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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雪の降る夜 ~迷い込んだアパートはどこなんでしょうか?~

作者: mami


 雪の中、私は一人立っていた。何故ここにいるのか分からない。


「初めまして、こんにちは」


 右を見るとタキシードを着た不思議な格好のウサギの耳をつけた青年が宙に浮いていた。


「私はこの近くに住んでいるものです。ここには色々な人が迷い込んでくるんです。あなたはどこからきたんですか?」


「分からない……」


 私は混乱し戸惑いながらも答えた。


「それではお名前は覚えていますか?」


「それも分からない……」


 私は何も覚えていなかった。


「そうですか…それは困りました。では私の家にでもいらっしゃいますか?ここにいたら寒いですし……」


 彼は家に私を招待してくれたが突然声をかけられ、そのまま付いていくわけにもいかず、


「ちょっと待って、あなたは誰?それとここは何処?」


「そうですね申し遅れました。改めまして初めまして、こんにちは。私はリナーシタと申します。以後お見知りおきを。それとここですが今はお答えすることが出来ません」


 と彼は答えた。

 私は釈然としなかったがここに立っていても仕方がないし寒いので彼の家についていく事にした。



 彼の家は思っていたよりも普通だった。何処でも見る事が出来るようなアパートのような所だった。


「こちらが私の家です。どうぞお入り下さい」


 彼はさわやかな笑顔で私に言った。


「ありがとうございます……」


 私はそう言って彼の家のドアをくぐる。


「ではこちらに座って下さい。温かい飲み物をお持ちします」


 と言って彼は台所に行ってしまった。

 言われたところに座ると私はだんだんと落ち着いてきた。

 落ち着いてみてみると彼の部屋はどこか奇妙に感じられる。

 どこかで見たことがあるようなものばかりだった。


 そんなことを考えていると彼が飲み物を持ってきてくれた。


「紅茶をお持ちしました。それと何か思い出されましたか?」


「何も思い出せません。ただこの部屋にあるものが何処かで見たことがあるような気がするのですが……」


 私はそう言って紅茶を飲んだ。

 ずっと雪の中にいたからなのだろうかその紅茶を飲むと心まで温まるような感じがする。

 今までに飲んだどの紅茶よりもおいしかった。


「おいしい」


私がそう呟くと、彼は笑顔になり言った。


「そうですか。それは良かったです。特別な茶葉を使ったのですが……まあそれは今はどうでもいいでしょう」


彼は飾ってある絵を指差した。


「ここにあるものはすべてここの大家さんからのもらい物なんです。一度会ってみますか?」


私はその絵も見たことがあるような感じがし、その大家にあえば何か分かるかもしれないと思った。


「はい。とりあえず会ってみます。ですがその前に一つ聞いてもいいですか?」


「はい。構いません。何ですか?」


「ええっと…何故見ず知らずの私のためにここまでしてくれるのですか?」


 と私は疑問をぶつけた

「それはですねあなたがとてもかわいらしかったからですよ」


 私は驚いた。もうそれ以上の言い方がない。

 胸の鼓動が速くなる。


「おや顔が真っ赤ですね」


 彼はまた笑った。


「冗談ですよ。私の役割の一つだからです」


 私は少し恥ずかしいと同時に少しだけ残念だった。。

 照れ隠しに紅茶をまた手に取ろうとしたとき落としてしまい、着ている服にまで紅茶がかかってしまった。


「す、すいません。カップまで割ってしまって……すぐ拾います」


「危険ですので私が片づけますよ、あなたはこちらに来てください」


 そう言うと彼は私を抱きかかえて隣の部屋に連れて行った。

 お姫様抱っこなんて実際にされるのは初めてだったので恥ずかしかった。


「すみません。一人暮らしなので男物の服しかありませんがこれに着替えて下さい。風邪を引いてしまいますよ?」


 といって服を渡された。


「あの…こんなにしてもらってすみません」


「いえ大丈夫ですよ。では私は割れたカップを片付けてきます。それと…さっき言っていた可愛かったというのは本当ですよ」


 彼はそう言って元の部屋に戻っていった。

 私は今度はまた顔が赤くなっていることに気づいていた。

 



