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五話 ドラゴン娘

ドラゴン娘登場。

 どれくらいの時間寝ていただろうか。

 この世界に来てから、ずいぶん久しぶりに安眠した気がする。体の疲れも頭の疲れもすぱっと取れ、今日は何だか気分がいい。外の時間も分からないけど。

 隣で寝ていたセレナもそれは同じようだが、隣にいる俺を見て、恥ずかしそうに目を逸らした。そしてぽつりと呟くように言う。


 「ちょ……ちょっと、少しの間だけ一人にしていただけませんか。色々と、その、整えますので……」

 「え……お、おう。じゃ、準備できたら呼んでくれ」


 まぁこれが当然の反応だろう。俺だって恥ずかしいし、昨日は謎の高揚感のせいで添い寝なんてしてたんだ。それに女性は、寝ぐせとか色々あるんだろうし。


 とりあえずセレナの準備を待つ間、俺はドラゴンを探して少し道を進む。因みにある程度まで進むと、日の光がダンジョンに入ってくることは無いので、龍の油を使った簡易的なランプの光が頼りだ。セレナは魔眼の効果で暗視まで出来るらしい。本当に万能だ。


 ……と、進んでいると、ダンジョンの隅で珍しいドラゴンを見つけた。


 「……子供?」


 サイズを表すなら、俺の身長の半分くらい。小さくても一軒家位はあるドラゴンの中では異質な小ささのそのドラゴンは、おそらく子ドラゴンだろうか。

 白金色に光った鱗に、つぶらな紅い瞳。そして、大人のそれよりも可愛らしい牙。会ったドラゴンを一匹討伐しようとは思ったけど、流石にこの子は無理だな……。

 こちらをじいっと見てくるドラゴンから遠ざかるように、俺は迂回して先に進む。


 『オイ、ちょっと待て』

 「……え?」

 『オマエだ、オマエに言っているのだ! 人間よ、名を何と言う?』


 ……まさかの、喋るドラゴン。

 ギルドの説明で、龍種は知能が高いとは聞いているが……まさか、喋る個体まで居るとは。

 俺は少しビビりながら、自分よりも小さなドラゴンに返答する。出来るだけビビっているのを悟られないように、高圧的に……。


 「……センヤ・サナダだ。お前は?」

 『人間如き下等種族風情が、この我をお前とは……まぁ、いい。我はドラゴニュート・エンゼルグ。ドラゴンの中でも最強と名高い、エンゼルドラゴンの仔である。敬え』


 そう言って白い翼をばさばさと羽ばたかせ、腰に手を当ててふんぞり返るドラゴン。ドラゴニュートだと長いし、ドラゴでいいか。

 しかし、ドラゴンの中でも最強と名高いエンゼルドラゴン……か。その割には聞いたことの無い名前だ。『黒龍』とか、危険度が高いモンスターはギルドでも注意喚起が行われるからな。もしかして、最近頭角を現してきたのだろうか。

 そんな事を考えていると、ドラゴが俺にびしっと指を指してきた。


 『オマエ、我が同胞(なかま)を殺して回ってるそうだな? まったく、下等種族の癖にやりおるわ』

 「な……そ、それは……」

 『あぁ、安心しろ。怒ってなどおらんよ。寧ろこのダンジョンには際限なく雑魚ドラゴンが湧くもので、窮屈で仕方がなかったのだ。オマエには感謝してる程だ』


 ……ドラゴの口ぶりは、まるで自分が一番上かの様に尊大だ。まあ会話が通用する時点で他のドラゴンとは違っているだろうが……。

 ドラゴはかっかっかと元気に笑うと、大きな身振りで自らの紅い瞳を指し示す。


 『こういう眼をした女が、オマエの仲間におるだろ? アレは強者の証、魔眼の持ち主。そいつがお前と行動を共にしてるのだから、オマエの力は認めざるを得ない』

 「……そ、それで。お前は何が言いたいんだ?」

 『我もこの中でダラダラするのが飽きてきたのだ。たまに来た冒険者は、何故か我が本気を出すと直ぐに逃げ帰ってしまうし。ああ、退屈退屈。……そこで』


 ドラゴが、一瞬消えた。

 そして……俺の視界が、真っ暗になる。

 ドラゴが俺の顔に覆いかぶさってきたのだと気づき、慌ててその体を掴んで持ち上げる。

 

 「何だよ!?」

 『我を外に連れて行くのだセンヤ!! 必ず役に立ってみせるぞ!!』


 楽しそうに言うドラゴがはしゃぎ、小さな足をぶんぶん振り回す。

 俺が、ドラゴンを……外に? 

