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リッチによるリッチのためのリッチで怠惰な生活を目指す!?  作者: 飛狼
序章 天才パラケメストはかく語りき
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(4)

 一括(ひとくく)りに魔法と言っても、実際には大別すれば二つの系統に分かれておる。魔道具などの触媒(しょくばい)を通して魔力を形成するのは魔術、それと個人の内で魔力を形成するのが魔法。さらにその下には、内部で魔力を完結させる身体強化系や外部から魔力を取り入れたり借り受けたりする魔力譲渡系、精霊など他者を使役(しえき)するものなど幾つもの系統に分かれるが大きくは魔術と魔法であるな。

 区別をするには曖昧(あいまい)な点も多々あるが、主に前者を操るのは魔術士。後者が魔法士と呼ばれておる。

 世間ではどちらが優れているかとの問いがよく取り沙汰されるが、(われ)にはそれこそ愚問であると言うほかない。

 立つ位置からして違うのだ。

 両者の性質上、自己の魔力値は低いものの魔力操作に優れ、魔道具の扱いに()けた魔術士には研究者や学者が多く、魔力値の高い魔法士には軍務に()く者が多い。

 当然ではあるな。

 魔術士は魔道具がなくとも、個人の魔力で魔法を発動させることは出来るが、やはりその影響力や効果は低い。

 そしてまた、逆も(しか)り。

 魔法士だからと言っても別に魔道具が使えない訳でもなく、精度や技術に問題はあっても魔力値が高いイコール破壊力なのである。こと戦闘関連においては魔法士の方が特化しておると言って良いだろう。

 魔法士の中には馬鹿高い魔力値を誇り、個人で一軍に匹敵するような英雄(かいぶつ)クラスの者も存在しておるからな。

 歴史上で有名な英傑――勇者、大賢者、大魔道士などもこれである。とてつもない魔力を内包し、自己の中で練り上げ信じられないほどの威力で魔法を放つ。しかも魔道具の中でも戦闘用に調整された戦略級魔導兵器への魔力浸透率も魔術士を凌駕(りょうが)する者さえいたと伝わっておるな。戦略級魔導兵器は扱いも難しく、一般の者で魔力浸透率は約半分ほど。魔道具の扱いに慣れた魔術士であっても、魔力を注ぎ込む際にニ割から三割のロスが生じるというのに、過去の勇者などの英雄(かいぶつ)たちは浸透率はほぼ十割。ただでさえ他の魔法士の数倍も魔力値があるところにロスも(ほとん)どなく、戦略級魔導兵器でさらに破壊力の()した魔法を放ち大都市でさえ一瞬で消し飛ばすとか、とんでもない話である。

 そんな英雄(かいぶつ)たちだが、現代にもおる事はおる。それが五聖と呼ばれる連中……忌々(いまいま)しい事にヴィオラ(あやつ)もその内の一人であるな。

 ま、確かに魔法力は人並み外れておるが、五聖などと敬称で呼ばれるにしては少し……いや、かなり性格に難があると思うが。あやつは周囲の者に、「世界最高峰の魔法士」だとか「大陸西部を()べる魔女」だと(おだ)てられ祭り上げられておるだけであろう。

 学生の頃、初めて出会った時、


「バッカじゃな〜い、防御結界の魔術を()(ひま)があったら先に攻勢魔術を相手に当てれば良いのに! 戦いはね、先手必勝なのよ!」


 ヴィオラ(あやつ)の第一声がこれである。とてもではないが、五聖などと(うやま)われる存在からは程遠かった。

 当時の(われ)は錬金科で学ぶ魔術士。戦闘科ではないが、必須科目の初級科魔法訓練に模擬戦があった。で、その場に現れたのが、まだ同じ学生でありながら特別講師として招かれたヴィオラ。戦闘科の歴代記録を塗り替え、才媛との呼び名も高い別名『爆炎の美姫』。さる大国の高位貴族の令嬢であり、容姿にも優れ才能も豊かともなれば教授連の覚えもめでたく生徒間での人気も高かった。

