第1話 テンプレ大好き女子が、異世界に召喚された場合
テンプレに挑戦してみたくなったのですが、違う形になってしまいました……
追記 2023年 12月10日(日)
第一章の完結が近くなりましたので、矛盾点の有無をチェックしながら改稿作業をしています。
主に誤字脱字や言葉の表現、説明不足の部分を直していますので、物語の流れは変わりません。
どうぞよろしくお願いいたします。
「おぉ……! 召喚に成功しました!!」
(なに? この、いかにもな光景……。私の大好物の異世界恋愛『召喚系』みたいな状況なんですけど)
この類のシーンは、今の時代ではよく見聞きするようになった。ただし、フィクションでだ。実際に体験したという話は、今のところ聞いたことがない。
「ようこそ、おいでくださいました! 聖女様(仮)」
一目で身分が高いであろうことが分かる、白く長い顎髭を生やした好々爺に両手を優しく握られた。
(今、『カッコ仮』って言った?)
少し向こうで倒れている、上等そうなローブを着ている男性は魔道師団の団長だろうか。ここからでは顔が見えないが、おそらくイケメンなのだろう。
そもそも、これは現実なのだろうか。
異世界恋愛のコミックスやアニメを観すぎて、夢を見ているのかもしれない。
亜里愛は現在、二十歳の大学ニ年生。
幸い、今は夏季休暇中だが、大学を卒業するまではまだニ年近くある。
(もし、この状況が現実だったら休学届を出さないとまずいな。……いや、異世界にいたら出せないか。そもそも、異世界転移ってだいたい元の世界に戻れないよね? だけど、試してみないと分からない。とりあえず、早く話を進めないと……)
どんなに異世界恋愛ものが好きだとしても、別世界で生涯を終えるほどの覚悟はない。
「あの、私は亜里愛と申します。異世界に召喚されたという状況は理解しています。でも、『聖女(仮)』とは、どういうことですか? 本当に聖女の能力を持っているかどうか、判定する必要があるということですか?」
「アリア様とは! なんと心を震わせるお名前! 素晴らしい!」
「あの、だから、(仮)って……」
令嬢もの、転移に転生、何にしてもテンプレの異世界恋愛作品を楽しむことは、アリアの生活の一部だった。寝食と並べても良いくらいだ。
そのため、自分の身に何が起こり、この先どのように物事が進むのかということは十分すぎるほどに理解している。
聖女召喚のケースは、まずは名前を聞かれることが定石のため、先に名乗った。このあとは、この国の第一王子に手を取られながら、「魔獣から国を守るために、瘴気を浄化してほしい。そのために聖女を召喚した」などと説明を受けるのだろう。
そのあたりはよく知っている。だから、早く話を進めたいのだが、『聖女(仮)』ということだけは引っかかる。
「あの! 本当に! (仮)ってどういう意味ですか!?」
アリアは先ほどよりも、少し大きな声で問いかけた。
「さぁさぁ、こちらに。国王陛下ならびに王太子殿下がお待ちです。まずはお召し替えをいたしましょうか」
先ほどの年配の男性がそう言うと、二人のメイドが音もなく現れ、気づけば浴室で身体を磨かれ、白い衣装に着替えさせられていた。
その間にも『聖女(仮)』について何度か尋ねてみるが、誰も答えてはくれない。
(人の話を聞かずに、物事を進めるところまでテンプレか)
アリアは舌打ちをしそうになったが堪えた。仮にも聖女が舌打ちなどしてはいけないだろう。
(自分でも『仮』って言っちゃったよ。言葉の使い方は違うけど)
はは、と一人で空を仰いで嘲笑った。
軽く化粧もされて身なりを整えたアリアは、多くの近衛騎士に囲まれながら長い廊下を歩いた。最奥には大きな扉が見えている。
おそらく扉の向こうは謁見の間で、玉座に腰掛けた国王と王太子がアリアの到着を待っているのだろう。
ここまでは想定済みだ。
しかし、今度こそ『聖女(仮)』の意味を聞き出さなければいけないと、腰の高さで重ねていた両手にギュッと力を込めて背筋を伸ばした。
お読みくださり、ありがとうございました。
短い連載の予定です。
やや、見切り発車ですが、サクッと読める異世界恋愛を目指します!
「そこそこ良いかな?」と感じてくださった時には、「いいね」を押していただけると、とても励みになります。
2022年 6月 5日(日)
おかげさまで、物語の形が出来上がってきました。
設定を加えたため、当初の予定よりは少し長くなりますが、お付き合いいただけましたら幸いです。
テンプレ要素も少し残しつつ、自分らしいオリジナルの作品が書けるように試行錯誤中です。