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八話 帰還、冒険者登録

一日休載してしまい申し訳ありません。

今後は気を付けます。毎日投稿厳守。

 魔猪を討伐してからはモンスターに会うことも無く、特に障害無く進み続け。

 ついに俺たちは、最寄りの街に辿り着いた。

 ドラゴン形態となって魔猪の体を運んでいたドラゴは、流石に街中でドラゴン姿を見せるのはまずいという事で人型に戻った。しかしそうなると、いよいよ魔猪の体を持ち運ぶ方法が無くなる。


 「……ふーむ。セレナ、ドラゴ、どうすればいいと思う?」

 「我が運ぶのが一番効率がいいのだがな……むむむ、難しいな。この体では、我も十分な力が出せんし……」

 「そうですね……あれ? センヤさん、何か新しいスキルを習得していますよ?」


 セレナが目を凝らして、俺の顔を見てくる。その魔眼が紅く光って、何かを発見したことを知らせていた。

 ……新しいスキル? 魔猪を倒したから、何か手に入れたのだろうか。とにかく、いったん試してみよう。

 とはいえ、試す方法も分からない。スキルの名前も分からないし……試しに、ギフトを見たときの様に頭の中でスキル、という単語を思い浮かべてみた。


 「……お? 何だ、これ。《収納》……?」


 頭の中にただ一つ浮かんだその単語を俺が口に出すと、その瞬間に俺の手のひらから光が放出された。そしてその光は巨大化し、大きなゲートの様に変化する。

 収納、という事は……名前の通り、何か収納できるのだろうか。手を動かすとその光も操れることに気づき、俺は地面に倒れた魔猪の体に向けて光を操作した。すると、光は掃除機の様に圧倒的な吸引力で魔猪の体を吸い込む。


 「……吸い込まれた。なんだこれ、便利だな」

 「え……? そ、そんな……こんなに大きなものを収納出来るスキルが、存在するなんて……」


 セレナが何やら驚いているが、これってあれだよな。ゲームとかでいうところのアイテムボックス。アイテムをほぼ無限に持ち運べるあれ。

 この世界はゲームと似た部分が多いから、これも常識なんじゃないんだろうか。良く分からないな。

 まぁ、いい。とりあえず魔猪の持ち運びには困らないし、ギルドに早いとこ売りに行ってしまおう。


 「ほら、行くぞ2人とも。まずはギルドの登録と、魔猪の体を換金するのが目標だ」

 「は、はい!」

 「それと、我の服とやらもな」


 いや、それは知らないけど。


 「しかし、大きいな。加えて活気もある。人間もなかなかのものよ」

 「まぁ、この街は城下町だからな。それに最難関ダンジョンがあるだけあって、冒険者の人口も多い」


 ――この街の名前は、ビルマの街。各地に散らばる冒険者ギルド支部の中でも、ダントツの知名度と規模を誇るギルドがある事で有名だ。

 街を行き交う人々の中には、やはり筋骨隆々の冒険者が多い。この街の情報はギルドがある事ぐらいしか持っていないけれど、人々が流れてくる方向に行けばいいのかな。

 と、しばらく行ったところで、何やら大きな建物が見えてきた。どうやらこの人通りの多さは、ここが源泉になっているらしい。


 「冒険者ギルド、ビルマ支部……ここがギルドというものですか! 初めて見ます……」

 「むむむ、やはり人間どもは建築に関しては他の追随を許さんな。我の巣とは大違いだ」


 ギルドを見て各々反応する二人をよそに、俺は開かれたドアの中を覗いてみる。

 酒臭いにおいが懐かしい。あの王が居た街のギルドを思い出す。……勿論、あいつの事も。

 嫌な思い出を振り払うように頭を振って、大事な場所がきちんとあるかどうかを確認した。

 

 「……よし。換金所、あるな。ここで良さそうだ」


 換金所が無ければ素材を売れない。支部にはそういった場所もあるというから、確認は必須だ。

 俺も含め、このギルドが三人の出発点となる。正確には俺はギルドの登録を済ませているが、一応前のギルドカードは捨てた。身分がバレたらややこしいことになるからな。

 俺たち三人は、人込みをかき分けギルドの中に入る。


 「ほー、ここがギルドの中かぁ……酒臭いのはいいことだ。我は酒も好きだぞ」

 「何だか、こう……荒くれ! って感じで、ワクワクします! あ、あそこにあるのは何でしょうか?」

 「観光はあと。今は諸々済ませるのが先だぞ、二人とも」


 またしても内部の光景を見まわす二人の手を握り、強引に受付に連れて行く。

 二人とも、何故か振りほどかずに俯いて素直に歩いてくれたのが少し気になった。見れば、顔が少し紅潮している。

 ……酒気に当てられたのだろうか。


 「ここがギルドの受付だ。今からするのは冒険者登録と、チーム編成と……何だよ、ドラゴ」

 「存外に、悪くないものだが……そろそろ、手を離すのだ。そういう事は、まだ早いのではないか」

 「そ、そうです……ちょっと、恥ずかしいですし」


 ……二人は何か乙女っぽい顔でそんな事を言っているが、自分から離そうとする気配は無い。なんなんだ一体。なんか周りの冒険者たちの視線も痛いし、俺はおとなしく離してあげた。