 引き替え当時の(われ)は入学当初から座学においては常にトップであるものの、教授連や学生たちから煙たがられておった。

 ま、誰彼かまわず舌鋒(ぜっぽう)鋭く論戦を吹っ掛けておったからな。時には同じ学生のみならず、指導教授や学長、学部長相手であっても、一歩も引かず言い負かすほどであった。

 あの頃の(われ)は、若かったいうのもあるが、かなり(とが)っておったかも知れぬ。とはいえ今も反省はしておらぬよ。周りは教授連も含めて馬鹿ばかり、当然の行動をしたまでと思っておる。

 当時の魔術士は、魔法士の一段下に見られがちで、魔法士ばかりが持て(はや)されておったからな。

 それが、どうにも歯痒(はがゆ)かったのだ。

 考えてもみよ。

 確かに災害級の魔獣などが現れた時、国に所属する魔道兵団の魔法士たちが(おもむ)颯爽(さっそう)と討伐するが、彼ら彼女らが扱う魔導兵器の多くは魔術士たちが研究開発し提供しておるのだ。

 (われ)の両親も街で小さな魔術工房を(いとな)んでおったが、そこでさえ魔導兵器の部品等の受注をしておったのだ。いわば魔法士たちの華々しい活躍も、多くの魔術士たちの地道な活動による下支えがあってこそなのである。

 いや、それだけではないな。

 軍関連以外にも、魔術士たちは多くの物を開発して人々に提供しておるのだ。各種測定魔道具は治療術士たちの施術を助け、重力軽減の魔道具は建築や運搬業の労働者などを助けておる。さらに言えばもっと身近な日常的に使用する魔道具、火を灯す『火吹き棒』や夏場には重宝(ちょうほう)される『送風石』に、家屋内の(ほこり)を集める『集塵箱』や衣服の汚れを落とす『流濁槽』などなど、人々の生活に直結し役立つ魔道具も数多く存在するのである。

 そうなのだ。魔法技術とは戦闘に用いるだけでなく、どちらかと言えば日常生活に直結する物の方が圧倒的に多いのである。そんな魔法技術も、一朝一夕(いっちょういっせき)で生み出される訳ではない。突出した技術が全てを支えるのでなく、多くの技術が(おぎな)い合い折り重なるようにして新たな魔法技術は生み出されるのだ。

 言わば、多くの我ら魔術士の学者、研究者、技術者たちの長い年月を掛けて歩む一歩一歩が、人の魔法文明、魔法文化を(ささ)え後押ししておるのだ。であるのに、世の中では魔法士こそが花形。魔術士と魔法士の関係を例えるなら陰と陽。魔術士はあくまでも日陰の存在となっておったのだ。

 今でこそ、我が一門の活躍――これまでの魔法概念を打ち破る論文を発表したのを皮切りに、魔力灯、魔導通信、自動式魔力駆動車など数多くの発明開発を行い、世界に魔法大革命の波を引き起こしたのだ。これにより世間一般の認識も少しは改められたが、当時はまだまだ(ひど)いものであった。しかも大陸最高学府の学び()ともなれば、()して知るべしであろう。

 魔法士が幅を()かせ、学長や学部長など大学の首脳陣は魔法士で固め、本来尊重されるべき魔術士系の学者たちは端へと追いやられ、在籍する研究者たちの多くは卑屈(ひくつ)に上司の顔色を(うかが)うような()した存在ばかり。希望に胸を(ふく)らませ最高学府へと入学したものの、初めて知った現状に愕然(がくぜん)とし、座学では常にトップの(われ)も見下され、何度歯痒(はがゆ)い思いをしたものか。

 だからこそ、あやつが模擬戦に特別講師として現れた時に、(われ)は真っ先に()みついのだ。


「少し実技が優秀だからといって、まだ学生の身分で特別講師とは笑わせる! 俺に魔法について教える? 逆ではないのか? その伸びきった鼻を()し折って俺が教えてやろう。魔法のなんたるかをな!」と。


 なんとも()ませ犬っぽい台詞(せりふ)に、思い出す(たび)に恥ずかしい限りである。(われ)もあの頃はまだまだ血気盛んな時期。若気(わかげ)の至りというものであるな。