 彼が片付けて戻ってくると


「そろそろ大家さんの所に行きましょう」


 と言って私の手を引いて外に出るとアパート一階の一番大きな部屋の前に辿り着いた。


 彼がチャイムを鳴らす。

 しばらくすると長身の犬のような人間が出てきた。


「どなたです……? ああリナーシタ君か」


「はい。ご無沙汰しております、」


「挨拶はいいんだ。……それで何のようだ?」


 その犬のような大家は言った。

 しかし私を見つけると、そのまま返事を待たず、続けて言った。


「そうか俺も役割を果たすときが来たんだな」


「そうです。では後はお願いしますね」


 私をおいて、二人は会話を続けている。


「えっ、待って下さい……役割ってなんですか? それにリナーシタさんはいっちゃうんですか? 今借りている服どうすればいいんですか」


 私はそれらに困惑し、言った。

 それにまだリナーシタとは離れたくなかった。なぜか一緒にいると安心するのだ。


「大丈夫ですよ。服はあなたが持っていて下さい」


「でもそんな……」


 私は思い切って言った。


「あなたと離れたくない……」


「お前、すごい懐かれたな……」


 と大家が言っていたが私の耳にはあまり入っていなかった。


「おやおやまた顔を赤くして……でもすみませんがそうはいきません。また後で会いましょう」


 そう言ってリナーシタは帰ってしまった。

 私は少し寂しい気持ちになっていたが、空気を破るように大家が言った。


「こんな所で悪いなお嬢ちゃん、俺はコノシェンツァだ」


「初めまして私は……」


 やはり、私は自分の名前を思い出せなかった。


「無理しなくてもいい。それを思い出させるのが俺の役割だからな」


 とコノシェンツァは言った。


「さっき言ってた役割って……」


「まあな…お前が知っていたことなら思い出せるはずだ。ちょっとまってろ『アルバム』をもってくるから」


 と彼は言って部屋の奥に入っていった。


「『アルバム』?」

 一体何のことか分からなかった。

 しかし、そんなことをいつまでも悩んでいても仕方がないので、玄関周りを見ていた。


「やっぱりここにあるものも見たことあるものばかりだ……」


「持って来たぞ」


 そんなことを思っているうちに彼はもう戻ってきた。


「これが『アルバム』……いったいこれで何するんですか?」


 私は率直に疑問をぶつけた。


「これにはな、あんたの生きていた記録が残っている。だからこれを見れば名前とか色々分かるはずさ」


 と彼は答えた。そして私にアルバムを差し出した。

 私は受け取りそれを読み上げる。


「私の、名前は―…」


 私はそれを読むことで名前だけではなく様々なことを思い出した。

 ここに来る前に何をしていたかも…


「そうだ…私は妹を捜してたんだ。見つかるわけもないのに……」


 私は涙が出てきた。


「大丈夫か?とりあえず中に入りな。話はそれからだ」


 と言って彼は私を部屋の中へと案内してくれた。


「ありがとう……ございます」


 部屋の中に入り深呼吸をすると段々と落ち着いてきた。

 そして私は思い出した記憶を彼に話した。



『それは私が妹と一緒に買い物に行っている時でした。


 珍しく妹が一緒に行きたいと言っていたので何か欲しいものでも買ってあげようかと思っていたんですが……あるお店で妹が服が欲しいといって試着室に入っていったんです。


 一時間たっても出てこないので不安になって、声を掛けても返事もなく、居なくなってたんです。

 ですが来るときに着ていた服だけは残って……私は一生懸命お店の中を探したんです。でも見つからなくて外に出て……


 そこまでは思い出しました』



「それは大変だったな……」


 私が説明し終わると彼はそう言った。


「急にすみませんでした。なんで突然思い出せたんでしょうか、しかも途中まで……」


「ここに来る奴は名前を聞くと全部思い出すんだが……そんな大変なことがあったんだしょうがないさ。そういうこともある」


 彼はそう言って私を慰めてくれた。

 彼が話を聞いてくれるだけでとても落ち着いていた。

 そして今の記憶を思い出すと帰って妹を探さなきゃいけないと思い、


「さんざんこんなことを言った後ですみません。ここは何処で帰れるんですか?」


 と私は聞いた。


「それは俺から教えるわけにはいかないんだすまんな。隣にいるモルテから後は聞いてくれ。それがモルテの役割だから」


