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リッチによるリッチのためのリッチで怠惰な生活を目指す!?  作者: 飛狼
序章 天才パラケメストはかく語りき
1/13

(1)

 永遠に続く生命の(きら)めき、不老不死。


 病や死の恐怖からの解放、それは人の究極の夢。

 

 諸国の王、帝国の皇帝、歴代の教皇、幾人もの時の支配者たちが夢見た願い。


 大賢者や大魔道士たち、古来、英雄と呼ばれた限られた者が挑み果たせなかった難題。


 中には森の民を治める精霊神の眷属とも言われるハイエルフなどもいるが、それでも数百年。あるいは、人外では千年の寿命を持つと伝わる古龍。

 どちらにせよ、長命ではあるものの人と同じく限りある命に違いはなく、たとえ人知を超えた存在であったとしても、それは不可能。


 いや、そう思われていた……これまでは。

 そこでこの(われ)、稀代の錬金術師パラケメストの登場である。


 ――パラケメストの前にパラケメストはなく、パラケメストの後にもパラケメストはなし。


 錬金術はもとより一般的な魔法学だけでなく、精霊魔法に魔法陣、紋章魔法や召喚魔法、付与魔法にまで精通し、それら魔法関連の学問以外にも鍛治や木工等の工学関連にまで造詣(ぞうけい)を深め、治安向上に一役かっていると言われる街の辻々を照らす魔力灯を始めとした数々の発明や指導を行い、新たな学問『魔法工学』の基礎を築いた、それが(われ)、大天才パラケメストなのである。

 ここが一番重要。

 何度も言うようだが、(われ)こそが自他共認める大天才にして稀代の錬金術師パラケメストなのである。

 そんな我が不老不死について関心を持ったのは本当に些細な偶然、いや、必然であったのかも知れぬ。もともと興味がなかったわけではない。もっと幅広く、深く知識を得てから取り掛かろうと思っていただけだ。

 別に難問に失敗しそうだとか、成功する前に寿命が尽きるだとか断じて思っていたわけではない。

 ここも重要。

 なんといっても(われ)は自他共に認める大天才だからな。

 が、弟子の一人がとんでもない噂話を拾ってきた。

 聖王国の教皇が秘蔵する神代の聖遺物(アーティファクト)『アンギスの聖珠(せいじゅ)』を、こともあろうにあの『西の魔女ヴィオラ』に提供して不老不死の秘術の完成を依頼したとの話だった。

 これには少なからず慌て……いやいや、我は大天才パラケメストである。 

 凡百の術士が我を出し抜こうとも、焦らず慌てず、騒ぐこともなく余裕を持って対処するのみ。弟子たちに荒げた声で指示を出すのも、弟子たちの成長を促す気持ちの表れ。決して羨んだり嫉妬心を抱いたからではないと断言しておこう。

 これも重要。

 なんといっても、(われ)は後の世では偉人として語り継がれていく()()の偉大な錬金術師パラケメストであるから。

 しかし、それにしても妙な話ではあるな。

 聖王国の教皇は、大陸全土に信徒を持つ聖神教のトップ。いわば神の代弁者を公然と自認する者でもある。そのような者が、神の摂理に反し不老不死を求めるなどと、ついに耄碌(もうろく)して欲ボケしてしもうたか。

 まぁ、わからなくもないが。(われ)も同じく老い先短い身。残り少なくなった人生を見つめ、不老不死という甘美な誘惑に囚われてしまうのは無理もない。人によっては、無限に続く時間は(むな)しく有限であるからこそ美しいなどと(さか)しいことを偉そうに()く者もいるが、経験した事もないのによく言えたものだと言うほかない。もしやすると、不老不死によって得られる楽しい時間が無限に続くかも知れぬではないか。それこそ皆が不老不死へとなれるのであれば、世界から飢えや病も無くなり人々の不幸は過去の歴史へと追いやる事が出来るのでは……これこそ真の楽園であろう。