 ま、(われ)も、そこに嫉妬(しっと)(ねた)みといった感情が無かったか、と問われても否定はせぬよ。(われ)も人の子、それこそが人の有り様、本能でもあるからな。羨望(せんぼう)の裏返しであり、他者を排除しようとする感情は群れを守る力となり、(ねた)みの感情は向上心の元ともなりえるのだ。嫉妬(しっと)(ねた)みを(いだ)かぬ者など、それこそサイコパスであろうよ。

 とにかくだ、入学時から続く閉塞感(へいそくかん)の伴う鬱屈(うっくつ)とした日々に、当時の(われ)も我慢の限界であったのかも知れぬな。それが、学内での魔法士の代表ともいうべきヴィオラの登場に、(せき)を切ったように一気に噴出したのやも知れぬ。

 とはいえ、(われ)も勝算もなく一時の感情に任せて挑むほど愚かではない。

 元々が初級科魔法訓練のための模擬戦である。そこには明確なルールも存在する。当然ではあるな。命や尊厳を()した決闘でもないのだから。本来であれば魔道具の使用も体に直接当てる事も禁止。詠唱を伴う属性魔法をぶつけ合う魔法戦ではなく、純粋にお互いの魔力波動だけで優劣を競う。水面に石を投げ込んだ時に生じる波紋の如く、お互いから発せられる魔力波動をぶつけて打ち消し合うのだ。

 (われ)に言わせれば、子供の手のひらを合わせて行う押し比べのような児戯(じぎ)に等しいものである。さらに言えば、魔術士に魔道具の使用を禁止するとは本末転倒であろう。

 だからこの時ばかりは、(われ)も決まり事を無視をしたまで。(ひそ)かに衣服の内側に魔道具、(われ)が改良と調整をした紋章術式『反転防御結界・改』を(きざ)んだ術式結界魔法具を隠し持っておったのだ。

 改良、調整をしたのは二点。隠密性と我の魔力波動に乗せて反射魔法を放つ、である。

 本来、結界魔法とは城郭都市(じょうかくとし)などの周囲に(くさび)となる魔道具を数カ所打ち込み、結界術式を展開させるもの。一般的には魔獣などの侵入を防ぎ、固定された拠点を防御するための術式魔法との認識なのである。

 (われ)は研究に研究を重ねて、この結界術式を個人でも(あつかえ)える流動的な術式へと改造を施したのだ。簡単に()べると相対する者から放たれた魔法を気付かれずに(はじ)き返す。相手からすれば訳も分からない内に己れの放ったはずの魔法が自分へとはね返って来るのだ、これほど恐ろしい事は無いだろう。

 元々は、貴族家の馬鹿息子対策に研究していた術式なのだ。どういう訳か知らぬが、貴族家子弟の多くは(われ)を指差し「生意気な奴め!」とすぐに争いを仕掛けて来たものである。時には口だけでなく肉体的意味でな。(われ)は真っ当な意見を言っておるだけであるのにだ。

 (われ)の結論は「やはり貴族は理知的に物を考える事もできぬ愚か者の集まり」である。とはいえ、さすがに貴族家と表立って直接争うのも問題があるため、そこで対抗策として研究を始めたのが、隠密性を高めたこの術式。(われ)がやったとの証拠も残らぬし、上手くいけば己れの放った魔法が暴発したと思われるかも知れぬからな。

 ま、当時はまだ完成には至っておらぬし、今もいろいろと難点や制約もあってそれほど優れた術式というわけでも無いが。

 だが、未完成であったとはいえ相手の魔力波動を打ち消す程度の効果はあった上に、今も当時も初見殺しである事に変わりはない。

 これで勝てる……とまでは考えておらなんだが、一泡(ひとあわ)吹かせてやろうと目論んではおったのは確か。目の前でヘラヘラと笑っているヴィオラ(あやつ)も、周囲で「こいつ気は確かか?」と馬鹿にした表情を浮かべる他の学生や教官たちも、その()めきった態度を驚嘆へと一変させていくのを眺めるのも逸興(いっきょう)。そのためならルール違反も(いと)わぬとの思いを強めておった。

 卑怯(ひきょう)

