第21話 疲れと、はやる気持ちと。
To doリストの一つであった図書室の利用と、聖女についての情報収集については目処が立った。
ふぅ、と脱力したアリアはソファに背中を預ける。
頭をフル回転させている状態を解くと、ふと、スズのスケジュールを思い出した。
もう一度、姿勢を正してからスズに問いかける。
「スズさんは今日、魔導師団のほうにいらしたんですよね? 結界などの状態はどうでしたか?」
「あー、私がぷちボイコットしてる間は、師団長がメンテナンスしてくれてたらしい。だから、大きな問題もなくて、今日は細かい所の修復をしたくらい。何かさ、別に聖女いらなくない? って時々思うんだよね。かなり有能なの。この国の魔道師団」
「――そうなんですか。それは……頼もしいですね」
スズが身も蓋もないことを言い出した。
気持ちは分かるが、少し返答に困る。
「でも、メリッサ様やシェリル様は、とても大変な思いをなさったんですよね……」
「あー、そうか。そうだったね……。やっぱり、聖女は必要か」
スズのその言葉は、どこか自分に言い聞かせているように聞こえた。
「アリアちゃん、師団長に会ったことある?」
「召喚された時に、倒れている姿は見ました。位置的にお顔は見えませんでしたが……」
「なるほど。じゃあ今度、会ってみると良いよー。すっごいイケメンだから」
(あ、やっぱりイケメンなんだ。そして、腐女子スズさんのストライクゾーンなのかな。魔導師団長ってなると、何となく攻めのイメージかな……。偏見だけど)
正直なところ、「聖女(仮)」と呼ばれる立場で魔導師団に近づくのは憂鬱だ。
しかし、王太子やアレクを見慣れているスズが「イケメン」だと評価する師団長を見てみたい、というのもアリアの本音だった。
(機会があれば会ってみようかな。どのみち、聖女の力について詳しく知るためには、いつかは話さないといけないだろうし……)
そんな会話をしているうちに、一人の執事がアルフォンスに近づいてきた。
手には小さな長方形のシルバーのトレー。
その上には、アンティークのように少し色褪せた金色の鍵と、くすみのない金色のチェーンが乗っていた。
それを受け取ったアルフォンスは長めのチェーンに鍵を通して、アリアに手渡した。
「アリア様、図書室の鍵です。図書室をご利用になる時は、このチェーンを首からお下げください。身分証の代わりにもなります」
「ありがとうございます」
(ICカード付きの社員証みたいだな)
さっそく頭から通してみると、鍵はみぞおちあたりの位置に収まった。
これなら、首から下げたまま鍵の開け締めができそうだ。
「さっそく、図書室をお借りしてもよろしいですか?」
「もちろんです。ただ、一点だけ。日の入り後は、一人でお部屋から出ないようにお願いいたします」
「身の安全のため、でしょうか?」
「その通りです」
「分かりました。気をつけるようにします。では、失礼いたします」
アリアは軽く頭を下げて立ち上がった。
「アリアちゃん、また後でね」
スズが笑顔で手を振る。それに応えて、アリアも微笑んで軽く手を振った。
「はい。スズさんもお気をつけて」
廊下に出ると、温室へ向かう時と同じくリラに案内され、アレクが警護として付いてくる。
「アリア様。一度、お部屋で休憩なさいませんか? やはり、あまりお顔の色が良くありません」
「ありがとう、大丈夫です。疲れたら戻ります」
「そうですか……。ご無理なさらず、お辛い時はすぐにおっしゃってくださいね? 約束ですよ?」
リラの気遣いに、アリアは素直に頷いた。
本当はとても体が重い、まぶたも重く感じる。
身体が休むようにとサインを出している。
しかし、気になったことは早めに消化しておかなければ、疲れているのに眠れない、なんてことに結局なってしまうだろう。
アリアは重い足を懸命に動かしながら、今後の願いを込めて、胸元の鍵をロザリオのように握った。
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