第24話 宮廷魔導師団の団長はクセが強い
今回は少し軽いテンポにしてみました。
2023年 12月31日(日)
第24話、改稿済みです。
どうぞよろしくお願いいたします。
アリアは姿勢を正して、咳払いをした。
「失礼いたしました。スズさんから、魔導師団の団長様は大変美しいお顔立ちだと伺っていたもので……」
「なるほど、そうでしたか。そういえば、スズ様にも初対面の時に『イケメン』と言われたことがありましたね。そちらの世界では、私のような容姿をそう呼ぶのですね」
「はぁ……。まぁ、そうですね」
(この国には、謙遜って言葉はないのか)
アリアの感情のこもっていない返事には気にも留めず、団長は笑顔で話を続ける。
「改めまして、私は宮廷魔導師団の団長を務めているマーリンと申します。アリア様の召喚の儀式にも携わりました」
「ええ、倒れていらっしゃるお姿を拝見しました。その後も寝込んでおられたとか……。もう、お加減はよろしいのですか?」
まったく心配していないわけではないが、半分以上は嫌味だ。
「聖女様にご心配いただけるとは恐縮です」
(ん? 何か違和感が……。あ、そうか。この人は、カッコ仮って呼ばないんだ)
「アリア様。話を戻しますが……、何かお困りですか? こんなに書物を広げて」
「お困り……。突然、異世界に連れてこられて困っています」
「あー。まぁ、そうですよねぇ。それは、まことに申し訳ありません」
(申し訳ない、なんて微塵も思ってないな。この人)
策士のような笑顔が、とても胡散臭い。
「しかし、お会いできて光栄です。あなたの強くも弱くもない、絶妙にちょうど良い魔力に興味があります」
「それは、どうも」
(褒められてはないな)
丁寧に接する必要がない相手だと、アリアの本能が判断してしまった。この短時間、ほんの数回の会話のやり取りだけで。
「よろしければ、私の妻になりませんか?」
どうやら、アリアの本能は間違っていなかったようだ。
リラが今にも噛みつきそうな視線で、マーリンを睨みつけた。気持ちは嬉しいが、上下関係や立場でその行為は許されないだろう。リラに何かあっては困る。
アリアはリラに向かって微笑みながら、小さく首を振る。それを見たリラは、不服そうにしながらも怒気を抑えた。そして、アリアは頷いてから、マーリンに向き直った。
「せっかくのお申し出ですが。初対面ですし、よろしくもないので遠慮いたします」
おかしな日本語、失礼な言葉だが、とにかく「よろしくない」ということを伝えたかった。
「そうですか……。残念です。こんなに研究熱心な方でしたら、添い遂げられると思ったのですが……」
マーリンは、アリアが積み上げた本に視線を向けて肩をすくめた。
「ご期待に添えず、申し訳ありません」
(うん。私が苦手なタイプってことは、ハッキリと分かった。でも、『研究熱心』って言われるのは、ちょっと嬉しいかな)
「では、友人ではいかがですか?」
「友人、ですか?」
(できれば、それも遠慮したいけど……。この人が持ってる情報や力は欲しい。持ちつ持たれつ。『win - win』ってやつ?)
「まぁ、友人くらいなら……」
「そうですか! ありがとうございます。では、親友ということで! これから、よろしくお願いしますね!」
「そこまでは言ってない!」
思わず、アリアの心の声が漏れたが、マーリンは何のダメージも受けていないように笑う。
そして、「では!」と竜巻のような風を起こし、空気の読めない笑い声を残して消え去った。
(何なの、あの人……。それにしても、転移魔法か……。たしかに魔術に関してはトップレベルなんだろうな)
近づいて来たときも、あのように入室したのだろうか。物音のひとつも立てていなかったけれど。
「アレク。ここって、王族と一部の人しか利用できない図書室ですよね?」
「そうです。『一部の者』のみが利用できます」
アリアの問いかけに対してアレクは、「一部の者」という単語を強調しながら答えた。
「あぁ、なるほど。『一部の者』ね……。宮廷魔導師団の団長クラスなら、当然、利用できるってことね」
溜め息をつきながら椅子に腰掛けて脱力していると、パタパタと忙しない足音が近づいてきた。
「アリア様、ご無事ですか!?」
「クロウリー様……」
アリアのげっそりした雰囲気と、周囲の惨状を見たクロウリーは項垂れながら前髪をかき上げた。
マーリンが立ち去った時の風で、本があちらこちらに散らばっている。今もなお、ページがパラパラとめくれ続けているものもある。
「やはり、マーリンさんでしたか。気配に気づくのに遅れ、申し訳ありません。入退室はドアからにしてください、といつも言っているのですが」
(え、そういう問題……?)
あ然とするアリアに、アレクが渋い表情で言葉を足した。
「根は悪い人ではないのですよ。質が悪いだけで」
(そーれは……。もう、何ていうか)
「私から見れば、何もかもが悪いですよ! 良いのは、お顔と魔導師としての才能だけです!」
(イケメンであることは、リラも認めるんだ)
アリアは思わず笑ってしまいそうになったが、必死にこらえた。
ここで笑っては、本気で怒っているリラに対して失礼になる。
そして、子どものように感情をさらけ出すリラを初めて見たな、とアリアは静かに眺めた。
出会ってから間もないが、リラのことは本当に信頼している。
それはアルフォンスの言葉があったからという理由だけではなく、彼女の言動のすべてがアリアにそう思わせていた。
だからこそ、リラの新しい側面を知れたことも嬉しく感じた。
「リラ、私のために怒ってくれて、ありがとう」
すると、リラはハッと気づいたように冷静さを取り戻した。
「取り乱してしまい、申し訳ございません。そのうえ、お役にも立てず……」
「いいえ、十分嬉しかったです」
アリアの言葉で、リラがほんのりと頬を染める。
(かーわいいなぁ。こんな妹が欲しかったな。しっかりし過ぎてて、姉の威厳はなくなりそうだけど……)
しかし、下を向いてはにかんでいたリラを見ることができたのは、ほんの一瞬だった。
すぐにしっかりとした侍女の表情に戻り、慌てたようにパッと顔を上げた。
「申し訳ございません! 失念しておりました。アリア様が読書をなさっている間に、スズ様付きの侍女が参りまして、『一緒に夕食をいかがですか?』というスズ様からの言伝を承っております」
リラはポケットから小さな懐中時計を取り出し、頷いた。
「夕食は今から二時間後の予定です。いかがいたしましょうか?」
「喜んでご一緒させていただきます、と伝えてください」
「かしこまりました。アリア様、夕食まで少しお休みになりませんか?」
「あー。じゃあ、一時間ほど私室で休みます」
「すぐにご準備いたします」
「お願いします」
(さすがに疲れた……)
現実世界へ戻るまでの仮住まいを、無意識に「私室」と言葉にした自分に驚きながらも、それに対して、どうこうと考える力はアリアには残っていなかった。
お読みくださり、ありがとうございました。
もう少しちゃんとした人の予定でしたが、魔導師団の団長がぶっとんだ人になってしまいました(^-^;
まぁ、これはこれで……。
気に入っていただけると幸いです。