 それを言い出すなら、そもそもがルールそのものが、卑劣(ひれつ)かつ姑息(こそく)なものである。明らかに魔法士を優遇し、魔術士を(おとし)める手段でもあるからな。

 (われ)躊躇(ためら)う事もなく、模擬戦開始の合図が出される前に術式結界魔法具をすでに起動させておったのだ。

 とにかくだ、(われ)の挑戦をヴィオラ(あやつ)はヘラヘラと笑いながら受けた。その際に(われ)(なが)めまわし、最初に発したヴィオラ(あやつ)の第一声が「バッカじゃな〜い、防御結界の魔術を()(ひま)があったら先に攻勢魔術を相手に当てれば良いのに! 戦いはね、先手必勝なのよ!」なのである。

 その時のヴィオラ(あやつ)の態度がまた、見下されているような気がして(われ)を苛立たせものの、と同時に驚愕する表情を眺め一人(えつ)()るつもりが、


 ――あ、ばれてる。


 と反対に(われ)が驚かされたのだ。

 誰にも気付かれぬ、との強烈な自負を持っておっただけに、この時の衝撃はかなりのものであった。

 思わず体を(すく)めて動けなくなる程度には。

 当時の(われ)はまだ学生であったとはいえ、この程度の未完成な術式で得意気(とくいげ)であったのだから、今の(われ)からすれば「この未熟者が!」と怒鳴り付けたいところであるがな。

 これで模擬戦も中止かと思われたのだが、ヴィオラ(あやつ)(われ)に対して反則行為を糾弾(きゅうだん)する訳でもなく、満面の笑みで続けてこう言ったのである。


「いくわよ〜、覚悟しなさいよね!」と。


 これは(われ)への挑戦、いや、挑むのは(われ)であり、ヴィオラ(あやつ)のは宣言。(われ)の反則行為もわかったうえで、それを正面から受け止め粉砕すると言っているのに等しく、またそれだけ彼我(ひが)の実力差も明らかだと言っておるのだ。

 要は、お前程度の実力、何をしたとしても話にもならない、と。

 当時の(われ)はそんな風に受け止めたのである。

 後で聞いた話では「面白そうな事してる生徒がいる。模擬戦が楽しめそう」と、ただ単純にそう思っただけであるとか。

 ま、ヴィオラ(あやつ)は昔から物事を深く考えず、思いつきで行動するような天然ものの能天気な性格であったというだけであるな。

 とにかく当時の(われ)はそんな事とは(つゆ)ほども知らず、お気楽な様子のヴィオラ(あやつ)に対して腹を立て、(いきどお)り、敵愾心(てきがいしん)(つの)らせたものである。

 だから、ここで引くわけにはいかぬ、負け犬の如く尻尾を巻いて逃げ出すなどあり得ぬ、とさらなる闘志を燃え上がらせたのも当然。例え後で反則行為が露見(ろけん)し、非難されようともだ。

 元々、魔法や魔術は、その場、その時の精神力に依存する事が多々ある。

 この時も、(われ)の感情の(たかぶ)り、それが功を奏したのか、ヴィオラ(あやつ)の放つ魔力波動に、咄嗟(とっさ)に動き出し上手く合わせる事が出来た。

 たとえ魔法の力では負けたとしても、こと精緻(せいち)さにおいては魔術士として、いや、(われ)自身が、誰に対しても遅れを取るつもりなどない。

 ヴィオラ(あやつ)の魔力波動が放たれる、まさにその瞬間を察知し(とら)え、その頭、先端部に、我の魔力波動に同調させて()んだ術式『反転防御結界・改』をぶち当てる事に成功したのだ。

 言葉にすれば簡単なようにも聞こえるかも知れぬが、これは相当な才能が無ければ出来ぬこと。それを瞬きする間も無く行ったのであるから、(われ)はやはり天才というほかないだろう。

 このタイミングでのアドバンテージはかなり大きく、その上で(われ)の改良した術式を乗せているのだ。さらに言えば、ヴィオラ(あやつ)(われ)が何をするか詳細までは分かっておらぬはず。これだけ条件が揃えば力の差を(くつがえ)すのにも十分と、勝利すら確信したのであるが――。

 

 結果は瞬殺。

 誰が?