 我には英雄たち、歴史の偉人たちの言葉もただの負け惜しみにしか聞こえぬ。

 もっとも、(われ)の場合は不老不死そのものより、それによってもたらされる無限に続く時間の方が重要ではあるが。(くだん)の不老不死もそうだが、今までは時間が無いからと脇に退()けていた、超難問と言われる研究課題の数々。例え万の時間があろうとも魔法の深淵を覗くことも、世界の真理を解き明かすのにも全く足りぬのだからな。それがなんの遠慮もなく思う存分に研究できるのだからこれほど素晴らしい事もない。

 (われ)が今まで研究に着手していなかった事が不思議に思えるほど、とてつもなく興味を惹かれる魅力的な課題でもある。

 さて、どうしたものか。

 研究一筋の我でさえ躊躇(ちゅうちょ)するほどの案件。不老不死の秘術が成功するかどうかはさておき、ヴィオラに依頼したのが教皇だというのが、どうにも胡散臭(うさんくさ)い。

 帝国を始めとする諸王国の権力者たちも、今までは聖神教に遠慮してか、光属性関連の魔法、特に生命に紐付く魔法に関しては表だって研究したことはない。それが今回の事で、どう動くことになるやら……はたして、ただの欲ボケ老人の戯言(たわごと)なのか、それとも、何やら裏の事情でもあるのであろうか。

 どちらにせよ権力者たちの考える事など、どうせ(ろく)でもないものと決まっておる。あまり関わりたくもないが……ただ、膨大な魔力量を溜め込む聖遺物を使っての研究は随分と(はかど)るだろう事も確か。それに(われ)を差し置いて『西の魔女ヴィオラ』に依頼した事もまた腹立たしい。

 若い頃は可愛らしいところもあったが、今ではただの偏屈(へんくつ)なクソババアじゃ。

 近頃のあやつは事あるごとに、すぐに我と張り合おうとする。時には周囲の者に向かって、必要以上に我を(おとし)める発言を吹聴(ふいちょう)する事もしばしば。(われ)よりあやつの方が上だと、周りの者に認めさせたいのであろう。

 確かにあやつの方が、(われ)より魔法士としての腕が上かも知れぬ。だが、剣と魔法の世界を過去へと押し流すこの時代。魔法大革命の一端、いや、中心を(にな)うこの(われ)、錬金術師パラケメストとしては、こと新しい魔法や魔道具の研究開発では負けるわけにはいかぬのだ。

 だからこそ弟子たちを集めこう告げる。


「地方に散らばる弟子たち、その孫弟子に至るまで手すきの者は全て集めよ。これより一門を総結集した一大プロジェクトを立ち上げる!」と。


 向こうが聖遺物(アーティファクト)を用いるならこちらは数を揃えての勝負。孫や孫孫弟子まで入れれば百人を優に超える頭脳を集める事が出来る。しかも、大半が一流と呼ばれる魔法工学士の頭脳をだ。

 もちろん弟子たちの中からも、遠回しに反対する声もちらほらとはあった。

 現在我が一門が抱える大きな研究プロジェクトは二つ。

 飛空艇と魔道列車。

 どちらも不老不死とまでいかずとも、難問であることには違いはない。

 しかし、飛空艇は大型のものでは成功ーーとてつもなく巨大化しとてもでないが採算が取れない上に、貴重な素材も大量に使うため数を揃えられない。そのため現在は小型化への理論の構築と実験を繰り返し、ようやく目処(めど)が立ったところ。

 もう一方の大量輸送を可能とする魔道列車も、先立って我が発明した馬車の代わりとなる自動式魔力駆動車の実用化も始まり、その理論を応用しての実験はもはや最終段階。後は安全性を高めるための魔力を保持する軌道をどうするかの問題だけである。

 どちらにせよ、最後の詰めを残すのみ。はっきりと言えば、(われ)がいなくても実現可能なのである。であれば、心利いた弟子の誰かに丸投げ……いやいや、開発者筆頭の名誉を譲っても良いだろう。決して開発後の権力者との折衝を面倒だと思ったわけではない。

 とにかく、弟子たちからあがる遠回しに反対する声は黙殺し、強引に不老不死プロジェクト推し進める事とする。

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