また、別の人?がいるのか、そう思いながら言った。


「分かりました。ありがとうございました」


「いや、お礼を言われるようなことは何もしてないさ。」


 と彼は答えた。


「さようなら」


 寂しさも残る中私は彼に挨拶をして部屋から出て隣の部屋へと向かった。




 隣の部屋の前に行きインターホンを鳴らした。


「ちょっと待ってね」


 部屋の中から声が聞こえてきた。私は言われたとおりに待っていると猫のような少年が出てきた。


「待たせちゃってごめんね……あれ? あなたはだれ?」


 少年は不思議そうに言った。


「私は……です。コノシェンツァさんに紹介されてきました。私は元の世界に戻れるんですよね?」


 私は答え、そして大切なことを確認した。

 彼は一瞬驚いたような顔をしたがすぐに真剣な表情となり、


「どうやら僕も役割を話さなくちゃいけないようだね。部屋に入りなよ、長くなるかもしれないから」


 と彼はそう言って私を部屋の中へと案内した。


 やはり彼の家にあるものも見たことありものばかりだった。


「ここに座って」


 とソファーに案内された。


「僕の名前はモルテ。色々説明するのが主な役割だよ。やっぱりまずここがどこなのかから説明した方がいいかな?」


 私は頷く。


「じゃあそうするね。簡単にいうとこの世界はあなたの心の中だよ。この世界のもの何処かで見たことなかった?」


「うん」


 私はそれぞれの部屋の光景を思い出して言った。置いてあった絵、今着てる服、時計など一つ一つに見覚えがあった。


「だからここにあるものはあなたのみたことのあるものと望みしかない」


 私はなんだか納得してしまった。でもまだ疑問点は残る。


「それじゃあ、ここから出るにはどうすればいいの?」


「うん。ここからが大事なんだ。みんなには役割があったでしょ?」


 私は頷く。


「その役割って君の未来をを決める手助けをするものなだ。

 リナーシタは『招待』、コノシェンツァは『知識』、僕は『説明』なんだ。それとなんで未来を決めなきゃいけないかだけど……この世界に来た時にもう君は死にかけているんだ」


「えっ……」


 突然の事実に言葉が詰まる。私は死にかけている……?


「驚くのも無理はないよね」


「じゃあどうやってその選択をするの?」


 私が混乱しながら聞くと、彼は急に顔を近づけてきた。


「そんなの簡単だよ。三人のうち誰かと接吻……キスをすることさ」


「えっ…どういうこと?」


 今度は戸惑いが隠せない。


「そうだよ。でも僕らにはもう一つの役割のどれかがあるから気をつけてね。もう一つの役割は『再生』、『留置』、『死』の3つだよ」


 と彼は答えた。

 もう意味がわからない。しかし私の心の中だとするとこれも私が望んだことなのだろうか。


「私は三人の中から選ぶしかないのね……」


「もちろんだよ。誰が何の役割とは言えないしね」


 彼は不敵に笑いながら言った。

 私はどうすればいいのだろう。そう考えていると


「そんなことを言っているうちに決める時間になったよ」


 それだけ言うと他の二人がこの部屋に現れた。




 私は急に決断を迫られた。

 これが自分の未来を決める選択になる。そう思うと少しつらい。

 しかしもう誰を選ぶかは決まっていた。この世界に来て一番長く一緒にいた彼だった。


「リナーシタ、あなたに決めたわ!」


 私は勇気を出して言った。


「私でいいんですか?」


 彼は確認してきた。


「ええ」


「光栄です。ありがとうございます」


 彼も嬉しそうに言った。すると顔をそのまま近づけてキスをしてきた。

 まだ心の準備ができていなかった時の不意打ちだった。


「ちょ、ちょっと」


「ふふ、あなたはやっぱり可愛いですね」


 そんなことを言っていると考える暇もなく光に包まれた。




 寒い。動けない。さっきまでが嘘かのように私は倒れていた。

 隣を見ると妹がいたが目を開けていなかった。


 頭もいたかった。もうなにもかんがえられそうにもない。とおくからひとのかげとあしおとがした。


    わたしはせんたくをまちがったのだろうか、



最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回が初投稿です。

ぜひ評価と共にご感想やご意見などいただけると有り難いです。


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