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一話 つかの間の希望

一話です。

面白いと思っていただければ幸いです。


 「おぉ……!! 召喚に成功したか!! 良くやった、魔導士よ!」


 いつの間にか、俺が座っていたはずの椅子の感触がしない。するのは柔らかい、例えるならカーペットのような感触。

 恐る恐る目を開けた俺は、目の前に広がる光景に、思わず目を見開いた。

 明らかにどこかの城っぽい場所。そこに置かれた玉座の上に、白い髭を生やしてふんぞり返るおじいさん。……まるでそれは、どこかの王城のような。

 三人も同じみたいで、周囲を見回しながら静かに驚愕している。優菜に至っては、槍を構えた衛兵らしき人々を見て、恐怖に顔を歪めながら後ずさった。


 「しかし、予想よりも人数が少ないですね……それに四人とも貧弱そうだ」


 王様らしき人の隣に控えたおじさんが、そんな事を言って俺たちを見下してくる。

 ……さっきの召喚、って言葉。それにこの建物の内装、人々のファンタジーっぽい服装に装備。

 もしかして、これ……異世界ってやつ、じゃないよな?


 「……すみません。ここはどこなんでしょうか? 俺たちは何故ここに?」

 「ここはアルド王国の王城だ。申し訳無いが諸君らには、魔王を倒す勇者となって貰いたく召喚した」


 海斗の質問に、王様っぽい人がはっきりと言い放った。

 ……嘘を言っている気配は無い。何より、どっきりとか何かのセットにしては度が過ぎている。

 本当に、ここは異世界なんだ。俺はほぼ確信した。

 同時に、何かワクワクに近い感情がこみあげてくる。しかし対称に、俺以外の三人は声を上げた。


 「ちょっと待ってくれ。召喚だか何だか知らねえけど、帰る手段はねえのかよ?」

 「これって誘拐じゃないの? 私スマホ持ってるし、警察に連絡してやるから!」

 「直樹の言う通り……家に帰らせてくれませんか?」


 当然の反応だろう。

 でも優菜、おそらくスマホはここでは役に立たないと思う。

 

 「……け、圏外……何ここ、マジでどこなの……?」

 「……ここは諸君らが住んでいた世界とは別の世界。そして現状、諸君らを元の世界へ帰す方法は――無い」


 王様が告げた事実に、三人とも愕然とする。

 俺は――別に、帰りたいとも思わなかった。三人の様に、幸せで充実した生活をしてなかったから。

 だから今は、情報の収集が優先だろう。俺はそんな事を考える。

 俺は勇気を出し、王様に向かって問いかけた。


 「すみません。俺たち、この世界について何も知らないんです。『魔王』って何なんでしょうか? 何故僕たちが呼ばれたのですか?」

 「……君は特に、驚く様子も無いな。その歳で大したものだ……で、魔王、だな。魔王は約1000年前からこの世界を力で支配する悪の根源。地上に存在する魔物……モンスターや『魔障』と呼ばれる病は、人間を恐怖に陥れる為に魔王が生み出したものだ。そしてそれらの災いは、魔王を倒すことで根絶出来る」


 ……つまりは、魔王を倒せば支配も解けるし、モンスターや病気も消えて皆が幸せって事か。

 けれどわざわざ異世界から勇者を召喚するなんて、人材不足なのだろうか。俺達みたいな一般人よりもこの世界で生き抜いてきた人の方が、ずっと強そうな感じがするが……。


 「……そして、諸君らを召喚した理由。それは、神々の恩恵である《ギフト》を持つのは、異界の者だけだからだ」

 「ギフト……?」

 「そうだ。600年前、一度魔王が瀕死の重傷に追い込まれた時。その身体に刃を食らわせたのは、諸君らの様な()()()だったのだ。人ならざる力、ギフトを使ってな」


 この王様が言うギフトってのは、ラノベとかでいうチート的なあれなのだろうか。この世界の人間は持たない特別な力を持っているのが俺達だけだ、と分かっていると。

 でもそうすると、その600年前にこの世界にやってきた地球人が居るって事なのか? 流石にもう亡くなっているだろうけど、何か情報を掴めればいいんだが……。

 と、魔王討伐について考えていた俺をよそに、直樹と優菜が王様に訝しげな目を向ける。


 「……話は分かったけど。要は俺達に命張って戦えって事だろ? 自分勝手すぎやしねえか?」

 「直樹の言う通りよ。私達に何もメリットが無いし、あなた達の言うことを聞く理由が無いじゃん」

 「……当然、報酬は弾もう。まず、可能な限り諸君らが元の世界に帰る方法を探す事。そして見つからなかった場合でも、魔王を倒した英雄に見合うものを何でも、望むままに与えよう」


 魅力的な報酬に、二人は押し黙って頷いた。というか直樹に関しては、鼻の下を伸ばして笑いを浮かべている。何を望む気なのだろうか。

 そんな俺たちを静かに見渡すと、王様が言った。


 「では、諸君らのギフトを教えて欲しい。頭の中でギフト、と唱えてみてくれ」


 王様のそんな言葉に、俺は素直に頭の中にギフト、という単語を思い浮かべる。

 すると、頭の中が一瞬真っ白になり、一つの言葉が浮かんできた。これが俺のギフトか。

 だが……これは、いいのか? こんなギフトで魔王を倒せるのか?