 少し話が脱線したが、とにかく登録だ。ギルドの受付のお姉さんに話しかけるのは、相変わらず緊張する。


 「すみません。俺たち三人、冒険者登録したいんですけど……」

 「新規のご登録ですね! それでは、何か実力を証明できるものはございますでしょうか?」 

 「……え?」


 実力を証明できるもの? 何だそれ、俺が登録した時にはそんなの要らなかったぞ。

 俺の頭に浮かんだハテナマークを感じ取ったのか、お姉さんは笑顔で説明してくれる。


 「冒険者ギルドには、その方の実力を示す階級(ランク)、という制度がございます。これは冒険者全員が、実力に合ったクエストを受けられるようにするためのもの。なので新人の方には初めに、現時点の実力を確認できるものを見せていただき、初期のランクを決めることになっております」


 ……もしかして、これは冒険者の中では常識なのだろうか。俺は転移者で、勇者の一員として冒険者登録が要らなかっただけで。

 どうしよう、何も用意してないぞ……と、思っていたが。

 そういえば、さっき仕舞ったモノがあった。けど、ここじゃ出せないな。


 「すみません。一応、僕たち三人で討伐したモンスターが居るんですけど。ここじゃ大きすぎて出せないので、外に出て見てもらってもいいですか?」

 「え? ……ま、まぁ、構いませんが。でも、この建物は結構な大きさがありますよ? この中で出せない魔物となると、それこそダンジョンボス級の……」

 「だから、そう言っているだろう。いいから早く表に出るのだ」


 受付の台に身長が届いていないドラゴが、そのくりくりした目でお姉さんを睨み付ける。それを見たお姉さんが、更に訝しげな視線を俺に向けてきた。

 ……まぁ、ぱっと見ではただのポンコツ新人パーティだよな。一応追放者二人にドラゴン一匹の豪華なメンツなんだけど。

 お姉さんは、それでは拝見します、と言って、面倒くさそうにため息をついて外に俺たちを誘導する。そして、裏口から外に。よし、これでスペースは確保できたな。

 

 「……どこにも、見当たりませんが。一体どこにいるのですか? その巨大モンスターというのは」

 「あ、はい。すみません、少しお待ちを……えっと、《収納》」


 《収納》したものを取り出す方法が分からないので、取り合えずあのゲートを出してみる。そして手で操り、中のものを落とすように振ってみた。

 ……すると、魔猪の巨体がゲートを抜けて落っこちてきた。どしん、と大きな音を出して地面を揺らしたそれを見て、お姉さんがぽかんと口を開ける。


 「……これ、なんですけど。どうでしょうか」

 「……ちょ、ちょっと待ってください。い、今のスキルは……?」

 「《収納》です。ここまでこれを使って運んできました」

 「で、では、この巨大なモンスターは……?」

 「魔猪ってやつらしいです。三人で協力して倒しました。最も、僕には価値とか分からないんですけど……」

 「ま。……魔猪……天災級の、あの……」


 お姉さんは頭を抑えながらふらふらとよろめき、ギルドのドアを再び開ける。

 しばらくしてお姉さんは、顎に髭を蓄えた小柄なおじいさんを連れて再び現れた。

 おじいさんは何やら鑑定道具の様なモノを猪の体に当て、険しい顔をしながら考え込む。……あれ、もしかして保存状態が悪かったとか……。


 「……君たちが、これを?」

 「は、はい」

 「……嘘、ではなさそうだな。全く、とんだ新人が現れたものだ」


 おじいさんはため息をつき、静かに首を横に振る。

 そして、魔猪の体に手を当てて言い放った。


 「残念ながら、我々ではこの魔猪を買い取る事は出来ん」

 「な、何故ですか!?」

 「そうだぞ!! 我の曇りなきマナコが、その魔猪がどれほど貴重かを見抜いているのだ!」

 「……そうだな。だからこそ、だ。我々の裁量でこれの価値を決めることは出来んのだよ」


 ……おじいさんの言ったことは、つまりこうだった。

 魔猪というモンスターの目撃例は少ないが存在し、そして極まれに討伐して来る凄腕冒険者のパーティも存在する。しかし、それでもその素材は王都のオークションで高く売りに出される程に貴重らしい。

 それなのに、俺たちは魔猪の死体を体ごと。しかも、魔力の品質が極めて高い特殊な個体のものを持ってきた。一介のギルドである自分たちには、買い取るだけの財力も、権利もないとのこと。

 その話を聞いている間、お姉さんの顔は真っ青だった。


 「じゃあ、どうなるんですか? この魔猪は」

 「……我々に任せてくれれば、然るべき場に売りに出し、その価値に見合った報酬を必ず渡そう。しかしそれには時間がかかりそうなのだが……」

 「時間はかかっても、いつかは得られるんですよね? それじゃあ僕は構わないですよ。な、二人とも」


 二人は俺の振りにも、快く頷いてくれた。

 そしてそんな俺たちに、おじいさんとお姉さんは頭を下げてくる。頭を下げられることに慣れていない元高校生の俺は、すぐに止めたけれど。

 そして、頭を上げたおじいさんは、俺たちをじいっと観察してきた。セレナの前髪に隠されているはずの眼や、ドラゴの翼としっぽを。


 「――君たちのそもそもの目的は、冒険者登録だったな」

 「はい、そうです。その為に実力を示せるものが必要だと言われまして……」

 「ならば話は簡単だ。君たちの登録、この儂が預かろう」


 おじいさんはニヤリと笑って言うが、それを聞いたお姉さんがびくっと飛び跳ねた。……そんな驚くことなのかな。

 続けて、おじいさんは俺たちに言い放った。


 「――君たちは、Aランクからのスタートとさせてもらおう。最も、君たちならばすぐにSランクに到達するだろうが……」

 「……え」

 

 ――前例の無い、飛び級でAランクからのスタート。E、D、C、B、A、SのうちのAランク。明らかにおかしい数値だ。

 平穏とはいいがたい未来が来る事は、もはや明白なのであった……。

 

 




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