第27話 聖女様は惚れっぽい 1
2024年 1月3日(水)
第27話、改稿済みです。
どうぞよろしくお願いいたします。
「私のほうもね、チエさんにお会いできたの!」
この興奮した様子は現実世界に帰る方法か、何らかの収穫があったのかもしれない、とアリアは固唾を飲んだ。
「どんな方でした?」
「うーん、アルフォンス様がおっしゃってた通り、外見は日本人には見えなかった。でも、話してるとやっぱり日本人だなぁって感じる部分が多かったかな。あと、『お母さん』って感じだった」
「お母さん、ですか?」
(温かいとか、包み込んでくれる……、みたいな?)
「何ていうか、こう……ダイナミックな人だった。気性も体格も。肝っ玉母さんって感じで」
「そうなんですか……。ちょっと意外です」
国王が恋い焦がれた女性。メリッサのような儚い美しさではなくとも、『優しい綺麗なお姉さん』というイメージをアリアは抱いていた。
「昔の姿は分からないけど、あの体型は産後太りが戻らなかったんじゃないかなぁ。『パン屋の女将さん』のイメージにはピッタリだったけど。あと……」
「あと?」
何か重要な情報でもあるのかと、アリアは少しだけ前のめりになった。
「息子さんがイケメンだった」
「……そうですか」
アリアは心の中でうなだれた。しかし、スズらしい返答だとも思う。彼女の自由な言動、表現はどこか憎めない。
スズの言動には、できるだけ驚かないようにしようと心に刻んだ。おそらく無理だろうが……。
「チエさんのお子さんは、男の子ばっかりの四人兄弟でね。異世界に来ても、ちゃんと結婚して出産も経験して、子育てして、旦那さんとも上手くいってるんだなぁって。見てて、ちょっと羨ましくなった。しかも、息子さんが全員イケメン」
(イケメン、何回目)
「特に、ご長男が私のどストライクで! いやぁ、いいものを見せていただきました。久しぶりに潤ったわぁ」
スズのテンションは、居酒屋の陽気な酔っ払いに少し似ている気がする。
(スズさん基準のイケメン……。師団長のマーリン様みたいな中性的なタイプかな?)
「ご長男は、どんな方なんですか?」
「んーとね。端的に言うと、細マッチョの十九歳」
(マーリン様とは真逆のタイプだった)
「身長は一八〇センチくらいで……。ちょっと日焼けした肌で、白い半袖シャツを肩まで捲くってた。穏やかで爽やかな印象なのに、笑うと犬歯が見えるの! もー、たまらん!」
スズが興奮する様子を、あはは、とアリアは生温かい視線で見守った。
しかし、いくらスズがイケメンに弱いといっても、少々テンションが高すぎる気がする。
少し離れた場所で待機している給仕係の男性を横目で見ると、手にしている赤ワインのボトルの中身は、ビンの底を包んでいる白い布で隠れるほどに減っていた。
スズはローストビーフのような肉料理を。アリアは白身魚のポワレを主菜に選んだため、アリアのグラスには白ワインが注がれている。
つまり、赤ワインはスズが一人で飲んだということになる。もし、糖度の高いワインであればアルコール度数はかなり高いだろう。
アリアは小さく手を挙げて、スズ付きの侍女を呼んだ。そして、口元を手で隠しながら小声で尋ねる。
「スズさんって、酔うといつもこんな感じなんですか?」
「いいえ。アリア様がいらっしゃる少し前から、度々このようなご様子になることが……。召し上がるお酒の量も少しずつ増えて……」
「そうですか……。とりあえず、スズさんにお水を」
「かしこまりました」
(やっぱり、ストレスなのかなぁ……)
アリアは異世界で二日間過ごしただけで、疲労困憊している。そのような生活を一年間も続けてきたのか……と、石を飲み込むような感覚を味わいながらスズを見つめた。
険しい顔をしているアリアに、スズがふわふわとした口調で尋ねてくる。
「良いよねぇ、恋愛結婚。アリアちゃんは向こうに彼氏いた?」
「――いいえ」
「そっかぁ。私も推し活だけー。『推しは推せる時に推せ』ってホントなんだねー」
その言葉は日本を懐かしむようにも、自分の人生の不安定さを憂いているようにも聞こえた。
お読みくださり、ありがとうございました。
今回は長くなってしまったので分割しました。2の部分は明日に投稿予定です。
「第28話 聖女様は惚れっぽい 2」もお読みいただけますと幸いです(*^o^*)




