第11話 アリアの葛藤
アリアは部屋に案内されると、庭園が見渡せる窓辺の椅子に座った。テーブルにお茶と軽食、お菓子を用意してくれたメイドには、お礼を伝えたあとに下がってもらった。
少しひとりでゆっくりしたい、と。
ひとりになると気が抜けて、急激に疲れを感じた。
お茶を一口、二口と飲んで、ソーサーに戻す。空腹ではあるが、喉がつかえるような感じがして、固形物はすぐに食べられそうにない。
まずは、スズにもらった充電器を使おうと、壁に目を向けた。目に見える範囲にはコンセントが見つからず、立ち上がって室内を歩いてみる。
部屋の大きさは、五十平米くらいはあるだろうか。ファミリータイプの2LDKより少し小さいくらいだ。ひとり分の私室、寝室のみであれば広すぎる。しかし、かなり大きな天蓋付きベットがあるため、これくらいの広さは必要なのかもしれない。
アリアはコンセントを探しつつ、室内を探索してみることにした。
チェストに鏡台、壁には小さな風景画が三枚。日当たりは良く、チューリップのような生花が飾られている。
(そういえば、スズさんの部屋にはピンクのバラが飾られてな)
クローゼットを開けると、簡易なドレスからコルセットが必要な本格的なドレスまで掛けられている。部屋着のラフなワンピースと、靴などの小物も揃えられている。下着が一通り用意されていたことには、ぎょっとした。
目当てのコンセントはベッドの脇に見つけた。日本でよく見る型のコンセント。おそらく、変換プラグも必要ないのだろう。
そして、この位置のコンセントなら、ベッドに寝転がって充電しながらでもスマホが使える。
(……どんな気遣いよ)
聖女の体力などには気が回らないのに、このような部分には気配りが行き届いている。
それとも、過去の聖女が説明してこの配置になったのだろうか。
しかし、チエが日本にいた頃は、まだポケベルが使用されていたはず。携帯電話は、ビジネスマンが持っていた肩がけの大きなものくらいだ。
(あー、そうか。スズさんが教えたことをすぐに取り入れた可能性もあるのか)
アリアはベットの縁に腰掛けて、考えを巡らせた。
アルフォンスはおそらく、聖女の話し相手、つまりカウンセラーの役割をしながら、異世界である日本の知識や感覚を得たのだろう。
(同人誌にサークル活動、オゾン層まで知ってたし。きっと、他にもまだ……)
妃のシェリルも同様に、日本人に対する知識があるのかもしれない。場合によっては、女同士のほうが話しやすい内容もある。
スマホが充電できるまで、少し頭を整理しようと窓際の席に戻った。
そして、鞄の中身を確認しなければいけないことを思い出した。どうも注意力が散漫になっている。やはり、自覚している以上に疲れているのだろう。調べたところ、失くなっている物はなく安心した。
とりあえず、まだ身体が動くうちにと、ペンとメモを取り出し、気になること、しなければいけないことなどを箇条書きで挙げていく。
『メリッサ様とお会いした時に質問したいこと』
『チエさんにお会いした時に質問したいこと』
『この国の歴史、聖女に関する書物を読む』
『シェリル様にお会いできるか尋ねてみる』
『私の立場は、何になるのか……』
スズと話した印象では、対立することはまずあり得ないだろう。そして、スズも聖女のお役目に復帰すると言っていた。
自分の役割は何なのか、アリアはまた分からなくなってきた。肉体が疲れると、ネガティブな思考に陥りやすくなってしまう。
しかし、シェリルとメリッサの体調、そして、スズも身体が辛いと言っていたことを思いだした。
(やっぱり、スズさんの補佐かな。あとの詳しいことは、メリッサ様たちに話を聞いてから考えよう。これからも、カッコ仮って呼ばれるのかな――)
そこまで考えると、めまいのような強い眠気におそわれ、アリアはベッドに潜り込んだ。
そして、スマホのことを思い出す余裕もなく、数秒で深い眠りに落ちていった。
お読みくださり、ありがとうございました。
追記 2023年 12月19日(火)
第11話、改稿済みです。
どうぞよろしくお願いいたします。




