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二話 裏切り

 「海斗君! こいつ……『青龍(ブルードラゴン)』!」

 「このパーティの戦力じゃ……ッ、難しいだろコイツ! つか邪魔だ、お前はどいてろ役立たず!」

 「ぐっ!?」

 

 ドラゴンに手をかざし《弱体化》を使おうとしていた俺は、剣を構えた直樹に突き飛ばされた。


 俺たちがこの世界に来て一週間が経つ。今俺たちは、とあるダンジョンに来ていた。


 事態はかなり切迫している。暗闇の中でドラゴンの目が妖しく光っているその様は、他のモンスターとは段違いの威圧感を放っていた。


 ……ここは、通常Sランク冒険者以外挑むことを許されない最高難度ダンジョン・《龍の巣窟》の奥地。本来なら実力が釣り合わないここに俺達が来られているのは、ひとえに俺達が転移者だからだ。


 「《殲滅の業火(フォルス・ファイア)》!!」

 「《羅刹剣》ッ!!」


 優菜が手から放った火球は進むに連れて勢いを増し、やがてドラゴンを覆う程のサイズにまで成長して着弾。炎に包まれながらうめき声を上げるドラゴンに、分身した直樹が数えきれない数の剣撃を食らわせる。

 転移者であるが故に持つ神からの祝福、ギフト。今ドラゴンに俺の同級生二人が放った技もその一つだ。これがあるから俺たちは、格上のダンジョンに挑むことを許された。

 しかし当然、レベルが伴わなければ進む事なんて不可能。現に今、尻尾を振るって炎を打ち消したドラゴンは、ギフトなんて意に介さずに唸っている。


 「く……全然効いてねえぞ!」

 「レベルが違いすぎる……の? 海斗君、どうしよう……」

 「――大丈夫。僕ならやれる」


 ギフトが効かない事に焦った二人をなだめる様に、海斗が剣を構えてドラゴンと対峙する。

 海斗は、通常1人1個のギフトを5個も貰っている。才能も群を抜いている上に、俺を命の危機から助けてくれた聖人だ。多分こういう奴が魔王を倒して、勇者と呼ばれるのだろう。

 海斗は剣を握りしめ、何かを決心したかのように目を見開いた。来るぞ、こいつの必殺技が。


 『グォォォォォォ……』

 「はああああああぁぁぁぁぁぁぁ……!!」


 海斗の手から出た神々しい魔力の奔流が、握られた剣に宿っていく。それは正に聖剣、というべき輝きを放っていた。

 ……よし、頃合いだな。俺は力を溜める海斗をよそに、後方からギフトをドラゴンに掛ける。


 「……《弱体化》」


 《弱体化》。これが俺が女神様から賜った唯一の力。

 あれからある程度、海斗の手助けをして分かった。RPGなんかで言うところのデバフ魔法。攻撃力ダウンとか防御力ダウンとか、まあそんな感じの効果だ。

 ゲームの中でだっておまけみたいな魔法なのに、それが使えたって強い訳もない。だって身体能力に対しての強化が、一切無いんだから。


 ――弱ギフトだろうが関係ない。一緒に魔王を倒そう。


 俺は戦えない。一般人同然だ。海斗の役に立つという面では、優菜や直樹の方が適しているだろう。

 が、恩は返したい。せめてもの恩返しに、俺はギフトを掛け続ける。


 「……《弱体化》《弱体化》《弱体化》」

 「ぷ。ねぇ直樹、あいつなんかブツブツ言ってるよ? 戦闘の役にも立たないし、やっぱ要らなかったんじゃない?」

 「海斗のお情けで入ってるだけの無能なんだから、仕方ないだろ。どうせ近いうちに勝手に死ぬさ」

 

 ドラゴンにギフトを重ね掛けする俺に対して、優菜と直樹が嘲笑の視線を向けてきているのが分かった。


 しかし海斗は、きっと俺を信じてくれているハズだ。事実俺の魔法は、ドラゴンのスピードを弱体化させ、動きを止めているんだから。


 海斗の剣が、目も開けていられないほどの眩い光を放つ。


 効果はほとんどないかも知れないが、何重にも《弱体化》を掛けた。海斗のギフトなら恐らく、一撃で倒せる。俺はそう信じ、その剣を見守った。

 

