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九話 反感、見返し

毎日投稿厳守とか言ってたのに休んですみませんでした。

なるべく厳守で、お願いします。


 「昨日登録したばかりの者なんですが……」

 「存じております! 貴方方の実力に見合うクエストを用意しますので、少々お待ちくださいね!」


 昨日のお姉さんとは違う、獣人のお姉さんがたったとどこかに行った。

 ――登録したばかりの冒険者ギルド、その受付にて。

 俺たちのパーティは、初めてのクエストを受注していた。

 セレナとドラゴは、パーティという仕組みもよく知らないらしかったので。実際にクエストを請けてみて、直に学ぶのが一番いいと思ったのだ。


 「なんだ、クエストというのは、受けるだけでも存外に時間がかかるのだな」

 「仕方ないだろ。俺たちは一応Aランク、クエストだって高難度になる。冒険者が多いこの街じゃあ、そこらの高難度なんか皆請けて行っちゃうだろうし……」


 ギルドの中の人口密度は相変わらず、ごった返して呑んだり騒いだり。クエストに向かう冒険者と帰ってきた冒険者で、人の出入りも盛んだ。 

 だからか、受付近くに設置された依頼掲示板もカラカラ。出たところから皆が取っていくので、ほとんど取りつくされてしまっている。

 つまり、残っているクエストといえば……いわゆる残り物クエスト。余りに高難易度だったり、報酬が難易度に見合っていなかったりして、誰も請けずに残っているクエストくらいだろう。


 「お待たせしました。 申し訳ありませんが、今残っている高難易度のクエストはこれくらいしか……」

 「……討伐クエストですか。達成条件は対象の討伐、または無力化……」


 お姉さんが持ってきたクエストは、案の定超高難易度のモンスター討伐。

 で、その対象は……『黒龍』。あのダンジョンの中で何度も討伐したモンスターだ。

 なんだ、思っていたよりも簡単そうだ。前の俺たちならまだしも、セレナもドラゴも、勿論俺だって前とは違うのだ。

 しかしお姉さんは、心配そうに眉を下げて言ってくる。


 「……持ってきておいてなんですが、このクエストはおすすめしませんよ? 『黒龍』は誰でもその名を知る最強モンスター。本来ならばクエストとして出すことは無く、王国の騎士団に依頼するのが筋なのです。冒険者だけで倒そうと思えば、Sランクがチームを組むほどで……」

 「……え? 『黒龍』って、そんな強いんですか?」

 「な……強いですよ!! 当たり前でしょう!!」


 お姉さんが叫ぶが、俺としては実感が沸かない。もしかして、俺があのダンジョンで相手にしていたのは別のモンスターだったのだろうか。

 まぁ、いいか。考えるのは後だ。とりあえず、俺はクエストを受注することに決めた。


 「これ、請けます。手続きお願いします」

 「……『黒龍』ですよ? レベルも報酬もかなり下がりますが、森での素材採取クエストもあります。初クエストでこんな高難易度のものを請けずとも……」

 「うるさいの、小娘が。センヤは余裕だと言ってい……むぐ」


 口を開いたドラゴの口を抑えて止めたが、もう遅かった。明らかに自分より年下のか弱い少女に小娘呼ばわりされたお姉さんは、顔を引きつらせている。

 と、セレナが高貴な微笑みを見せ、お姉さんに言った。


 「私たちは、あの巨大な魔猪を討伐しました。実力は証明されているはず。どうか、私たちに任せてはもらえませんでしょうか。ギルドの期待を裏切るような事はしませんよ。……ね、センヤさま」

 「え。ああ、おう……」

 「……で、でしたら。こちらのクエスト、受注されるという事で……」


 お姉さんが愛想笑いを浮かべ、依頼書にはんこをポンと押す。

 これで、俺たちの初クエストの受注が完了したわけだ。後は黒龍を倒すか……無力化すればいい。

 でも、ちょっとプレッシャーだな。これだけ啖呵を切った訳だから、失敗は許されない。


 「じゃ、後は装備を整えて――」

 「……おい、ちょっと待てや」


 ……なんだ、なんだ。後ろから声を掛けられ、俺たちは振り向いた。

 すると、そこに立っていたのは一人の冒険者。筋骨隆々の肉体に燃えるような赤髪、背には戦斧を携えている。その男が、俺たちを睨み付けていた。

 それだけではない。見れば、冒険者ギルドの中の冒険者全体が、俺たちを好奇や敵意の目で見てきていた。


 「なァ。お前ら、生意気なんだよ。飛び級でAランクだか知らねえが、新入りの分際で調子乗って黒龍だぁ? 俺たちを舐めんのもいい加減にしろよ」

 「……そうだ、そうだ!」

 「調子乗んな! 黒龍に食われちまえ!!」

 「女従えて、調子乗ってんじゃねえぞ!」


 どんどん、ギルドの中の騒ぎが大きくなっていく。物を投げてくる人まで現れ、いよいよ大混乱になった。

 まずい。このままじゃあ皆に迷惑がかかる。

 セレナとドラゴが声を上げようとするのを、俺は慌てて手で制した。今俺たちが叫んだら、むしろ相手を刺激するだけだ。


 「……すみません。でも、皆さんを舐めてなんていませんよ。黒龍に負けるようなら、俺たちが未熟だったって事ですから」

 「……フン。口では何とでも言えらァ。――因みに俺は、Bランク冒険者のガルム。お前らなんかよりずっと長く、冒険者をやってきてる。……Aランクなら、俺に勝てて当然だよな?」