 「《《炎の使役者(ファイアマスター)》……? なにこれ、これがギフトってやつ?」

 「俺のは《《究極の剣戟(アルティ・ソード)》って……ダッセ。海斗は?」

 「僕は……何ていうか、いくつかあるみたいだ。これってどういう事なんだろう?」


 海斗の何気ないその言葉に、王様が目を見開いて反応する。

 それだけではない。余程珍しい事なのか、王様の周りの人々までもがざわつき始める。

 

 「何!? ギフトが、複数あるだと!?」

 「あり得ない……一つでも十分強力なのに」

 「前例が無いぞ、抵抗されたらどうするのだ……?」


 海斗はそんな事しないだろうが、兎に角一つ分かったのは、この空気では俺のギフトは出しづらいってことだ。

 だって俺のギフトは……。


 「そ、それでは、そこの少年。君はどうなのだ?」

 「お、俺は――」


 言うしか、無いだろうな。嘘を吐くわけにも行かない。

 俺は覚悟を決め、深呼吸して言い放った。



 「《弱体化》だそうです……」

 「……何?」

 

 王様の目が、明らかに変わる。

 海斗の時とは明らかに違う反応。衛兵達の俺を見る目が、蔑むものに変わっているのが分かった。

 王様は、俺を心底見下したような目で言う。


 「……魔導士よ。失敗だ。この少人数のうち一人が、《弱体化》等という無能ギフトとは」

 「ええ、そうですね。《弱体化》など私でも使える初級魔法だ。神から貰ったギフトがそんなモノとは、余程彼に才覚が無いのでしょう」


 何だよ。さっきまでとは全然違う態度じゃねえか。

 王様の目は、まるでゴミでも見ているかのように光を失っている。そして会話を聞いた優菜と直樹が、後ろでくすくすと笑うのが聞こえた。

 王様に跪いたローブの魔導士が言う。


 「……こんな者を召喚してしまい、本当に申し訳ございません。しかし王よ、一人、前例を見ない才能を持った勇者が居ます。彼が召喚出来ただけでも十分な収穫と言えるのでは?」

 「……そうかも知れんな。だがそこの無能はどうする? 勇者を召喚したならある程度支援すると国民に言ったが……此奴(こいつ)を支援しても、魔王等到底倒せんぞ?」

 「……では、処分はこちらにお任せください。確実にやらせていただきますので」

 「ちょ、ちょっと待ってください……俺、どうなるんですか?」

 「何、簡単な事。勇者として召喚された以上、貴様を野放しにするわけには行かない。かと言って、無能を勇者として立て、支援する余裕も無いのだ。ならば存在ごと()()しかあるまい」


 王様は、当然のようにそんな事を言って見せた。

 ……そ、それって……殺される、って事か?

 冗談じゃない。こんな事で殺されてやるか。いくら何でも理不尽だ……。

 俺は、王様に背を向けて走り出す。逃げるしかない。捕まれば殺される。

 でも、無意味だった。既に回り込まれていて、俺は衛兵に捕らわれる。


 「逃げても無駄だ。さぁ、そいつを地下牢にでも放っておけ。処分はその後に……」

 「待ってください、王様! 千夜を助けてやってくれませんか!?」

 

 聞こえてきたのは、海斗の声だ。俺は、思わず涙が出そうになるのを堪えた。

 

 「彼は――僕の友達なんです! 幾らギフトが弱くても、共に戦って貰いたいです!」

 「……むぅ、君に言われてしまうと困るが……本当に良いのか? 君達に回せる支援金が少なくなるが……」

 「ねえ、海斗君。あんな奴入れてどうすんのよ? 処分してくれるってんならして貰いましょうよ」

 「本当だぜ。あいつに金が回るんだぞ? どうせ魔王なんて倒せないのにさ」

 「知ってる。でも……大丈夫だ。友達の為なら我慢できるさ」


 ……海斗。

 俺は今まで、ここまでお前を聖人だと感じた日は無かったよ。

 俺の心の中に、何か熱いものがこみ上げてくる。

 海斗の言葉を受けて、王様はため息をついて手を軽く振って指示を出す。すると、衛兵たちの拘束から体が解放された。

 俺は海斗の元に行き、これでもか、という位に頭を下げる。


 「ありがとう……本当に、ありがとう!」

 「いいんだよ。友達だろう? 弱ギフトだろうが関係ない。一緒に魔王を倒そう」


 そう言って、海斗は笑いかけてくる。

 その時、俺は決めた。

 この役に立つかも分からないギフトも、海斗の為に意地でも役立ててやる。

 海斗が魔王を倒す勇者となるためなら、何でもすると。


 ――でも。


 「役に立ってくれよ、千夜」


 その時海斗が浮かべていた笑顔を、俺は見ていなかった。

 だから……この先待ち受ける悪夢だって、予想も出来なかったんだ。


 

 

 


 

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