 「《神聖なる勇者の剣(エクスカリバー)》!!」


 海斗が、剣を思い切り振る。

 その瞬間。


 『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 耳を(つんざ)くような叫びと共に。

 ドラゴンの全身が、塵すらも残さずに消え去っていた。



 「凄い! 海斗君、流石勇者だね!」

 「本当だ、やっぱりお前のギフトは桁が違うよ」

 「はは、褒めなくたって良いよ。二人も良くやってくれた」

 

 海斗が、仲間に褒められている。連られて俺も嬉しくなった。

 たった一週間の短期間でドラゴンを倒すまでに達するなんて、流石は海斗だ。初期状態ではあの《神聖なる勇者の剣》はゴブリンの群れを倒す位が限界だったのに、凄い進歩だな。これで他にも似たようなギフトを持ってるっていうんだから、恐ろしいよ。

 俺が感心していると、海斗を褒めていた二人の視線がこちらに向いていた。


 「……それに比べて、あいつは」

 「ねえ海斗君、本当にあいつを入れたまま魔王を倒すの? メンバー数には制限があるのよ?」

 「……うーん。そうだなぁ……」


 あいつらは何か言っているが、俺の心は微塵も動いていない。

 大丈夫だ。役立たずだと言われたって、海斗だけは俺を信じてくれるはず。

 一緒に魔王を倒そうって、そう約束したんだから。あいつは嘘をつくような奴じゃないんだ。

 だから、当然の様に。


 当然の様に、払いのけてくれるはずだ――。



 「そうだね。じゃあ、彼には抜けてもらおうか」

 「うん、それがいいと思うよ。海斗君はあんな奴居なくても強いもんねー」



 ……は?

 海斗は、何を言ってるんだ? 俺の聞き間違いか?

 俺に、抜けてもらうって……そんな。まさか。

 当然の様に言い放った海斗は、俺に興味なさそうな視線を向けながら笑う。

 

 「元々、いずれは抜けてもらうつもりだったけれどね。万が一、彼の能力が覚醒なんかするかもなーと思ってたけど……やっぱり無能は無能なんだなあ。僕のギフトが強すぎて、完全に不要なモノになってるじゃないか」

 「……お、い。何を言ってんだよ、海斗。俺と一緒に、魔王を倒すんじゃないのか? 俺を仲間って、言ってくれたじゃねえか……」

 「ええと、……ああ。あれ? はは、あんなの信じてたの? 《弱体化》なんて地味で無能なギフトひとつで、僕の隣に並べる訳ないだろ。夢見すぎだよ」


 海斗は、そんな事を言って笑って見せた。


 一週間の間。一週間の間、俺は笑われ、蔑まれ、罵られた。けれど平気だった。海斗の言葉があったから。たとえ俺だけ報酬の配分が少なくたって、海斗が認めてくれていると思えば苦じゃなかった。


 全部、噓だったのか。


 俺は、今。要らないと、切り捨てられたのか。


 言い訳だって出来ただろう。俺のギフトも少しは役に立てるって訴えれば、まだ可能性はあったかもしれない。


 でも、そんな気力はなかった。ショックで何も考えられない。


 「でも、面倒だね……一応大っぴらに彼をメンバーに入れると言ってしまったし、普通に脱退させたら勇者としての名声が……」

 「じゃあ、ここに置いて帰ればいいよ! テレポートは私しか使えないし、どうせこいつ一人じゃ生きて出られないし?」

 「そうだな、それがいい。不慮の事故って事にすりゃ誤魔化せるだろ。弱ギフト一人居なくなっても、別に損はねえしな」


 そんな会話も、最早耳には入らない。膝に力が入らず、地に手をついた。

 流れ落ちた涙が、地面にシミを作っていく。

 もう、無理だ。生きていけない。たとえ帰れたって、俺の居場所なんかどこにも無いんだ。


 「じゃ、行こうか。優菜。テレポートをお願い」

 「事故んなよ? こいつも間違って連れ帰っちまったら面倒だ」

 「分かってるよー! ……それじゃ、雑魚ギフト君。頑張れー!」


 失意のどん底に居る俺を、心底嘲笑うような声と共に。

 ――3人の気配が、完全に消えた。

 

 

 

 

 

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