魔術関連の棚に移ると、アリアはある違和感に気づいた。
「……あれ?」
魔術書がいくつか無くなり、所々に隙間ができている。
(高等魔術の関連書だけが抜けてる気がする。でも、ここの書物は持ち出し不可のはず……)
先日、『THE 聖女』の貸し出しを司書長に頼んでみたが、貴重な本はすべて持ち出し不可なのだと断られた。
アリアが首を傾げていると、突然、スズの大きな声が聞こえてきた。大きな声、というよりも怒声だ。ただならぬ様子に、アリアは急いで声のするほうへ向かった。
「スズさん!」
声をかけるが、スズは歯を食いしばり、アリアの声も届かないほどに怒りをあらわにしている。その怒り矛先は、床であぐらをかいて、大量の書物に囲まれているアーヴィンだった。
お読みくださり、ありがとうございました。
第33話にして、やっと王太子が再登場。
この作品、こう見えても「異世界恋愛」ジャンルなんです(泣)
物語もそろそろ動きが出てきますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