 ガルムと名乗った男は、拳をぱきぱきと鳴らしながら笑って歩み寄ってくる。俺は手で二人を庇いながら、小声で唱えた。


 「《弱体化》」


 ガルムは気づいていないようだ。いよいよ背中の戦斧を抜き、構える。

 ……どうやらこの人、本気でやる気みたいだ。こんな決闘みたいな事、やることになるとは……。

 セレナとドラゴに戦わせるわけには行かない、よな。

 

 「……」

 「……フン。構えるのが遅かったじゃねえか」

 「やっちまえ、ガルム!!」

 「ハーレム野郎はのしちまえ!!」


 冒険者たちが囃し立ててくる中、ガルムは俺だけを睨みつけてきた。

 共に、準備は出来ている。

 戦いの合図は、ガルムの縮地だった。


 「フンっ!!」

 「なっ」


 予想外の瞬間の一撃。俺は拳を構えていたものの反応しきれず、不格好に両腕でガードした。

 けれども、ダメージはそこまでじゃない。《弱体化》が効いて、攻撃までのスピードも、攻撃力も本来より下がっているのだから当然だ。

 ガルムも違和感を持ったらしく、手や足を軽く動かして首を傾げている。俺はその隙に、出来るだけ多く《弱体化》を唱えた。


 「《弱体化》《弱体化》《弱体化》《弱体化》――」

 「おま…………え…………なに…………と……」


 ガルムが、何かを喋ろうとしている。でも、満足に声も発せていない。やがて、斧の重さに耐えきれなくなった彼の足がばったりと折れ、ガルムは地面に倒れこんだ。

 ドラゴンにも通じる《弱体化》。人間に引けを取るわけないよな。助かった。

 冒険者たちは倒れ伏すガルムにざわつき始める。これで、収まってくれればいいんだが……。


 「……気を付けてください、センヤさま。ガルムとか言う男は無力化出来ましたが、他の冒険者はむしろ……」

 「オイオイ兄ちゃん、ズルはよくねえなあ。ガルムがてめえ如きに負ける訳ねえだろうがよぉ?」

 「本当だよ! 何か卑怯な魔法でも使ったんだろ!!」


 ……おいおい、どうすれば良いんだよ。これもう止められないんじゃないか。

 振り返ると、セレナとドラゴは呆れた様に首を横に振っている。まぁ、そうなるよな。

 でも、このまま放置するのもマズいな。流石にここに居る全員に総出で襲い掛かられたら、俺たちだってひとたまりも……。

 ……その時。


 「……ん? 何だ、これ……」


 頭の中に、不意に言葉が浮かんでくる。ギフトを貰った時とは違い、俺の意思とは関係なく。

 どうやら、これは――《弱体化》に関係するスキル、だろうか。或いは後天的なギフトの一種か?

 とにかく、使ってみる価値はありそうだな。

 俺は、騒ぎ続け、罵声を飛ばしてくる冒険者たちに手を向ける。セレナとドラゴが不思議そうに見守る中、頭に浮かんだ言葉をそのまま声に出した。


 「《広域指定:弱体化》」 

 「何言ってやがる? オイてめえ、ふざけてんの……」

 「……」

 「……なん……だ……うご……き、おそ……」


 自分でも分かった――俺の体からオーラのようなモノが放出されたと同時、周囲に異変が起こったことが。

 冒険者たちが、皆黙った。ある者は自分が動けない事にすら気づかず笑い、またある者は何が起こったかを直感的に察したのか、俺に視線を向けて必死に首を垂れようとする。あちこちで椅子が倒れ、同時体に力が入らなくなった冒険者たちが倒れこむ。

 ――俺の《弱体化》が、全員に掛かっている。それは、一目瞭然だった。

 どういう事だ。これまで俺が使っていた《弱体化》は単体に向けてのもの。じゃあこれは、その名前の通り……広範囲に向けた《弱体化》か。

 

 「……こ、これは……強すぎないですか……?」

 「……むむ、いよいよ化け物だな。ヒト相手とはいえ、ここまでの効果を出すとは……センヤ、流石だぞ」

 「それ、誉め言葉か……?」


 倒れこんだ冒険者たちは往々にして、俺たちに怯えた視線を向けてくる。

 ……しかし、困った。ここまでするつもりはなかったのだが。降りかかる火の粉を払っただけというか……いずれにせよ、謝ったほうがいいだろうか。

 

 「……あの、すみません。いろいろと……えと、起きてらっしゃいますよね?」

 「……ああ、かろうじてな……てめえの実力は分かった。悪かったよ。俺たちは頭を冷やすから、行ってくれ」

 

 他の冒険者たちより早く起き上がったガルムが、ため息をつきながら言う。俺たちは冒険者たちを横目に、気まずい雰囲気のままで外に出た。

 ……色々あったけど、これが俺たちの船出になるわけだ。

 セレナとドラゴは……もうさっきまでの事は覚えていないかのように、笑って観光している。

 このパーティ、案外上まで行くかもしれない。そんな事を思ったのだった。

 

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