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命より大切なもの  作者: ラリックマ
幼少期編
11/14

祈祷

 席を立ち上がりニーチの元へ歩いて行ったアルクは、ニーチの耳元に顔を近づけると、ごにょごにょと何か一方的に話をしてまた自分の席に戻ってきた。

 一体今何をニーチに言ったんだ?

 そんな疑問をアルクにぶつけたいが、今はそんなことを聞ける雰囲気ではない。

 みんなの視線は一瞬だけアルクの方へと向けられていたが、すぐにまたニーチの方へと向けられている。

 

「あ、あのニーチ……。一体誰にって、もしかして知らないの?」


 不安そうな表情のルーマ先生が、そんな質問をニーチにしている。そんなルーマ先生に、ニーチは表情を和らげて。


「す、すいません。お祈りって祈祷(きとう)のことだったんですね。私の住んでいた場所では言い方が違くて、変な質問をしてしまいました」


 そんなことを言って、ニーチはぺこりと頭を下げていた。


「あぁそうなのね。すんでる場所で言い方が変わるなんて、先生も初めて知ったわ。なんか変な空気にしちゃってごめんなさいね……」


 先生は、はははっと乾いた笑みを浮かべて教壇の方へ体を向け、ゆっくりと杖をつきながら進んでいった。

 先生が教壇の前に立つと、クラスメイトも全員席に座り手を合わせ始めていた。


「それじゃあみなさん。()が国の勝利を、我らが主に祈るのです」


 ルーマ先生はいつも通りお祈りの定型文を最初に言うと、目を瞑って両手を合わせている。

 それに続くように、クラスの生徒全員が目を瞑って手を合わせ始める。


(しゅ)よ、我が国に勝利を! 我らに栄光を与え(たま)え」


「「「(しゅ)よ、我が国に勝利を! 我らに栄光を与え(たま)え」」」

 

 ルーマ先生の言葉を、クラス全員が復唱する。それから10分間、誰も何も言わずにただじっと手を合わせ続ける。

 私も嫌々手を合わせているが、目は瞑っていない。この儀式のようなものに全く意味を見出せない。

 我らが(しゅ)とか、誰だよそれ。どうしてありもしない空想のものに祈りを捧げなければならないんだ?

 こんなことをしたところで、私たちの国が戦争で勝てる確率なんて1パーセントも上がらない。

 本当に無駄な時間だ。早く終わって欲しい……。


「はーい、皆さんの祈りはきっと伝わりましたよ。それじゃあ今日はここまで。そのまま帰っていいですよ」


 十分がこれほど長く感じるのは、この時間以外にはない。同じ時間が経っているはずなのに、今の十分は私の体内時計では1時間ぐらいに感じた。

 それほど退屈で、苦痛な時間だ……。















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