 (われ)がである。

 タイミングを(はか)る技術も結界術式も関係ない。何もかも吹き飛ばされ、文字通り(われ)でさえ宙を舞い地へと叩き付けられ気を失ったのだ。

 属性魔法へと変換すらされていない魔力波動でこれである。

 

 ――英雄(かいぶつ)とは全てを押し流す力である。


 有名な歴史学者の言葉であったな。

 もはや魔力波動と呼ぶのも馬鹿ばかしいような圧倒的に強固な力の波動が、(われ)の放った魔力波動を術式もろとも粉砕し、尚且(なおか)つその余波で(われ)をも吹き飛ばしたのである。

 あまりにも理不尽な力。その一端を我が身でもって経験することとなったのだ。


 ――だが、認めぬ。認めるわけにはいかぬ。


 人種を導く道標(みちしるべ)たる英雄とは心技体を兼ね備えた、高潔(こうけつ)な志を持つ者でなければいかぬ。

 人によっては子供染みた英雄幻想、大人気もないと笑うかも知れぬが、これだけは昔も今も譲れぬ思い。力が全て、力でもって我意(がい)を押し通すような事があってならぬのだ。

 ま、ヴィオラ(あやつ)もそこまでの馬鹿者ではなかったようだが、当時の事を知る者の中には、後の英雄へと至る才能の片鱗(へんりん)を、学生の頃に(すで)にのぞかせていたと言う者もおるが、


 ――ハッ、馬鹿な事を!

 

 (われ)に言わせれば、令嬢や容姿云々(うんぬん)についてはさておき、才能に関しては魔力量にものをいわせた力任せに過ぎぬ。


 結局、(われ)は模擬戦の最後には吹き飛ばされ気を失っておったので、その後の話はよく分かってはおらぬ。ただ、何故かヴィオラは不正行為を明かさず、(われ)の行いは問題にされる事もなかった。どちらかといえば、ヴィオラが直接(われ)を狙ったのではないかと問題にされていて、それを「あれは余波で(あお)られた俺が未熟だっただけ」と逆に(われ)(かば)っていたのだから皮肉なものである。

 そんな訳で、模擬戦終了後には(われ)への学内の風当たりも相当にきつくなっておった。

 これも当然ではあるな。

 学内の学部長ら首脳陣からは魔法士と魔術士との対立を(あお)る要注意人物と危険視され、学生の間でも魔法士たちからは「ほれ見たことか」と今まで以上に馬鹿にされ、同じ魔術士の学生からも関わりたくないと遠巻きに遠慮されたりと学内では完全に孤立しておった。

 ただし、露骨(ろこつ)に嫌がらせをして来るような連中には、こちらもそれ相応に拳でわからせてやったがな。

 それと模擬戦で争った当の本人であるヴィオラ(あやつ)とも、学内で顔を合わせる度に言い争うーーヴィオラ(あやつ)揶揄(からか)(われ)が反論するような、何かにつけツノ突き合わせる関係であったが……男女の仲とは誠に(もっ)て不思議なもの。ヴィオラ(あやつ)とは、いつしか学内では常に(つる)むようになり、魔法大学を卒業して研究者となってからも縁付き一緒に暮らすようになったのだから分からぬものである。

 尤もヴィオラ(あやつ)に言わせると「最初にデレたのはあなたの方が先よ」とのことだがーー当時は唯我独尊(ゆいがどくそん)、孤高の天才を気取った、我にとっては黒歴史ともいうべき時期ではあったが、やはりと言うべきか、周囲の冷たい視線が心に突き刺さっておったのは確か。そんな(われ)に、ヴィオラという存在は助けとなっていたのも確かではある。当時の(われ)は、あのままでは性根が腐っておったかも知れぬからな。だが、だからといってヴィオラ(あやつ)が言う「デレる」などといった俗語で語られるような行動をとった覚えなど……ない。そ、それだけは絶対にないと断言しておこう。

 ま、そんな訳でだ、当時の(われ)が執筆した論文『スライムによる属性偏移の考察』と、それに(たん)を発した魔力そのものを考察する『相対性魔法概論』を発表するにあたって、協力者となりえるのはヴィオラ(あやつ)しかおらなんだというのが実状ではあるがな。

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