 勇者として魔王討伐を目指すにあたって、一応最低限この世界の常識は学んである。その中に《ビーストテイマー》という職業の情報もあった。

 基本的には低級モンスターを使役し、その力を借りて戦う職業。腕が高ければ高い程強いモンスターに認められるとは聞いたが……それにしたって、ドラゴンなんて有り得ない。ましてや、ビーストテイマーですら無い俺じゃあな……。


 「いや、ドラゴンなんて連れてたら目立つし……」


 外に出た後の事は特に考えていないが、あまり表舞台に出たくはないと言うのが正直な所だ。

 一応は海斗達(アイツら)の中では死んだ事になってる訳だし、もし俺が有名にでもなろうものなら色々問題が発生するだろう。できる限り平穏に生きたいのだ。

 だからドラゴンなんて以ての外。そう言ったつもりだったが、ドラゴは『なんだ、そんな事か』と笑った。


 『では、目立たない様に――オマエらと同じ姿に、化けてやるとしようか』

 「は? 何言って……」


 俺の言葉を待たずに、ドラゴは深呼吸し、大きく飛び上がる。

 そして、空中で煙幕の様なブレスを吐き、瞬く間に周囲を白い煙で覆うと――!


 

 「な……お、お前。ドラゴ、か?」

 「ふむ。まぁ、その名でも良いだろう。そうだ、我がドラゴニュート・エンゼルグ。通称・ドラゴだ」


 雪のように真っ白な髪の毛、そして紅い瞳。急所だけを隠す様な白いレースの衣服。

 そして背中についた小さな羽は、居場所を求めるかのようにぱたぱたしている。

 それでいて、お人形の様に整った顔を笑いに歪めた美少女がそこに居た。

 美少女ことドラゴは、ため息をつきながら自分の体をまさぐる。


 「しかしこの体は……何というか、人間を尊敬するわい。こんな柔い体で平然とダンジョンに入ってくる等、信じられん」

 「そりゃ、ドラゴンの鱗と比べりゃ柔いよ……」

 「しかもこの胸部の装甲。余りに実用性がなさすぎる。ふにふにしておるし」

 「そりゃ、戦いの為のものじゃないしな……てか、あんまりそういう事人前で言うなよ……」


 自分の胸を揉みだしたドラゴから目を背けつつ、弱弱しく注意する。

 するとドラゴはにやりと笑い、俺に歩み寄ってきた。ドラゴの白い腕が俺の体を抱きしめる。

 やめろ、これは色々とマズイ!


 「ふむ、人間はこうして暖を取るのか。勉強になったぞ」

 「違う! それは絶対に違うぞドラゴ! 離れろ一旦!」


 俺は必死にドラゴを引き離すが、力が強すぎて思うように動かない。さすがにドラゴンと言ったところか。

 仕方がないので、ドラゴに向けて手をかざした。奥の手を使おう。


 「《弱体化》!」

 「ぐぬ!? こ、これ、は……? 何を……?」

 「はぁ……《弱体化》のギフトだよ。俺は転移者なんだ。知ってるか分からないけど、転移者はギフトって超能力を貰えるんだよ」


 俺は力が抜けたドラゴを引き離し、そう諭す様に言う。

 ドラゴに掛けた《弱体化》は掛かりが甘かったのか、直ぐに解けてしまった。しかし彼女も驚いたようで、口をぽかーんと開けて呟く。


 「ま……まさか、そんな事が……ドラゴンにも効く《弱体化》だと……?」

 「……ん? なんか変な所でもあるのか?」

 「あるにもあるぞ……ドラゴンは最強種族。それ故、状態異常の魔法等一切受け付けないのが常識だ。それに加え、ドラゴンの中でも特に状態異常に強いエンゼルドラゴンたる我が……こんな」


 ……まぁ俺の《弱体化》は魔法のそれとは違うみたいだし、そうなっても仕方ないと思うが……。

 ていうかここに来てから何度も浴びせてきてたから、あまり実感が湧かない。ドラゴンに状態異常って普通は通らないのか。

 

 「……よもや。よもや、オマエの《弱体化》は……」

 「センヤさーん? 朝ごはんですよー?」


 ……ドラゴの言葉を遮るように、セレナの呼びかけが響く。

 ……そういえば、待ってたんだった。けど、ドラゴの事はなんて説明しようか。ドラゴンが美少女になって仲間になりました、とか意味不明だ。

 

 「ふむ。御呼ばれの様だな。魔眼持ちの、胸部装甲が頑丈な女か」

 「……なんか、その例えはよくない気が……」


 まあ、いい。仲間が増えるのはいいことだ。セレナだって許してくれるはず。

 俺はセレナの朝食を食べに、野営地に戻る事にする。


 「なあドラゴ、そういえば俺たちの飯はドラゴン肉だけど、大丈夫か?」

 「オマエ、我がここを出られずに何を食して来たと思っている?」

 「マジか」


 そんな会話をしていた俺たちを見て、寝ぐせを整えたセレナが高らかに叫んだ――。

 



 


 

 


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